読書日和

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「三人の大叔母と幽霊屋敷」堀川アサコ

2018-09-24 20:59:51 | 小説


今回ご紹介するのは「三人の大叔母と幽霊屋敷」(著:堀川アサコ)です。

-----内容-----
不思議なモノ、コトが生息するこよみ村。
村長の娘・湯木奈央とボーイフレンドの溝江麒麟は今日も怪事件に首を突っ込む。
こよみ村中学の女王・麗華の陥落、「予言暦」盗難事件、湯木家の天敵・三人の大叔母が村の古屋敷で暮し始めるお話。
怖いけれど愛しい、そんな「予言村」の世界にようこそ。
シリーズ第三弾。

-----感想-----
※「予言村の転校生」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「予言村の同窓会」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。

「第一話 混戦、収穫祭」
こよみ村中学校三年生の皆川麗華はクラスの頂点に立つ女王で、取り巻きの友達三人を「コバンザメABC」と呼んで馬鹿にしています。
考え方が傲慢で、バスケットボール部の彼氏のことも
「コバンザメABCと同等の存在で、生活必需品みたいなものだった。」とあり友達も彼氏も見下しすぎだろうと思います。
そんな中、歌手を目指す土岐果生莉(ときかおり)という子は麗華を崇めずスクールカーストにも所属しておらず、麗華は密かに果生莉と仲良くなりたいと思っています。

こよみ村中学校では文化祭のことを収穫祭と呼び、明後日の10月31日に迫っています。
校内では一週間前から「収穫祭の間に生徒が一人いなくなる」という貼り紙が何度剥がしても貼られ、誰が貼っているのか気になりました。

こよみ村には村内で起こることが全て記された「予言暦」があります。
そこには未来の天候やこれから起こる事件、事故も記されています。
昔から「こよみ講」という秘密組織を通して予言暦の内容は村に伝えられ村政をも左右してきました。
現在予言暦は村でたった一人の予言暦が読める巫女、よろず屋の妻の藍子が保管していて、奈央や溝江麒麟(きりん)など一部の人間が知っています。

収穫祭には若手農家の有志や村の商工会も参加していて、生徒達の催しは校内で開かれ大人達は校庭で店開きします。
一年生はお化け屋敷、二年生は喫茶室、三年生は「こよ中出会い物語」を開催します。
こよ中出会い物語は恋人を求める同数の男女が向き合い集団見合いのようなことをするイベントです。

麗華の取り巻き二人が溝江アンナというアイドルの子で見た目も格好良い麒麟をこよ中出会い物語に参加させようとします。
奈央、麒麟と同じクラスの大谷沙彩は麒麟のことが好きで、二人が付き合っていると知っていてもよく麒麟に話しかけます。
麒麟は民俗学部で、収穫祭で展示するために家でこよみ村に言い伝わる話を模造紙に書くのを奈央に手伝ってもらいます。
その時麒麟が奈央に清書を頼んだ文章に「地主皆川家」が登場し麗華の家だと分かりました。
その話の中で着物の種類が「手猫友禅」「総絞り」「江戸更紗」と三つ登場していてそれぞれどんな着物か気になりました。
また話の中で麗華の祖先の登志(とし)という女の人が麗華と同じ傲慢さが災いして酷い死に方をしていました。

よろず屋夫人の藍子は浮気相手と駆け落ちして村を出て行きましたが、病気にかかり長く生きられないのを機に店主に戻って来いと言われ戻ってきました。
奈央と麒麟が藍子に聞くと予言暦には収穫祭の間に生徒が一人いなくなるとは書かれていないと言い、誰かのいたずらという見方が強まります。

こよみ郵便局には切手マニアが切手を買いに来て、そのマニアぶりが凄くて驚きました。
そして郵便局で何か事件が起きるのが予想されました。

麗華が小学四年生の時、楠美博士という老人の霊が話しかけてきました。
その頃の麗華は男子にいじめられていましたが楠美博士は麗華に君は本当は人気者なんだよと言います。
「たった今、皆川麗華の存在に、きみのこころが追いついたんだ」という言葉が印象的でこの日から麗華は女王になりました。

収穫祭の前日、奈央と麒麟が三年生の教室に行くと果生莉の怒りの声が聞こえます。
麗華が果生莉と仲良くなりたい思いから果生莉に東京からスカウトが来たなどの嘘の情報を流していることに激怒しています。
この事件で麗華は女王から転落してクラス中から除け者にされます。

収穫祭が始まり奈央はお化け屋敷で一年生の女子五人に麒麟と別れるように迫られます。
「湯木先輩は、村長のお父さんの権力で麒麟先輩に無理やり迫ったって本当ですか!」が面白かったです。
そんな奈央を皆川秀人という麗華の弟の一年生が助けてくれ、奈央を見込んで頼みがあると言い、麗華がクラスでハブられているから助けてやってくれと言います。

奈央は村のあちこちで麗華と同じ「angel's path」という洋服ブランドの服を着た子を見かけ、それが登志の物語と同じなことに気づき嫌な予感がします。
「収穫祭の間に生徒が一人居なくなる」の貼り紙のこともあり麗華が死ぬのかなと思いました。

「つるべ落としの秋の夕暮れ時」という言葉があり、意味を調べたら「釣瓶を井戸の中へ落とすときのように、まっすぐにはやく落ちること」とありました。
他にも分限者(お金持ちのこと)のようにこの作品には古風な言葉がよく出てきます。
そしてミステリー、ホラー、ファンタジーの三つが合わさる堀川アサコさんの作品はやはり面白いと思いました。


「第二話 予言暦盗難事件」
藍子が亡くなりお葬式が行われます。
喪主挨拶で感極まったよろず屋が藍子がこの先50年分もの未来の出来事を誰にでも分かるように書き写したこと、さらにそれを村長に託したと言ってしまい、湯木家はお葬式に来ている人達から注目されます。

11月のある日、湯木家の金庫に入れていた予言暦が盗まれる事件が起きます。
学校からの帰り道、奈央は麒麟と盗まれた予言暦の話をして犯人を捕まえてやろうと気合いを入れます。
またこの帰り道では政治信念の演説をしていた福村孝司に睨まれます。
福村は村の実力者の十文字丈太郎と同じ開発促進派です。

十文字が予言暦を見せろと言い、「予言暦など信じない」と言っている十文字が見せろと言ってきたのを奈央は意外に思います。
十文字は開発促進派の悲願の「竜胆南バイパス道路」がこよみ村を迂回する案が出てきて焦っています。
札束を出して予言暦を見せろと言う十文字に奈央の母の多喜子が激怒していると、奈央の祖父湯木勘助の盟友で自然保護派の重鎮、神田幸甚(こうじん)が訪ねてきます。
神田はとても怒りやすい人で湯木家に来てずっと怒鳴り散らしていました。
奈央が「怒りというものは、その場だけなら、表明したもん勝ちである。」と胸中で語っていたのが面白かったです。
神田は育雄にお前ごときに予言暦を持つ資格はないからわしが預かると言いますが予言暦は盗まれてないため湯木家は困ります。

さらに福村も予言暦をよこせと言ってきて、福村は予言暦を消滅させようとしています。
福村の娘の七瀬と神田の孫の豊は秘密で付き合っています。
しかし福村孝司は開発促進派の過激派、神田幸甚は自然保護派のボスキャラで二人の恋は成就できそうにないです。

七瀬と豊も予言暦が見たいと言いますが育雄と多喜子で諭します。
さらに江藤玲子という人が訪ねてきます。
江藤は息子の司法試験のことを語り、30歳まで落ち続けていましたが諦めずに試験を受けていました。
しかしある日息子が司法試験を諦めてハローワークでフルタイムの仕事を探してみようかと言います。
何としても司法試験を諦めないでほしい江藤は予言暦で息子が司法試験に受かると分かれば希望を持たせられるから見せてくれと言います。
「ご迷惑だろうことは、重々承知で参りました」「無理なお願いとは、重々承知しております」といった言葉を言っていたのが印象的で、これは実際には大して申し訳ないとも無理なお願いとも思っていないから押し掛けてきて要求するのだと思います。
無理なお願いと重々承知していると言っている割りに多喜子が断っても食い下がっていて、「無理なお願いと重々承知」の後に続くのは「ただし断ることは許さない」という酷い発想なのだと思います。
江藤を追い払うために奈央が風邪が悪化して倒れそうという大根演技をしていたのが面白かったです。

奈央が江藤と多喜子の話を盗み聞きしながらプリンを食べていた時の「お腹が空いていたから、五臓六腑にしみわたる。」という表現も印象的で、まだ中学二年生なのに古風な言い回しです。
またこの表現は第二話の序盤にもあり、その時は麒麟と二人でアンナの作ってくれた美味しい料理を食べていて「溶けあった食材のうまみが、五臓六腑にしみわたる」とありました。
これらは第一話で奈央が麒麟の家でこよみ村に言い伝わる話を模造紙に書くのを手伝った時、「得意」という字が二回続けて出てきているが良いのかと麒麟に聞いた場面を意識しているのだと思います。
麒麟は「二人が得意になるレベルが違うことで、片方の立場の悲惨さや健気さを表現したい」と言っていて、同じように五臓六腑の微妙な意味合いの違いを表現したいのだと思います。
一回目がとても美味しいものを食べて五臓六腑に染み渡るのに対して、二回目はお腹が空いていたから染み渡っています。

予言暦盗難の容疑者は何人もいます。
そんな中、こよみ村産直センターで奈央と育雄が買い物をしていると十文字が因縁をつけてきて、かなり予言暦を見たがっているのが分かりました。
そこを木崎というこよみ村出身者で仕事休みの日に故郷に帰って来た男が助けてくれます。
次々と予言暦を見たがる人が現れるのを見て奈央が「運命のカンニングができるかも……ってなると、人間っておかしくなるんだね。せいぜい、朝のラジオの星占いで満足しとくべきだね」と言っていたのが印象的でした。

後半はどんどん犯人の絞り込みが進んでいくのがミステリー調で面白いです。
奈央と麒麟が福村のアリバイ調査のために竜胆市の時計屋に行った時、福村の写真を見た店主が「この人って、どっかの八墓村(やつはかむら)みたいなところから来てるんでしょ?」と言っていたのも面白かったです。
終盤、奈央がある人物に拉致監禁され、育雄が指定の場所に予言暦を持ってこいと言われ緊迫した展開になります。


「第三話 三人の大叔母と幽霊屋敷」
11月が終わる頃、27歳の木村留綺(るき)は竜胆市のオープンカフェで前川昴と猪田美帆に会います。
昴と美帆は婚約していますが留綺が昴を奪おうとし不倫関係になっていました。
昴に別れを告げられ留綺は怒りますが自身が悪いと分かっています。
留綺は「人生は穏やかなのが一番いい。大きな幸せなんて、なくていい。その分、大きな不幸が来るのだから。」と胸中で語ります。
この言葉は第三話の冒頭にも留綺の祖母の木村薫の口癖として登場し、二度登場して留綺にとってかなりこだわりのある言葉なのが分かりました。

薫は死の間際に留綺に自身がこよみ村で育ったことを話します。
薫は水上家の生まれでかつてこよみ村でも一、二を争う名家でした。
不幸なことがあって皆死に薫だけが助かったとあり、何があったのか気になりました。

湯木勘助の三人の妹達の長女、繁子が長男の一郎と遺産相続で対立して家を出て湯木家にやって来ます。
次々と文句を言う繁子に多喜子が激怒すると、繁子は妹の竹子と花子も呼び三位一体で多喜子を攻撃します。
繁子は74歳、竹子は72歳、花子は70歳です。
少し前まで大叔母達はこよみ村の夜を恐れ夜になる前に必ず竜胆市に帰っていたのに今回は三人揃って泊まることを奈央は不思議に思います。

大叔母三人がこよみ村に家を借りて住むことになったと言って出て行きます。
すると繁子の長男の一郎がやって来て自身が繁子を家から追い出したのは棚に上げてなぜ繁子を湯木家から追い出したと因縁をつけます。
育雄の家にならいくらでも居て良いが、家を借りられると自身が母親を追い出したことになり会社への心証が悪くなるから困ると言っていてかなり身勝手だと思いました。

滑坂にある三人の大叔母の家に行って帰る時、奈央は廊下の突き当たりの開け放ったドアの前に若い女の人がいるように見えます。
家に住み着く幽霊かなと思いました。

育雄が大叔母三人がこよみ村の夜を怖がっていたのは三人揃って娘時代に怖い目に遭ったからと言います。
まだ楠美博士が居た頃の話とあり、第一話に登場した楠美博士の名前が出てきて気になりました。
さらに奈央の曾祖父の湯木進は楠美博士の弟子で、二人とも別荘の井戸に落ちて亡くなったことが明らかになります。

三人の大叔母の家に留綺が居て、奈央が幽霊と思ったのは留綺だったことが分かります。
ただし奈央は留綺に不穏な気配を感じます。
留綺も大叔母達の借りた家を借りようとしたものの先に借りられていて、大叔母達に頼んで居候させてもらっています。

その夜湯木家の玄関を何者かが激しく叩きます。
不審者かと思い育雄が玄関に向かい多喜子も孫の手を両手で持って続きます。
堀川アサコさんの笑いの感性が面白く、奈央が「孫の手で掻かれても、痛くもかゆくもないでしょ」と胸中で語っていました。
やって来たのは竹子の連れ合いの村井博文で、奈央が博文に聞くと三人の大叔母は子供の頃に怖いものを見たと言っていた気がすると言います。
さらにその夜は花子が奈央に電話をしてきて育雄と三人で会えないかと言い、翌日の夕方に会うことにします。

翌日奈央が竜胆市にある博文の家で竹子が若い頃のアルバムを見ると、滑坂の幽霊屋敷が出てきてさらに留綺そっくりの人が写っていました。
その帰り道、花子から繁子が肺炎で入院したと電話があり奈央は嫌な予感がします。

その夜に花子から奈央に電話があり水上の家には花子より5歳年上で薫という人がいたことが語られます。
昭和27年10月5日、花子は薫も招待して自身の誕生日会を行い、終わった後に湯木進の自動車で薫を送って行くと水上家の人達が倒れていました。
その後楠美博士が大叔母三人を一人ずつ部屋に呼んで話を聞き、楠美博士も何かを話しましたが花子は全く覚えていないです。
読んでいて催眠術を研究していた楠美博士が大叔母達に催眠術をかけて事件のことを忘れさせたのが分かりました。
やがて恐ろしい真実が明らかになります。


シリーズ三作目の今作も楽しく読めました。
堀川アサコさんの作品はミステリー、ホラー、ファンタジーの三つが合わさった独特な面白さがあります。
序盤から中盤にかけては笑える展開もあり、終盤になると驚きの展開になったり恐ろしい真実が語られたりしてとても引きつけられます。
面白いシリーズなので続編が読めたら嬉しいです


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