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読書日和

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「ホワイトラビット」伊坂幸太郎

2017-11-11 12:35:58 | 小説


今回ご紹介するのは「ホワイトラビット」(著:伊坂幸太郎)です。

-----内容-----
助けて!
人質立てこもり事件発生!
その夜、街は静かだった。
高台の家で、人質立てこもり事件が起こるまでは。
SIT(特殊捜査班)に所属、宮城県警を代表する優秀な警察官も現場に急行し、交渉を始めるがー。
逃亡不可能な状況下、息子への、妻への、娘への、オリオン座への(?)愛が交錯し、緊張感はさらに増大!
しかし読み心地は抜群に爽快!
あの泥棒も登場します。

-----感想-----
兎田(うさぎた)孝則と猪田勝の二人は人を誘拐する会社で「仕入れ」を担当しています。
仕入れとは対象の人物を誘拐してくることで、冒頭、二人は西麻布で女性を誘拐していました。

二人の話で、誘拐会社の経理をしている女性が会社の金を横領して逃げていたとありました。
折尾(おりお)豊という会社と付き合いのあるコンサルタントに唆されて会社のお金を横領したとのことです。
折尾豊は誘拐会社の人達からは「オリオオリオ」と呼ばれています。
折尾は何かとオリオン座の話をすることで有名で、物事をオリオン座の星の並びに当てはめて説明しようとする特徴があります。
会社のお金を横領した女性は捕まりましたがお金を別の口座に移していて、さらに既に裏切り者として亡き者にしてしまっていたため、お金を回収できなくなっています。
そこで会社の幹部達は折尾を追いかけています。

兎田は綿子という妻と仲良く暮らしていて、幸せな日々がずっと続くと思っていました。
平家物語を使っての言い回しが面白かったです。
諸行無常であろうが、盛者必衰であろうが、俺と綿子ちゃんの幸福な日々はずっと続くのよ、ごめんね祇園精舎、悪いね娑羅双樹

ところが、綿子が誘拐される事件が起きます。
「春の夜の夢のごとく、幸せな日々は終わってしまった」と平家物語の言い回しに落ちをつけていたのが面白かったです。
二年間誘拐会社で人を誘拐してきた兎田でしたが自身の妻が誘拐される事態には茫然としていました。

ここから仙台での人質立て籠り事件(白兎事件)が始まります。
20代の勇介とその母親、父親が在宅している佐藤家に拳銃を持った男が押し入ります。
最初に勇介と母親が捕まり、次に二階にいた父親も捕まります。

場面が変わり、仙台駅東口のファミリーレストランで黒澤、中村、今村の三人が詐欺師の家に泥棒に入る話をしています。
黒澤は他の伊坂さんの作品にもよく登場します。
中村と今村は仲良くコンビで活動している泥棒で、中村が親分、今村が子分のような間柄です。

勇介が犯人の隙を突いて警察に通報したことで人質立て籠り事件の発生が明らかになります。
宮城県警察本部の特殊捜査班SITの夏之目課長、春日部課長代理、大島が中心となって対応します。
犯人は夜明けまでに「折尾」を探して自身の前に連れてこいと要求します。
またしても折尾の名前が登場しました。

この作品は仙台人質立てこもり事件の全てを知る者が後日談の形で高みから見下ろすような語りをしているのが特徴です。
三浦しをんさんの「あの家に暮らす四人の女」の中でたまに似た語り方になる場面があったのを思い出しました。

立てこもり犯は一度折尾に鉢合わせたのですが逃げられてしまいました。
しかし折尾の持っていたバッグにGPS発信器を仕込んでいました。
そのGPS発信器のついた折尾のバッグを佐藤家の父親が道端で拾って持って帰っていたため、それで犯人は佐藤家にやってきました。
そして折尾を連れてこいと要求している立てこもり犯は兎田です。
綿子を誘拐したのは誘拐会社の誰かで、横領された会社のお金が預けられている口座番号を聞き出すため、折尾を捕まえろと要求してきました。
兎田は警察に綿子の救出を頼むことも考えましたが、警察内にも誘拐会社の人間が入り込んでいて、警察に言えばすぐにバレてしまい綿子も無事では済まなくなります。

夏之目が「佐藤家には何かある」と言っていました。
さらに高みから見下ろすような語りにも「あの家族には何かある。隠し事があり、そのことがこの白兎事件を複雑にもしている。」とあり、佐藤家に隠されていることがとても気になりました。
最初にまず父親の正体に驚くことになりました。

折尾が警察によって見つかる急展開になります。
夏之目、春日部、大島の前に連れてこられた折尾は喋り方がかなりのらりくらりとしています。
さらに折尾は自身は夏之目達の質問をのらりくらりとかわしてまともに答えないのに、夏之目達には「なぜ自分が立てこもり犯のところに連れて行かれないといけないのかちゃんと説明しろ」と言います。
兎田と折尾が電話で話すのですが、誘拐会社に追われているのを知っているのにさも何も事情が分からないかのように話す折尾のしらばっくれぶりがうざかったです。

別の場面になり、稲葉という誘拐ビジネスを行う会社の創業者が登場します。
稲葉のそばには捕らえられた綿子がいて、綿子は東京から仙台に連れてこられ、倉庫に監禁されています。

「よんどころない」という言葉は興味深かったです。
「よんどころない事情があった」という使われ方をしていて、「やむを得ない」という意味のようです。
「やむを得ない」を使う人はたくさんいても「よんどころない」を使う人はあまりいない気がして新鮮な言葉でした。

夏之目には妻と愛華という娘がいましたが、二人は交通事故に遭い亡くなっています。
愛華が大学一年生の時、愛華と夏之目が二人並んで夜の舗道を歩きながらの小説「レ・ミゼラブル」についての会話が印象的でした。

「海よりも壮大な光景がある。それは空だ。空よりも壮大な光景がある。それは」
「宇宙か?」
「それは人の魂の内部」
「人の心は、海や空よりも壮大なんだよ。その壮大な頭の中が経験する、一生って、とてつもなく大きいと思わない?」

「それは人の魂の内部」は印象的な言葉です。
これはまさしく宇宙のように広いと思います。

兎田の「折尾を連れてこい」という要求にどう応えるか夏之目達が考える間も折尾はオリオン座のことばかり話しています。
折尾は立てこもり犯には仲間がいて、そのグループから被害を受けた者達のリストがあり、そのリスト上の住所を仙台市の地図に当てはめてみるとオリオン座の形に似てきて、右下のオリオンの足「リゲル」の位置に仲間の潜伏場所があると主張します。
まさか立てこもり犯の仲間の潜伏場所をオリオン座で導き出すとは思わず驚きました。

そして折尾の正体にも驚きました。
一体なぜそんなことになっていたのか、先の展開が気になりました。
さらには佐藤家の勇介と折尾の意外な接点にも驚かされました。
物語後半は驚きがいくつもありました。

「紙に点を四つ打って、四角形を描いてみせて対角線を引き、その対角線の交差した中央の点を指差すと、相手はその真ん中の点に注目し、四角形の四つの角の点はそれほど気にしない」とあったのは興味深かったです。
これは言い方、見せ方次第で相手の受け取り方が大きく変わるということで、インチキコンサルタントなどが好んで使いそうな気がします。

泥棒の黒澤の立てる作戦が鮮やかで面白かったです。
この物語の真の主役は黒澤なのではというくらい活躍していました。
窮地に陥っても起死回生の一手で読んでいるこちらを驚かせてくれます。


今作は物語の語り方が普段の伊坂さんの作品と違っていて興味深かったです。
以前も語り方を変えたことがあり、今回違和感はありましたがやはり作家としては普段とは違う語りを試してみたいのだと思います。
そして物語が進んでいくとまさかの展開があって驚かされるのは伊坂さんらしかったです。
次はどんな作品が読めるか楽しみにしています。


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