湘南ライナー日記 SHONAN LINER NOTES

会社帰りの湘南ライナーの中で書いていた日記を継続中

存在の大きな雀の記録

2011-04-21 18:45:54 | 湘南ライナーで読む


『ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯』(クレア・キップス著 梨木香歩訳 文藝春秋刊 1429円+税)を読んだ。
第二次世界大戦中のロンドン郊外に住む女性ピアニストが、玄関先で拾い上げた生まれたばかりのスズメの一生(11年7週+4日)を綴ったものである。
生まれつきしょうがいがあったものの、彼女に愛情いっぱいに育てられたスズメはやがて“芸達者”ぶりを発揮し、戦火に怯える人々を癒す。そして…。

といっても決して叙情的ではなく淡々と語られていくので、書評で見るように感動的には伝わってこない。僕の理解力が乏しいせいもあるのだろうが、難しい言い回しも多くて、残念ながらスーッとは入ってこなかったのである。
それでも不思議なのは、彼女が語るこの主人公がとても小さなスズメであることをついつい忘れてしまうこと。
ところが、読み進めていくうちに時々出てくる写真を目にすると、その度に、そうだ、こんなにちっちゃなスズメの話だったんだ!と思い出すのだ。
それくらい何か人格のようなものを感じる存在であることに驚く。
そして、青春時代よりもむしろ晩年に、その人格が、より明確になっていくのにまた驚いてしまう。
読み終えてからも、小さなスズメが主人公だったことがどうも信じられないのだ(笑)。

書きようによってはいくらでもお涙ちょうだい的なドキュメンタリーにすることもできたはず。でも、愛すればこそなのか距離をおいて綴ったことが、かえってリアルに伝わったのではないかとも思える。
装丁もちょっとステキな本ですね。