沢庵和尚がタケゾウを縛って村へ連れて行き、寺の境内で衆議にはかりタケゾウを千年杉の幹に吊り下げるまでのシーンは、まるで法廷ドラマのようだった。タケゾウが犯人で、沢庵和尚が裁判官、お通さんが犯人に同情的な弁護人か陪審員とでも言ったらよいか。この三者に加え、お杉ばあさんが死刑判決を望む検察官、青木丹左衛門が警察署長、村人達が傍聴人みたいにも思えた。
タケゾウが千年杉に吊り下げることに決まったあとの画面展開が速かった。急にスピード感が増し、伊福部昭の音楽もそれをあおるかのように威勢が良くなった。彼の音楽は、『反逆児』も『ちいさこべ』もなんだかいつも似たような悲壮なメロディーで、悲劇的なストーリーには良いが、『宮本武蔵』のような作品にはマッチしなかったと思う。第二部「般若坂の決斗」からは音楽が小杉太一郎(男優小杉勇の息子で、伊福部昭の音楽上の弟子)に変わるが、彼の音楽の方が勇ましくて良かったと私は感じている。
千年杉に吊り下げられてからの錦之助のタケゾウがすさまじかった。わめいたり、毒づいたり、弁明したり、錦之助、迫真の演技である。なにしろ錦之助は高所恐怖症なのに、太い綱でぐるぐる巻きにされた上にあんな高い所にぶら下げられたのだから、たまったものではない。高さ15メートルくらいあったであろうか。その上、大雨まで降ってきてびしょ濡れである。裏話によると、オープンセットに、寺の一部を建設し、あの杉の木はコンクリートの柱を立てて、樹皮や枝を接合して作ったとのことだ。雨はホースか何かで水をばら撒いたのであろう。それにしても、ひどい拷問である。「役者はつらいよ」だ。きっと錦之助は、沢庵和尚や村人ではなく、内田吐夢監督や映画のスタッフを罵っていたのであろう。後年錦之助は本当に恐かったと述懐している。
タケゾウと沢庵和尚のやり取りが、実に面白かった。錦之助と三国連太郎という世紀の二大役者の見せ場である。この二人は、映画では『宮本武蔵』のほかに『風と女と旅鴉』と『真剣勝負』で共演しているが、両者とも役に成りきってしまう徹底ぶりなので、最高のコラボレーションを繰り広げる。杉の幹にぶら下げられたタケゾウは、高い所から沢庵和尚を見下ろしているのだが、縛られているので手も足も出ない。いや、足だけは出してバタつかせながら、罵倒したり、言い訳を言ったりするのだが、沢庵和尚はタケゾウの方を見上げながら、あざ笑う。軽くいなしたり、諭したり、反駁したり、憎憎しいほどなのだ。「オレは天に恥じることはない!」というタケゾウの言葉に、沢庵和尚が痛罵を浴びせる。「おまえのしたことは、すべてが誤りだらけではないか。おまえの性根が問題だ!」
タケゾウは沢庵和尚に口では勝てない。傍で聞いていたお通さんが、「ひどすぎます。無慈悲です」と泣きながらタケゾウを憐れむのも当然である。お通さんは優しい人だ。雨が降っているのに、杉の木に抱きついて、タケゾウのことを思いやる。そしてとうとう寝込んでしまう。「タケゾウさん」とうわごとまで言うようになる。お通さんはもうタケゾウが好きになっている……。(つづく)
タケゾウが千年杉に吊り下げることに決まったあとの画面展開が速かった。急にスピード感が増し、伊福部昭の音楽もそれをあおるかのように威勢が良くなった。彼の音楽は、『反逆児』も『ちいさこべ』もなんだかいつも似たような悲壮なメロディーで、悲劇的なストーリーには良いが、『宮本武蔵』のような作品にはマッチしなかったと思う。第二部「般若坂の決斗」からは音楽が小杉太一郎(男優小杉勇の息子で、伊福部昭の音楽上の弟子)に変わるが、彼の音楽の方が勇ましくて良かったと私は感じている。
千年杉に吊り下げられてからの錦之助のタケゾウがすさまじかった。わめいたり、毒づいたり、弁明したり、錦之助、迫真の演技である。なにしろ錦之助は高所恐怖症なのに、太い綱でぐるぐる巻きにされた上にあんな高い所にぶら下げられたのだから、たまったものではない。高さ15メートルくらいあったであろうか。その上、大雨まで降ってきてびしょ濡れである。裏話によると、オープンセットに、寺の一部を建設し、あの杉の木はコンクリートの柱を立てて、樹皮や枝を接合して作ったとのことだ。雨はホースか何かで水をばら撒いたのであろう。それにしても、ひどい拷問である。「役者はつらいよ」だ。きっと錦之助は、沢庵和尚や村人ではなく、内田吐夢監督や映画のスタッフを罵っていたのであろう。後年錦之助は本当に恐かったと述懐している。
タケゾウと沢庵和尚のやり取りが、実に面白かった。錦之助と三国連太郎という世紀の二大役者の見せ場である。この二人は、映画では『宮本武蔵』のほかに『風と女と旅鴉』と『真剣勝負』で共演しているが、両者とも役に成りきってしまう徹底ぶりなので、最高のコラボレーションを繰り広げる。杉の幹にぶら下げられたタケゾウは、高い所から沢庵和尚を見下ろしているのだが、縛られているので手も足も出ない。いや、足だけは出してバタつかせながら、罵倒したり、言い訳を言ったりするのだが、沢庵和尚はタケゾウの方を見上げながら、あざ笑う。軽くいなしたり、諭したり、反駁したり、憎憎しいほどなのだ。「オレは天に恥じることはない!」というタケゾウの言葉に、沢庵和尚が痛罵を浴びせる。「おまえのしたことは、すべてが誤りだらけではないか。おまえの性根が問題だ!」
タケゾウは沢庵和尚に口では勝てない。傍で聞いていたお通さんが、「ひどすぎます。無慈悲です」と泣きながらタケゾウを憐れむのも当然である。お通さんは優しい人だ。雨が降っているのに、杉の木に抱きついて、タケゾウのことを思いやる。そしてとうとう寝込んでしまう。「タケゾウさん」とうわごとまで言うようになる。お通さんはもうタケゾウが好きになっている……。(つづく)