錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『殿さま弥次喜多』

2006-03-18 16:21:13 | 一心太助・殿さま弥次喜多

 正月に浅草名画座で、錦之助の『殿さま弥次喜多』(1960年)を見た。弥次さんが錦之助で、喜多さんが実弟の中村賀津雄。これは同じタイトルのシリーズ(怪談道中、捕物道中に続く)最後の第三作目で、共演は美空ひばりと丘さとみだが、東映の看板スターである錦之助とひばりの、まさに黄金コンビの映画だった。監督は『一心太助』シリーズの沢島忠で、『殿さま弥次喜多』は時代劇にサイレント映画のスラップ・スティックを詰め込んだまさに痛快娯楽活劇だった。
 
 時代は徳川治世の江戸、話はこうだ。八代将軍の跡継ぎの二人、尾張の殿様徳川宗長が錦之助、紀州の殿様徳川義直が賀津雄なのだが、この若い二人は大変ウマが合う。城を抜け出し町民に成りすまして遊んだこともあり、互いに弥次さん・喜多さんと呼び合う仲なのだ。二人は江戸城にのぼる途中で、行列の駕篭から逃げ出し、江戸の町に忍び込む。江戸は、越前の幼い殿様を担ぎ出す大老一派の画策もあって、将軍の跡継ぎ問題で大騒ぎ。かわら版の多くの発行者たちも特ダネ探しで躍起になっている。版元の一人が美空ひばりで、ひょんなきっかけから、殿様の弥次・喜多がそこで働くことになる。そして、ライバルの版元との争いに巻き込まれたり、殿様を探し回る家来たちや悪者の大老一派に追いかけられ、二人の殿様の大立ち回りが始まる。暴れたり、逃げたり、もう大変なことになる。

 ともかく、アイディア満載の面白い映画だった。アメリカ映画のパロディーもあちこちに出て来る。二人を乗せた荷車が馬に引っ張られ、田舎道を疾走していくシーンはフォードの「駅馬車」を思わせるし、殿様(錦之助)とかわら版の女記者(ひばり)が恋仲になるという設定も、「ローマの休日」の王女様と新聞記者の男女逆ヴァージョンになっている。他にもいろいろありそうな気がするが、この映画の素晴らしい点はそれを工夫してちゃんと日本の時代劇に仕立てたことだ。セットや小道具も凝っていて、エキストラも多く、古き良き東映黄金時代でなければ出来ない作品だとつくづく感じた。

 ビデオでは東映時代劇をよく見ているが、映画館で見たのは何年ぶりだろうか。多分40年ぶりかもしれない。横長の画面、総天然色の色合いなど、幼少の頃親しんでいた東映映画そのもので、途中でもう懐かしさがこみ上げて、私は目頭が熱くなってしまった。

 最後に、この映画の出演者たちについて触れたいと思う。
 錦之助は明るく元気も良いが、この頃(1960年)になると風格も備わっている。中村賀津雄はまだ若く、やはりいささか見劣りする。当時もずっとそうだったが、スターの雰囲気が足りない気もする。しかし、その頼りなさがかえって錦之助を引き立てていたとも言える。
 美空ひばりはさすがだと思った。セリフも演技も一流女優だ。実は私は、歌手としてよりも、女優美空ひばりのファンだった。日本人女優で最初に私が好きになったのがひばりだった。
 丘さとみは相変わらず可愛かった。ぽっちゃり美人で、現代ではこのような大福餅みたいな顔の女優はまれだと思う。彼女はヤキイモ屋の役で、賀津雄と恋仲になるが、この二人のシーンは特に良かった。
 家来役の田中春男、千秋実は絶妙な脇役ぶりで、文句なし。大河内伝次郎は昔日の面影なし。ここまで堕ちた役をやっているのをあわれに思った。家老役の杉狂児、渡辺篤は両者違ったとぼけた味を出し、熱演。他にも顔なじみの脇役陣ばかりだった。悪大老役の薄田研二など、忘れたくても忘れられない顔つきで、東映時代劇にはなくてはならない存在だったなー、と懐かしく感じた。ひばりの実弟香山京介(花房錦一)も元気な姿を見せていた。
 またぜひ映画館へ行って錦之助の映画を見たいと思っている。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿