錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『家光と彦左と一心太助』

2006-07-07 22:11:00 | 一心太助・殿さま弥次喜多

 第四作『家光と彦左と一心太助』(昭和36年)は、また作れという会社の命令で作ったのだろうが、その割には大変よく出来た映画だった。第三作の不出来を見事に挽回した会心の娯楽作である。楽しさ満載、まさに錦ちゃんの独壇場といった感想を誰もが抱くにちがいない。この映画は、喜劇役者錦之助の稀有の才能が見られるお宝作品だ。きっとこの映画を観た人は腹をかかえて笑いころげたことだろう。錦之助の数ある映画の中で、笑える作品ベスト・スリーに入るはずだ。(順位は付けないが、ほかに同じ沢島監督の『股旅三人やくざ』第三話と松田定次監督の『水戸黄門・天下の副将軍』のバカ殿様が笑える。)
 さて、第一作から第三作まで、錦之助は太助と家光の二役を演じ分けてきたが、第四作では、太助が家光の替え玉になり、家光が太助に扮するという設定で、錦之助がいわば一人二役の裏返しみたいなことをやる。まだ、ご覧になっていない方は是非観ていただきたい。面白いこと請け合いである。このアイディア、誰が考えたのか知らないが、脚本は小国英雄である。小国英雄と言えば、黒沢映画の脚本家でも有名だが、さすがに才能豊かで、ストーリー構成も良いし、登場人物の配置も巧くセリフも生きている。私はこの映画を観ていて、チャップリンの『独裁者』を思い出した。この作品にヒントを得て、きっと『一心太助』第四作を作ったのかもしれない。『独裁者』は、チャップリンのトーキー第一作で、街の理髪師が一国の独裁者(ヒトラーがモデル)にそっくりなので、替え玉に使われる話である。独裁者に扮した理髪師が最後に演説するシーンで、初めてチャップリンが声を発し、トーキーになる記念すべき作品だった。『一心太助』第四作は、『独裁者』とは話の内容がまるで違うが、アイディアは似ているなと思った。
 共演者のことに触れよう。第三作で月形の彦左衛門を死なせてしまったことは前回書いたが、第四作ではタイトルにある通り、彦左衛門が復活する。が、演じるのは月形ではなく、進藤英太郎である。さすがに芸達者の進藤だけあって、月形とはまったく違った個性の彦左衛門を演じている。これまで圧倒的に悪役が多いが、こうしたとぼけた善人役もうまいものである。進藤の口元を見ていて気づいたのだが、上前歯の入れ歯をはずして演じているように見えた。が、確かなことは分からない。
 太助の女房のお仲は、中原ひとみではなく、北沢典子だった。が、こういう役はどうかなと疑問に思った。真剣すぎて、余裕がないのだ。ほかに家光の弟の忠長役に中村賀津雄(まだ演技開眼していない感があった)、笹尾喜内が私の好きな堺駿二でなく田中春男(くさかった)、太助になった家光の護衛役の柳生十兵衛に平幹二朗(結構良かった)といったところだった。
 ところで、この第四作は、前三作と話のつながりはない。むしろ断絶みたいなものを感じた。話を一から作り直したようなのだ。たとえば、家光はまだ将軍の世継ぎで、二代将軍秀忠が健在である。つまり時代が前にずれている。ストーリーは、弟の忠長を将軍に擁立しようとする老中一派が画策して、家光の暗殺を謀ろうとする。第三作までのレギュラーである山形勲の老中松平伊豆守は登場しない。山形は悪大名で、違った役回りだった。また、家光が将軍でないのに太助は女房持ちで、第三作までの展開と話が食い違っている。太助の腕に彫った「一心如鏡」の入れ墨は同じだが、錦之助が演じる太助の性格はずっとコミカルだった。また、第一作では字の読めた太助が、ここでは文盲になっていた。この映画を観て、私の正直な感想は、これまでイメージしていた「一心太助」とは何か違うなというものだった。確かに、この作品だけ観れば非常に面白く、笑いこけてしまうが、冷静に考えてみれば、別にこの話、「一心太助」を借りなくても良いような気もした。彦左衛門が太助より家光を大事にしているのがいささか気に入らないことでもあった。
 私の希望としては、第三作までのレギュラー陣で、むろん月形の彦左衛門を生かしたままで、シリーズを続けてもらいたかったと思っている。そうすれば、もっと傑作が生まれる可能性があったと信じている。もしかすると、『男はつらいよ』の寅さんシリーズに近い錦之助による喜劇の代表作が続々と生まれたかもしれない。それが残念でならない。
 第五作『男一匹道中記』は、昔映画館かテレビで観たことがあるはずなのだが、なぜか印象が薄い。この作品だけは、ビデオ化されていないので、感想が書けない。失敗作みたいな話をよく耳にするが、機会があったら、是非自分の目でもう一度確かめたいと思っている。




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