錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『一心太助・男の中の男一匹』

2006-07-07 19:29:42 | 一心太助・殿さま弥次喜多

 第三作『男の中の男一匹』(昭和34年)は、これを完結篇にしてシリーズを終わらせようとしたのが性急で、不満足な作品になってしまった。第一作、第二作と立て続けにヒットしたのに、なぜ第三作で終わらせようとしたのか、私には解せない。プロデューサーの意図だったのか、錦之助の都合だったのか。いずれにしても、筋がゴチャゴチャしていて、残念ながら相当な不出来である。結局、『一心太助』は、一年後に復活し、錦之助アンド沢島監督のコンビで第四作、第五作と製作することになるのだから、長期的な展望をもって、この第三作も作ってもらいたかったと思うのだが、後の祭りだった。
 この作品をご覧になれば分かると思うが、太助が急に分別臭くなり、なんだか偉そうになった印象を受ける。お仲とめでたく祝言を上げたこともあって、太助が彦左衛門に頼らない一人前の男になったことを強調しようとしたのがいけなかったのかもしれない。そのため、月形の彦左衛門の影が薄くなってしまった。『一心太助』は、彦左衛門と太助との掛け合いが魅力で、互いにもちつもたれつといった二人の関係こそ作品の要諦なのだから、これを崩してしまってはその良さが消えてしまう。作品の後半で、彦左衛門は、太助にも頼られず、家光にも年寄り扱いされ、寂しさに打ちひしがれ(私にはそう見える)可哀想に死んでしまう。私は今でも沢島監督が月形の彦左衛門をなぜ死なせたのか、その意味が分からない!そのあと、作品を明るく終わらせようとしたのだろう、付け足しのようなストーリーがあるが、もう取り返しはつかない。彦左衛門が死んで急に暗くなった観客の気分は戻らなかった。
 もう一つ、太助とお仲の関係も、描き方に不満が残った。中原ひとみのお仲の良さが発揮されていなかった。新婚早々居候に泊り込まれて迷惑している姿しか描けていないなと思った。太助とお仲が夜中に長屋を抜け出し、人気のない魚河岸でデートする場面がロマンチックで良いと感じただけだった。
 この作品の悪口を私は書きたくないし、細かい欠点をいちいちあげつらう気はないが、一番いけなかったことは、レギュラー陣に加えて余計な脇役が多すぎたことだと思う。脚本は、沢島監督と奥さんの共同執筆だが、脇役に気を遣いすぎたのだろう。それぞれが引き立つように役のウェイトを重くしたのが間違いだった。大河内伝次郎や丘さとみは良いとしても、チンピラ役の花房錦一や冴えない浪人役の徳大寺伸が出すぎで、また漫才師のいとし・こいしも画面をうるさくしていた。三島雅夫の巡礼役もでっぷり太って、適役でなかったし、悪役も進藤英太郎、阿部九州男、原健策のトリオに加え、沢村宗之助がいて、その他大勢出てくる始末で、ごった返していた。乱闘シーンも確か四回あり、あまりにバタバタしすぎて、途中から食傷気味になった。笑わせるツボもはずれ、わざとらしさが目立つところも多々あった。
 第一作の人間味と爽快感、第二作のドタバタ的な娯楽性と歯切れの良さは、どこへ行ってしまったのか、と頭をかしげたくなる映画だった。




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