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この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

花よりもなほ。

2006-06-05 23:42:46 | 新作映画
是枝裕和監督、岡田准一主演、『花よりもなほ』、Tジョイ久留米にて鑑賞。


ここだけの話、是枝監督の前作『誰も知らない』は正直好きではありません。
母親に見捨てられた子供たちが大人に頼ることなく、自分たちだけの力で生きていくというお話はどう考えても悲劇でしかありえず、基本的に自分にとって映画は娯楽であり、日々の憂さを晴らすために劇場に足を運ぶのであって、劇場を出た後の足取りが重くなるような作品は出来るだけ観たくないんです。(といいつつ、諸事情により観に行きますけど。)
とはいえ、この作品において是枝監督は確かな演出力を発揮しており、その才能は充分感じ取れました。
その是枝監督が人情娯楽時代劇を撮るというのですから、これは観に行かなければいけないなと思った次第です。

さて『花よりもなほ』は、岡田准一扮する宗左が住む貧乏長屋が主な舞台です。
というかですね、この物語の主人公は他でもない、実はこの貧乏長屋だといってもいいくらいなんです。
この長屋が!本っっっっっ当に汚い!!いや、その薄汚さは実に見事で登場人物の誰かが家の中で動くたびにもあもあ~んと埃が舞い上がるんです。
心底こんな長屋には死んでも住みたくねぇ!って思いましたね。
一ヶ月ほど前『佐賀のがばいばあちゃん』っていう映画を観ました。この作品のテーマは「貧乏は決して悪いものではない」というもので、主人公の少年がことあるごとに祖母に向かって「なんでうち貧乏なん?」って台詞を口にするのですが、その割に彼らの住んでる一軒家は小奇麗に片付いていて、隙間風とかも吹き込んで来そうにないし、まるで安普請って感じがしなかったので、スクリーンからまーったく貧乏臭さが漂って来ませんでした。
つまりですね、何がいいたいかというと『花よりもなほ』の貧乏長屋には生活感があり、撮影をしてない間も登場人物が実際そこで暮らしてるんじゃないかと思えるほどで、一方『佐賀のがばいばあちゃん』の一軒家には生活感がまるでなく、つまりはセットでしかなく、撮影が終わった途端宿泊施設に帰る出演者の姿が目に浮かぶようです。
それらはもちろん錯覚でしかありえませんが、そう思わせること自体演出の腕の差ではないか、そう思うのです。

『花よりもなほ』は仇討ちのお話です。
仇討ち、言い換えれば復讐です。報復と言い換えてもいい。
今年はそういった映画がやけに目立つような気がします。
まず『ミュンヘン』がそうだし、『ホテル・ルワンダ』や『ヒストリー・オブ・バイオレンス』、『SPIRIT』もそのカテゴリーに含まれるといってでしょう。
これらの映画では散々報復することの空しさが説かれました。そして報復の連鎖を断ち切るにはどうすればいいかが問われました。
けれど、その答えは示されなかったように思います。(わずかに『SPIRIT』で示されたともいえなくもないですが、あの崇高な精神を常人が引き継ぐのはちょっと難しい。)
おそらく、こういっちゃなんですけど、西洋人にはわからなかったんだと思います、どうすれば報復の連鎖を断ち切れるのかが。

『花よりもなほ』の登場人物は皆不様です。
主人公の宗左からして、剣の腕はからっきしだめ、という男なのですから。
でも、生きることにおいて何が大切なのかが皆わかっているような気がします。
『花よりもなほ』は仇討ちの映画でありながら、実はそれが主題ではなく、じゃ何かというとそれは優しさなのだと思います。
宗左はあることで、彼が恋心を抱くおさえの秘密を知ります。そのシーンはすごく胸に来るものがありました。
ではおさえの秘密を知った宗左が何か行動を起こすかというと、そんなこともなく、彼のおさえに接する態度はそれまでと一向に変わりません。
おさえが隠しておきたい秘密であれば、それをたまたま知ってしまったからといって自分が態度を変えるのはおかしいということを宗左は誰にいわれることなくわかっていたのだと思うのです。

『花よりもなほ』は発想の転換を強いる映画でもあります。
登場人物の一人、貞四郎がこんな台詞を口にするんですよ。
「(赤穂浪士の討ち入りなんて)引退したジジィを五十人がかりで寄ってたかってなぶり殺しにしただけじゃねぇか」って。
ガーンと来ましたね。
『忠臣蔵』についてはまぁごく常識的な範囲では知っていたのですが、そういうふうに考えたことはなかったです。
確かにその通りですね。
映画に限らず発想の転換は好きです。

この日は『トランスポーター2』、『嫌われ松子の一生』、『花よりもなほ』の三本を観たのですが、個人的には『花よりもなほ』が一番の好みでした。
ただし、ある理由により、犬好きな方はこの映画を観てはいけません!!
犬は嫌いだという方、犬がそれほど好きでないという方にのみ、『花よりもなほ』、お薦めします。
コメント (4)
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