アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

「機能しないPAC3」を沖縄に配備する2つの狙い

2016年02月06日 | 戦争・安倍政権

  

 北朝鮮の「人工衛星打ち上げ通告」で、安倍政権は沖縄の石垣島と宮古島にPAC3(地対空誘導パトリオット)を配備し、与那国島へ陸上自衛隊の連絡員を派遣するなど、自衛隊配備を急展開しました。

 しかし、PAC3は「発射地点、高度、方向から未来位置を予測し、大気圏内に再突入する段階で迎撃するシステム」であり、「(北朝鮮が)打ち上げに成功する場合も失敗する場合もPAC3は機能しない」(軍事評論家・前田哲男氏、4日付琉球新報)のです。「PAC3が軍事的に何の役にも立たないのは明らか」(元防衛大教授・孫崎享氏、6日付琉球新報)です。

 では、安倍政権がPAC3を沖縄に配備する意味、狙いはどこにあるのでしょうか。

 1つは、「北朝鮮の脅威を誇張する意図と、沖縄県民のために(政府が)心を砕いているという姿勢を示すという二つのパフォーマンス」(前田氏、同)としての意味です。
 「ミサイル迎撃が目的ではなく、住民向けに『頼りになる自衛隊』の演出を狙ったPAC3配備」(5日付琉球新報社説)であり、石垣、宮古、与那国への「ミサイル発射に乗じた自衛隊配備の地ならし」(同)にほかなりません。

 しかし、狙いはそれだけではないでしょう。
 注目されたのは、5日付中国新聞(共同配信)の次の記事です。「北朝鮮ミサイル 韓国、米MD参加に傾く」の見出しで、こう報じています。

 「北朝鮮が事実上の長距離弾道ミサイルの発射準備を進める中、韓国は中国への配慮から議論を避けてきた米国主導のミサイル防衛(MD)に加わる姿勢を鮮明にし始めた。MDの要となる最新鋭地上配備型迎撃システム『高高度防衛ミサイル(THAAD)』の韓国配備へ向け、近く米韓協議が始まるとの見方が強まっている

 韓国は北朝鮮の動きに対し、PAC2で迎撃する構えですが、「PAC2で対応できる高度は十数㌔にとどまる」ため、つまりPAC2が“機能しない”ことを理由に、「米国主導のミサイル防衛」に加わる姿勢を強めているというのです。

 こうした韓国・朴政権の動向は、安倍政権とけっして無関係ではないでしょう。「PAC3が機能しない」ことを口実に、安倍政権が本格的にMDに加わる動きを強めることが予想されます。
 事実、丹後半島の航空自衛隊経ケ岬分屯基地に設置されようとしている強力レーダーは、北朝鮮や中国を念頭においたMDのためだとみられます。
 MDとは何でしょうか。

 「ミサイル防衛(MD)の任務を、北朝鮮や中国その他の国が発射するミサイルから日本人の命と暮らしを防衛することだと思い込んでいる人が少なくないが、それは幻想にすぎない。MDとは、米国の新型戦争の根幹をなす『宇宙ベースのネットワーク中心型の半宇宙戦争システム』を防衛するのが任務なのだ。・・・在日米軍基地と自衛隊だけを守るための盾ではないのだから、集団的自衛権の行使を容認することなしには、MDに参画することはできないしくみとなっているのだ」(立命館大教授・藤岡惇氏、「世界」2015年3月号)

 「米国主導のミサイル防衛(MD)」と、集団的自衛権行使容認に道を開く「戦争(安保)法制」がここでつながってきます。

 北朝鮮は「人工衛星打ち上げ」を「科学技術発展のための平和利用」だと言っています。それを日米韓の政府のみならずメディアはあげて「事実上の弾道ミサイル」だと決めつけています。菅官房長官などは会見(5日)で、「事実上」も取って「ミサイル」だと断定しました。確かに「平和利用」も「軍事利用」も原理は同じです。北朝鮮に軍事力誇示・挑発の意図があることも間違いないでしょう。

 しかし、「平和利用」をそういう視点でとらえるなら、日本(JAXA)がすすめている「宇宙開発」も、宇宙飛行士のエピソードに終始するのではなく、その軍事利用、宇宙軍拡の側面(狙い)に目を向ける必要があるのではないでしょうか。原発再稼働をエネルギーの側面からだけでなく、原爆への転用の可能性の側面からも注意喚起する必要があるのではないでしょうか。

 安倍首相やメディアは北朝鮮の「衛星打ち上げ」を「安保理決議違反」だと断罪します。ミサイルの発射は確かに「安保理決議違反」です。しかし、その「安保理決議」は、アメリカをはじめとする核保有大国が、自分たちの核・ミサイル保有を棚にあげ、北朝鮮にはそれを「禁止」するというダブルスタンダード、大国主義の産物にほかならないのではないでしょうか。「安保理決議」だといえば、水戸黄門の印籠のように、それだけで「正義」だとして問答無用と切り捨てるのは、「核大国」とその同盟国の横暴ではないでしょうか。

 北朝鮮、中国の行動に対しては、冷静で公正な情勢分析と判断が必要です。政府や一部メディアの一方的な決めつけや扇動は、対話・外交による平和的解決の妨げです。
 「脅威」が誇張され、それを口実に自衛隊増強、沖縄への自衛隊配備強化、MDをはじめとする日・米・韓の軍事一体化が進行する状況は、きわめて危険な歴史の再現と言わねばなりません。

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