「8月に映画第1作公開から55年を迎えた人気シリーズ「男はつらいよ」が、若い世代にも人気を広げている」(9月25日付京都新聞夕刊=共同配信)
松竹がこの夏ユーチューブに投稿した名場面ショート動画の再生回数は400万を超えたそうだ。東京葛飾区の「葛飾柴又寅さん記念館」は30代以下の入場者が増えているという。
記事は「現代にはない、渥美清さんが演じる寅さんと登場人物が織りなす濃密で“レトロ”な人間関係が、若者を引きつけているようだ」と書いている。そうだとしたら嬉しい。
「寅さん」は外国でも人気だ。
「芸術の都パリで…寅さんシリーズの全作上映が異例のロングランを記録し、パリに下町の人情が届いた。…上映は当初約1年の予定だったが…2年以上のロングランに。観客総数は1万人を超えた」(5月22日付京都新聞夕刊=共同配信)
「男はつらいよ」「寅さん」の魅力、人気の普遍性はどこにあるのだろう?
人それぞれで、こうだと断定はできない。その多面性がまた魅力だ。ただ、あらためて思い出されるのは、山田監督自身が語った「寅さんの値打ち」だ。雑誌のインタビューでこう述べていた。
<(16歳で大連から引き揚げてきて)お金がなくて生活のために、山口県の田舎町にある炭鉱でアルバイトをしました。僕は朝鮮人の親方に可愛いがられました。栄養失調気味でひょろひょろしていて可哀そうだと思われていたんです。炭鉱はかなりきつい仕事です。けれど親方は「部屋の掃除をしてろ」と楽な仕事を任せてくれてね。温かかった。
その時に思いました。つい何年か前まで、日本人は、この人たちを人間以下に思っていた、ひどい差別をしていた。その人たちに、今こうして僕は世話になっている。そんなことで済まされるだろうかと…。
辛い思いを知っている人だけが、本当に辛い人の気持ちがわかるのではないでしょうか。「この人は私の苦しみを分かってくれるんだな」ということが大事なんだと思う。「こうすれば解決するよ」という回答ではなくてね。「どうすればいいかよくわからないけど、あなたの辛さはわかるよ」と。
寅さんの値打ちはそこにあるのね。彼は、明快な答えなど出せない、頭も悪い、お金も、地位も、名誉も何もないのだけれど。「この人はわかってくれるだろう」と思えた時に、辛い思いを抱えた人は気持ちが少しだけ救われるんじゃないかと思います。
本当に辛い思いをしている人のことは、同じように辛い思いを共有できる人によって慰められる。だから、そういう意味では、僕が中国から引き揚げてきてから、貧乏をしていた時代に、僕を慰めてくれたのは、炭鉱で真っ黒になって働いていた朝鮮の人たちでした。そのことがずーっと尾を引っ張って、「寅さん」になっている。>(月刊「イオ」2021年8月号から要約、写真も)(21年7月25日のブログ参照)
「寅さん」のやさしやの根っこには、人の辛さへの心からの共感がある。そしてその根底には、人の尊厳を踏みにじる差別への強い怒りがある―。
書きながら思ったが、吉田恵里香さんが「虎に翼」の主人公を「寅子」としたのは、「寅さん」と関係あるのだろうか?「寅子」と「寅さん」。どこか似ている。