アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

NHK「皇室&元号スペシャル」の虚実

2018年05月01日 | 天皇制とメディア

     

  「昭和の日」(天皇裕仁=昭和天皇の誕生日)の「振り替え休日」の4月30日、NHKは夜9時のゴールデンタイムに、「ゼロからわかる皇室&元号SP」なる番組を生放送しました。いかにも”国営放送“らしい企画です。突っ込みどころ満載ですが、ここでは天皇・皇后の「行幸啓」について書きます(「元号」については後日検討します)。

  番組は、お笑い芸人と女性アナウンサーの司会で、芸能人や作家ら5人が”初歩的質問“をし、それに「学者」や元侍従次長、NHK記者が答えるという趣向。取り上げたのは天皇の「すまい」「子育て」「自動車運転」「研究」などで、天皇がいかに”庶民的“で”国民に愛されている“かを、歯の浮くような敬語を連発して描こうとしたものです。

  その中で、先の「沖縄訪問」(3月27日~30)にかなりの時間をさき、いかに沖縄で“歓迎”されたかを描きました。沿道で「日の丸」を振る”市民“、車の速度を落として手を振る天皇・皇后、という図式です(写真中、右)。

  こうした天皇・皇后の「行幸啓」風景は、綿密に計算された演出・虚像であることを銘記する必要があります。

 「天皇の神格化、権威づけは、天皇夫妻が毎年春の植樹祭や秋の国民体育大会などのため、地方を旅行する際にも行われている。天皇の旅行は、それをうけいれる地方の自治体とマスコミとによる歓迎体制と歓迎ブームづくりを通じて、天皇の存在を国民に強く印象付づけるキャンペーンの場であり、その歓迎を特別扱いすることによって天皇を畏敬すべき存在というイメージを与える場となっている。

 天皇の送迎は県をあげての公的行事であり、警察官と自衛隊員を大動員した警備と交通規制、遺族会、婦人会、学校生徒を沿道に参列させた日の丸の旗振りによる歓迎、さらに、ホテルや旅館関係者への強制的な検便、野犬狩り、過激派が潜伏できないように沿道近くの草刈り、沿道周辺の高い所から天皇を見下ろす者のないように、高い建物の窓を閉鎖する。当局が精神障害者とみなした者への監視や予防拘禁まで行われている。一種の戒厳令状態である」(藤原彰氏・吉田裕氏ら『天皇の昭和史』新日本新書)

 これは「昭和」の1984年に出版された本ですが、「平成」でも本質的な違いはありません。

 「仕事である地方自治体の再開発完成記念式典の運営を受注」し、明仁天皇・美智子皇后を「歓迎」する側になったある当事者(52)の手記を紹介します。

 「警備計画書のようなものが配布された。…『登場人物』の記載まである。・ジョギングランナー・ベンチ付近市民(男1、女1)散歩中市民(1~4)等々…。県警の幹部らしき人物がその配役を淡々と読み上げる。『ジョギングランナーは生活安全部〇〇警部補と〇〇巡査部長…』VIP(天皇・皇后-引用者)は式典前に会場となる中央公園を散策する。その時そこにいる市民の正体はみな警備の警察官、というわけだ。

  役者は警官ばかりではない。手を振りながら子供たちが出迎える映像…これも入念に選抜されていた。公園に写生に来た近くの小学生たち、という役柄は市内でも所得が高い山側エリアの学校が自治体から指名・動員される。『近くの公立小学校だと飲食店の家の子が多く…』と、これも自然な姿のままというわけにはいかないようなのだ。(略)

 マスコミだってこれが入念に作られた情景であることは知っているはずだ。…が、世に出る時は『天皇と市民の心温まる触れ合い』という言葉でくくられる」(阿満利麿氏発行の同人誌「連続無窮」2018年春号)

  番組の冒頭で河西秀哉神戸女学院大准教授(憲法、写真左の右端)は、「(天皇に)タブーはない」と断言しましたが、こうした「作られた情景」が天皇タブーの産物でなくてなんでしょう。

  天皇賛美のためにまさに”作られた番組“でしたが、その中で唯一”真実“が吐露された場面がありました。「天皇の仕事」はいかに多いかという話の中で、その河西氏が思わずこう言ってしまったのです。

  「(沖縄訪問などの天皇の公的行為は)憲法には書いていないものが増えている。憲法には『国民の総意』でと書かれているが、私たち国民は(公的行為の是非を)考えてこなかった。本当は良くない

 明仁天皇が憲法にない「公的行為」を自分の判断で増やしてきたことは「本当は良くない」と言ってしまったのです。これは真実です。

  司会の女性アナウンサーは急いで取り繕おうとしましたが、後の祭り。NHK幹部は生放送の怖さを再認識したことでしょう。

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