アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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アイヌの漁業権認めない不当判決とその根源

2024年04月19日 | 差別・人権・沖縄・在日・アイヌ
   

 アイヌ民族が生業としていたサケ漁はアイヌ民族の固有の権利だとして、北海道浦幌町のアイヌ民族団体(ラポロアイヌネイション)が国と道に対し漁業権があることなどの確認を求めた訴訟で、札幌地裁(中野琢郎裁判長)は18日、漁業権を認める法的根拠はないとして請求を退けました。日本政府がアイヌ民族の生業(経済権)を奪ってきた歴史を踏まえない不当な差別判決です。

 判決は、アイヌには固有の文化を享有する権利(文化享有権)があるとしながら、「(漁業権は)文化享有権の一環または固有の権利として認められない」としました。「文化」と「経済」を切り離し、前者のみを「固有の権利」とし後者を否定したのです。

 判決を前に、アイヌ文化伝承者の宇梶静江さん(91)は、こう語っていました。

土地を奪われて、生きるすべだったサケ漁や狩猟もどんどん禁止された。明治になってアイヌ民族の生活は枯渇していきました。それまで食べていたものも禁止。民族としての生き方を取り上げられたのです」(14日付朝日新聞デジタル、写真右。写真はすべて朝日新聞デジタルより)

 漁業権を「固有の権利」とみなさない判決がいかに不当で差別的かは明白です。

 重要なのは、今回の判決にはその根源となるものがあることです。それは日本政府(橋本龍太郎内閣)が提出し国会が全会一致で可決・成立した「アイヌ文化振興法」(「アイヌ文化の新興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」1997年7月1日施行)です。

 同法は、日本の法律で初めて「アイヌ」という民族名を使い、アイヌ文化の尊重を明記したもので、その点は画期的でした。しかしそれにも増して重大な問題点があります。

「日本政府はなぜ、文化に絞ったのでしょうか。世界のどこを見ても、文化のみの民族政策などありません。この法律は、文化という甘い言葉を使って、民族の権利の保障をするという重い問題をたくみに回避したものといえます。別の視点からいえば、アイヌ文化振興法には、アイヌの民族としての権利がまったく規定されていないのです。アイヌ民族の歴史認識の共有を前提にした、土地や資源の権利、政治的・社会的・経済的権利、教育の権利などは一切認められていません」(上村英明著『知っていますか?アイヌ民族一問一答』解放出版社2008年)

 今回の判決が「漁業権を認める法的根拠はない」としたのはこのことです。

 同法制定に先立つ1984年、北海道ウタリ協会は権利回復のための「アイヌ新法案」を作成していました。同案は、①基本的人権②参政権③教育・文化④農業・漁業・林業・商工業等⑤民族自立化基金⑥審議機関-の6項目で構成されていました。

 「アイヌ文化振興法」は、「「アイヌ新法案」の6項目と比較したとき、まがりなりにも実現したのは「文化」のみで、残り5・5項目は棚上げにされた」(上村英明氏、前掲書)のです。

 その後、日本政府も賛成して先住民族の権利宣言が国連で採択(2007年)され、衆参両院で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が全会一致で可決(08年)され、アイヌ施策推進法が施行(19年)されました。

 しかし、「こうした(日本での)動きは文化や福祉、観光面に重点が置かれ、経済的な自立にもつながるような具体的な先住権については触れられてこなかった」(15日付朝日新聞デジタル)のです。

 今回の判決だけが問題でないことは明らかです。国会(全会一致)、政府、司法の3権、そして主権者である「国民」含くめ、日本は、先住民族であるアイヌを弾圧し入植支配してきた歴史を棚上げし、アイヌの政治的・経済的・社会的先住権を認めてこなかったし今も認めていないのです。すべての日本人がその責任を負わねばなりません。

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