アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

歴史風化の中、忘れてならない浮島丸事件

2022年08月25日 | 侵略戦争・植民地支配の加害責任
   

 8月24日は「ロシアの侵攻から半年」として広く報じられましたが、この日はもう1つ忘れてはならない事件が起こった日です。が、それはほとんど取り上げられませんでした。

「異国の地で祖国解放をむかえた同胞たちは、1945年8月24日、一刻も早く帰路に就こうと運送船『浮島丸』に乗り込んだ。しかし、同胞たちを乗せた『浮島丸』は、舞鶴湾下佐波賀(しもさばか)(約300㍍沖―私)で突然の爆発音とともに真っ二つに折れて沈んだ。549人の命が奪われたが、日本政府は74年が経った今日まで、被害者に対する謝罪や補償はおろか、事件の真相すら明らかにしていない」(2019年9月18日付朝鮮新報電子版)

 いわゆる「浮島丸事件」です。これは3年前の記事ですが、日本政府が「謝罪や補償はおろか、事件の真相すら明らかにしていない」のは今も変わりません。むしろ日本社会では事件の風化がさらに進んでいると言わざるをえません。

 浮島丸(写真左)は、帝国海軍の輸送艦。出航したのは2日前の8月22日、青森県大湊からでした。乗船していたのは「朝鮮人3735人(死者524人)、日本人255人(死者25人)」というのが日本政府の発表です。(写真中は京都府舞鶴市にある慰霊碑)

 浮島丸事件には多くの「謎」があります(2019年10月1日のブログ参照)。

 沈没の原因は「機雷」だというのが日本政府の発表ですが、その証拠は明らかになっていません。「在日朝鮮人の間には長きにわたって、日本の海軍軍人が朝鮮人引揚者を釜山まで運ぶのを嫌って舞鶴湾内で自ら爆薬を仕掛け自爆させたという風説があり、それがほぼ“真実”として信じられていた」(金賛汀著『浮島丸 釜山港へ向かわず』かもがわ出版1994年)とも言われています。

 不明なことが多い事件ですが、確かなことは、祖国への帰国を切望して乗船していた朝鮮の人々は、帝国日本の植民地支配によって日本へ強制動員・強制労働させられていた人々だったことです。

 そしてもう1つ確かなことは、日本の新聞は当時、この事件をまったく報道しなかったことです。その背景も不明ですが、これだけの大惨事を報じないのは何らかの圧力があったと考えざるをえません。

 浮島丸事件は、日本の植民地支配の加害責任、その事実の隠ぺいを図った国家権力、そして77年たっても謝罪・賠償はおろか犠牲者の正確な数はじめ真相究明すらまったく行おうとしない日本政府の厚顔無恥、そして、多くの日本人が歴史の重要な事実を知らない、知らされていない日本社会を典型的に示す事件です。

 折しも、三菱重工、日本製鉄で強制労働させられた韓国の被害者に対し、韓国最高裁判決が賠償を命じた判決(2018年10月30日)の実行(日本企業の資産売却)時期が迫っています。

 しかし日本政府は、安倍晋三首相(当時)がこの判決に一貫して敵対姿勢を示し、岸田文雄首相もそれを踏襲しています。

 一方、韓国のユン・ソクヨル(尹錫悦)大統領は、就任100日の記者会見(17日)で、これは「日本の主権問題」だと日本政府に配慮する考えを示し、「日帝強制動員市民の会」から「親日附逆の妄言」だと厳しく批判されました(18日付ハンギョレ新聞日本語版)。

 日韓両方の保守反動政権によって、日本の植民地支配責任の棚上げ、歴史の隠ぺい・改ざんが急速に進もうとしています。その背景にはアメリカを中心とした3国の軍事同盟関係があります(写真右は6月のNATO首脳会議で)。

 そんな時だからこそ、私たち日本人は浮島丸事件を忘却することなく、日本政府に真相究明、謝罪、賠償を行わせなければなりません。

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