アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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戦争を泥沼化させるウクライナの戦略転換、いま必要なのは…

2022年08月24日 | 国家と戦争

   

 ロシアのウクライナ侵攻から半年を前にした9日、ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、「戦争はロシアのクリミア半島占領から始まった。半島の解放で終わらなければならない」と述べました(10日の朝日新聞デジタル)。

 そして15日、戒厳令・総動員令を90日間延長して11月21日までとしました、この間、18~60歳の男性は引き続き出国が禁止されます。また同日、クリミア奪還のための「諮問機関」を設置しました。

 さらにゼレンスキー氏は、グテーレス国連事務総長、エルドアン・トルコ大統領との会談(19日)のあとの記者会見で、「停戦協議について私はエルドアン大統領に、『ロシアを信じることはできない』と伝えた。協議は、ロシア軍がウクライナの領土から撤退して初めて可能になる」(19日の朝日新聞デジタル)と強調しました。

 クリミアを「奪還」しなければ停戦協議には応じない、戦争は終わらない、というのです。これは明らかな戦略転換です。

 なぜならゼレンスキー氏は、5月の段階ではこう言明していたからです。

「ゼレンスキー氏は(5月)21日のテレビ番組で、「より多くの人々と兵士を救うのが最優先だ」と述べ、戦闘によってロシア軍を2月の侵攻直前の位置まで押し戻せば「わが国にとっての勝利となる」との認識を示した」(5月22日の朝日新聞デジタル)

 「2月の侵攻直前の位置まで」から「クリミア半島の解放」へ。これは、「ハイマース(高機動ロケット砲システム)」(写真中)はじめアメリカからの膨大な武器供与によって戦況が好転したことから、この際、懸案のクリミア半島まで戦い取ろうというもので、新たな宣戦布告にも等しいと言わねばなりません。

 クリミア半島の「解放(奪還)」まで戦争を続けることはあまりにも無謀です。「クリミア併合」の経過からしても(23日のブログ参照)、ロシアがそれを甘受しないことは明白で、戦争の泥沼化は必至です。

 ここで想起されるのは、イタリア政府が5月20日に発表した「和平案」です(7月29日のブログ参照、写真右)。「和平案」の4項目はこうでした。

①停戦と、国連監視の下での前線の非軍事化。
②ウクライナのEU加盟を定めつつも、北大西洋条約機構(NATO)加盟を想定しないウクライナの地位についての協議。
ウクライナとロシアの間のクリミアとドンバスに関する二国間合意。特に「係争地」が自らの安全を独自に保障する権利を持つ完全な自治を有することになるが、主権はウクライナ政府に属することになる。
④軍縮・軍備管理、紛争防止、信頼向上方策を含む欧州における平和と安全の他者間合意の締結。

 とりわけ注目されるのは、懸案のクリミア、ドンバスに関する第3項です。この「和平案」を参考にしかるべき機関から新たな「和平案」が提示されることが望まれます。
 
停戦は、降伏と明確に異なる。戦争の結果とは無関係だ。領土・帰属問題の決着や戦争犯罪の取り扱いは、むしろ戦闘行為が中断されてから時間を掛けて議論すべきだ」(伊勢崎賢治・東京外大教授)という指摘も重要です(5月21日のブログ参照) 。 

 何よりも優先すべきは人命であり、そのための早期停戦・和平です。侵攻から半年にあたり、この不動の原点を改めて確認する必要があります。

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