アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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秋篠宮の「代替案」と「象徴天皇制」

2018年12月29日 | 天皇制と憲法

  

 25日付の朝日新聞は1面トップで、秋篠宮が「大嘗祭」についての「代替案」を宮内庁長官に示していたという独自記事を掲載しました。

 「天皇の代替わりに伴う皇室行事『大嘗祭』への公費支出について、秋篠宮さまが宗教色が強いとして宮内庁に疑義を呈した際、代替案として、宮中の『神嘉殿』を活用して費用を抑え、それを天皇家の私費で賄うという具体案を示していたことがわかった」

 秋篠宮が「誕生日会見」(11月22日、報道は30日)で「大嘗祭」への公費支出に疑問を呈した問題の続報です。記事は、「今回の会見がお気持ちを示すぎりぎりのタイミングだったのでは」という「関係者」の声で終わっているように、秋篠宮を擁護する意図がうかがえます。

 政府が発表した「大嘗祭」の関係予算(公費)は27億1900万円で、前回(1990年)を4億7000万円も上回っています。新たに造られる大嘗宮の設営関連だけで19億7000万円。使用後は解体・撤去されます。

 朝日の記事は、「神嘉殿は国中の神々をまつる神殿で、収穫に感謝する毎年の新嘗祭が行われる場」で、秋篠宮の代替案は、「これを使い、天皇家の私的な積立金のうち数億円で賄える範囲で実施を、という提案だった」としています。

 秋篠宮の会見ついてはすでに書きましたが(12月1日、11日のブログ参照)、今回の「代替案」をめぐる報道は、「象徴天皇制」について改めて考えさせるものと言えます。問題点を整理してみましょう。

    「大嘗祭」が宗教(皇室神道)行事であることは秋篠宮(皇室自身)の一連の発言でも明確。したがってそれに公費を支出することは明らかに憲法違反である。

②    「大嘗祭は公費でなく私費で身の丈に合ったものに」という秋篠宮の考え・発言はそれ自体妥当である。

③    しかし、秋篠宮の発言は閣議決定に異議を唱えたものであり、政治的発言であることは否定できない。

    皇族とりわけ来年には皇位継承順位1位の「皇嗣」になる秋篠宮が公の会見で政治的発言を行ったことは、内容の如何にかかわらず、憲法上問題である。

 ここまでは先の会見に関して述べたことです。今回あらためて考えたいのは、公費支出の閣議決定がなされる前に秋篠宮が宮内庁長官に示した「代替案」がなぜ検討もされなかったのか、なぜ安倍政権は秋篠宮の「代替案」を歯牙にもかけず門前払いしたのかということです。

 秋篠宮の「代替案」は理論上も、経済的実利上もまっとうな意見です。政府は大嘗祭の主体である皇室の意見を尊重するなら、また少しでも無駄な支出は抑える気があるなら、秋篠宮の代替案を採用してしかるべきでしょう。少なくとも十分検討すべきです。
 しかし安倍政権は門前払いした。なぜなのか。

 それは、安倍政権にとっては、「大嘗祭」に公費を支出すること自体が目的だということではないでしょうか。はじめに公費支出ありきなのです。

 安倍政権が「大嘗祭」(皇室の宗教行事)に公費を支出する狙いは、大きく言って2つあるでしょう。

 1つは、宮中祭祀を利用して憲法の「政教分離」の原則(第20条)をなし崩しにすること。

 もう1つは、天皇(皇室)は憲法の規定をも超越する特別な存在だと印象付けることです。

 この2点は、「大嘗祭」に公費支出する結果として生じる問題ではなく、逆に、これが目的であくまでも「大嘗祭」への公費支出を強行しようとしているのです。その安倍政権の狙いが今回の秋篠宮の会見発言・代替案をめぐる動きで明らかになったのではないでしょうか。

 安倍政権のこの狙いは、もちろん「大嘗祭」だけの問題ではありません。それは憲法の「政教分離」「主権在民」の基本原則を切り崩し、「天皇元首化」(自民党改憲草案)に道を開き、国家権力の支配強化を図ることに他なりません。 

 それはまた、「靖国神社公式参拝」や、先の「防衛大綱・中期防」に示された日米軍事同盟(安保体制)強化とも一体不可分です。

 こうした国家戦略を「皇位継承」の儀式を利用して推し進めようとする。ここに国家権力が「象徴天皇制」を必要としている(政治利用する)根本的理由があるのではないでしょうか。


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