自民党・竹下亘総務会長の「同性パートナー・事実婚」差別発言(11月23日)は、個人的暴言として聞き流すことはできません。なぜなら、政権党の三役という要職にある者の公的な場における発言であるとともに、その背景には日本の政治・社会の重要問題があるからです。
竹下氏は23日、岐阜市内で行われた自民党会合での講演で、天皇・皇后が国賓を迎えて行う宮中晩さん会に関して、こう述べました。
「(国賓の)パートナーが同性だった場合、どう対応するのか。私は(出席に)反対だ。日本国の伝統には合わないと思う」(24日付共同配信)
竹下氏はまた、フランスのオランド前大統領が2013年6月に当時の事実婚の女性を伴って来日したことに言及しました。
「女性は奥さまではない。天皇、皇后両陛下と並んで座るのでどう対応しようかと、宮内庁は悩んだ」(同)
この発言に対し、批判的反響が大きかったことから、竹下氏は翌24日、「言わなきゃよかった」としながら、改めて同性パートナーに対する考えを聞かれ、こう答えました。
「私の周辺にも持つ人はいるし、付き合いもある。ただ、皇室を考えた場合、日本人のメンタリティーとしてどうかなという思いがあり、言葉になって出た」(25日付共同配信)
竹下氏が「同性パートナー」「事実婚」に対して差別意識を持っていることは明確です。重要なのは、その差別意識が、「天皇、皇后」「皇室」との関係で語られていることです。
竹下氏は、世界中で認められ、権利が保障されている「同性パートナー」や「事実婚」は、日本の「天皇制」と相入れないものと考えているのです。
竹下氏がなぜそう考えるのかは明らかにされていません(報道されていません)。しかし、それはけっして竹下氏の特異な考えとは言えないでしょう。なぜなら、「天皇制」自体がそういう性格を持っているからです。
日本国憲法は第2条で、「皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」としています。その皇室典範は第1条で、「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と明記しています。
これは言葉でこそ表してはいませんが、実態的には明治憲法の「萬世一系」(第1条)の天皇制を継承するものです。そして、「萬世一系の天皇制」は、日本の封建的・家父長的「家」制度と不可分の関係です。
「男系男子主義を内実とする「萬世一系の天皇」のイデオロギーは、日本社会一般に通用する「家」制度と無関係ではなかった」(奥平康弘氏『「萬世一系』の研究(上)岩波現代文庫)
しかし、「敗戦を契機として日本国憲法下構想される家族制度は、「家」を解体し、個人の尊厳にもとづ」(奥平氏、同)くものになりました。憲法第24条には家庭生活における「個人の尊厳と平等」が明記されています。
戦前の「家」制度と一体の男系男子主義を続ける「天皇制」と、「家」を解体して「個人の尊厳・平等」にもとづくとした現憲法の精神は、明らかに矛盾しています。
竹下氏が「皇室を考えた場合」というとき、その言葉の裏に憲法と矛盾する「家」を残す「天皇・皇室」制度があることは間違いないでしょう。
さらに重要なのは、「家」をめぐるこうした現行憲法と「天皇制」の矛盾を、自民党や右翼勢力は、憲法を変えて「天皇制」に近づける方向で”解消”しようとしていることです。
それがはっきり示されているのが、自民党の「日本国憲法改正草案」(2012年4月27日決定)にほかなりません。
「草案」は「前文」で、「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって…和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する」とし、第1条で「天皇は、日本国の元首」とし、第3条で「日章旗」と「君が代」の「尊重」を義務付け、第4条で「元号制定」を明記します。そして第24条に「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位」との文言を挿入します。
「天皇の元首化」と「家」の復活が一体のものとなっているのが自民党の改憲草案の大きな特徴です。
竹下氏の発言が、「個人の尊厳・平等」の憲法の精神と矛盾する「天皇制」や、自民党の改憲策動と不可分の関係にあることを見逃すことはできません。