アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

トランプ勝利<番外>世論調査はなぜ外れたか

2016年11月26日 | 日米関係とメディア

    

 「クリントン優勢」というアメリカ大手メディア世論調査がすべて外れたのはなぜか。
 「隠れトランプ派」が数字に表れなかったなど、さまざま言われていますが、日本にも通じる興味深い指摘を2つ紹介します。

 1つは、BS-TBSの「外国人記者は見た+」という番組の「トランプ氏勝利の真相」の回(20日夜)で、ニューヨークタイムス特派員はじめ複数の外国人記者が要旨次のように発言したことです。

 世論調査が外れたのは、地方新聞(地方総局に相当か)が次々つぶれたことが大きい。
 もともと世論調査の生の数字と実際に取材した実感との間には乖離がある。これまではそれを地方新聞の取材によって修正してきた。それが地方新聞がつぶれたためにできなかった。
 アメリカでは「メディアを信頼している」という人の割合が年々大きく減少しているグラフも示されました(写真右)。

 もう1つは、中国新聞に相次いで載った「識者評論」。
 前田幸男東大教授は、「統計理論に基づく世論調査は不確実性を織り込んで議論すべきであるにもっかわらず、評論家や大手メディアが丁寧に解説しなかったこと」(18日付)がミスリードの原因の1つだと指摘します。「専門家は有権者が自分たちと同じ物差しでトランプ氏を見ていると楽観していたのだろう

 会田弘継青山学院大教授は、世論調査や評論家の予測が外れたのは「プロの敗北」であり、「そこにこそ『トランプ現象』の本質がある」(17日付)と言います。
 「インテリと呼ばれる自分たちは、いかに下層中産階級である『普通の働く人たち』のものの考え方(価値観)を知らずに来たか。そこには高等教育を受けたリベラル(進歩派)と呼ばれる者の『おごり』がある
 「下層中産階級は経済的な抑圧だけでなく、文化的な抑圧も受けていると感じている。エリートは抑圧に無自覚だ。トランプ氏当選は白人下層中産階級による一種の『反動革命』である。トランプ氏が彼らを操ったように見えて、実は彼らが同氏を使って激しい異議申し立てをしたのだ」

 関連して、フランスの学者エマニエル・トッド氏も、白人大卒外の層のトランプ支持が多かった(写真中)ことを示し、今回の結果は「教育格差が生んだ非教育階級による一種の革命」だと言います(25日放送の「報道ステーション」)

 以上の指摘に共通しているのは、世論調査や評論家の予想が外れた根底には、「メディア」や「専門家」が現実から遊離し、独善に陥っている実態があるということです。

 日本はどうでしょうか。
 安倍首相が強権的に悪政を推し進めるのは、大手メディアの世論調査が「高い内閣支持率」を示しているからにほかなりません。世論調査の結果が政治を動かしていると言っても過言ではないでしょう。
 ではその世論調査は、はたしてどれだけ実態を反映しているでしょうか。電話調査の生の数字を実際の取材で修正することは行われているでしょうか。「エリート」の学者・評論家・新聞記者は、どれだけ「下層中産階級」の生活・声を知っているでしょうか。

 「普通の働く人たち」から遊離した虚構の「世論」を利用して国家権力が政治を動かす危険を凝視する必要があります。


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