安倍首相とトランプ次期米大統領との「会談」(日本時間18日)は、異例・異常づくめでした。
第1の異常さは、トランプ氏が一切の取材を拒否したことです。報道陣は会談場所となったトランプ氏の私邸があるトランプタワーから締め出され、通りをはさんだ向こう側に待機せざるをえませんでした(写真中)。
この種の会談では少なくとも冒頭に写真撮影(頭撮り)が行われるのが普通ですが、トランプ氏をそれも拒否しました。そのため、日本政府は「内閣広報室提供」として10枚の写真を配布しました。
トランプ氏の取材拒否の背景に、選挙中からのメディア敵視があるのは間違いないでしょう。アメリカのメディアは取材拒否に抗議し、その意思を示すために主要なテレビ局はトランプ氏側から提供された写真は一切使わなかったといいます。
ところが日本のメディアはどうでしょうか。取材拒否に抗議するどころか、「内閣広報室提供」の写真をフルに使い、安倍氏とトランプファミリーの〝和やかさ”をあれこれ「解説」する始末です(写真右)。
アメリカと日本のメディアの違いは明瞭です。権力と対峙すべきメディアの姿勢としてどちらが妥当か、言うまでもないでしょう。
第2の異常さは、トランプ氏も安倍氏も「会談」の内容を一切明らかにしなかったことです。
「非公式な会談だから」(安倍氏)というのは言い訳になりません。たとえ「非公式」でも「公的」な首脳会談です。決して「私的」な訪問ではありません。あくまでも「トランプ氏の外交デビュー」(NHKニュース)なのです。90分間も話し合っておいて、その内容を一切明らかにしないなどということが許されるものではありません。
トランプ氏は当初、「会談」後に「声明」を出すとしていましたが、それも取りやめました。
安倍氏はトランプ氏を「信頼できる指導者だと確信した」と述べましたが、なぜ「信頼できる」のか、なぜそう「確信」したのか。安倍氏はその根拠を明らかにする必要があります。米軍経費やTPPなどについての会談内容を一切明らかにしないままで、「信頼できる」と強調するのは、デマゴギー(虚偽の宣伝)以外の何ものでもありません。
ところがこれに対しても、日本のメディアは、「非公式という位置づけで…具体的な内容は『差し控えたい』と説明を避けた。…首相がトランプ氏の発言内容を公表しなかったこと自体は理解できる」(19日付朝日新聞社説)などと、批判するどころか「理解」しているのです。
そもそも日本のメディアが「霧中に踏み出した一歩」(19日付毎日新聞社説)などとこぞって賛美する今回の「安倍・トランプ会談」とは何だったのでしょうか。
選挙中のトランプ氏の「日米同盟見直し」示唆発言にびっくり仰天した安倍氏が、日米同盟(安保条約による軍事同盟)を維持するために、50万円のゴルフクラブを土産にトランプ氏のもとにはせ参じ、「信頼できる指導者」と媚びを売っただけではありませんか。
トランプ氏はわが意を得たりとばかりに、さっそくフェイスブックに「安倍晋三総理に我が家に立ち寄ってもらったことをうれしく思う。グレートな友情の始まりだ」と書きました。国内外の不人気を少しでも挽回しようと、安倍氏を利用したことは明白です。それが「外交デビュー」に安倍氏を選んだトランプ氏の「ディール(取引)」だったのです。
核兵器使用、移民排斥、女性蔑視・差別はじめ数々の暴言で批判を浴びているトランプ氏に真っ先に会いに行き、「信頼できると」と世界に向かって公言したことは、安倍氏個人の問題にとどまらず、日本の恥です。
それを無批判に賛美する日本のメディアは、恥の上塗りと言わねばなりません。