アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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美智子皇后VS「文芸春秋」・日テレ

2016年10月22日 | 天皇制と憲法

     

 美智子皇后は20日の82歳の誕生日にあたり、宮内記者会の質問に答える形で、明仁天皇が意向を表明した「生前退位」に関してコメントしました。その中でこう述べました。

 「新聞の一面に『生前退位』という大きな活字を見た時の衝撃は大きなものでした。それまで私は、歴史の書物の中でもこうした表現に接したことが一度もなかったので、一瞬驚きと共に痛みを覚えたのかもしれません」(宮内庁HPより)

 今後波紋を広げかねない発言ですが、実はその前段もたいへん注目される発言でした。

 「私は以前より、皇室の重大な決断が行われる場合、これに関わられるのは皇位の継承に連なる方々であり、その配偶者や親族であってはならないとの思いをずっと持ち続けておりましたので、皇太子や秋篠宮ともよく御相談の上でなされたこの度の陛下の御声明も、謹んでこれを承りました」(同)

 皇后は今回の天皇の「生前退位」の意向表明の経過にはかかわっていない、「謹んで承った」だけだというのです。唐突にも思える〝釈明”をなぜしなければならなかったのでしょうか。
 この発言は約1カ月半前に発売された「文芸春秋」十月号(以下「文春」)への事実上の反論だと考えられます。

 「文春」は、「皇后は退位に反対した」の大見出しで「真相スクープ」なるものを掲載。その中で、天皇が初めて公に「退位」の意向を示したのは2010年7月22日の「参与会議」だとし、天皇が「私は譲位すべきだと思っている」と切り出し、参与会議のメンバー(羽毛田信吾宮内庁長官、川島裕侍従長、三谷太一郎東大名誉教授、栗山尚一元外務事務次官、湯浅利夫元宮内庁長官の5人)が「衝撃」を受け、そろって「摂政案」を提案した中で、皇后の態度はこうだったと書いています。

 「皇后は、天皇の隣の席に座り、天皇とともに参与たちと向かい合っていた。その皇后も議論に加わって摂政案を支持し、退位に反対された。つまり天皇以外の出席者全員が、摂政案を支持したのである」(「文芸春秋」10月号)

 その後「参与会議」で何度か「退位」について議論されたが、天皇の意向は変わらなかった。それで、「当初は摂政の設置で解決するべきだとしていた皇后も、天皇の固い意思を確認されて、やがて退位を支持するようになる。出席者の一人が、皇后の意外な一面を明かす。『皇后さまは議論にお強い方です。公の席での雰囲気とは全然違います。非常にシャープで、議論を厭わないのです』」(同)

 「文春」は皇后が「退位」をめぐる議論に積極的に関わったというのです。皇后の「誕生日コメント」がこれに対する「反論」であることは明らかでしょう。

 皇后のコメントより前、今月17日の第1回「有識者会議」を前後して、NHKや全国紙は「天皇の『生前退位』表明は6年前から」として2010年の「参与会議」について報じました(写真中)。「文春」の後追いです。しかし、「文春」が見出しで強調した「皇后の反対」についてはまったく触れませんでした。「参与会議」に出席していた三谷太一郎氏も、NHKのインタビューで皇后の言動については何も述べませんでした。

 皇后の「コメント」によって、「文春」の記事は打ち消されたかにみえました。
 ところが皇后誕生日の翌21日未明、日本テレビは「日テレNEWS24」で「宮内庁関係者」の話として、「参与会議」で皇后が「今は『譲位』の意向を明らかにすることはちょっと時期尚早ではないでしょうか」と述べ、「墓の見直しなどを先に検討すべきとの考えを示した」と報じました。
 日テレは「文春」にはない「墓」の話まで持ち出して「文春」に同調し、皇后のコメントを再度打ち消したのです。

 真相は分かりませんが、皇后の「参与会議」への出席(メンバー)は事実です。その場で「文春」や日テレが報じたような発言(関与)があったとしても不思議ではありません。そして、そうだとしても、それ自体別に問題ではないのではないでしょうか。なぜ皇后があえて「皇位継承権」を持ち出して自らの関与を否定しようとしたのか、その方が不可解です。それは逆に、女性・女系天皇や女性宮家に反対している安倍政権への「遠慮」ではないかとさえ思えます。

 皇后が「参与会議」で天皇の「退位」(「譲位」)について意見を述べるのは当然でしょう。皇后に限らず、皇室・皇族が自分に関わる天皇・皇室制度の問題で自らの見解を持つことは、「皇位継承権」の有無にかかわらず、認められるべきでしょう。ただし、法改正を含む制度の改変は、あくまでも憲法に基づいて、国権の最高機関である国会の審議によって決定されるべきであることも言うまでもありません。

 問題は、天皇(皇族)の意向を金科玉条のごとく扱い、超法規的措置(例えば「生前退位」の特別立法)をとろうとする政治権力(安倍政権)とそれを容認する「日本社会」にあるのではないでしょうか。

 ※次回は25日(火)に書きます。


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