澁川善助
昭和十一年六月四日
最終陳述
1、始メニ裁判官ヨリ開院式ニ賜リタル詔勅ヲ更ニ讀聽ヲ申請シ、讀聽ケヲ受ケタリ。
2、御詔勅ハ誠ニ有難キ極ミナリ。
我々ノ力及バズシテ御維新ニ入ル事ヲ得ズ、御宸襟ヲ悩マシ奉リタルコトハ誠ニ恐懼ノ至リニ堪ヘズ。
3、社會民主革命ヲ實行シタルニアラズ、國體ノ眞姿顯現ニアツタノデアル。
日本改造法案ノ説明ヲナス。
4、檢察官ノ情状論ヲ一々指摘、反駁否定セリ。
5、今回ノ行動ハ歴史的使命デアルコトヲ御究明サレンコトヲ希フ。
之を要スルニ、澁川ハ澁川ノ持ツ國體観念ニヨリ七度生代ツテモ
只今考ヘテ居ル陛下ノ御爲ニ盡ス心ニハ變ワリナイト、
最後ニ、今回ノ事件ハ最終ニシテ國體ガ明徴トナリ百世一新サレ、
軍ハ □然ト本義ニ基キ邁進スル様 裁判長其他判士ニ御願ヒスル
トテ、辯論ヲ終了ス。
・・・憲兵報告
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山口一太郎 新井勲 柳下良二
前頁憲兵報告・公判状況 28 『 山口一太郎 』 の続き
第五回公判狀況
二 ・二六事件公判狀況ニ關スル件
( 第一公判廷 )
七月十三日午前九時、
被告山口一太郎、新井勲、柳下良二 出廷、
同九時十三分 石本裁判長ヨリ開廷ヲ宣シ、本日三名ニ對スル證據調ヲ行フ旨ヲ告ゲ、
個人調トナリ、先ヅ新井勲ヨリ、
法務官 「 被告ノ豫審調書ニ於テ陳ベタル部分ニ承認セザル部分ハ擇
公判廷ニ申述ベタル方ヲ採擇スル故ニ、 其他ハ全部承認スルヤ 」
新井 「 全部認メマスガ、其ノ精神ヲ認メテ戴キタイ 」
法務官 「 奉勅命令、大臣告示、戒作命令ニ就テハ、 其ノ經緯、當時ノ狀況ハ後デ裁判長ヨリ説明アルヲ以テ省略ス 」
新井 「 招致シマシタ」
ト、續イテ各關係者ノ證リタルモ、大體ニ於テ是認シタリ
九時五十分 一先休憩室ニ歸リ、
續イテ柳下ニ移リ、
法務官 「 豫審調書ハ全面的ニ認メ得ザルモ、 其部分ハ當公判廷ニ於テ陳述シタル方ヲ採擇スルヲ以テ、之ヲ認ムルヤ 」
柳下良二 「 認メマス 」
ト、前同様各關係者ノ證人訊問調書、豫審調書ヲ讀聞ケタル処、
何レモ前回公判廷ニ於テ述ベタル通リナリ
ト異議ヲ申立テ、
午前十時十五分終了。
續イテ山口ト交代シ、
法務官 「 豫審調書中否認スル部分アリヤ 」
山口 「 其ノ精神ヲ認メテ戴クコトト當法廷ニ於テ私ノ屢々陳述シタルコトヲ御諒解下サイ 」
ト、續イテ西田、村中、栗原 等ノ豫審調書ヲ讀聞ケタル処、
其ノ精神ニ於テ相違スルヲ以テ、形式上ニ於テハ同一ナリト雖モ、
之ヲ是認スルコトヲ得ズ
ト反駁ヲ繰返シタリ
其後、押収品調ヲナシタルガ、認メザルモノ二、三點アリタル他全部是ヲ認メ、
正午終了セリ
再ビ新井勲ヲ呼出シテ、裁判長ヨリ奉勅命令、大臣告示、戒作命令ノ下達方法、
其精神、戒嚴司令官ノ決心ヲ當時ノ記録ニ基キテ説明シ、
諒解セシメタルモ、認定ニ依リ之ヲ認メ、被告ノ誤認ヲ指摘シテ終了セリ
午後〇時三十五分証據調ノ終了ノ旨を告ゲ、
次回ハ十六日午前九時開廷スル旨宣シテ、閉廷セリ
了
憲兵報告・公判状況 30 『 論告求刑・判決、山口一太郎以下三名 』 に続く
二 ・二六事件秘録 ( 三 ) から