あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

最期の陳述 ・ 栗原安秀 「 呑舟の魚は網にかからず 」

2020年09月11日 18時35分11秒 | 暗黒裁判・幕僚の謀略2 蹶起した人達


栗原安秀
昭和十一年六月四日
最終陳述

檢察官は現狀維持者の代弁として論告せられたものであります
私どもの蹶起は被壓迫者が支配者を倒し、
生活權を擁護せんがためのごときものではなく、
國家内外を時勢に応じて飛躍せしめんがためであります。
維新運動は天皇を中心として渦巻いています。
皆 維新に貢献しているのでありますが、
中心にもっとも近き者を矯激分子と批難するは當を得たものではありません
日本の維新は皇軍を中心として展開すべきであります。
今日われわれの蹶起に拘らず 上層部は立ちませんでしたが、
次の時代には立つべきであります。
論告には根本から反對であります。
法律的の頭脳を以て解釋すべきでなく、軍人的の頭脳で解釋せなければならぬ問題であります。
私どもは改造法案にあるが故に貴とうとしとして行動したのではありません。
私は改造法案を精讀して研究してはいますが、國家革新の方法論として研究しているのであります。
皇室財産の没収と言われましたが、そのようなことはなく、下附であります。
論告は今までの支配階級が私どもを攻撃したのと同じ筆法を以てせられています。
今回の事件は次の四箇の鍵を以て解くべきであります。
一、獨斷を正しいとした理由
二、告示
三、戒嚴部隊に編入
四、奉勅命令びその前後の處置
で あります。
今回の事件は五 ・一五事件のごときものではありません。
本質が相違しています。
五 ・一五は英雄的のもので、今回の事件は忠臣となるか逆臣となるかの岐路を行ったものであります。
呑舟の魚は網にかからず 超法的の存在であります。
この超法的存在を打破する者は青年將校の劍のみ可能であります。
本件が複雑になったのは、軍自身が賛成してついて來たゝめであります。
途中電話で間違いがあったなどと言われても、告示は告示として存在すべきものであります。
地區守備隊に編入したことを、慰撫の手段だと稱しながら、
師団團番號のついた命令で出ているのは矛盾であります。
奉勅命令は最後まで傳達を受けません。
いつの間にか戒嚴部隊より除外され、つづいて攻撃を受けたのでありまして、
奉勅命令に抗する意思がありとすれば、防禦工事を施しているはずであります。
私は諸上官の證言を反駁する材料は持っていますが、
軍同士掴み合をしてもはじまりませんから、なにも申しません。
ただ、上層部が私どもを逆賊と宣傳したことは、將來のいっさいの禍の根となりましょう。
しかし 軍が私どもの立場を認めることが苦境に陥ることになるならば、
私どもは喜んで罪を受けます。
皇匪の名は甘んじて受けます。
満洲において我軍は支那人より日匪と呼ばれています。
この次に本件のようなことが起こった場合、告示も戒嚴令もいっさい否定せられると考えられます。
以上
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1、檢察官ハ蹶起ノ趣意ヲ歪曲シ、故意ニ叛徒ノ賊名ヲ以テ葬リ、
 全ク精神モ葬レバ、斷ジテ承服スル能ハズ。
2、社會民主革命ヲ實行云々ハ香田淸貞ノ陳述ニ略同ジナルモ、
 日本改造法案大綱ニ附、北、西田等ノ思想ハ決シテ社會民主主義ノ思想ニアラズ
ト反駁ス
3、檢察官ハ現状維持者ノ代弁者トシテ本事犯ヲ斷罪シアリ、
栗原ハ即チ本件ハ日本ノ生成發展ノ大飛躍ノ爲メノ已ムニ止マレヌ所ヨリ
統帥權干犯者ヲ斬ツタノミニシテ、超法的ノ行爲ナリ
ト鞏調ス
4、大臣告示、戒嚴部隊ノ編入ノ件ハ安藤ノ陳述ト大同小異ナリ
5、奉勅命令ハ絶對下達サレズ。
6、小藤大佐ノ麴町警備隊長ノ解任モ下達サレズ。
7、大臣告示ハ説得案ナリシト云フモ、第一師團ニハ立派ニ下達サレ、
 刑務所ニ來ル迄説得案ナリシト云フコトハ明示サレタル事實ナシ。
要スルニ、陸軍ノ首脳部ガ責任ヲ負ヒ切レザル様ニナツタ爲
奉勅命令ヲ以テ叛徒ノ汚名ヲ着セ居ルモノナルヲ以テ、
陸軍ガ負ヒ切レナイト云フナレバ、喜ンデ其處刑ヲ受クルモノナリ。
「 約二時間ニ亘リ陳述ス 」 ・・・憲兵報告


憲兵報告・公判狀況 23 『 判決、香田清貞以下二十三名 』

2020年09月11日 17時04分53秒 | 反駁 2 西田税と北一輝、蹶起した人達 (公判狀況憲兵報告)


・・・ 憲兵報告・公判状況 22 『 論告求刑』 の続き


第二十四回公判狀況
第一公判廷第二十四回公判開廷狀況
一、一般狀況
七月五日午前九時開廷、
石本裁判長ハ香田清貞以下二十三名ノ呼名點呼ヲ爲シタル後、
只今ヨリ判決ヲ与ヘル旨述ベ、
一同緊張裡ニ大要左ノ如ク判決理由書ヲ朗讀セリ
即チ、被告ノ原因動機ニ就テハ、
被告等 ( 士官學校出身者 ) ハ何レモ陸軍士官學校在學當時ヨリ夙つとニ憂國ノ熱情ニ燃ヘ
國體ノ眞姿顯現ニ關スル學問的研究ヲ爲シアリタルガ、
同校卒業ト共ニ部隊附將校トナリ農村漁村ノ貧困ナル壯丁ヲ部下トシテ迎フルニ至ルヤ、
之等ニ對スル同情心ヨリ益々思想尖鋭化シ、
次デ昭和五年ロンドン條約ニ對スル統帥權干犯問題惹起ヲ見ルニ及ビ、
重臣、財閥、官僚、軍閥、特權階級ノ不徳行爲ヲ匡正スルニアラザレバ
國家ノ現狀ヲ打開スルコトハ能ハズトノ信念ヲ抱クニ至リ、
北輝次郎、西田税等ノ有形的思想ニ共鳴スルニ及ビ思想益々矯激トナリ、
遂ニ特權階級ノ勢力芟除スルニアラザレバ國體ノ眞姿顯現ハ不可能ナリト誤信シ、
獨斷専行ヲ以テ國軍ノ一部ヲ動カスモ亦止ムを得ズノ堅キ決心ヲ有スルニ至レリ、云々、
ト述ベ、犯罪事實及證據品ノ指摘朗讀ヲ爲シタル後主文ニ移リ、
被告等ハ國防ノ充實、國民生活ノ安定ヲ圖リ、國體ノ顯現ヲ爲スベク、
國家ト相容レザル北一輝、西田税等ノ説ヲ具現セントシ、
統帥命令ニ基クニアラザレバ動カスベカラザル部隊ヲ獨斷私用シ、
國憲國法ヲ無視シタル行爲ハ上御聖旨ニ叛キ奉ルモノナリ
云々。
ト述ベ、別項判決ヲ申渡シ、
午前十時四十分 平穏裡ニ閉廷セリ。

二、法ノ適用及判決
(一)  法ノ適用
 陸軍刑法第二十五條叛亂罪
(ニ)  判決
香田清貞
安藤輝三
栗原安秀
村中孝次
磯部淺一
右被告ハ陸軍刑法第二十五條一項ニ依リ死刑。
竹嶌繼夫
對馬勝雄
中橋基明
澁川善助
坂井直
丹生誠忠
田中勝
中島莞爾
安田優
高橋太郎
林八郎
右被告ハ陸軍刑法第二十五條第二項前段ニ依リ死刑。
麥屋清濟
常盤稔
鈴木金次郎
清原康平
池田俊彦
右被告ハ陸軍刑法第二十五條第二項前段ニ依リ無期禁錮。
山本又
右陸軍刑法第二十五條第二項前段ニ依リ禁錮十年 ( 求刑懲役十五年 )
今泉義道
右陸軍刑法第二十五條第二項前段ニ依リ禁錮十年 ( 求刑懲役七年 )

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