對馬勝雄
昭和十一年六月四日
最終陳述
本件叛亂罪にすべしとの基礎の上に立ち、
歸納的にそこに落附くような處理の方法になっているようでありますが、
決してわれわれのやった行爲は叛亂ではありませぬ。
檢察官は共産党は斯く言うとか言われましたが、
そのようなことは私どもの行動を左右するものではありませぬ。
外国人には日本國體は了解できぬものであります。
それは物の形だけを見るからであります。
形のみを以て律し 叛亂となすは、正義を無視するものであります。
充分訊問していただきたい。
半途で打切っては最後の結論に到達しませぬ。
( と 脱線しかけたるを以て、法務官は事実調、証拠調を終りたる旨を申聞け、論告に対する意見のみを述べよと注意したり )
次で 国權にに抗戰したるに非ず。
統帥權は天皇の文武大權の一面なりと説明したるも要領を得ず。
北、西田、日本改造方案を私どもの行動と結びつけられるのは不服であります。
戒嚴下の軍隊區分に入れ、
後になってから陛下の隷下に入れたのではない
などと稱する上層部の態度は了解に苦しみます。
奉勅命令は傳達せられませぬ。
また 麹町地區警備隊はいつ解散せられたのかも知りません。
この轉を紛淆ふんこうするのは、軍の將來に惡結果を残すと考えます。
以上
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1、檢察官ノ論告ハ全面的ニ認ムル能ハズ。
2、檢察官ハ御維新ト革命ヲ履違ヒアリ。
3、歴史的必然性ニ就テノ認識ナシ。國體ガ理論上三段ニ飛躍シアル點ヲ鞏調ス。
4、國憲國法ヲ無視セヌ。
・・・憲兵報告
新井勲
第一回公判狀況
二 ・二六事件公判狀況ノ件報告
一、公判經過概要
七月三日午前九時ヨリ
二 ・二六事件關係者タル左記三名ノ者ニ對スル公判ハ第一公判廷ニ於テ開廷セラレ、
最初形ノ如ク石本裁判長ヨリ身上ニ就テ訊問アリタル後、
竹上檢察官ヨリ公訴事實ノ陳述アリ。
裁判長ヨリ爾後ノ訊問ハ裁判官タル法務官ヲシテ行ハシムル旨宣セリ。
法務官ハ先ヅ最初ニ三被告ニ對シ公判ノ經過ニ就テ、
被告ヨリ公訴事實ニ對スル不承認ノ陳述、被告ノ行動事實ノ審理、證據調、
之ニ對スル被告ノ利益トナルベキ證據、證人ノ申請竝陳述、
次ニ論告、求刑、最後ノ陳述ト其ノ順序ヲ縷々るる開陳シ、
本公判ハ審理ノ都合上 新井中尉、柳下中尉、山口大尉ノ順序ニ取調ヲ進行セシムル旨告ゲ、
山口大尉、柳下中尉ヲ退廷セシメタリ。
而シテ正午休憩、一時三十分ヨリ再開、
午後四時 新井中尉ニ對スル事實審理ハ終了シタルガ如ク、
前ニ退廷セシメタル二被告ヲ入廷セシメ、
次回ハ明四日午前九時ヨリ開廷スル旨を告ゲ、午後四時十分閉廷セリ。
二、被告人
歩兵第一聯隊 陸軍歩兵大尉 山口一太郎
歩兵第三聯隊 陸軍歩兵中尉 新井 勲
歩兵第三聯隊 陸軍歩兵注意 柳下良二
三、公訴事實
1、山口大尉
「 反亂者ニ對シ利益ヲ与フルノ行動ヲ爲シタルモノ 」
ノ罪科ニヨリ 山口大尉ハ從來ヨリ國家改造 又ハ革新ノ思想ヲ懐キ、
現在ノ我國ノ現狀ハ 財閥、重臣、新閣僚の奸臣が幾多ノ秕政ヲ重ネ、
之ガ欝積打開ノ術モナク、此ノ現狀ニハ慊あきたラザルモノアリタルガ、
相澤公判ヲ繞めぐリ村中、磯部等ト會合シ、偶々自己ガ週番司令ニ就クヤ、
村中、磯部等ノ軍隊内聯絡ニ週番指令室ヲ利用スルコトヲ許シ通チョウヲナサシメ、
且ハ若干ノ地圖ヲ与ヘ、其ノ計畫ヲ有効ナラシメタリ。
又、事件突發當夜ハ週番司令トシテ行動部隊ノ出動ヲ容易ナラシムルト共ニ彈薬ノ供給ヲナシ、
出動後聯隊長其他上司ニ報告ナシ、
又、聯隊長ノ副官格トシテ随行シ叛乱部隊ノ占據地ニ到リ
村中、磯部等ノ上部工作ヲ援助スル処アリタルモノナリ。
2、新井中尉
「 司令官軍隊ヲ率ヒ故ナク守地ヲ離レタルモノ 」
ノ罪科ニヨリ新井中尉ハ中隊長代理トシテ今事件ノ惹起セルヲ傳令ヨリ承知シ、
直ニ隊ニ出動シ、聯隊本部ニ到リ各種情報ヲ蒐集シ、隊長ヨリ警備部隊ニ属シ出動ヲ命ゼラレ、
中隊ノ兵員ヲ指揮シ赤坂區福吉町附近一帯ノ警備ニ當リ得タルガ、
上層部ノ意思 ( 企圖方針 ) ガ不明瞭ナル爲、
之レガ反省ヲ促スニハ現地ヨリ離ルルガ最モ良策ナリト斷定シ、
二月二十八日午前二時頃中隊ノ兵ヲ率ヒ 青山墓地、明治神宮ニ少憩ノ上、
靖国神社ニ到リ參拝ノ上、休憩セルモノナリ。
2、柳下中尉
「 反亂者ニ對シ利益ヲ与フル行動ヲナシタルモノ 」
ノ罪科ニヨリ 柳下中尉ハ今事件ニ際シテハ週番士官トシテ勤務中、
中隊兵員ヲシテ之ニ參加出動スルヲ黙許シ、反亂部隊ノ行動ヲ容易ナラシメタルモノナリ。
四、事實審理
其ノ要點ヲ摘記スレバ左ノ如シ。
法務官 「 公訴事實ニ對シ意見アリヤ 」
私ハ全部不承認ノモノナリ。
何トナレバ、公訴事實ニハ 『 司令官故ナク守地ヲ離レタリ 』 ト述ベラレアルモ、
故ナク守地ヲ離レタルモノニアラズ。
新井ハ最初 事ノ如何ヲ問ハズ守地ニ就キ勤務セルニ、
日時ノ經過スルニ随ヒ 上部命令ガ不徹底トナリタル爲、
即チ 戒厳司令部ノ企圖方針ガ不明瞭ナル爲メ、反省ヲ促サントシ現地ヲ撤去シタルモノナリ。
即チ、統帥命令、作戰命令ニハ 苟モ其ノ目的ヲ達スル爲ニハ必ズ企圖、方針ナカルベカラズ。
將校ハ此ノ企圖方針ニ依リ、細部ノ點ハ情報其他ノ判斷ニ依リ、行動スルモノナリ。
然ルニ、今事件中ノ命令ニハ如何ニ秘密作戰ナリト雖モ
其ノ企圖方針ヲ示サレザルニ於テハ行動ヲナシ得ザルモノナリ。
依テ其ノ忠誠心ノ発露ヨリ上部ノ企圖方針ヲ樹立セシメントシテ行動シタルモノガ、
何故陸軍刑法ノ責ヲ負ハザルルモノナリヤ。
承認スル能ハザルモノナリ。
新井ハ決シテ軍紀ヲ紊リタルモノニアラズ。
当時ノ狀況ヲ判斷シ得ルモノナレバ、誰ニテモ一見明瞭ナリ。
私ハ同一ニ戒嚴部隊ニ編入サレ居ルモノニ、警戒ト云フガ如キ任務ハナキモノナリ。
又、戒嚴司令部ハ何故大臣告示、又ハ反亂者ヲ戒嚴部隊編入ノ取消ヲ行ハザリシヤ。
實ニ私ノ其行動進退ヲ苦シメタルモノナリ。
私ハ靖國神社ニ參拝后戒嚴司令部井出大佐ニ遭ヒ、
其ノ間ノ事情ヲ知リ、始メテ自己ノ頭ガ判斷ヲ誤リシモノナリトナシ、
直ニ隊兵ヲ引率元ノ警備地域ニ復歸セルモノニシテ軍紀ヲ紊リタルモノニアラズ。
即チ 指揮者ガ判斷ヲ誤リテ行動シタルハ、軍刑法上ノ責ニアラズシテ、
重過失ニ因ルモノナルヲ以テ刑責ナキモノナリ。
法務官 「 被告人ノ略歴ヲ述ベヨ 」
新井、大様陳述ス。省略
法務官 「 新井ノ二十六日ヨリ二十九日ニ至ル迄ノ行動ヲ述ベヨ 」
新井 二十六日早朝傳令ニヨリ事件ヲ知ツテヨリ警備ニツキ帰隊スル迄詳細ニ陳述ス
此ノ間、
1、聯隊長ハ聯隊將兵ヲ一堂ニ會シ 師團長ノ訓示ヲ傳達シタリ
ト豫審ニテ言ハレタルガソノ事實ナシ
2、私ノ聯隊ニテ最初糧食ヲ反亂部隊ニ供給シテ居タモノデアリマス故、
私達ヲシテ斯様ニ判斷ヲ誤ラシメタリ。
3、師團長ハモウコウナツテハ行動部隊ノ精神ヲ生カスヨリ外ニナイト云フコトヲ洩レ承リアリ。
4、奉勅命令ハ裁判長ヨリ示サレタモノト聯タイニテ師團ヨリ下達サレタルモノトハ違フ。
5、新井中尉は桜井參謀ト同道シ山王ホテルニ到リ奉勅命令ヲ下達セントシ
將校ヲ呼ビタルガ、其ノ必要ナシト兵ヲ通ジ拒絶サレタルモ、其寫ヲ請求サレ、其寫ヲ差出シタリ。
又、豫備将校ノ如キ一人ニ下達シ、其処ニ居タル一下士官ニ讀聞カセタリ。
6、奉勅命令ヲ下達セル際、其ノ中ノ方ヨリ 斯クノ如キ天皇機關説ニハ服從出來ナイ旨ノ大聲ヲ聞キタリ。
法務官 「 被告ハ行動間反亂部隊ヲ利スル目的ハナカリシヤ 」
「 私ハ經歴ニテ申述ベタル如く昨年八月以來 急進思想ヲ異ニシ居ル爲、
始メヨリ行動ニ參加スル意思ナク、又、其様ノ點ハ毛頭ナシ 」
此點ハ再三問答アリタルモ、
新井中尉ハ決シテ行動ヲ容易ナラシムルガ如キコトナキヲ強調ス
憲兵報告・公判状況 26 『 柳下良二 』 に続く
二 ・二六事件秘録 ( 三 ) から
