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日々遊行

天と地の間のどこかで美と感じたもの、記憶に残したいものを書いています

光と風と夢 中島敦

2009-09-18 | book

昭和17年(1942年)、筑摩書房の創業三十周年を記念して出版された本で
初版3000部のうち1500部が限定本として発行された。No.540番台                               

Nakajimaatushi 狐憑
遊牧民によって弟を殺されてからシャクは幻惑と妄想に憑かれ、
言葉となって誰に語るともなく語り始めるようになった。
にとって不吉な存在として彼は処分されるがそれは一人の詩人の喪失であった。
言葉が人間に及ぼす魔力を描いた古代スキタイ人の物語。

木乃伊
古代エジプト。墓所捜索隊に加わったパリスカスは地下の墓所で
一体の木乃伊に自分の姿を見る。
前世の自分と現在の自分が向き合っている。魂は死なず。

山月記
授業で扱われる有名な作品。人間が虎になる話に衝撃を受け、
10代でまだ未熟だった私は中国大陸という得体の知れない寂寥感のようなものと
李徴の絶望が胸に重くのしかかり、数日この作品が頭から離れずにいた。

文字禍
古代アッシリア。文字に宿る精霊が人間を翻弄する。
文字は線の組み合わせ。
そして形になった文字には意味があり、そこに存在する影は人間が簡単に
太刀打ちできるものではない。中島敦の文字への洞察に感嘆する作品。

斗南先生
伯父である中島端をモデルに書いた三造シリーズの1作。
伯父に振り回される三造のとまどいが手にとるような描写である
。生前の伯父をあまり愛せないでいた自分が見た、貫くように生きた伯父との回想。

虎狩
主人公は実際に虎狩を体験するのだが、このタイトルは差別を扱った深いテーマが含まれている。
主人公の親友だった趙大煥は朝鮮人であったが、ひと際大きい彼はどこか達観しているような風貌に見えた。
それを目障りに思う上級生から嫌がらせや暴力を受けるが趙大煥は抵抗しない。
その後、趙大煥はいつのまにか姿を消した。
十何年経って二人は街で行き会うが主人公は誰だか思い出せない。
しかし趙大煥は会った瞬間からかつての親友をわかっていた。
 かすかな再会で趙大煥は雑踏に消えた。

光と風と夢
「宝島」「ジキルとハイド」のスコットランド作家ロバート・ルイス・スティーブンソンが
療養のためサモアに移り住んだ南洋の物語。
島は英・独・米の三国に支配され島民は不安の生活を強いられている。
スティーブンソンは皆から手厚い待遇を受けながら、三国から島民を助けられない苦悩と
作家としての悲嘆がつづられている。
脳溢血でスティーブンソンはこの世を去る。
老酋長が赤銅色の頬に涙を流しつぶやいた。   
  「トファ(眠れ)!ツシタラ」(ツシタラはサモア語で物語を語るひと)

中島敦は33歳で早逝したが、動物と人間が不思議に関わる幻想譚、高雅な文体は
今読んでも読書の楽しみを与えてくれる。


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