朝に咲き夕刻には散ってしまう儚い花、夏ツバキ。
6~7月にかけて椿に似た花を咲かせることから名づけられた。
別名で沙羅の木(さらのき)とも呼ばれる。
インドの聖樹・沙羅双樹と似ているらしいことから混同されるが
日本の土壌では育たないため、この夏ツバキは沙羅双樹とは別種である。
祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響あり
沙羅双樹の花の色
盛者必衰の理(ことわり)をあらはす
琵琶法師が哀しく語った「平家物語」の冒頭では世の無常を落下する花にたとえた。
その沙羅双樹は夏ツバキではないかといわれる。
そしてこの夏ツバキを愛した作家・森鴎外が詩に描いた風情。
褐色の根府川石(ねぶかわいし)に
白き花はたと落ちたり、
ありとしも青ばがくれに
見えざりしさらの木の花。
長くはとどまってくれない夏ツバキはひととき人を魅了し
静かに落ちて、木に咲いていた姿とは又違う風景を見せてくれる。