イギリスの詩人ウィリアム・ワーズワースが湖水地方のアルズウォータ湖畔で見た黄水仙は
孤独な心に喜びをよみがえらせる存在として胸に深く残った花である。
「 水仙 」 The Daffodils
丘や谷間のうえ 高く漂う
ひとひらの雲のように さびしく さまよった。
そのとき ふいにこの目に見えた ひと群れの
いや、大群の 黄花水仙が、
みずうみのほとり 森の葉かげで
そよ風に ひらひらと踊る姿が。
銀河で ひかり またたく
星くず さながら はてしなく
水仙の花が のびていた みずうみの
入江沿いに つきることなく。
一目見ただけで 数知れぬ水仙が
勢いよく 頭(うなじ)ふりふり 踊っていた。
みぎわの波もおどったが、よろこびの
深さで、きらめく波も 水仙にはおよばなかった。
これほど 陽気な仲間にかこまれて
詩人(うたびと)も 心はずまずには いられなかった!
ひたむきにみつめたが、考えだに及ばなかった
この眺めの いかばかり 心を豊かにしたかを。
今も ときどき さびしく ぼんやりと
寝椅子にねていると、孤独のよろこびの
心の目に ふいに 水仙が閃きうつるのだ。
すると わたしの心も よろこびに溢れて
水仙の花とともに 踊りだす。
訳 松浦 暢
群生して風にゆれていた黄色の水仙は視覚イメージとなってワーズワースをなぐさめ、幸せをもたらした。
約半年にも及ぶイギリスの冬は厳しく長い。
早春の中で見た水仙は閉ざされた心に見い出した銀河の光であった。