パピとママ映画のblog

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悪童日記 ★★★★

2015年01月21日 | アクション映画ーア行
ハンガリー出身のアゴタ・クリストフの小説を映画化し、第2次世界大戦下の過酷な時代を生き抜いた双子の日記を通して世界を見つめた衝撃作。両親と離れて見知らぬ村に預けられた少年たちが、日々激化する戦いの中で自分たちのルールに従い厳しい状況に追い込んでいく姿を描き出す。双子の新星アンドラーシュ&ラースロー・ギーマーントが圧倒的な存在感を発揮。大人たちの世界を冷徹に見据える兄弟の選択が心をかき乱す。
あらすじ:第2次世界大戦末期の1944年、双子の兄弟(アンドラーシュ・ギーマーント、ラースロー・ギーマーント)は、都会から田舎に疎開する。祖母(ピロシュカ・モルナール)は20年ぶりに戻った娘(ギョングベール・ボグナル)との再会にも不満顔。双子たちだけが農場に残され、村人たちに魔女とうわさされる祖母のもとで水くみやまき割りなどの仕事をこなしていく。

<感想>この映画は昨年の10月に公開され、地方でやっと上映された。それに、アカデミー賞有力候補の、「6才のボクが、大人になるまで。」もやっと上映されているのだ。今年もミニシアターでの観賞が増えそうな気がする。
冒頭で、眠っている男の子ふたりの寝息をきかせる薄暗い場面から始まる。フランスで刊行され日本でも広く読まれてきたアゴタ・クリストフの原作を、ナチス時代のハンガリーに設定したこの映画の田舎の村に電灯はまだないのだ。だからランプの灯りによる生活のなかでの、兄弟の成長や屋外の風景などを逆光でとらえる場面が多いのだが、まずはこの撮影の素晴らしさが映画を映画たらしめているのがいい。
ハンガリーに生まれ、20歳を過ぎてから亡命先で習得したフランス語で書いた小説が、ハンガリー語の音声と、ハンガリーの風景の映像を得るという美しい奇跡。原作の肝心なところをつかんで簡潔な映像表現に移し替えた脚色も、ハネケ作品で知られる撮影監督による自然光中心の画面もすごく良かった。

そして、なかんずくはキャスティングさえ正しければ映画は何とかなる、という大意。クリント・イーストウッドの至言を証明して余りある、豚のように太った祖母役=魔女も強烈だが、やはり双子を演じた兄弟に尽きる。彼らの圧倒的な演技の見事さに驚いた。
登場する人たちは、男も女も軍人も、一般市民も、大人も子供もすべて静かに凄まじいのだ。これは、キャスティングの勝利といっていい。

主役はハンガリー中の学校をリサーチして見つけた双子の兄弟だ。感受性豊かで美しいふたりは演技経験ゼロで、ブダペストから離れた貧しい村に住んでおり、詩のひとつも読んだことがなかった。原作さながらに複雑な家庭環境で育ったそう。

小児愛性向があるらしい近くの収容所のナチスの将校が、婆さんの家の離れに住み始め、双子を殴る蹴るした男を問答無用で銃殺する。森へ薪を拾いに行き、脱走兵らしき行き倒れに遭遇する。食べ物と毛布をくれと頼まれ、次の朝に双子がそこへ行ってみるとすでに兵隊は死んでいた。そこにあった武器を持ち帰って隠してしまう。いずれ使う時が来ることを知っているのだ。

そして、親切だった靴屋はユダヤ人狩りで連行され、ユダヤ人狩りに喜んでいる教会の手伝いをしている若い女性は、双子が手榴弾をストーブに中に入れて“復讐”する。
隣の家の唇が切れた女の子は、よく食べ物を盗みに来るが、戦争が終わりソ連軍の戦車が来ると、喜んで手を振り兵士にレイプされ殺される。聖書の中で「汝殺すなかれ」と教えているが、殺しは日常なのだ。
何時来るかしらない母親は、迎えに来ると言いながらも、他の男の子供を作った母は、終戦後に赤ん坊の妹を抱き抱えて双子を迎えに来るのだが、ソ連軍の空爆で親子ともども死んでしまう。婆ちゃんは、メス犬(自分の娘のこと)が子供産んで来たけれど、死んでしまったわと、自分の庭に埋めてしまう。

暫くぶりに逢った父親が、ナチスに参加し戦争に行くも、ソ連軍の侵攻で亡命を試みるが、双子の兄弟を道ずれに国境線を超えようと誘うのだが、鉄条網の下にある地雷で爆死する。それを見て双子の一人は、父親の遺体を利用して、遺体の上を歩いて西側に行くのだ。もう一人はハンガリーに残り、初めて双子は散りじりに別れることになります。果たして鉄条網の向こう側には希望があるのだろうか?・・・。
映画はここで終わるのですが、双子は実際に貧しい村の出身で家族も離散状態ということもあるのだろうか、その冷たい眼差しは本物だし、説得力もある。

祖母の家に置いてけぼりをくらい、そこで生き抜いていくためには、痛みに耐える訓練をしたり、兄弟が痛みを感じなくなったわけでも何でもない。「心が痛むから」と母を忘れようとする。豚のように太ったデブの祖母の厳格さよ、耐えて忍ばねば生きてはいけない。だから、祖母が脳梗塞で倒れ、自分で生活できなくなった。毒薬をミルクに入れて安楽死させてくれと頼む祖母の願いを聞き入れて、発作が起きると双子は実行する。

彼らが曝され、眼の当たりにし、繰り出す背徳と悪徳の描写はなんだか手ぬるいが、双子の存在感で帳消しになっているようだ。母親にノートを渡されて、日記をせっせと綴り、毎日起きる無惨な絵コラージュまでこしらえてしまう。
ところどころに挟み込まれるアニメーションも中々良くて、それほど日記的語り口を得ることは出来てはいないと思った。
子供の目線で描かれている原作の世界を、理解の範囲での物語であり、戦争という特殊性を含む時代の日常と、世界の田舎にある村の現代と昔が繋がった世界観でもある。
ラストで双子が、別々の世界へと旅立つところで、観客へ物語の終りの問を残しているところが意味深いですよね。
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