パピとママ映画のblog

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ドライブイン蒲生 ★.5

2014年12月18日 | アクション映画ータ行
「指輪をはめたい」などで知られる芥川賞作家・伊藤たかみの小説を基に、寂れたドライブインを営むどうしようもない父親のもとで育った姉弟の葛藤を描く人間ドラマ。相米慎二、石井聰亙監督作品など日本のインディペンデント映画に携ってきたカメラマンたむらまさきが、75歳にして初メガホンを取る。姉と父の間で苦悩する弟に染谷将太、元ヤンキーで出戻りの姉に『横道世之介』などの黒川芽以、彼らの父親を永瀬正敏が演じる。
あらすじ:閑古鳥が鳴く「ドライブイン蒲生」に生まれ育った姉サキ(黒川芽以)と弟トシ(染谷将太)は、ヤクザ崩れの父(永瀬正敏)のせいで、幼いころからバカの一家と近所から疎まれてきた。そんな惨めな境遇に失望したサキはヤンキーとなった揚げ句、子供を身ごもり姿を消してしまう。それから数年後、夫に暴力を振るわれたサキは嫌っていた実家に出戻り……。

<感想>だいぶ前にミニシアターで観賞したもので、染谷将太くんが出演しているので興味がありました。ですが、途中で眠気をモヨウするつまんない映画でもありました。京浜国道を舞台に作者と同じ1970年代生まれの姉弟の目を通して、日本社会の変貌を時代の風俗とともに、感覚的に描いた作品で、カメラマンのたむらまさきの初監督作品である。ですが、おそらく予算の関係だろうが、舞台は東京近郊に移されていて、流通の一大倉庫と化した道路は映されていなかったのだ。

原作は未読だが、それこそ作品のキモだったのではないか、ここには淀みがちな時間が流れている。同じような日々の繰り返し、半ば煮詰まりながら、しかし、それをご破算にして、どこかに行くということもできない暮らし。その停滞した、淀んだような空気を映画の時間として捉えたのは、撮影を担う”監督たむらまさき”ならではのことだろう。
染谷将太の度アップで始まり終わる。その間にある家族をめぐる出来事が綴られるのだが、一家の娘、黒川芽以を中心に進み、弟の染谷将太はその脇にいるにすぎない。冒頭のシーンでは姉がDVの亭主のことでうじうじと悩み、弟は母親とともに言葉もないままそばで見守る。
やがて回想される数年前のシーンでは、父親に対する不良高校生の姉の反発ぶりがさまざまに描かれるのに対して、弟はいつも一緒にいるだけなのだ。

そんな脇の人物であるにもかかわらず、染谷将太のアップが冒頭とラストに出てくるわけだが、より正確には、カットの在り方は微妙に違うのだ。それは時間が細かく混じり合うことで、現在と過去を何度も行き来するのは脚本によるものだが、そのあり方に加えて作品の大部分を占める回想シーンでは、時間の推移がはっきりしないことが多いのだ。

例えば場面が転換した時、同じ日なのか別の日に跳んだのか一瞬判別しがたいのである。もちろん撮影も手掛けた監督のことを踏まえれば、画面に観られるそうした時間の独特の在り方に監督の作品世界があると思われる。
この映画には街道沿いのドライブインが二つ出てくるが、それらをAおよびBと呼ぶならば、全体は主人公たちがAからBへ行って戻るまでの話であり、その間に過去の回想が入るのだ。主な舞台となるのはAの「ドライブイン蒲生」で、父親泣きあとの現在、もう営業していない。

過去のシーンでも、営業中とはいえ、蒲生家の主人、永瀬正敏がぐうたらなため閑散としている店。たしか客は一人が一度いるだけで、店ではダメ親父と不良娘と息子が、ぐだぐだしており、夜ともなれば店内は姉とボーイフレンドと、弟が戯れる場と化している。
過去の下りでは、そんなドライブインと近くにある住居が家族の空間であり、永瀬正敏とそれに反発する黒川芽以、両方に親密に接する弟の染谷将太、存在感のない母親の猫田直の、閑散とした店内が家族の状況を表しているのである。
外部の空間として道路やパン屋、父親が肝硬変で亡くなる病院などが出て来るが、中でも店と住居の間にある長い橋が、その中間で永瀬正敏と染谷将太が男っぽい親密さを見せるのが印象深かった。

常に空間が家族の在り方と結びついて描かれるわけで、外部が関わる場合に際立つのだ。例えば、父親の死期、夜に姉と共に店でごろごろしていたボーイフレンドの小林ユウキチと染谷将太が、道路にいたちり紙交換車の黒田大輔を揶揄するシーンでは、怒った男が怒鳴り込もうと店のガラス戸を叩くや、奥にいた姉の黒川が荒々しく戸を開けてアイスピックを手に迫ってゆき、弟たちが追いかけて制止させる。アイスピックは父親の形見で、姉弟はダメ親父と心を通わせたと言えるように見えた。

現在のシーンが続いて、姉の黒川が幼い娘を連れて、染谷将太の運転する車でBに向かい、不仲な夫と対決する。アイスピックがそこでも使われ、店内で姉が殴られているのを見た弟が、駐車場に停めてあった相手の車のタイヤをボコボコに突き刺し、それが若い夫婦の関係に決着をつけるのだ。

染谷将太はいわば不在の父親に替わって行動を起こすわけで、この後、Bから橋を渡ってAへと向かうラストが、彼のアップで終わる。
ですから、役者たちも何をするでもなくそこにいるということに、よく耐えていると思います。ですが、それだけで傑作と呼ぶには何かが足りないのだが、それは何なのか?が判らない。
さびれたドライブインに集う人々の行き場のない感情を、台詞数少なめに切り取る精度の高いカメラワークはさすがである。また、くすんだ空間に佇む男達がいい。小林ユウキチ、黒田大輔、吉岡睦雄、そして永瀬正敏。ほとんど同系色だが、微妙な違いで塗り分けられている。さらには、その上に塗られた染谷将太の圧倒的なグレーの色が。ぼんやりしているからこそ、鋭利な痛みがチクチクと残る感じがする。殺風景な橋というのが、現在と過去を繋ぐ構成で、この叙情がさすがで、ドキュメンタリー視線のようでもあった。
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