佐伯泰英の人気時代小説シリーズを「孤狼の血」「娼年」の松坂桃李主演で映画化。藩の抗争に巻き込まれ、全てを失い、江戸の長屋で浪人として生きる心優しき剣士が、江戸下町の人々と心を通わせていく人情模様と、大切な人を守るために再び剣を手に立ち上がる姿を描く。共演は木村文乃、芳根京子、谷原章介、中村梅雀、柄本明。監督は「超高速!参勤交代」「空飛ぶタイヤ」の本木克英。
あらすじ:故郷・豊後関前藩で将来を嘱望される藩士だった坂崎磐音は、ある悲劇的事件によって2人の幼なじみを失い、祝言を間近に控えた許嫁の奈緒とも別れざるをえなくなる。脱藩し、心に深い傷を抱えたまま、江戸で長屋暮らしを始めた磐音。長屋の大家・金兵衛の紹介で、両替屋・今津屋の用心棒として働くことに。その穏やかで誠実な人柄と、確かな剣の腕前で、次第に長屋の人々から信頼され、いつしか金兵衛の娘おこんからも好意を持たれるようになる。そんな中、田沼意次が発行した新貨幣を巡る陰謀に巻き込まれてしまう磐音だったが…。
<感想>この男、切ないほどに、強く、優しい。磐音は人情に厚く穏やかな性格で、人を包みこむように優しくほほ笑む普段の姿。しかし、悪と対峙するとその様相は一変し、別人のように鋭い眼差しで剣を構える鬼気迫る姿を見せており、本作の見どころである本格的な殺陣にも期待が高まるビジュアルとなっていた。欲を言えばだが、もう少し殺陣の練習をすれば、岡田准一のような素晴らしい武士の役も掴めるかも。
不条理な理由で故郷の友人2人を亡くし、挙句に許嫁の奈緒の兄である琴平を斬って死なせてしまった辛い過去がある。夫婦になる誓いを結んだのに、お家断絶のために江戸の吉原へ奉公に出る奈緒。
そして彼は、脱藩することを決意。すべてを失い、江戸へ出た磐音も長屋暮らしで、うなぎ屋で調理しとして下働きをし、また両替屋の用心棒を務める磐音が、刺客の毘沙門の統五郎らが難癖をつけに現れる。
今津屋を守るため刺客たちと戦い、そこで負った背中の傷をおこん(木村)が手当てするシーン。
磐音はひた隠しにしていた自身の“悲しい過去”について、ポツポツと打ち明け始める。彼女を心から信頼しているからだ。壮絶な出来事、そして故郷に残してきた許嫁・奈緒(芳根京子)の存在……。おこんは「それではあまりに奈緒様がおかわいそうです」と涙を流し、彼を思うからこそ、自身の気持ちを抑え陰ながら支えることを決意する。
そんな折、今津屋が南鐐二朱銀をめぐる騒動に巻き込まれ、磐音は用心棒として今津屋を守るために立ち向かうー。
奥田が演じた豊後関前藩・国家老の宍戸文六は、麻薬で捕まったピエール瀧の代役となって、琴平(柄本佑)が起こした事件を受け当人を討ち取るよう藩に命じる役どころ。劇中カットでは、磐音(松坂)の父・坂崎正睦(石丸)、藩の目付頭・東源之丞(和田聰宏)らに囲まれ、琴平を討ち取るように命じる場面を捉えた鋭い眼光が強烈なインパクトを放っている。そして、老中田沼には西村まさ彦が扮していた。
後半の新貨幣をめぐる陰謀は、何となく解るものの、少し急ぎ足のような展開で、老中・田沼意次の改革を進める今津屋と、それに反対する阿波屋の対立という構図であり、柄本明の阿波屋が雇った刺客が今津屋を狙い、それに磐音が立ち向かっていくという展開。
しかしながら、磐音の素晴らしい知恵が一枚上手だったということで、最後はあっけなく両替商「阿波屋」の主人・有楽斎の陰謀がすべてバレてしまい、磐音による裁きによって、有楽斎の凄まじい最後と迫真の演技でさすがの柄本明さん、お見事でした。
また、杉野は琴平の義弟・河出慎之輔、佐々木は磐音の剣の師匠・佐々木玲圓、陣内は遊郭「三浦屋」主人・庄右衛門、谷原は両替商「今津屋」の主人・吉右衛門、梅雀は磐音が住む長屋の大家・金兵衛に扮している。ほか石丸謙二郎、財前直見、西村まさ彦、橋本じゅん、早乙女太一、中村ゆり、波岡一喜、川村ゆきえらの出演。
主題歌が、MISIAの「LOVED」であり「あなたを好きになれて良かった」「それぞれ今を生きてゆくよ」という歌詞が、磐音と奈緒による互いを思いながらも別れを決断した切ない恋模様とリンクしているバラード。
吉原で花魁になり、練り歩く菜緒の晴れ姿が後ろを向く時に、群衆の中に磐音がいるのを知ってか知らずか、エンドロールでなく、このシーンで「LOVED」が流れてくれれば良かったのに。吉原で生きる彼女の運命に涙が溢れてならない。それと、笑顔の裏に悲しい過去を隠す浪人・磐音の姿が、切なくも凛々しく包み込んでいた。
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