パピとママ映画のblog

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荒野の誓い ★★★・5

2019年10月06日 | アクション映画ーカ行

「クレイジー・ハート」「ブラック・スキャンダル」のスコット・クーパー監督が、クリスチャン・ベイルを主演に迎えて贈るウエスタン・ドラマ。西部開拓時代が終焉を迎えた19世紀末期のアメリカを舞台に、アメリカ・インディアンとの戦いで武勲をあげた伝説の陸軍大尉が、宿敵であるシャイアン族の首長とその家族を故郷へ送り届ける任務を命じられ、渋々ながら繰り出した過酷な護送の旅を通して、少しずつ互いの理解を深めていくさまを描く。共演にロザムンド・パイク、ウェス・ステューディ。

あらすじ:1892年、アメリカ・ニューメキシコ州。かつてのインディアン戦争の英雄で退役間近のジョー・ブロッカー大尉は、収監されていたシャイアン族の長イエロー・ホークとその家族を、インディアン居留地となった彼らの故郷モンタナ州に護送するよう命じられる。戦争で多くの仲間を殺されたジョーは、インディアンへの憎悪を剥き出しにしてこれを拒否する。しかし軍法会議になれば年金がもらえなくなると上官に脅され、渋々ながらも命令を受け入れる。こうして信頼できる部下4人とともに、イエロー・ホークの家族を護衛してモンタナへの長い旅へと出たジョー。途中、コマンチ族によって家族を皆殺しにされた女性ロザリーを保護すると、彼女も隊に加えて先を急ぐ一行だったが…。

<感想>西部劇のかたちで現代アメリカの対立構造を暴く問題作であります。冒頭の音楽が静かに流れるという言葉の余韻に浸りつつ、まるでジョン・フォードの「捜索者」のような始まりなのだ。だが、シャイアン族の娘は拉致されずに殺されてしまう。美しく成長した娘の帰郷で終わる「捜索者」に対して、この映画の最後は、生き残った3人の疑似家族の旅立ちを描いて終わるのだ。

米国公開時、「史上もっとも残酷な西部劇」とも評された本作。日本人のマサノブ・タカヤナギによる撮影は、「捜索者」も引用して壮麗だが、物語は凄惨殺感が、極まりない地獄絵図の連続であった。

スコット・クーパー監督は、今回も米国史の暗部をむき出しにしようと試みているのだ。ニューメキシコからコロラド、そしてモンタナへ。あまりにも美しく広大な自然を背景に、分断された世界の憎悪と怒り、贖罪と和解を描いた西部劇の傑作。

インディアンとの抗争が収束しつつある1892年のアメリカを舞台にし、その「負の歴史」を「現在の断絶」と重ねた視点から描いている西部劇。殆ど現代的価値観に沿って描かれる人種間の対立の問題は、故ドナルド・スチュワートによる草稿には存在せずに、監督が追加したという。

相変わらずのクリスチャン・ベイルの仏頂面が荒野に映えるのだが、シャラメやプレモンスに、フォスターなど若手売れっ子たちが、短い出番にもかかわらず参加しており、この視点、アプローチへの関心の高さが伺えるのだった。

こうした「負の歴史」を認めて、エンタテインメントとして真正面から描きつつ、観客に考えを促す映画が公開できるのもまた、アメリカだなぁ、と改めて思いました。

作中、マックス・リヒターの音楽は、哀しみに襲われ登場人物たちに、静に寄り添っていた。音楽だけではない、行き届いた音の調整が、激しい戦いが繰り広げられる荒野の荒涼感を演出していた。

ジョー・ブロッカー大尉のうめき声は、雷の音にかき消されるも、家族を埋葬し、子供のように号泣するロザリーの泣き声は、荒野に響きわたる。一緒に旅をすることにしたロザリーは、無表情で笑うことを忘れたような、まるで死に顔になっていた。途中でインディアンの襲撃に遭い、女2人が拉致誘拐されてしまう。レイプ暴行され、まだ殺されないだけましなのか、死の確実性に惹かれても、人はいくつになっても、慣れない人生を生きていくのだろう。

この映画の殺伐とした世界観は、トランプ大統領の下で底知れぬ敵意と、憎しみで分断されてゆく。アメリカ合衆国の心象風景そのものを描いているようだった。その間に西部劇のエッセンスの全てが、ゆっくりとした移動の織りなすこのジャンルならではのリズムで展開してゆくのだ。

最後にインディアンと和解する主人公、ジョー・ブロッカー大尉の成長は、異人種への差別、増悪を少しづつ克服していった西部劇の歴史そのものの縮図のように見えた。

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