昼下がり、三つの用事を兼ねて、外出した。
小雨の降る、あいにくのお天気であった。
※ まずはJAに立ち寄った。
昨年の暮れに、JAから、<通帳切り替えの案内>が届いていた。全国統一電算システムの更改に伴い、現在の通帳が使えなくなるので、作り替えるよう記してあった。
わずかの普通預金があるだけの通帳だが、必要なときに払い出しが可能なように手続きをした。
JAの入り口に、<金のなる木>が、淡いピンクの花を見事につけていた。(写真)
本当にお金がなってくれたら嬉しいのだが…と、望みのかなわないことを考える。
長年働いてきたお蔭で、その日の暮らしに困らない程度のお金は何とかなる。しかし、老いの身にとって、ここは決して住みよいところではない。もっと便利な場所へ引っ越せたらと思うが、それだけのお金はない。
それが、<お金がなってくれたら…>の思いとなったのだ。しかし、不況続きで、今日の日の糧にも困る人があることを思い、慎ましやかに生きてゆこうと、すぐさま考え直すのだった。
※ 郵便局にも立ち寄った。
暮れに注文していた<紀州 南高梅>が昨夕届いたので、その代金を払い込むために。
私は酸味が苦手なので、「スイート蜂蜜」の宣伝文句に惹かれて注文したのだった。早速食してみると、酸味が蜂蜜で緩和された、超大粒のおいしい梅であった。
これが最後だろうなと思いながら、遅れて届いた賀状2通の返信をしたため、投函した。
帰宅してみると、家の郵便受けに数枚の賀状が入っていた。
気にしていた友達の賀状がやっと届いた。
やはりそうだったのか、と文面を読んだ。
<暮れから腹部疾患で入院しております
私も73歳ですから オーバーホールの必要な年齢です
お元気で
長生きすることはよいことだと思います>
と、記してあった。
私と年齢の近い人から賀状が届かないと、やはり何事かあるのではと案じてしまう。
それにしても、弱々しい字だなあ、と賀状を眺めた。
人のことは言えない。私の字も、筆圧のない半病人のような字なのだから。
しかし、私のは昔からだが、以前はそうでなかった人の筆跡が弱ると、やはり気になる。
年齢や体調は字に現れるものだと、つくづく思う。
賀状から賀状までの間に、異常のあったことを伝えるものが、今年は多かった。
それだけ、私の周囲の人たちの多くが、人生の坂道を下りつつあるということなのであろう。
※ 閉店の噂されているスーパーにも立ち寄った。
品数は少ないけれど、新年の品物も並んでいて、ほっとした。
果物など買って帰る。
※ 朝、植樹を頼んでおいたO造園から電話があった。
Oさんの考えでは、百日紅がいいのでは…、紫色を帯びた新種もあるので、とのことだった。
木選びの話がまとまらぬうちに、
<いずれにしても17日が土用の入りなので、それより前に鍬入れをして置いてください、移植鏝で土を掘り返すだけでいいから…>
と、言われた。
私には、何のために土を掘り返すのか、その意味が解せず、Oさんに尋ねたが、理解のできる回答は得られなかった。
Oさんは今日まで休みとのこと、急遽、来宅してくださることになった。
鍬入れの作業をしたり、カタログを見て植樹の木を選んだりしましょう、と。
Oさんは、隣県から車を走らせて来てくださった。
焼却炉を除去した更地に大きなスコップを差し込み、一旦土を掘り起こし、また地均しをされた。
Oさんが到着される前に、ついでに前庭の、近年花を咲かせたことのないウツギも掘り捨て、短い季節でも、花を咲かせてくれる木を植えてもらおうと考えた。
そこで、その地にも、スコップを入れてもらった。
洋間で、一緒にコーヒーを飲みながら、土用に先立って、土を掘り起こす意味を尋ねた。
土用には、土の神様がお休みになるので、土用の間(年に四回)は、土掘りを避けるという、古くからの慣わしがあるのだと教えてくださった。
土用中に土掘り作業をすれば、大地の神様の怒りに触れるという考え方があったらしい。そこで、土用には土を掘らないという習慣が培われてきたようだ。しかし、そうもゆかない場合もあるので、その際は、土用までに鍬入れをしておけば、災いを被らなくてすむという考え方が、新たに編み出されたのだろう。
面白いと思った。
古くさいとか、道理に合わないとか、色々な考え方があるだろう。が、時には、八百万の神々を崇める気持ちをもって生きるのもいいかもしれない。
風習に不合理性を唱えてギクシャクすることもない…。
私は、ただ突っ立ってOさんの作業を見ていたのだが、職人としての彼は、きっとここに植える木を健やかに育ててください、と心の中で祈って下さったのだろう。
分厚いカタログを見ているうちに、記念樹を何にすべきか迷ってしまった。
最終的には、「アメリカザイフリボク」(通称 ジューンベリー)に決めた。
花がよく、実が楽しめ、紅葉も美しいという三拍子そろった木を選んだのだ。
そして、ウツギのあとには「ハナカイドウ」を植えてもらうことににした。