軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

OEV豆知識(22) 課題・問題その2 コリオリ

2010-01-12 21:54:57 | 軌道エレベーター豆知識
 戦場で砲弾を北に撃つと右に曲がり、南へ撃つと逆の方向に曲がる。。。「コリオリ」の説明でよく用いられる枕話です。本年最初の豆知識は、軌道エレベーターの課題・問題その2。コリオリについてです。
 今回から、記事の最後に要点を箇条書きして結びたいと思います。先に大意を知りたい方は、文末をご覧ください。

 このコリオリ、軌道エレベーター(OEV)との関連において、問題視する人とそうでない人に意見が分かれまして、これまでの課題以上に、実現しなければわからない要素が多すぎるのも事実でしょう。ですが私はさほど問題視していない派でして、今回はその根拠を説明したいと思います。

1. コリオリとは
 冒頭のような現象がどうして起きるのか? これまでに何度か触れてきましたが、これは地球が自転しており、地点によって運動エネルギーと速度が異なるために生じます。

 あなたの恋人が東京(北緯35度、東経139度)に、あなたが東京と同じ経度の赤道上(海の上だけど)に、それぞれ立っているとします。赤道上のあなたは、直径約1万3000kmの回転する円盤の縁に立っているのと同じです。およそ24時間で1回転するので、秒速約0.5kmで動いています。
 地球上は球面ですので、東京ではこの円盤の直径が小さいわけですが、24時間で1回転なのは同じですから、恋人の運動速度は秒速約0.3km。
 仮に、(飛行機が真っすぐ進むための空気抵抗を除く)風や気圧など大気の影響がまったくないとしたら、あなたが恋人に会いに行こうとして、飛行機に乗って真北へ直進しても東京に着かず、彼または彼女には会えません。あなたは恋人より秒速約0.2km速く東へ向かって動いているので、北上するほどコースが東にそれてしまうのです。お気の毒ですが、あなたがたは破局します。

 10月7日の雑記でも触れましたが、台風が渦を巻くのもこのためです。南半球では左右(東西のとらえ方は同じですが)が逆になります。冒頭の例は北半球のケースです。難しくいうと、回転する系の中にある物体に垂直方向のベクトルが加わる時、その回転の影響によって受ける横方向の慣性(力)。これがコリオリです。

2. 軌道エレベーターとの関係
 このコリオリの力が、OEVにも働きます。上述の球面上の移動の関係が、地表からの上下方向にも働くわけです。昇降機の上下運動が、OEVの位置の維持に影響しうるということです。

 たとえば、全長5万mの軌道エレベーターが赤道上に建造されたとします。言うまでもなく、上から下までおよそ24時間で1周します。地上基部は上記のあなたと同じ、秒速0.5kmで東へ動いています。高度1万kmでは秒速約1.2km、静止軌道部では約3.1km。末端は秒速約4.1kmで動いています。
 地上から昇降機が上昇を始めると、この昇降機には、東へ回転するOEV本体(ピラー)によって、その方向へ引っ張られる力が加わります。平均すると高度1kmあたりの上昇で秒速約0.07m。静止軌道に到達する時点で、秒速2.6kmの加速が行わなければけません。
 しかし慣性の法則がある。昇降機がなんの反動もなく本体に引っ張られればいいんですが、質量を持っているので、その場に留まろうとするわけです。結果として、OEV本体を西へ引っ張る力として働くのです。

 モデルによって違いはあれ、OEVの基本原理は静止軌道上に重心を持つ、超巨大な人工衛星です。昇降機の運動によって、その重心の相対的位置が狂わされてかも知れないというわけです。これをもって、軌道エレベーターを否定する人もいます。
 また余談ですが、このコリオリゆえに、昇降機がある程度の高度から落下する場合や、OEVが上部の方で切断されて倒壊する時は、東寄りに落下や倒壊すると考えられています。

3. 対処
 説明が長くなりすみません。この問題にどう対処すべきかというと、少なくとも乗り心地に関しては、私には、そんなに心配することか? としか思えないのです。先に断っておくと、細かい振動や昇降機の乗り心地とは別の問題です。一瞬で宇宙まで上昇でもしない限り、体感は無視できるほど小さく、乗り心地にはまず影響しません。ですので昇降機側のことは考慮する必要はないでしょう。
 問題は、ピラーを含む軌道エレベーターのシステム全体に特定の運動エネルギーを与えてしまい、姿勢を保つ上で一つの障害となる点です。一応、既存の理論では、以下のようにこれを解消する見方も示されています。

(1) 昇りと下りで大部分を相殺できる
 昇った昇降機は必ず降りてくるはずで、その時に、今度はOEV本体を東に引っ張る力を加えます。もちろん、宇宙開発が進む時代においては、地上から持ち上げる質量の方が、下りのそれより大きいことは容易に想像できますが、その場合は、降下速度を上げてやることで、本体に与える運動量は大きくなるそうです。
 昇降機の数や使用頻度が増すほど、この影響は小さくなるはずです。

(2) 振り子運動で元に戻ろうとする
 コリオリを問題ととらえない主張の主な理由がこれ。近年のOEVのモデルでは、遠心力の方を強めに設定するものがあります。この場合、地上基部とカウンター質量は、OEV全体をその場に留めておくアンカーとしても利用されることになり、ガッシリとした造りになることになるはずです。
 この場合、OEVの重心は静止軌道上にはなく、カウンター質量が地球の中心(正確には重心)から遠ざかろうとする力が常に働くことになります。つまり、地上から外側に向かってピンと張る力が加わるので、コリオリによっていったんブレても、また元に戻ろうと補正する力が働くわけです。細かくたわんで質点が複数生じることはありえるでしょうが、長期的・巨視的にみればこのような力が常に働くことになります。

(3) 大規模化するほど無視できる
 コリオリを問題視されるのは、第一世代のOEVの場合、すなわちエレベーター本体がケーブル状の、極めて細いモデルしか念頭にないためではないかと思われます。しかし、私はケーブル段階での運用は極力抑えるべきだと考えています。昇降機を使用せずに、本体が太くなるまで建造できる方法は色々あるのですから、剛体に準じた構造に成長するまで待つべきではないか。
 雑駁に言えば、ガッシリとした構造にすれば、そう簡単にブレないということですね。

(4) それでも解決しないなら人為的に解消
 上記のような補正が十分でないなら、その時には人の手で力を加えるべきでしょう。重心を移動させて対処したり、OEVに屈曲を補正する機能を持たせたり、質点の運動量に応じて推進剤を噴射するとか。打つ手はいろいろあると思えます。

 以上、コリオリの影響は避けられませんが、ほかの衛星との衝突のような対外的要因ではなく、OEVが自分で自分に引き起こす問題なので、基本的には逆のことをやれば解消する=自分で解決できることであり、ほかの諸問題に比べれば、さほど深刻に考える必要があるとは思えないのです。
 この問題については、かなり昔から議論されながら、全体として未成熟な感じがします。またまた長くなりましたが、コリオリについては、豆知識では枕にとどめ、この程度にしておきます。
 OEVに加わる、もっと巨大な力があります。次回はコリオリよりはるかに重大な問題、「摂動」について触れたいと思います。
 なお今回は、軌道派エージェントのSS木君に貴重な助言を頂きました。深くお礼申し上げます。このお返しはいつもの通り、精神的に。

今回の要点
(1) コリオリとは、地球の自転方向と垂直(南北あるいは上下の方向)に移動する時、慣性によって横方向にひきずられてしまう=自転方向についていけなくなる現象や力のこと。
(2) コリオリによって、昇降機の上下運動が、軌道エレベーター本体を東西に動かそうとする力を加えることになる。
(3) 軌道エレベーターの構造によっては、コリオリを無視できるほどに相殺できるのではないか。

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嫉妬

2010-01-07 22:57:45 | その他の雑記
 当初、今回は軌道エレベーターの解説ネタをやるつもりだったのですが、虚心になれないことがあったので一筆。
 皆さん年賀状どのくらい受け取りましたか? 私、元旦に受け取ったのは数通。全部仕事がらみでした。情けな! まあ、半年ほど前に引っ越して、横着して転居通知を出さなかったからで、その後転送でそれなりに届いたんですが。それでも、とりたてて友達が多いわけでもないので、いただいたのはほどほどでした。それに比べ。。。
 ひこにゃんが4日までに4578通の年賀状を受け取ったというニュースが流れてました。

 ひこにゃん。国宝・彦根城に居を構える、兜をいただいた謎の直立ネコ。滋賀県彦根市のキャラクターとして誕生し、今や、押しも押されもせぬ全国的アイドルとなった、ゆるキャラ界の帝王。
 嫉ましい。。。こちとら年賀状が余ってるというのに。
 和歌山電鉄の駅長たまも執行役員(ちゃんと役員欄に名を連ねている)にまで出世したとか? こちとらヒラのサラリーマンだというのに。どいつもこいつも畜生の分際で!(ただしひよこ陛下には忠誠を誓っております)
 いいご身分だなひこにゃん、全員に返事出すそうじゃないか。仕方ない(?)から、私も余った年賀状出してやろうじゃないか。
 実は返事が欲しい。今から間に合うかな? ホントに出して、ホントに返事が来たら紹介します。寅年なのに、関係ない動物ばかりの雑記でした。

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年頭あいさつ:すべての軌道派へ

2010-01-01 21:14:25 | その他の雑記
全世界の軌道派の同志諸君、あけましておめでとうございます。
 お陰さまで、この「軌道エレベーター派」も新年を迎えることができました、ありがとうございます。
 しかし旧年中は、「宇宙」派の勢力が世間で台頭し、どいつもこいつも「宇宙エレベーター」と軟派な言葉をのたまう始末。我が軌道派は日蔭者に甘んじ、差別や偏見に耐えてきました。皆さん辛かったでしょうとも。今年こそ、あらゆる手段や謀略を用いて劣勢を覆し、我が軌道派が覇権を握る年にしようではありませんか。

 年頭のあいさつに代えて、これまでの記事の目次を掲載します。本年も、軌道エレベーター派をよろしくお願いいたします。

目次
軌道エレベーター派宣言
 あいさつに代えて、このホームページのスローガンのご披露

軌道エレベーター早わかり
 はじめて「軌道エレベーター」という言葉を知った方のための、簡単な基礎知識の説明

軌道エレベーター豆知識
 軌道エレベーターに関する情報や知識をテーマ別に紹介
(1) 軌道エレベーター事始
(2) 軌道エレベーターの大きさ
(3) どこに造るか?
(4) 図解その1 地上基部 (5) その2 本体 (6) その3 本体の素材 (7) その4 昇降機 (8) その5 OEVの昇降機はここがお得 (9) その6 低・中軌道部 (10) その7 静止軌道部 (11) その8 投射機 (12) その9 高軌道部 (13) その10 カウンター質量/末端のステーション
(14)「軌道」か「宇宙」か
(15) 低コストの理由 その1 (16) その2 (17) その3
(18) 環境への影響と安全性
(19) 課題・問題その1 他天体との衝突(上) (20)(中) (21)(下)


軌道エレベーターが登場するお話
 小説やアニメなど、軌道エレベーターに関係する物語のあらすじと、作中に登場する軌道エレベーターの特徴の解説
(1) 楽園の泉
(2) 機動戦士ガンダム00 1st & 2ndシーズン
(3) まっすぐ天へ
(4) 3001年 終局への旅ほか
(5) 妙なる技の乙女たち
(6) Z.O.E Dolores, i


専門書・論文レビュー
 軌道エレベーター関連書や論文の紹介
(1) 軌道エレベータ -宇宙へ架ける橋-
(2) Audacious & Outrageous: Space Elevators
(3) 宇宙旅行はエレベーターで
(4) 宇宙エレベータ ~科学者の夢みる未来~ほか
(5) 図説 50年後の日本


軌道エレベーター学会
 軌道エレベーターに関する管理人自作の考察や論文
ブートストラップとスカイフック -軌道エレベーターの基本形の分類-
はじめに/(1)ブートストラップ型
(2) スカイフック型 
(3) どちらにするか?

軌道エレベーターによる核廃棄物の処分
─高レベル放射性廃棄物の宇宙への投棄─

序文と目次 
I章 軌道エレベーターの可能性
II章 放射性廃棄物処分の現状
III章 軌道エレベーターによる放射性廃棄物の投棄
脚注・参考文献

Seamless ProductionとOrbital Shield
─軌道エレベーターのもう一つの建造方法とモデル─

(1)「はじめに」~「1. 一般的なモデルとブーツストラップ工法による建造方式

(2)「2. 本稿で提示するモデル」~「おわりに」

(目次その2へ)

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目次その2

2010-01-01 21:09:44 | その他の雑記
目次その2

その他の雑記
 テーマにこだわらない、日々の感想や雑学メモなど
5月 
5.1「クライマー実験に行ってきました」  5.2「うちのネコ」 5.7「しおりを集めてます」 5.13「秘密結社」 5.17「地球の中身と戦争」 5.20「パブリックコメント出しました」 5.21「宇宙人たちの昭和」 5.24「ワークショップ開催しました」 5.27「引っ越しします」 5.31「引っ越ししました」

6月
6.1「パブリックコメントが載りました」 6.7「『軌道エレベーター派』の行方」 6.12「ぐんま天文台でポケットブック配布開始しました」6.16「エレベーター熱」 6.23「都市伝説」 6.26「ガンダムを見てきた」

7月
7.5「祝!『軌道エレベーター』復刊」 7.7「やらずにはいられないこと」 7.13「君は『軌道エレベーター』を読んだか」 7.17「『エレベータ』か『エレベーター』か?」 7.21「パイオニア・アノマリー」  7.23「軌道エレベーターから日食は見えるか」  7.30「軌道エレベーターの人」

8月
8.5「うちのネコ・2匹目」 8.13「予報」 8.21「幽体離脱」 8.25「記憶転移」 

9月
9.9「アポロ計画と戦争」 9.17「君はWOWOW『クエスト~探求者たち~』を見たか」 9.22「ミロのヴィーナスの腕とジオングの足」 9.26「滝川クリステルさんJpSECのMCやりませんか」

10月
10.7「台風が来る」 10.14「おすすめの本『悪霊にさいなまれる世界』」 10.24「常磐線特急電車の怪」 10.30「宇宙エレベーター協会の功罪」

11月
11.6「月の穴」 11.12「ルクセンブルク」 11.15「アイデアコンテストお待ちしてます」 11.29「ワークショップ?」

12月
12.1「行ってきます」 12.7「ただいま」 12.8「軌道エレベーター派ワークショップ開催!」 12.12「くどいようですが。。。」 12.16「祭りの後」 12.18「宇宙エレベーター派の陰謀」 12.24「『機動戦士ガンダム00』ファンに告ぐ」 12.27「JSEA年会報のコミケ販売日程」 12.30「今年もあと2日」 12.31「よいお年を」

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