軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

軌道エレベーターが登場するお話(1) 楽園の泉

2009-04-30 18:59:47 | 軌道エレベーターが登場するお話

楽園の泉
アーサー・C・クラーク/山高昭訳(1979年 早川書房)

 軌道エレベーター(本作では「宇宙エレベーター」のため、以下この表記に従います)を取り上げた初の本格長編SFであり、その 概念の普及に比類ない貢献をしました。宇宙エレベーターに深くかかわるようになったのはこの作品がきっかけだったという人は世界中にいる ことでしょう。宇宙エレベーター支持者ならこれを読まずして何を読む、と言える必読の書です。

 あらすじ ジブラルタル海峡横断橋を実現させた地球建設公社の技術部長モーガンは、それまでの実績を背景に、かねてからの理想だった宇宙エレベーターの建造に挑む。多くの困難に直面しながらこれを乗り越え、彼は老いた自分に残された時間を宇宙エレベーターの実現に捧げる。

 この作品でモーガンは、赤道上の架空の島、タプロバニー島(クラーク氏の自宅のあったスリランカがモデル)の山頂に宇宙エレベーターを建造しようと挑みます。
静止衛星からケーブルを繰り出して地上でキャッチし、これを頼りに物資を輸送して完成させていく技術的プロセスや建造の意義、将来はリニアエレベーターを 導入し、電流回生によって上りエレベーターの電力の大半を下りが賄うアイデア(静止軌道の外側ではこの関係は逆になる)など、宇宙エレベーターに期待され る機能や役割を、物語を楽しみながら習得でき、わかりやすい入門書としても役に立ちます。

 構想の紹介もさることながら、ドラマも秀逸で、タプロバニー島に空中庭園を築いた古代の王の物語を交錯させながら、時に叙情的に、時にリアルに物 語が進みます。エレベーターの建設予定地が宗教団体の聖地になっていて、立ち退き訴訟で敗訴し挫折するモーガンを、意外な展開が待ち受けているエピソード は感動的で、「おお!」と膝を打ちます。クラーク氏のほかの著作とリンクする描写もあるので、併せて読むと一層楽しめるかも知れません。
老いてなお衰えぬ気骨を発揮し、宇宙エレベーター建設に残された人生を賭けるモーガンの情熱には心打たれます。ご存じの通り、クラーク氏は昨年3月に亡くなられました。モーガンの姿を、晩年まで宇宙エレベーターを扱った新作小説や専門書の執筆に関わった、クラーク氏自身の生き様 に重ね合わせる読者も多いことでしょう。

 「楽園の泉」は、それまで学者だけの知識だった宇宙エレベーターを初めて一般に広め、大きな転機をもたらした歴史的作品であり、多くの読者に宇宙 エレベーターの基礎知識を植え付けた開眼の書となったはずです。構想普及の草分けとなった氏の多大な功績に敬服します。宇宙エレベーターに興味のある人だ けでなく、知ることを楽しむ心を持つすべての人にお勧めできる1冊です。

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専門書・論文レビュー(1) 軌道エレベータ -宇宙へ架ける橋-

2009-04-29 19:51:41 | 研究レビュー
軌道エレベータ -宇宙へ架ける橋-
石原藤夫・金子隆一共著
(1997年 裳華房=画像左、新書版)
(2009年 早川書房から復刊=同右、文庫版。タイトルは「軌道エレベータ""」に変更。下記の本文は復刊前のママ)


 サイエンスライターの金子隆一氏と、作家の石原藤夫氏の共著による軌道エレベーター(本書では軌道エレベータ。OEVと略す)専門書。
 間違いなく日本初、そしておそらくは世界初であろう単独のOEV専門書であり、本来なら筆頭に挙げるべき、OEV史上決して外せない1冊である。

 現在OEV専門書の代表格はブラッドリー・C・エドワーズ氏の「宇宙旅行はエレベーターで」(ランダムハウス講談社)といえるが、同書がOEV実現構想をあらゆる側面から考察した「OEV総合計画書」とでもいうべき趣を呈しているのに対し、こちらはOEVの原理と構造を丁寧に説明した「OEV教科書」といった印象を受ける。自然科学系の教科書を数多く出している裳華房らしいとも言えるかも知れない。
 あとがきにもある通り、「OEVとは何か?」を知る上での必要十分条件をまさにぴったり満たしており、この点においてエドワーズ氏の著書を凌ぐ親詳さを有している。

 驚くのはそのわかりやすさ。それなりに数式が盛り込まれているのだが、地球重力圏からの脱出速度やOEVの強度など、読めば自分で計算して検証が不可能ではない程度のレベル。厚さも手ごろで、新しい知識に触れる喜びを感じ、わくわくしながら読んだものだ。

 本書で説明されるOEVの基本原理は、当サイトの「軌道エレベーター早わかり」で説明している通りだが、OEVの建造プランとして小惑星を捕獲し、アンカーウェイト兼炭素材料の供給源に使用することや、昇降機にリニアを使用し、位置エネルギーを電力として回収する(つまり上りエレベーターのコストの大半を下りが供給してくれる、またはその逆)などのアイデアが大きな特徴。
 金子氏はこれに先立つ「アインシュタインTV」書籍版(1991年 双葉社)、その後の「新世紀未来科学」(2001年 八幡書店)などでもこの構想に触れている。この点もエドワーズ氏と大きく異なる点だろう。小惑星については、その後もっと簡便な建造プランが多数提案されたのでもはや見られなくなった感があるが、その他の構想は10年以上経った今もOEV理論の重要な基礎を成している。

 また、マスコン(重力ポテンシャルの異常箇所)にOEVの重心が徐々に引きずられてしまうという問題点(現存する静止衛星もこの問題を抱えている)を、複数のOEVを静止軌道上のリングで連結して解決するというアイデアを紹介しており、実現すれば実に理想的な構造であろう。個人的には、このオービタルリングの構想は、OEV特有の弱点である、エレベーターの上下運動の反動によるコリオリの作用の解消にも利用できると考えている。
 さらに遠心投射機としてのエレベーターの価値も強調しているほか、後半では月や火星のOEV構想、非同期型軌道型のOEVや極超音速スカイフックなどのアイデアも紹介している。

 アーサー・C・クラーク氏の「楽園の泉」(早川書房)でOEVを知り、この書で本格的知識を身に付けた人は多いだろう。暫定的な分類だが、この本の読者はいわばOEV支持者の「第2世代」なのではないかと感じる。K.ツィオルコフスキーやY.アルツターノフ(いずれもOEVの発想を発表した研究者)など、ゼロからOEVを発案した人々は第1世代、私のような「楽園の泉」の読者以降が第2、そして今、「宇宙旅行はエレベーターで」や、日本科学未来館制作のアニメ「宇宙エレベータ~科学者の夢みる未来~」などで増えている人たちが第3世代である。

 非常に残念なことだが、本書は現在絶版状態で現在手に入らない。当時はOEVの認知度はあまりにも低く、時代がついてくるのに時間がかかり過ぎ、人々の無知の中に埋もれてしまった名著だった。だからといって古典扱いするのはふさわしくない。「宇宙旅行はエレベーターで」を翻訳した関根光宏氏も、本書で調べてOEVの価値への認識を深め、出版社に「宇宙旅行─」の日本での刊行を勧めたという。この本が欲しくて復刊を望むOEVファンは多いことだろう。 

 本書を、もはや最新情報に追いつかなくなった、時代遅れな書と位置づける意見も聞くが、決してそんなことはない。それらは基礎と応用の差でしなかく、本書で述べられているOEVの基礎が変化したり無効になるようなものでは決してない。本書は今なお、OEVの知識への入り口として、その基礎知識や原理を学ぶのに、もってこいの良書であり続けていると考える。

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用語集

2009-04-26 00:00:00 | その他の雑記
 本サイト中に用いられている用語集です。語句が使用されている各ページからリンクされています。

テーパー モノの勾配や傾きのことを指すが、軌道エレベーター関連では、主に地上と宇宙を結ぶケーブルの太さの変化を指す。ケーブルの自重やその他の負荷によって、ケーブルを上下方向に引っ張るように働く力に耐えられるよう、静止軌道に近づくに従ってケーブルを太くしていき、強度を持たせることが軌道エレベーターの構造の一つとして構想されている。

静止衛星 高度約3万5800kmの「静止軌道」を周回する衛星。周期が地球の自転速度と一致しており、地上に対して天の一点に静止しているように位置するためこう呼ばれる。気象衛星やカーナビに使われるGPS(汎地球測位システム)用の衛星などに多い。

デブリ/スペースデブリ 使い捨てロケットや寿命の尽きた人工衛星、その破片など、宇宙を漂うゴミの総称。一般に秒速数kmで移動しており、宇宙船や衛星に衝突し、事故や故障を引き起こすものとして問題となっている。人工衛星が密集する低軌道域に特に多い。


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はじめに

2009-04-11 01:01:01 | はじめに

はじめに


「軌道エレベーター派」を訪問してくださり、ありがとうございます。軌道エレベーター派は、軌道エレベーターの理解・普及に務めるとともに、失われつつある「”軌道”エレベーター」の名を守っていくことを目指したサイトです。軌道エレベーターに関する情報発信を中心に、宇宙や自然科学に関する話題のほか、雑記としてとりとめのない日常の話題も扱っています。
 なお軌道エレベーターの基礎知識について、簡潔にざっくり知りたい方は「軌道エレベーター早わかり」を、細かく知りたい方は「軌道エレベーターの基礎知識」をご覧ください。
 まずは、当サイトの存在意義たる「宣言」を。

軌道エレベーター派宣言


 軌道エレベーターは、地上と宇宙をエレベーターでつなぐ、安全、低コストの新しい輸送システムです。その基本原理は極めてシンプルで、新たな発明や発見を要するものではなく、初歩の科学知識を持つ方なら誰でも理解できるものです。
 かつてはSFの中だけの夢物語でしたが、昨今、多方面での科学技術の発達によって実現可能性が高まり、注目を浴びつつあります。実現すれば私たちのような普通の市民が宇宙を訪れる機会を得られるかも知れません。宇宙は、訓練を受けた宇宙飛行士や裕福な資産家といった、限られた人々だけのものではなくなるでしょう。

 当サイトの管理人は、この軌道エレベーターを初めて知った時、その発想に感銘を受け、以来「軌道エレベーター」の動向を追い続けてきました。
 しかるに昨今、「宇宙エレベーター」という何ともオタク臭くてアカ抜けない名が世を席巻し、「軌道」の名を知らぬ者が増え続けている、嘆かわしい有様。「軌道エレベーター」は絶滅危惧種となりつつあります。
 「宇宙エレベーター」を否定するわけではありません。管理人は、「宇宙エレベーター協会」(JSEA)の設立に携わり理事も務めるなどしまして、ご覧いただく方々の中にも「宇宙エレベーター」という名で知った方も少なくないでしょう。

 しかし、大勢に媚びて「軌道エレベーター」という、この知的で甘美な響きを持つ名称を捨てることができましょうか? コミュニケーション上やむなく「宇宙エレベーター」という言葉を使う時の、あの屈辱と恥ずかしさ、軌道エレベーターを支持する方なら一度は味わったことがあるでしょう。
 とにかく「軌道エレベーター」の方がカッコいい、美しい!

 そんなわけでこのサイトは、(たぶん)今も一部のファンを惹きつけてやまない、声に出して読みたい名語「軌道エレベーター」の保護と復権に取り組むとともに、その原理や知識、価値の普及を目指す場です。

 軌道エレベーター派は、人種や国籍、民族、宗教、思想、性別や年齢の如何を問わず、軌道エレベーターを愛し、守ろうとする志を持つすべての人の参加を歓迎します。いまだに私1人のままですが。。。
 軌道エレベーター派は、以下の宣言の内容を守らねばなりません。

軌道エレベーター派宣言


 一. 軌道エレベーター派(以下、軌道派と略す)は、「軌道エレベーター」の名を世に定着させることを目的に活動する。手段は問わない。
 一. 軌道派は、公私の場で極力「軌道エレベーター」の名称を使用する。
 一. みだりに「宇宙エレベーター」と発言した者は厳罰に処す。それが認められるのは、あえて軌道エレベーターと区別して述べる時など、やむをえない場合に限る。
 一. 自らが軌道派であることを公に表明することは認められるが、他人が軌道派であると知っていても明かしてはならない。
 一. 軌道派同士がその確認をする際は、握手の時に中指で相手の掌をくすぐることで伝える。
 一. 毎年7月31日を「軌道エレベーターの日」と定める。これは、1960年7月31日にユーリ・アルツターノフが静止軌道エレベーターの基本原理を公にしたことにちなみ、その功績を顕彰するものである。
 一.軌道派に対し「宇宙エレベーター」の名称を用いる勢力を「宇宙エレベーター党」と呼称する。


 。。。以上の文言の大部分は冗談です(「軌道エレベーターの日」など一部は本気)。当サイトは、管理人がこよなく愛する「軌道エレベーター」の名で、この軌道エレベーター、あるいは宇宙エレベーターの話題を提供し、多くの人に興味を持っていただくためのサイトです。
 このほかに宇宙や科学を中心に、日々の話題なども紹介していきます。
 なお、初期のコンテンツは、当サイト管理人がJSEAの過去のホームページに書いていたものと重複する部分があります。JSEAホームページの改編に伴い、管理者の執筆した分をこちらに移転し、書き足して継続しています。

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軌道エレベーターの基礎知識

2009-04-10 11:29:25 | はじめに

軌道エレベーターの基礎知識


 軌道エレベーターの基本知識については以下をご覧ください。
 (宇宙エレベーター協会から発行していた「軌道エレベーターポケットブック」を改訂したものです)

 1.軌道エレベーターを知っていますか?
 2.軌道エレベーターの構造
 3.基本原理
 4.低コストの理由
 5.軌道エレベーターの歴史
 6.日本での動き
 7.建造プランの一例
 8.克服すべき課題
 9.軌道エレベーターの意義

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