軌道エレベーター派

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軌道エレベーターが登場するお話(2) 機動戦士ガンダム00

2009-05-10 19:39:03 | 軌道エレベーターが登場するお話
機動戦士ガンダム00(ダブルオー)
1st & 2ndシーズン
サンライズ(2007、08年)


 軌道エレベーターが稼働する様子が描かれた初のガンダム。世界から戦争をなくそうと闘う主人公たちと、彼らによって変わっていく世界を描いた物語です。半年ずつ2シーズンに分けて放映され、来年の映画化が決定しています。
 宇宙エレベーター協会(JSEA)のホームページでレビューを書いていましたが、コーナーが終わったので、こちらで両シーズンをまとめたいと思います。一部過去と重複する部分はご了承ください。

1stシーズンのあらすじ 西暦2307年、世界は3つの国家群に集約されたが、各地で紛争やテロが絶えず、人類社会は一つにまとまれないまま不安定な情勢を抱えていた。そこへ武力による戦争の根絶を掲げる謎の私設武装組織「ソレスタルビーイング」が現れる。彼らは、現有テクノロジーを凌駕する機動兵器ガンダムを駆り、あらゆる戦争行為に武力介入していく。

1.本作に登場する軌道エレベーター
 軌道エレベーターがこの作品で持つ最も重要な役割は、宇宙空間での太陽光発電による地上への電力供給です。
 米、中ロ印、欧州が主導する3つの国家群は、それぞれ1基ずつ軌道エレベーターを建造し、太陽光発電システムを備えたオービタルリングという輪っかを軌道上に張り巡らせ、3基を連結しています。
 リングは高・低軌道の二重になっていて、低軌道リングは内部に磁性流体を循環させて張力を生み出し、構造を維持しています。ちなみに粒子加速器も兼ねているとか。

 太陽光発電やリニアトレイン、オービタルリングなど、本作に登場する軌道エレベーター(とリングシステム)は、現実に提唱された多様な研究の集大成のような仕上がりを見せ、緻密な科学考証がなされているのがうかがえます。やはり軌道エレベーターはこうでなくちゃ、と思わせる完成度です。
 宇宙から見た地球は、地上から3方向へ伸びるエレベーター(肉眼で見えるんでしょうか?)とオービタルリングから成る構造が作品世界を象徴していて、独特のデザインがとても美しいです。

2.太陽光紛争と軌道エレベーターのある社会(1stシーズン)
 人類は無尽蔵でクリーンな太陽エネルギーを利用するため軌道エレベーターの建造に乗り出し、その過程で国際社会も三極化しましたが、石油に依存する中東諸国などはこれに反発し、物語が始まる前の時代に「太陽光(発電)紛争」と呼ばれる大規模紛争があったそうです。
 舞台となる2307年になっても、大国主導による太陽光発電の恩恵に与れない国々があり、各国家群の勢力伸長競争の要因となっているほか、世界に格差や対立、政情不安を生み出しているのです。
 軌道エレベーターは人類社会のエネルギーの要であると同時に対立の原因でもあり、将来現実に予見されうる一つのファクターを描いているといえるでしょう。拮抗する国家グループが、仲良く(?)1基ずつ建造するというのも、案外ありえるかも知れません。

 私が非常に好きなシーンが、1stシーズン12話で、中東の小さな町へ潜入した主人公・刹那に、貧しそうな水売りの少年が尋ねる場面です。
 「この世界にはすっごく高い塔があって、宇宙まで行けるって本当なの?」
 軌道エレベーターがあっても、依然として混沌としている本作の世界観を良くあらわしていると感じました。現在でも、内陸の途上国などには、一生海を見ないままとか、さらにその向こうにどんな世界が広がっているのかを知らないままの人も多いでしょう。このセリフがそんな人々が享受できる「豊かさ」の差を思い起こさせます。

3.軌道エレベーターの兵器転用と損壊(2ndシーズン)
 2ndシーズンでは、オービタルリングに設置されたレーザー砲「メメントモリ」が登場、さらにこのメメントモリによってアフリカタワー「ラ・トゥール」が砲撃され、大惨事が発生します。
 砲撃は低軌道ステーションのやや下に命中、バラスト衛星や外装が自動的にパージされ、乗客を満載したリニアトレインが宙に放り出されるなどして約6万人が死亡したとのことです。

 砲撃により強度が急減したため、全体構造を支えようと、このような緊急システムが作動したのは疑いありません。しかし、JSEAホームページでも書いたのですが、リニアトレインが走行中にパージが進んだり、地上約10kmまでえんえんとパージされて外装部が市街地に落下したりと、その設定には疑問符も少々。。。
 撃ったメメントモリの方も、低軌道ステーションを狙ったのが外れて、その下に当たったように見えるのですが、軌道エレベーターとオービタルリングの結節点であるステーションを狙うなど自殺行為ではないでしょうか。ぶっち切れたらどうするつもりだったのでしょう?

 これらは、一大カタストロフを見せるための演出と割り切るしかないでしょう。これも既述のことですが、宇宙世紀のガンダムシリーズにおけるコロニー落としに相当する「見せ場」だったのでしょう。
 このエピソードは物語全体を左右するものではないですが、軌道エレベーターの存在を、破壊することでアピールしてくれて良かったと思います。

4.ストーリーについて
 何者かが計画へ介入し、主人公たちは追い詰められていく一方、ソレスタルビーイングという共通の敵のお陰で世界は結束していきます。地球連邦誕生への生け贄であるかのように、彼等は滅びの道をたどり、1stシーズンは幕を閉じました。
 自分たちの罪を自覚しながら、苦悩しつつもなお戦争根絶の意思を貫く彼らのドラマには、ひたむきさや真摯さを感じ、毎回、次週が楽しみなドラマを見せてくれました。

 続く2ndシーズンでは、趣が異なってきます。ソレスタルビーイングの崩壊から4年。地球連邦が設立した独立治安維持部隊「アロウズ」は、地球圏統合の名の下、人々への苛烈な弾圧を行い、復活したソレスタルビーイングがこれに挑みます。
 物語は、やがてアロウズの背後にいるイノベイターとの対峙へと移り、主人公たちは彼らと決着をつけて再び元の任務(?)に戻る。。。この展開は、ファンの方々はご存じでしょう。
 この「途中」で、主役機00ガンダムと支援機が発動させる「トランザムライザー」による、人と人との新たなコミュニケーションや刹那の進化、地球外知的生命体との対話というソレスタルビーイングの最終目標などが披露されるのですが、結末には特に関係なく終了しました。
 「俺はエイリアンに会いたくて闘ってきたんじゃないぞ」と怒る人がいてもよさそうなものですが。。。

5.両シーズンを振り返って
 「何だったのだろう?」見終わってポカンとした方は私だけではないでしょう。映画に持ち越しだから、と言われればそれまでですが、この結末は、トランザムライザーや異星人の話を持ちださなくても結べるラストでした。主人公たちはいつからか妙に割り切りが良くなり、口で言っていた割には罪を償うこともありませんでした(ソレスタルビーイングは存在し続けなければいけないというなら、次世代マイスターを育てて後を委ね、自分たちは出頭すればよいではないか)。
 この未消化感は一言で言うと、2ndシーズンの前と後で、世界も主人公も変化(前進)や広がりを見せていなせいだと感じています。振り出しに戻ってめでたしめでたし、というのがふさわしいドラマもありますが、「00」は振り出しで終わらせて良い作品では、決してありませんでした。
 ソレスタルビーイングの創設者イオリア・シュヘンベルグの意図が「紛争の火種を抱えたまま、宇宙へ進出する人類への警告」(1stシーズン11話)と推し量られていたように、本作には、武力介入の果てに何かがあるのではないかという期待を抱かせるものがあったからです。

 戦争根絶という目的が完遂されるなどと私は考えていないし、仮に達成されてしまったら、それはそれで物語を陳腐化してしまう気がします。ですが陳腐にならない描き方はいくらでもあるでしょう。
 「00」は宇宙進出の過渡期を描いていました。ですから、(ソレスタルビーイングの存在によって)戦争根絶を目指す先に、人類が宇宙という新しい世界へ本気で目を向けて歩き出し、新たな時代を迎える姿を描く。。。勝手な願望ですが、私が見たかったのはそんなラストでした。

 「00」は、ガンダムという一種ブランド化、あるいは神格化して硬直してしまった価値観に挑戦した意欲作でした。戦争根絶というテーマや軌道エレベーターはもちろん、GNドライヴや各国の情勢、主人公たちの生い立ちなど、設定や世界観は新鮮でよく練られていただけに、惜しまずにはいられません。

 偉そうなことばかり述べましたが、今も「00」のファンであることは変わりません。あとは映画に期待をかけるばかりです。2010年、このモヤモヤを一掃してくれるような、「すいません私が間違ってましたー!」と言わせてくれるような、主人公たちの活躍と世界の変革を見せてくれることを願っています。

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