軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

「べらぼう」は写楽をどう描くか

2025-01-26 11:43:21 | その他の雑記
 この軌道エレベーター派、浮世絵も好きという記事を、当サイトにて何度か書いたことがありまして(ていうか浮世絵の記事が閲覧トップという状況)、軌道エレベーターに関係ない話題で恐縮ですがこの話題で一筆。

 大河ドラマ「べらぼう 蔦重栄華乃夢噺」が今月からスタートしましたね、広重や歌麿などの絵師をはじめ、様々な分野の才人を世に送り出し、レンタルショップ「TSUTAYA」の元にもなった蔦屋重三郎のお話です。
 浮世絵好きなんで初回から観ていて、けっこう面白くなってきたじゃん、と思って今後を楽しみにしていますが、今後、「どういう風に描くのかなあ?」と少し気になっているのが謎の浮世絵師として有名な、東洲斎写楽です。

 美人画や役者絵など人物の浮世絵にはあまり興味がないので、個人的には、写楽の作品自体はファンでもないのですが、それでも10年くらい前に美術展で実物を見た時は、雲母刷りなどが美しく、「やっぱり本物は違うなあ」と感動してナナメ下とか色んな角度からじっくり観察したことを覚えています。もっともこれは刷り師の技量のたまものでしょうが。

 この写楽、謎の浮世絵師と書きましたが、一応素性は定説があるんですよね。江戸時代の著述家、斎藤月岑は写楽を「阿波徳島藩主お抱えの能役者、斎藤十郎兵衛」と書き残しています。
 浮世絵の流派の分類を行った式亭三馬によると「写楽は江戸八丁堀に住す」とあり、斎藤月岑も写楽の所在地について同じ記述をしています。
 近年、斎藤十郎兵衛の実在を裏付ける資料も発見されるなどして、不明な点は多いものの、学術的には現時点でのファイナルアンサーとされているようです。

 広重だとか北斎だとか、絵師のグループだとか異説もたくさんあり、弘兼憲史氏のコミック「ハロー張りネズミ」では写楽が外国人だったなんてエピソードもありました。写楽=シャーロックですと。「三つ目がとおる」の逆やね。

 しかし歴史考証は証拠に基づいてなされるべきものなので、これ以上の証拠が出てこない限り、写楽=斎藤十郎兵衛で、現時点の一応の決着はついているとのこと。


 「べらぼう」の話に戻りますが、そんなわけで写楽が誰か、ということをドラマの中で暴くことは期待してません。新説なんか出してきたらむしろ興ざめで、それより「なんで突然出てきて短期間で消えたのか?」という謎にどういうストーリーを付けるのか、が気になりますね。

 写楽の活動期間は寛政年間の1974年5月~75年2月で、突然現れて140点余りの作品を残し、これまた突然消えました。
 ドラマのネタバレになるかもしれませんが史実だからいいよね。現在寺田心君が演じている松平定信が後に断行する寛政の改革で、蔦屋は発禁処分と財産の半分没収という懲罰を科されます。さらにこの時、看板絵師だった歌麿がヘッドハンティングされてほかの版元に移籍してしましました。
 蔦屋にとっては超涙目状態だったのですが、この時期に現れたのが写楽でした。この辺をどう描くのかに興味が引かれます。蔦屋が見いだしたのか、写楽が売り込んだのか、お金ないのに雲母刷りなんて豪華ブロマイド出版して大丈夫なのか? なんてあたりですね。
 ちなみに、エミー賞受賞で今をときめく真田広之さん主演の映画「写楽」(1995年)では、十郎兵衛は足をけがして舞台に立てなくなった(血がダラダラ流れてすごく痛そうだった)のがきっかけで、写楽という絵師になったと描いてました。

 で、なんであっという間に消えたのか。消えた理由に関しては、大田南畝が「浮世絵類考」の中で「歌舞伎役者の似顔を写せしが あまりに真を画かんとて あらぬさまに書なせしかば 長く世に行われず 一両年にして止む」と書いていて、「アイドルである歌舞伎役者をリアルに描こうとしたら、美醜関係なく誇張して描きすぎちゃって受けなかった」らしいです。ようは空気読めよと。
 漫画家と同じで、そりゃ受けなきゃ消えますわな。当たり前の話なのかもしれませんが、最後どういう気持ちや表情で写楽がフェイドアウトしていくのかが気になるところです。

 そもそも写楽1人にそこまで時間を割けるかは疑問ですが、1、2話は惰性で観ていたものの、3話で新しい吉原ウォーカーを作るあたりから、なんか面白くなってきた気がします。
 写楽以外の絵師らを誰が演じるのかも興味深いですが、浮世絵界の一大ミステリーをどう描くか、ドラマを楽しみながら注目したいと思います。

 1/25夜 追記:第4話を観たら、主人公の弟分みたいな唐丸という男の子が、天才的な模写の腕を発揮して、蔦屋重三郎が「俺が当代一の絵師にしてやる」と言っていたのですが、番組公式サイトの人物相関図の説明は「謎の少年」。この子が後の写楽なのかも? 次回、主人公とお別れするっぽいですが、旅立つ先が阿波国だったりすれば決定的じゃないでしょうか。

2025 年頭あいさつ

2025-01-01 10:51:55 | その他の雑記
 全人類80億人の軌道エレベーター派(当社推計)の皆様、2025年の年明け、いかがお過ごしでしょうか。

 個人的に多事多難・青息吐息で、ブログ更新がさっぱりできなかった年も改まり、また一から始めるか、という気持ちでおります。どうぞよろしくお願いいたします。

 では昨今の軌道エレベーター界隈はどうかというと、2050年実現のスローガンを掲げる大林組が、カーボンナノチューブの軌道上耐性試験をしたり、静岡大がSTARS衛星の実験を続けていたり、また研究もちょこちょこ発表さたりとコンスタントに成果はあり、隆盛とは言わないまでも、低空ながらも失速せず飛行を続けているといった案配の模様。
 。。。それは結構なんですが、ただ、誰もかれも「宇宙エレベーター」と連呼する現状。
 私が軌道エレベーター関連の活動を本格的に始めたのは、2005年に「軌道エレベータ -宇宙に架ける橋-」(当時は裳華房、現在は早川書房刊)の著者の一人である金子隆一先生に取材をした時からでした。その頃は「軌道エレベータ(ー)」と呼ばれる方が一般的だったのです。
 軌道エレベーターの研究や報道、サブカルチャー分野への登場頻度などが上昇してから世代交代も進んで、いまやこの分野を牽引していく層の大半が、「宇宙エレベーター」と発言する事実、これは認めざるを得ない。
 しかし、かつて「軌道エレベーター」と認識していた人々や媒体まで「うちゅえれべーたー」とおもねる始末。まったくけしからん! なんと尻軽で破廉恥な (`Д´)/

 80億人(くどいようだが当社推計)の軌道エレベーター派諸君、これでいいのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 2年ぶりに、元日恒例のコミックのパロディを載せさせていただきました(なお大和田秀樹先生は軌道エレベーター派ではありません)。
 まあこんな感じで、軌道派は「軌道エレベーター」の名の復権を目指し、まだまだしぶとく生きながらえています。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 元日恒例の「目次」も、2年ぶりに以下に掲載します。なお、「軌道エレベーターが登場するお話」には、昨年映像化された「三体」も含めてあります。

目次(2023年1月~2024年12月)

はじめに:軌道エレベーター派宣言
 あいさつに代えて、このホームページのスローガンのご披露

軌道エレベーター早わかり
 はじめて「軌道エレベーター」という言葉を知った方のための簡単な説明

軌道エレベーターの基礎知識
 軌道エレベーターの概念や基礎理論、歴史、課題などについての細かい説明

(軌道派による軌道派のための)軌道エレベーター定義書
 当サイトにおける「軌道エレベーター」の構造や分類などについてまとめた定義一覧

画像提供について
 軌道エレベーターの基本構造を図示した画像を提供する際の基準

軌道エレベーターが登場するお話
 小説や映画、アニメなど、軌道エレベーターに関係する創作のあらすじと、作中に登場する軌道エレベーターの特徴の解説
2021.9.12「三体 その1」
2021.9.25「三体 その2」
2021.10.1「三体 その3」
2023.5.5「『水星の魔女』に軌道エレベーター」
2023.6.2「『水星の魔女』に軌道エレベーター その2」
2023.7.7「古典(3) 超時空世紀オーガスほか その1」
2023.7.21「古典(3) 超時空世紀オーガスほか その2」
2023.7.29「古典(3) 超時空世紀オーガスほか その3」

研究レビュー
 軌道エレベーター関連書や論文、研究計画などの紹介
2023.10.20「2023宇科連速報」
2024.11.6「2024宇科連」

ニュース
 独自取材のストレートニュース
2023.3.16「静岡大山極教授 最終講義のお知らせ」

気になる記事
 興味深いメディア記事についての感想や考察
2023.2.10「気球考」
2023.4.29「民間月面着陸 来年再び挑戦」

その他の雑記
 テーマにこだわらない、日々の他愛のない感想や雑学メモなど
2023.1.14「なぜ月の裏側は見えないのか」
2023.4.8「14周年」
2023.7.31「きょうは軌道エレベーターの日(2023年プレゼント)」
2023.8.28「野辺山電波天文台に行ってきました」
2023.9.20「2023軌道エレベーターの日プレゼント当選者発表」
2023.9.23「私たちはどこにいるのか」
2023.12.9「弁明」

2024.1.1「2024年頭あいさつ:軌道派なんとか生きてます」
2024.4.29「お久しぶりです」
2024.8.24「まだまだ」
2024.9.28「なんとか復調しつつあります」
2024.10.7「ノーベル賞の季節 その2」
2024.12.31「よいお年を(2024大晦日)」

 これより前の目次は、前回の目次も兼ねている2022年4月2日の更新の雑記「2023 年頭あいさつ」の目次をご覧ください。その目次からさらに前の目次の回へと、たどれるようになっています。

よいお年を(2024大晦日)

2024-12-31 09:24:55 | その他の雑記
 あれよあれよで大晦日です。何度か書いた通り、我が軌道派にとって2024年は受難の年でありました。

 仕事は大変だわプライベートでも大変だわ、環境が好転したと思ったら後からダメージが来て不調になるわと、いやほんと、辛い年でした。一時は仕事以外はゾンビ状態で何もせんかった。。。

 それでも秋頃からは好転し、環境そのものは良いので、そこにやっと心身が追いついてきて、ほぼ普通の状態に戻ることが出来ました。当サイトの更新はほんの少しにとどまってしまいましたが、少しずつ論文整理なんかもやってまして、来年は結実すればいいな、と思っています。

 皆様はどのような年だったでしょうか? とにかく健康に気をつけて、穏やかな年末年始をお過ごし下さい。今年1年、こんな弱小ブログを見捨てずご覧下さり、誠にありがとうございました。
 来年も、というより来年こそ、軌道エレベーター派をよろしくお願いいたします。

2024宇科連

2024-11-06 12:02:18 | 研究レビュー

 第68回宇宙科学技術連合講演会に参加するため、兵庫県姫路市に来ております。
 この半年近く、体調も気力もヨタヨタで当サイトの更新もままならない状態が続いていましたが徐々に復活して、年に1度の宇科連にはなんとか申し込みが間に合いました。今回はその報告です。軌道派としての本格的な活動は、ここから再スタートになればいいのですが。
 会場は姫路市文化コンベンションセンター「アクリエひめじ」。姫路駅から歩いて10分くらいの所にあります。
 さて、今回の宇科連における、軌道エレベーターに直接関連する講演は次の通り(いずれもプログラム上のタイトル)。

 落雷が宇宙エレベーターに与える影響の検討
 宇宙エレベーター用CNTケーブルの耐環境性対策の地上照射試験評価
 材料熱伸縮を考慮した宇宙エレベーターテザーの温度摂動に対する応答
 全球雷活動分布から考察する宇宙エレベーター設置場所について
 非赤道上宇宙エレベータにおける重力擾乱に対するねじれを含むテザー変形への影響
 超小型衛星STARS-X搭載リール機構の耐宇宙環境を考慮したテザー伸展手法
 天体表面でのケーブル敷設と宇宙エレベーター
 宇宙エレベーター用クライマーのハイブリッド駆動ローラの機構と稼働特性について
 宇宙エレベーター用クライマーの宇宙環境を模擬した高真空下における諸特性とその対応


 富山市で開かれた前回宇科連でもいえたことですが、全体として、以前からの研究の続きの発表が多く、発表者の顔ぶれもやや固定化してきています。しかしその分、内容は回を追うごとに成熟していっているように感じます。

 今回は雷の影響に関する発表が二つあり、両者を合わせて吟味することができたのが興味深かったです。
 当然ながら高エネルギーの落雷は、軌道エレベーターのピラーを構成するテザー素材を傷める。一つの発表では落雷時の素材の温度変化などを伝えていて、もう一つはその落雷を理由として、地上基部をどこに造るかという点に着目。強力な落雷が発生するのは大陸上が多く、赤道上でそうした場所を避けるには、太平洋側の南米沖が適していると結論づけていました。

 このほかに軌道派として興味深かったのは、赤道上を避けて地上基部を建造するモデルの検討で、ピラーのねじれの挙動解析でしょうか。
 軌道エレベーターはものすごい長い構造体なので、色んな力を受けてぐにゃぐにゃ動く「摂動」を起こします。このうち主な要因が、昇降機の上下運動によるコリオリですが、今回の発表では地上基部を北緯20度に想定して、赤道上にない故に南北方向の力も加わりやすく、これらによるねじれに着目したのは新鮮でした。
 また、軌道エレベーター研究にも波があり、今はお世辞にも盛んとはいえない時期にありますが、過去の隆盛期には赤道上にこだわらないモデルも注目されていました。
 2012年の大林組の発表以降、このモデルを活用した研究が増えている中、今回のような非赤道型の軌道エレベーターの研究成果が出てきているのは、かつてを少し思い出してうれしかったです。次回以降の発展に期待をかけています。


 余談。昨年から所属を「軌道エレベーター派」として登録・参加しておりまして、会場で受け取る名札にも所属先として明記されております。なんか特別感。
 で、今回のうち8本の発表があった「宇宙テザーおよび宇宙エレベーター研究最前線」セッション、前回より会場がかなり狭くて椅子は25席。午前8時45分スタートで、1回の発表時間も前回より5分短い15分となり、質疑時間を除くと実質10分と、なんか「隅に追いやられた」感がハンパない。。。

 上等だよ、異端とか傍流とかの方が性に合っとるわ! (ꐦ°᷄д°᷅)
 宇科連に参加するのも、かれこれ10年くらいになりますかねー。今ではすっかり年1回の小旅行も兼ねたイベントとなり、同時に衣替えのタイミングにもなっています。持って行った下着などは旅先で着た後に捨てて、空いたスペースにお土産を入れて帰るというのが定番になりました。
 昨年の宇科連では稚拙ながら「軌道エレベーター派」として発表をやりまして、今年続きをやる予定だったのが体調不振で断念しました。次回はぜひ、再チャレンジしたいものです。
 ここまで読んで下さり、誠にありがとうございました。

ノーベル賞の季節 その2

2024-10-07 17:09:17 | その他の雑記
 軌道エレベーター派、おかげさまで少しずつ復調しつつあります。
 さて、きょうからノーベル賞の発表ですね。軌道エレベーター学発展の契機ともなった、カーボンナノチューブ(CNT)。これを発見した飯島澄男博士が選ばれないかと、毎年気になっているという記事を書きましたが、今年もその季節がやってきました。そこで、今回はCNTについて少々。

 一時は青息吐息だった我が軌道派なのですが、仕事だけはやらんと生きていけないので、少々無理しつつもなんとか休まず続けて参りました。そんな仕事の中でも、最近量子コンピュータについて少々調べる仕事をしてまして、これはやっていて面白い。

 めちゃくちゃ難しいので私も一知半解ですが、従来のコンピュータに使われるプロセッサよりも遥かに小さい、原子レベルのミクロな世界になると、直感的な物理学は通用せず、量子力学に支配されるようになります。
 ざっくり言うと、この量子論の効果が現れる世界における重ね合わせの現象や、超電導状態で現れるトンネル効果などを演算に利用するのが量子コンピュータで、2進法の0と1の値を同時に取れるので、プロセッサの最小単位を増やすごとに演算能力が倍々になっていく。
 簡単に比較はできないですが、2個つなげれば単純に2倍である従来のコンピュータに比べ、量子コンピュータは10個つなげれば1024倍、70個になると1兆倍を超える。
 これが1個で四つの値を取れる理論もあって、そうなるともっと能力がアップすると。開発が進めば、現存のスパコンだと何年もかかる問題が数秒で解けるようになると、大まかにそんな感じです。

 量子コンピュータに期待される課題の一つが素因数分解で、暗号に使われているので悪用されて逆にやばいという社会問題にもなりうる代物ですが、それには何千万個もの量子プロセッサが必要になるそうで、今はまだ全然その域には達してないんだとか。

 さて、量子コンピュータのシステムにはゲート型やアニーリング型、超電導方式やイオントラップ方式や中性原子方式、プロセッサの材料にも光子やら何らかの原子やら原子核やら、電子やら中性子やら、多々あるそうですが、現在日本にある量子コンピュータはすべて超電導方式だそうです。これは上記のトンネル効果(ジョセフソン効果)を利用して電子を対にするというもの。。。らしい。

 くどくど理屈ばっか並べて、CNTと何の関係があるんじゃい、と言われそうですが、その材料の候補にCNTがあるんですね。炭素原子の筒であるCNTは、電子を閉じ込める鞘の役割を果たし、外界からのノイズを遮断して(量子コンピュータは外界からの擾乱に対し極めて脆弱)、中の電子を高精度で制御するのに向いているんだそうです。

 このように、軌道エレベーターのみならず、CNTは量子コンピュータの発展にも寄与しうる可能性を持っているわけで、それを発見した功績はとても大きいですよね。ノーベル賞にかかわらず、偉大な発見だと思っていますが、とにかくも、今年も結果を見守りたいと思います。