9月21日の雑記でも紹介しましたが、デブリの量はもうアップアップなんだそうです。さらに大型の使用済み衛星が地上に落下するのしないので騒ぎになりました。結果的にけが人もなく何よりですが、その後ドイツの衛星も落ちてくると発表。遡れば一昨年にはイリジウム33とコスモス2251の衝突がありましたし、2007年には中国が自国の衛星をミサイルで破壊する実験を行いました(冷戦時代には米ソもやっていた)。
宇宙開発を続ける限り、デブリは発生し続けます。この問題を根絶できるのは、軌道エレベーターしかありません。今回のアイデアノートは、軌道エレベーターを利用した、デブリ問題の根本的解決について述べます。なお、過去に随所で触れてきた点も多いのですが、おさらいの意味で全体を説明します。
1. デブリの概説と今回の提案の主旨
デブリとは、主に宇宙空間の利用時に生じた、軌道上を漂うゴミの総称です。打ち上げ時に生じる破片や脱落した部品、軌道投入に失敗した衛星、上述の使用済み衛星、事故や軍事活動で生じた破片なども含まれます。様々な高度や傾斜角の地球周回軌道を、秒速数kmで無秩序に飛び交っており、有人宇宙機に衝突すれば命にかかわります。国連宇宙空間平和利用委員会(UNCOPUOS)は、宇宙機関間スペースデブリ調整委員会(ASDC)の提言を元にガイドラインを設定し、デブリを発生させないよう呼びかけています。しかし国際法の常として拘束力はなく、各国の自主性に頼っているのが現状です。
デブリの除去法については、ネットやテザーを取り付けた衛星を打ち上げるとか、大出力のレーザーで狙い撃ちして一部を蒸発させて角運動量を変え、大気圏に落とすとか、様々に考案されています。こうした努力はどんどん続けて欲しいのですが、ロケット依存を続ける限り、デブリの発生は避けられません。
基礎知識の説明が長くなりましたが、今回の提案は、デブリと軌道エレベーターが有する特殊な関係性を利用したデブリの除去と、軌道エレベーターによるロケット依存からの脱却と併せて、デブリ問題を根本から解決しようというものです。
今回の提案を三段論法的に大雑把にいうと、以下のようなものです。
(1) デブリは必ず軌道エレベーターと衝突する。
待っていればデブリの方からぶつかってくる
(2) この機会を逆手にとり、軌道エレベーターによってデブリを回収、
もしくは減速・落下させてデブリを掃除する
(3) これにより、軌道エレベーターによる、
ロケット使用の減少との合わせ技でデブリ問題を根絶する
この順で説明していき、今回は(1)について述べます。
2. デブリは必ず軌道エレベーターと衝突する
デブリに限らず、軌道上を周回するあらゆる天体は、ある特性を持っています。それは母天体(この場合は地球)の赤道上を通るということです。赤道に沿って周回するか、あるいは交差するかという違いはありますが、必ず赤道を「通る」とひと括りすることができます。これはたった一つの例外もありません。夜空に浮かぶ月でさえ、長期的にはその軌道=白道は地球の赤道と交差しているのです。
一方、軌道エレベーターの基本型である静止軌道エレベーターは、巨大な静止衛星であるため、赤道上の1点に位置し、地球との相対的位置関係が変化しません。このため、ほかのデブリと衝突する運命にあります。下の画像をご覧ください。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)がネット上で公開している、本日午後9時13分50秒の運用中の人工衛星の軌道データ画像です。前にも同様の画像を紹介したことがあります。
図で多くの衛星の軌道が波線になっているのは、地球が球体であるため、メルカトル図法の四角い図に直すと、円を描いて周っている衛星の軌道は波線になるからです。そして、地球が自転しているのを、地球の方を止めた図として描いているため、衛星の軌道の方が1周ごとに少しずつズレていきます。
画像の加工は禁じられているのでそのまま掲載しますが、画像中央左寄りにある(オーストラリアの右上あたり)、グレーのひし形っぽく見える衛星にご注目ください。これは東経143度の赤道上を周回する技術試験衛星「きく8号」です。静止衛星なので、これを軌道エレベーターだと思って、以下のURLの「衛星Live」の軌道画像の下にある、「本日の動画」とか「昨日の動画」などをクリックして見てください。
軌道データ情報提供サービスhttp://odweb.tksc.jaxa.jp/odds/main.jsp
きく8号を含む静止衛星はほとんど動きませんが、ほかの衛星は波線を描いて目まぐるしく動いていますね。しばらく見ていると、波線が少しずつズレていって、きく8号と交差するのがお分かりいただけると思います。長い目で見れば、いずれは全部交差することになります。実際は高度が異なるために衝突はしませんが、これが軌道エレベーターだとすれば、地上から静止軌道を越えて棒状に延びているわけですから衝突します。交差点の真ん中に突っ立っているようなものです。
すごく乱暴に言うと、静止衛星は地球と一緒に周っている→ほかの衛星はそれとは関係なく別のルートと速度で周っている→いつかはぶつかる──というわけです。この理屈で、軌道の調整をしない限り、あらゆる衛星が軌道エレベーターに衝突することになります。例外は以下のものだけです。
(1) 地球の自転周期と同期、あるいは準同期し、
軌道エレベーターと交差しない軌道にあるもの(静止衛星はこれに該当)
(2) 軌道エレベーターの全長よりも高い高度を周回しているもの
そして、地球周回軌道に乗っている以上、この特質はデブリもまったく変わりません。よって、軌道エレベーターはこの二つの例外を除く、すべてのデブリと衝突する運命にあるわけです。また長期的に見れば、太陽や月の引力やマスコン(重力異常地点)などの影響で軌道が変化するので、二つの例外のデブリも、いずれは軌道エレベーターにぶつかるでしょう。
3. 軌道エレベーターはデブリ除去機になりうる
軌道エレベーターの問題点として、デブリとの衝突を挙げる意見があり、これは事実です。しかし見方を変えれば、これは危機ではなくデブリ根絶のチャンスなのです。ピラーの周囲に、デブリを捕獲または減速させるネットのようなものを張り巡らせ、デブリからの防御と同時に、それを除去するのに利用する。つまり、
軌道エレベーターは、ただそこにあるだけで、
ほぼすべてのデブリを漉し取るフィルターになりうる
1節目で挙げたような軌道エレベーター以外の手段は、自分の方からデブリを探すか、偶然の遭遇に頼るしかありません。しかし、軌道エレベーターは、ほっといてもデブリの大半と邂逅する機会に恵まれている。しかも地上から静止軌道を越えて伸びる構造物ですから、あらゆる高度のデブリに対処できる。この特性を生かして、デブリを掃除してしまおうというのが、今回のアイデアノートの狙いです。軌道エレベーターだからこそ、それができるのです。
デブリの軌道上の特性と、軌道エレベーターとの関係をおわかりいただけたでしょうか? 今回はここまでとします。次回はこの特性を生かして、これを具体的に回収する手段について解説します。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
今回のまとめ
(1) あらゆるデブリは必ず赤道上を通る
(2) これは必ず軌道エレベーターと衝突することを意味する
(3) これは軌道エレベーター特有の問題でもあるが、デブリを一掃するチャンスでもある
(4) デブリ根絶計画(中)に続く
宇宙開発を続ける限り、デブリは発生し続けます。この問題を根絶できるのは、軌道エレベーターしかありません。今回のアイデアノートは、軌道エレベーターを利用した、デブリ問題の根本的解決について述べます。なお、過去に随所で触れてきた点も多いのですが、おさらいの意味で全体を説明します。
1. デブリの概説と今回の提案の主旨
デブリとは、主に宇宙空間の利用時に生じた、軌道上を漂うゴミの総称です。打ち上げ時に生じる破片や脱落した部品、軌道投入に失敗した衛星、上述の使用済み衛星、事故や軍事活動で生じた破片なども含まれます。様々な高度や傾斜角の地球周回軌道を、秒速数kmで無秩序に飛び交っており、有人宇宙機に衝突すれば命にかかわります。国連宇宙空間平和利用委員会(UNCOPUOS)は、宇宙機関間スペースデブリ調整委員会(ASDC)の提言を元にガイドラインを設定し、デブリを発生させないよう呼びかけています。しかし国際法の常として拘束力はなく、各国の自主性に頼っているのが現状です。
デブリの除去法については、ネットやテザーを取り付けた衛星を打ち上げるとか、大出力のレーザーで狙い撃ちして一部を蒸発させて角運動量を変え、大気圏に落とすとか、様々に考案されています。こうした努力はどんどん続けて欲しいのですが、ロケット依存を続ける限り、デブリの発生は避けられません。
基礎知識の説明が長くなりましたが、今回の提案は、デブリと軌道エレベーターが有する特殊な関係性を利用したデブリの除去と、軌道エレベーターによるロケット依存からの脱却と併せて、デブリ問題を根本から解決しようというものです。
今回の提案を三段論法的に大雑把にいうと、以下のようなものです。
(1) デブリは必ず軌道エレベーターと衝突する。
待っていればデブリの方からぶつかってくる
(2) この機会を逆手にとり、軌道エレベーターによってデブリを回収、
もしくは減速・落下させてデブリを掃除する
(3) これにより、軌道エレベーターによる、
ロケット使用の減少との合わせ技でデブリ問題を根絶する
この順で説明していき、今回は(1)について述べます。
2. デブリは必ず軌道エレベーターと衝突する
デブリに限らず、軌道上を周回するあらゆる天体は、ある特性を持っています。それは母天体(この場合は地球)の赤道上を通るということです。赤道に沿って周回するか、あるいは交差するかという違いはありますが、必ず赤道を「通る」とひと括りすることができます。これはたった一つの例外もありません。夜空に浮かぶ月でさえ、長期的にはその軌道=白道は地球の赤道と交差しているのです。
一方、軌道エレベーターの基本型である静止軌道エレベーターは、巨大な静止衛星であるため、赤道上の1点に位置し、地球との相対的位置関係が変化しません。このため、ほかのデブリと衝突する運命にあります。下の画像をご覧ください。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)がネット上で公開している、本日午後9時13分50秒の運用中の人工衛星の軌道データ画像です。前にも同様の画像を紹介したことがあります。
図で多くの衛星の軌道が波線になっているのは、地球が球体であるため、メルカトル図法の四角い図に直すと、円を描いて周っている衛星の軌道は波線になるからです。そして、地球が自転しているのを、地球の方を止めた図として描いているため、衛星の軌道の方が1周ごとに少しずつズレていきます。
画像の加工は禁じられているのでそのまま掲載しますが、画像中央左寄りにある(オーストラリアの右上あたり)、グレーのひし形っぽく見える衛星にご注目ください。これは東経143度の赤道上を周回する技術試験衛星「きく8号」です。静止衛星なので、これを軌道エレベーターだと思って、以下のURLの「衛星Live」の軌道画像の下にある、「本日の動画」とか「昨日の動画」などをクリックして見てください。
軌道データ情報提供サービスhttp://odweb.tksc.jaxa.jp/odds/main.jsp
きく8号を含む静止衛星はほとんど動きませんが、ほかの衛星は波線を描いて目まぐるしく動いていますね。しばらく見ていると、波線が少しずつズレていって、きく8号と交差するのがお分かりいただけると思います。長い目で見れば、いずれは全部交差することになります。実際は高度が異なるために衝突はしませんが、これが軌道エレベーターだとすれば、地上から静止軌道を越えて棒状に延びているわけですから衝突します。交差点の真ん中に突っ立っているようなものです。
すごく乱暴に言うと、静止衛星は地球と一緒に周っている→ほかの衛星はそれとは関係なく別のルートと速度で周っている→いつかはぶつかる──というわけです。この理屈で、軌道の調整をしない限り、あらゆる衛星が軌道エレベーターに衝突することになります。例外は以下のものだけです。
(1) 地球の自転周期と同期、あるいは準同期し、
軌道エレベーターと交差しない軌道にあるもの(静止衛星はこれに該当)
(2) 軌道エレベーターの全長よりも高い高度を周回しているもの
そして、地球周回軌道に乗っている以上、この特質はデブリもまったく変わりません。よって、軌道エレベーターはこの二つの例外を除く、すべてのデブリと衝突する運命にあるわけです。また長期的に見れば、太陽や月の引力やマスコン(重力異常地点)などの影響で軌道が変化するので、二つの例外のデブリも、いずれは軌道エレベーターにぶつかるでしょう。
3. 軌道エレベーターはデブリ除去機になりうる
軌道エレベーターの問題点として、デブリとの衝突を挙げる意見があり、これは事実です。しかし見方を変えれば、これは危機ではなくデブリ根絶のチャンスなのです。ピラーの周囲に、デブリを捕獲または減速させるネットのようなものを張り巡らせ、デブリからの防御と同時に、それを除去するのに利用する。つまり、
軌道エレベーターは、ただそこにあるだけで、
ほぼすべてのデブリを漉し取るフィルターになりうる
1節目で挙げたような軌道エレベーター以外の手段は、自分の方からデブリを探すか、偶然の遭遇に頼るしかありません。しかし、軌道エレベーターは、ほっといてもデブリの大半と邂逅する機会に恵まれている。しかも地上から静止軌道を越えて伸びる構造物ですから、あらゆる高度のデブリに対処できる。この特性を生かして、デブリを掃除してしまおうというのが、今回のアイデアノートの狙いです。軌道エレベーターだからこそ、それができるのです。
デブリの軌道上の特性と、軌道エレベーターとの関係をおわかりいただけたでしょうか? 今回はここまでとします。次回はこの特性を生かして、これを具体的に回収する手段について解説します。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
今回のまとめ
(1) あらゆるデブリは必ず赤道上を通る
(2) これは必ず軌道エレベーターと衝突することを意味する
(3) これは軌道エレベーター特有の問題でもあるが、デブリを一掃するチャンスでもある
(4) デブリ根絶計画(中)に続く