軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

軌道派アイデアノート(4) デブリ根絶計画(上)

2011-11-11 21:45:11 | 軌道派アイデアノート
 9月21日の雑記でも紹介しましたが、デブリの量はもうアップアップなんだそうです。さらに大型の使用済み衛星が地上に落下するのしないので騒ぎになりました。結果的にけが人もなく何よりですが、その後ドイツの衛星も落ちてくると発表。遡れば一昨年にはイリジウム33とコスモス2251の衝突がありましたし、2007年には中国が自国の衛星をミサイルで破壊する実験を行いました(冷戦時代には米ソもやっていた)。
 宇宙開発を続ける限り、デブリは発生し続けます。この問題を根絶できるのは、軌道エレベーターしかありません。今回のアイデアノートは、軌道エレベーターを利用した、デブリ問題の根本的解決について述べます。なお、過去に随所で触れてきた点も多いのですが、おさらいの意味で全体を説明します。

1. デブリの概説と今回の提案の主旨
 デブリとは、主に宇宙空間の利用時に生じた、軌道上を漂うゴミの総称です。打ち上げ時に生じる破片や脱落した部品、軌道投入に失敗した衛星、上述の使用済み衛星、事故や軍事活動で生じた破片なども含まれます。様々な高度や傾斜角の地球周回軌道を、秒速数kmで無秩序に飛び交っており、有人宇宙機に衝突すれば命にかかわります。国連宇宙空間平和利用委員会(UNCOPUOS)は、宇宙機関間スペースデブリ調整委員会(ASDC)の提言を元にガイドラインを設定し、デブリを発生させないよう呼びかけています。しかし国際法の常として拘束力はなく、各国の自主性に頼っているのが現状です。
 デブリの除去法については、ネットやテザーを取り付けた衛星を打ち上げるとか、大出力のレーザーで狙い撃ちして一部を蒸発させて角運動量を変え、大気圏に落とすとか、様々に考案されています。こうした努力はどんどん続けて欲しいのですが、ロケット依存を続ける限り、デブリの発生は避けられません。
 基礎知識の説明が長くなりましたが、今回の提案は、デブリと軌道エレベーターが有する特殊な関係性を利用したデブリの除去と、軌道エレベーターによるロケット依存からの脱却と併せて、デブリ問題を根本から解決しようというものです。
 今回の提案を三段論法的に大雑把にいうと、以下のようなものです。

 (1) デブリは必ず軌道エレベーターと衝突する。
  待っていればデブリの方からぶつかってくる
 (2) この機会を逆手にとり、軌道エレベーターによってデブリを回収、
  もしくは減速・落下させてデブリを掃除する
 (3) これにより、軌道エレベーターによる、
  ロケット使用の減少との合わせ技でデブリ問題を根絶する

 この順で説明していき、今回は(1)について述べます。


2. デブリは必ず軌道エレベーターと衝突する
 デブリに限らず、軌道上を周回するあらゆる天体は、ある特性を持っています。それは母天体(この場合は地球)の赤道上を通るということです。赤道に沿って周回するか、あるいは交差するかという違いはありますが、必ず赤道を「通る」とひと括りすることができます。これはたった一つの例外もありません。夜空に浮かぶ月でさえ、長期的にはその軌道=白道は地球の赤道と交差しているのです。
 一方、軌道エレベーターの基本型である静止軌道エレベーターは、巨大な静止衛星であるため、赤道上の1点に位置し、地球との相対的位置関係が変化しません。このため、ほかのデブリと衝突する運命にあります。下の画像をご覧ください。



 宇宙航空研究開発機構(JAXA)がネット上で公開している、本日午後9時13分50秒の運用中の人工衛星の軌道データ画像です。前にも同様の画像を紹介したことがあります。
 図で多くの衛星の軌道が波線になっているのは、地球が球体であるため、メルカトル図法の四角い図に直すと、円を描いて周っている衛星の軌道は波線になるからです。そして、地球が自転しているのを、地球の方を止めた図として描いているため、衛星の軌道の方が1周ごとに少しずつズレていきます。
 画像の加工は禁じられているのでそのまま掲載しますが、画像中央左寄りにある(オーストラリアの右上あたり)、グレーのひし形っぽく見える衛星にご注目ください。これは東経143度の赤道上を周回する技術試験衛星「きく8号」です。静止衛星なので、これを軌道エレベーターだと思って、以下のURLの「衛星Live」の軌道画像の下にある、「本日の動画」とか「昨日の動画」などをクリックして見てください。

 軌道データ情報提供サービスhttp://odweb.tksc.jaxa.jp/odds/main.jsp

 きく8号を含む静止衛星はほとんど動きませんが、ほかの衛星は波線を描いて目まぐるしく動いていますね。しばらく見ていると、波線が少しずつズレていって、きく8号と交差するのがお分かりいただけると思います。長い目で見れば、いずれは全部交差することになります。実際は高度が異なるために衝突はしませんが、これが軌道エレベーターだとすれば、地上から静止軌道を越えて棒状に延びているわけですから衝突します。交差点の真ん中に突っ立っているようなものです。
 すごく乱暴に言うと、静止衛星は地球と一緒に周っている→ほかの衛星はそれとは関係なく別のルートと速度で周っている→いつかはぶつかる──というわけです。この理屈で、軌道の調整をしない限り、あらゆる衛星が軌道エレベーターに衝突することになります。例外は以下のものだけです。

 (1) 地球の自転周期と同期、あるいは準同期し、
  軌道エレベーターと交差しない軌道にあるもの(静止衛星はこれに該当)
 (2) 軌道エレベーターの全長よりも高い高度を周回しているもの

 そして、地球周回軌道に乗っている以上、この特質はデブリもまったく変わりません。よって、軌道エレベーターはこの二つの例外を除く、すべてのデブリと衝突する運命にあるわけです。また長期的に見れば、太陽や月の引力やマスコン(重力異常地点)などの影響で軌道が変化するので、二つの例外のデブリも、いずれは軌道エレベーターにぶつかるでしょう。


3. 軌道エレベーターはデブリ除去機になりうる
 軌道エレベーターの問題点として、デブリとの衝突を挙げる意見があり、これは事実です。しかし見方を変えれば、これは危機ではなくデブリ根絶のチャンスなのです。ピラーの周囲に、デブリを捕獲または減速させるネットのようなものを張り巡らせ、デブリからの防御と同時に、それを除去するのに利用する。つまり、

 軌道エレベーターは、ただそこにあるだけで、
 ほぼすべてのデブリを漉し取るフィルターになりうる


 1節目で挙げたような軌道エレベーター以外の手段は、自分の方からデブリを探すか、偶然の遭遇に頼るしかありません。しかし、軌道エレベーターは、ほっといてもデブリの大半と邂逅する機会に恵まれている。しかも地上から静止軌道を越えて伸びる構造物ですから、あらゆる高度のデブリに対処できる。この特性を生かして、デブリを掃除してしまおうというのが、今回のアイデアノートの狙いです。軌道エレベーターだからこそ、それができるのです。
 デブリの軌道上の特性と、軌道エレベーターとの関係をおわかりいただけたでしょうか? 今回はここまでとします。次回はこの特性を生かして、これを具体的に回収する手段について解説します。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

今回のまとめ
(1) あらゆるデブリは必ず赤道上を通る
(2) これは必ず軌道エレベーターと衝突することを意味する
(3) これは軌道エレベーター特有の問題でもあるが、デブリを一掃するチャンスでもある

 (4) デブリ根絶計画(中)に続く

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軌道派アイデアノート(4) デブリ根絶計画(中)

2011-11-10 23:48:10 | 軌道派アイデアノート
 「デブリ根絶計画」と大仰に名づけたアイデアノートの2回目。前回「あらゆるデブリは必ず軌道エレベーターは衝突する。この原理を逆用し、軌道エレベーターによりデブリを除去する」という主旨を述べました。今回はその具体的方法について説明します。

1. デブリのカテゴライズ
 大きめのデブリの多くは軌道が把握されていることもあり、 国際宇宙ステーション(ISS)では、直径が10cm以上のデブリはISSの方が避けて回避し、それより小さい物はふんばって耐えるのだそうです(ていうかそのくらいの大きさ以上のデブリならSSNで監視できているから)。
 軌道エレベーターによる除去についても、デブリを以下の3種類にカテゴライズしたいと思います。

(1) 大気圏に落とせば確実に燃え尽きる微細なもの
(2) そのまま大気圏に落とせば、本体または破片などが地上に落下する危険があるもの
(3) 上記(2)のうち、推進剤切れなどにより寿命が尽きた衛星の本体など、
 衛星の機能中枢を含み、回収すれば再利用が可能なもの

 以上のうち、今回は(1)について、対処法を分けて説明します。

2.オービタルシールド
 デブリと衝突することを前提とした耐衝撃材(バンパー)の上に、デブリが絡み付くような頑丈なネット(フィルター)を、低軌道から高軌道までレッグウォーマーみたいにピラーの周囲に筒状に巻きます。このバンパーとフィルターの筒状集合体、過去にも扱ったことがあり、ピラーの保護も兼ねているので、ここでは「オービタルシールド」と呼びます。ケレン味たっぷりな名前ですみません。このシールドにより、デブリが衝突してそこで食い止められたらそれでよし。食い止められず貫通したとしても、確実に減速しますから、その軌道よりは落下します。
 一般に、地球周回軌道上の天体は秒速2.5km以下になれば、確実に大気圏に突入すると言われています。十分に減速できなければ楕円軌道に推移する可能性もありますが、その場合でも、いずれまた軌道エレベーターに衝突することになりますから、次で再び補足か減速させる。これを繰り返してやがては大気圏に落下、突入して空力加熱で燃え尽きることになります。今回対象としている小さなデブリであれば、このやり方で除去できるというわけです。このような方法で、デブリを捕獲、あるいは減速させていきます。



 ちなみに、対デブリバンパーというのは現実にもあって、JAXAのISS実験モジュール「きぼう」にも使われている「ホィップルバンパ」などがその一例です。外側に巻くフィルターの方は、今研究されているデブリ回収衛星用のネットとか、ピラーと同系の素材がよろしいかと。少なくとも、見本となる素材はすでに存在しているわけですから、こうした部材を発展させたようなものの集合体だと思ってください。
 「こんな頑丈な筒なんぞ付けたら、ピラーが重量に耐えられない。装備するにはピラーの相当な巨大化が必要になる」と思われるかも知れません。この問題を、「軌道対称構造」によって解消し、ピラーに負荷をかけずにシールドを維持するわけです。また、デブリがバンパーまで貫通する場合、ピラーを直撃する恐れがあるので、ピラーは複数をまとめた構造にするのがよろしいかと思われます。

3. 再生産されたデブリも除去できる
 上述のように、シールドをデブリが貫通や衝突した際、デブリが破砕してさらに微細なカケラとなったり、シールドそのもの破片が生じる可能性は否定できません。フィルターはそれを封じ込める役割も兼ねているのですが、それでも多かれ少なかれ、外側に飛び散るでしょう。このカケラも軌道に乗れば必然的に新たなデブリとなってしまいますが、いずれは再び軌道エレベーターの下へやってきて衝突することになる。その時には前回より速度は落ちているので捕まえやすいし、そうでなくてもこのプロセスを繰り返せば十分に減速し、いずれは捕獲か落下することになります。これこそが軌道エレベーターの強みでもあるわけです。
 前回示した通り、同期軌道にあるデブリは軌道エレベーターと邂逅しないので、こうした軌道には多数のデブリが残るかもしれませんが、デブリは軌道修正などしませんから、太陽や月の引力、地上の重力異常など様々な影響で少しずつ軌道は変化していき、非常に長い目に見れば、いずれ軌道エレベーターにぶつかります。それが待てなければ、限られた軌道上の話であり、俗に言う「墓場軌道」の一種とみなし、いうなれば「道に沿って掃除」をすれば良いわけです。その軌道に沿って、現在取り組まれているようなデブリ回収衛星を打ち上げてもいいかもしれません。

 そして、軌道エレベーターは地上とつながっていますから、このシールドは常に交換やメンテナンスができます。デブリ回収衛星は使い捨てにせざるを得ないでしょうが、軌道エレベーターであれば、恒常的にデブリの除去作業が可能になる。デブリ問題を根本的に解決するにはピンポイントでやっても、常に発生し続けるデブリとの間で、終わりの見えないイタチごっこになってしまうでしょう。しかし地上から静止軌道を越えて伸びる軌道エレベーターであれば、あらゆる高度のデブリを常に待ち構えて対処できるのです。
 軌道エレベーターにこそできる、デブリ対処法ではないでしょうか。

 今回はここまで。次回は大型のデブリへの対処法と、ロケット使用の減少について述べてまとめます。ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。

今回のまとめ
(1) 軌道エレベーターの周囲に「シールド」を巻く
(2) このシールドでデブリを捕まえるか、あるいは減速させる
(3) これを続ければ、大気圏で燃え尽きるサイズのデブリは一掃できる

 (4) デブリ根絶計画(下)に続く

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軌道派アイデアノート(4) デブリ根絶計画(下)

2011-11-09 21:51:48 | 軌道派アイデアノート
 軌道エレベーターによって、宇宙の環境問題であるデブリを根絶しようというアイデアノート、間が空いてすみませんでした。今回は結びの3回目です。

1. 大きなデブリは回収する
 前回、デブリを3種類に分類し、「大気圏に落とせば確実に燃え尽きる微細なデブリ」は、軌道エレベーターのピラーに取り付ける「シールド」によってフィルタリングし、除去することを説明しました。今回は残りの二つ、「そのまま大気圏に落とせば、本体または破片などが地上に落下する危険がある大きなもの」と「大きなデブリのうち、衛星の機能中枢を含み、回収すれば再利用が可能なもの」について、軌道エレベーターを利用して回収する方法を説明し、全体の運用思想を説明して総括します。

 さて、このでっかいデブリをどうするか。具体的には以下の手順になります。
 (1) 対象となるデブリを回収するための衛星を、軌道エレベーターから軌道投入する
 (2) 回収用の衛星をデブリと同期させ、回収する
 (3) 静止軌道付近まで遷移させ、軌道エレベーターに持って帰る



 ようは、軌道エレベーターからブースターを投下し、デブリを持って帰らせるということです。デブリに取り付いて除去する衛星の構想は現在もありますが、一緒に大気圏に突入して心中するものです。しかしこれは軌道エレベーターに持って帰る。これにより地上落下の危険の阻止と再資源化を狙うのがミソです。


以下、細かく説明します。

2. 回収の手順
 (1) 「地上に落下する危険があるほど大きく、回収すれば再利用が可能なデブリ」の一例として、国際宇宙ステーション(ISS)の日本の実験棟「きぼう」が老朽化したと想定し、これを回収するプランを説明しましょう。
 とりあえず、デブリ(この場合は「きぼう」)の回収に使用する人工衛星を「回収衛星」と呼びます。この回収衛星には、軌道変更用の推進システムと、対象となるデブリを鹵獲するための器具なりスペースなりを装備しています。これを、軌道エレベーターの任意の高度から「落とし」ます。
 ISSは高度約400km、傾斜角51.6度の、おおむね円に近い軌道を周回しています。仮に軌道傾斜角が同じ(つまりISSが赤道面に沿って周回している)なら、約2万4000km弱の高さから回収衛星を落とせば、位置エネルギーを利用して落下し、カーブがISSの軌道に重なる放物線軌道に乗せることができます。今回の例ではこれに加え、回収衛星は自推機能によって傾斜角を変更して軌道面を合わせて、最終的にISSの軌道と同期します。高度によって細かい修整は必要ですが、ほとんどただ落とすだけで同期させられるんですぜ。やっぱ軌道エレベーターって便利でしょ?
 (2) ISSと同期したら、ランデヴーなりドッキングなりして「きぼう」を回収し、再びISSを離れます。この辺の細かい手順は、かつてのスペースシャトルや「こうのとり」などと同じです。異なるのは、ISSからパージした後に地上へ下りるか、高高度へ上がるかです。
 (3) 「きぼう」を抱えた回収衛星は、再び傾斜角をゼロにし(別に後でもいいです)、自推してホーマン遷移により静止トランスファ軌道に乗り、ドリフト軌道を経て静止軌道ステーションへ持ち帰ります。ホーマン遷移とは何かについては、「軌道エレベーター豆知識」の16回目をご覧ください。
 別にほかの高度のステーションでもいいんですが、わかりやすいので静止軌道にしました。持ち帰った「きぼう」のモジュールは、エレベーターで地上に持ち帰り、用途があれば再利用するし、不要なら調査やらデータ回収やらして、ほかの材料にでもすればよろしい。
 もちろん、この作業を軌道上のステーションでやってもいいわけで、これが燃料切れした観測衛星などであれば、ステーションで推進剤を再充填し、回収衛星と同じように投下して再び軌道投入することも可能です。いずれにしろ、大気圏に落とすなどという物騒な真似をせずに済みます。しかも軌道エレベーターですから、あらゆる高さに対応できる。これも軌道エレベーターならではの回収方法なわけです。


3. 軌道エレベーターによってデブリの発生自体が減っていく
 これで、一通りデブリを除去・回収する手順を説明しました。これだけでもデブリ問題をほぼ解決できると考えますが、強調しておかなければならない大切な点は、軌道エレベーターの登場によってロケットの使用は減り、デブリの発生原因そのものが減少していくということです。
 これまでにも述べたように、デブリ問題を解決するための研究は現在も行われていますが、デブリを回収するためにロケットを打ち上げるものが主です。しかし、使用済み衛星と心中させるためにロケットを打ち上げると、そのためにデブリが生じます。完全にデブリが生じない宇宙計画というのは事実上不可能です。
 しかし軌道エレベーターは、ロケットの打ち上げを、ゼロにはしないとしても、頭打ちにさせるでしょう。そして軌道エレベーターは、あらゆる高度のデブリを除去できる。この行為により新たなデブリが生じる可能性もありますが、前回述べたように、そのような2次デブリも回帰による軌道の再交差で除去できる。さらには、軌道エレベーターによる軌道投入や回収が可能になることで、人工衛星は大型化や多機能化して寿命も長くなり、統廃合が可能になって数を減らすことができます。
 この合わせ技こそが大切なのです。デブリを減らす端から増やしていくのでは半永久的なイタチごっこが続きます。軌道エレベーターは、その悪循環を断ち切ることができます。軌道エレベーターでデブリを刈り取りながら、デブリ発生減となるロケットの打ち上げも減少させ、衛星の数も減らす。この組み合わせこそが、いつかデブリ問題を根源から解決するでしょう。

 私は、現在研究されているデブリ対策を否定する気はありません。私たちの頭上の宇宙はケスラーシンドローム目前であり、本当に、もうまったく猶予のない状態にあります。その問題に挑む人々に敬服し、どんどん取り組んでいただきたいと思います。その上で、長期的視野に立って、軌道エレベーターの必要性も訴えたい。デブリ問題を根本的に解決できるツールは、軌道エレベーターをおいてほかにありません。この価値だけをとっても、軌道エレベーターには取り組む価値があるのです。
 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

 今回のアイデアのうち、デブリのフィルタリングについての端緒は金子隆一先生に負うものです。以前取材してお話をうかがい、自分なりの構想を加えてまとめました。また、デブリ研究を行っている某大学の先生にも貴重なご教示をいただきました。軌道エレベーターには関わりのない方のため、ご迷惑がかかるといけないのでお名前は伏せますが、深く感謝申し上げます。

 この3回のまとめ
(1) デブリは必ず軌道エレベーターと衝突する。
(2) この機会を逆に生かし、軌道エレベーターによってデブリを回収、
 もしくは減速・落下させてデブリを掃除する
(3) この作業と、軌道エレベーターによるロケット使用の減少との
 合わせ技でデブリ問題を根絶する


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軌道派アイデアノート(3) コリオリ対策

2011-06-21 21:05:34 | 軌道派アイデアノート
 軌道エレベーターについて、私的な発想を紹介する「アイデアノート」の3回目。今回はコリオリ対策についてです。コリオリの説明と、軌道エレベーターに与える影響について、ここでは簡単な説明にとどめますので、詳細は「軌道エレベーター豆知識」の(22)をご覧ください。

 さて、コリオリとは、回転する系の中にある物体が回転の中心に近づくか、あるいは遠ざかる運動をした際にかかる、横方向への慣性(力)のことです。地球上を例にとると、あなたが赤道直下のA地点から、北半球のB地点に移動したとします。地表にいるあなたは地球は自転に従って円運動をしているわけですが、A地点よりもB地点の方が回転半径が小さい。つまり東方向への運動エネルギーが小さく速度が低いので、B地点に行くほど、右(東)方向にズレていく力があなたに働きます。正確には、あなたに力が加わるのではなく、あなた自身が持っているベクトルが、まっすぐ進ませないのです。これは現実の生活においては人間が感じ取れるようなものではなく、打ち消されてしまうのですが、巨視的に見ると影響が観測でき、台風が渦を巻くのはこのためです。

 軌道エレベーターにもこれが働きます。ピラーの上の方ほど回転半径が大きいので、昇降機が上昇すると、ピラー上部の運動エネルギーとの差から、昇降機がピラーに引っ張られます。そして相対的に小さいものの、ピラーの方も昇降機に引っ張られてしまい、軌道エレベーター全体の角運動量に影響を与えて不安定にさせるというものです。しかしながら、豆知識でも述べたように、私個人はコリオリをさして問題視していません。主な理由としては、

 (1) 昇降機が降下する時には(積載量に差がなければ)まったく逆の力が働いて相殺される
 (2) 近年の軌道エレベーターのモデルは遠心力の方を強めに設定しているため、ピラー全体が逆さにした振り子のような運動をすることによって長期的には回復する力が働く

 ──というものです。ついでに言うと、1mあたりの上昇で0.00007m程度横に動くだけ。平均時速60kmで上昇すれば、横方向の加速度は0.001m/s^2強くらいなので、昇降機の乗り心地にはまったく問題ないでしょう。もちろんマクロな視点で見たら、局所的な振動の原因につながるかも知れず、ピラー全体がピンと張った糸のように安定することはないでしょうが、はっきり言って軌道エレベーターの揺動の原因は、月や太陽の引力による摂動、駆動機関による細かい振動などの方がよっぽど深刻です。
 
 それでもコリオリはやたらと問題にされるんですよね。私の考えるコリオリの解消策、図で見てもらうのが一番でしょう。



 これでええんちゃう?
 静止軌道から下のピラーを、重量が増えないように東西方向に枝分かれさせ、中央ピラーの係留索として使用するものです。静止軌道から上は、上述の振り子運動がより強く働きます。
 言うまでもないことですが、枝分かれしたピラーも昇降機が行き来し、さらにこれを南北方向にも展開することで、中・高緯度地域からも昇れるようにする。また、どこか1か所のピラーが断絶しても、ほかの枝ピラーが応急的に全体を支えることで、摂動対策や倒壊対策、その他のリスク分散も兼ねています。あくまで一例であって、これをもっと複雑にして安定度を高め、かつ多機能化するのが望ましいですし、結局そうなるんじゃないでしょうか?
 まあ実際は、静止軌道までの高さが地球の直径の3倍くらいあるので、横方向への足場が狭いというか、こうガッシリとは支えられませんが、オービタルリングで安定させるという手もありますし、ほかにもアイデアはありますので、また機会を改めて紹介します。
 そんなわけで、やはりコリオリは大した問題じゃないんじゃないでしょうか。

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軌道派アイデアノート(2) Orbital Shield

2010-08-25 23:40:49 | 軌道派アイデアノート
今月から始めたアイデアノートの2回目です。
 今回も、私のこだわり部分であり、軌道エレベーターの本体に、いかに付随施設を設けるか、力学的に可能かという点についてです。

 当サイトをご覧下さっている方の多くはブラッドリー・C・エドワーズ氏らの「宇宙旅行はエレベーターで」(ランダムハウス講談社)をお読みになっていると思います。本書のモデルで設けられている中間ステーションは、静止軌道の「ジオステーション」と末端付近の「ペントハウスステーション」のみ。ペントハウスでもプレイボーイでもいいですけど、これはカウンター質量の一部を成していて、低軌道や高軌道の任意の位置にはステーションがない。
 つまるところ、第1世代のモデルで完結しているエドワーズプランでは、本体に軽量でペラペラのケーブルを使用しているので、負荷に耐えられず、静止軌道以外にステーションが造れない。現実問題として低軌道や高軌道にステーションを設けるのは不可能です。これでは、軌道エレベーターのあるべき価値の半分も有していないのではないか? なんか違うよ! ずっとそう考えてきました。
 当サイトや宇宙エレベーター協会で使用している私が作った図でも、低軌道部や高軌道部にステーションを設けていますが、私なりに考えがあってやっているのです。前回述べたFontain工法によって、大きな荷重に耐えられまで一気に太くしてしまえ! というのがその一つの答えのつもりなのですが、これに加えて、今回もう一つのアイデアを紹介します。
 簡単に言うと、低軌道ステーションをはじめとする、低─高軌道域に設ける様々な付随物を、静止軌道を挟んで力学的にシンメトリーにして独立させてしまうという方法です。今回の案も、軌道エレベーター学会コーナーの「Fountain式(工法)とOrbital Shield」で紹介した案を簡略化、多様化して紹介するもので、「学会」で述べたのはその一つの完成形のようなものだと考えていただければ嬉しいです。

 以下、いくつかのプランを段階的に紹介します。ここでは、軌道エレベーター本体の建造方法は前回のFontain法で造るものとして話を進めます。



(1) 低軌道と高軌道のステーション同士をケーブルで繋ぐ
 OEV建造の初期の段階から、低軌道と高軌道にステーションを設けることは求められと思われます。ここでは各1基ずつ設けるとします。 
 低軌道と高軌道のステーションを、本体とは別のケーブルで繋ぎ、静止軌道を挟んでお互いに引っ張り合う構造を持たせます。静止軌道からの距離はそれぞれ異なりますが、大きさや高度の調節、必要に応じて大小のステーションを増やしたりするなどしてバランスをとります。
 これにより、各ステーションの高度維持は本体に依存せず、負荷をかけずに済みます。

(2) 低軌道部と高軌道部を繋いだケーブルを筒状に成長させる
 前述の「学会」で紹介したのは構想の中心はこれです。建造方法は異なりますが、どちらでもいい。とにかく、いったん低軌道部と高軌道部をケーブル等でつないでバランスをとる構造を実現したら、線を面にして、本体に負荷をかけないまま筒状にする。本体はトンネルの中を通るような構造になるわけです。理論上は、素材の量に応じた強度に見合う範囲であれば、無限に大きくすることが可能なはずです。
 筒状になって、その筒自体が様々な負荷に耐えられるほど成長したら、耐放射線構造や耐衝突構造を持たせる。これにより、軌道エレベーターの大きな課題でもある、デブリの衝突やヴァン・アレン帯に対する放射線対策を施すことを目指します。

(3) 力学的に対称性を持つリニアレールを設ける
 シールドが成長する一方で、本体も成長を続けてどんどん太くなっていきます。本体が、内部を中空にするほどの太さや強度に達したら、この空洞の中に、シールド同様、静止軌道を挟んで力学的にシンメトリックな構造で、電磁気推進システムを設ける。
 大きなメリットを生む軌道エレベーターの機能として、位置エネルギーの利用による電力の回収が期待されるリニア昇降システムがありますが、これを導入する最大の問題は、電磁気推進の機構自体がものすごい重さになるため、とても本体に取り付けられないという点にあります。電磁誘導体を備えたレールを敷かなければならないからです。いま一つは、ただでさえ重いリニアの乗り物を垂直方向に動かすには、相当な技術発展が必要だという点です。これは、本体を相当太くしてもなかなか解決できない問題でしょう。遠い未来でもない限り、1Gの地上からリニアで昇るというのは不可能だと思われます。
 そこで、ひとまずリニアを使用するのは、重力と遠心力がが十分に小さくなる高度の間とし、この間に設けるという構想です。シールド同様、このレールもまた、本体内部にありながら、本体に負荷をかけない構造になっています。そして、素材の改良やリニアの軽量化の発展に応じてその範囲を広げていくということを想定しています。リニアを使わずして何の軌道エレベーターか!

 このリニアを、シールドの方に設けても構いません。ここでの要点は、静止軌道を挟んだ力学的な対称構造によって、本体に負荷をかけずにOEVを大型化、多機能化していくことですので、色んなバリエーションが考えられます。シールドを二重三重の構造にすることも可能ですし、高度に応じて退避施設や武装、非常時に本体を補強する材料の保管庫やその展開装置などを備えることも夢ではないはずです。多様な広がりをもつものであろうと自負しておりマス、はい。

 おわかりいただけると思いますが、上記(1)から(3)はすべて、設備が本体に負荷を与えない構造になっています。位置を保つために多少なりとも接続(べつにベッタリくっつけちゃってもいいですが)するでしょうが、基本的には力学的に依存していません。
 つまり別の見方をすれば、地上から高軌道に達する長大なモデルと、静止軌道を挟んだ短いモデル、大きさの違う複数の静止軌道エレベーターが、力学的にそれぞれ独立した状態で同居しているのです。
 上記をひとくくりにして、またまた勝手に"Orbital Shield"と名付けたわけですが、センスの悪さで失笑を買うのは覚悟しております。
 軌道="Orbital"ってのをどっかに入れたかったんだよう(´Д`)

 とはいえ、このオービタルシールドは、長年軌道エレベーターの情報を集め、その特有の問題点について、自分なりに思考を重ねた末、自分で考え出した一つの回答です。私はこの方法にけっこう自信を持っていて、このやり方であれば、第1世代の段階から、様々な展開や利用ができるはずだと考えています。
 もちろん、高度に応じた重力と遠心力の増減率はそれぞれ異なりますし、数万kmもある軌道エレベーターは屈曲が避けられませんし、口で言うほど簡単ではないのはわかっています。ですが、前回のFountain式にしろ今回にしろ、エドワーズプランのよりも基本原理がシンプルであろう、と自負しています。シンプルな計画ほど成功率は高く、実現が早いと思うのです。
 実は今回の案は、今度更新する予定の「豆知識」のテーマとリンクしています。そちらもぜひご覧ください。ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

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