軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

地球に戻れない

2012-03-27 21:40:43 | その他の雑記
 間もなく新年度で、開設3周年を迎えるというのに、なかなか更新できず申し訳ありません。プレゼント応募者の皆様、ご丁寧なメールありがとうございました。この場でご挨拶に代えさせていただきます。
 
 さて、取り急ぎ駄文をば。以前「軌道エレベーターが出来たら地球は辺境になる」と書いたのですが、よく考えたら、地球が求心力を失うと思われる要因を一つ思い出しました。「宇宙に適応したら、もう地球には住めなくなる」ということです。この場合の「宇宙」とは、低重力または無重量の環境だと思ってください。
 長期間宇宙で暮らすと骨や筋肉が有重力下で体重を支える力を失い、どのみち地球にはもう戻れなくなってしまう。国際宇宙ステーションに長期滞在した宇宙飛行士たちが地上に戻った直後、自力で立てないというのを、皆さんも聞いたことがあるでしょう。438日間という宇宙の最長連続滞在記録(もはや流刑だろこれは)を持つロシアのワレリー・ポリャコフ飛行士は帰還直後に歩けたと聞きますが、これが数年とか数十年だったらこうはいかないでしょう。
 A.C.クラーク氏の『神の鉄槌』(早川書房)では、航宙士が二度と地球に降り立てないことを悲しんでいますし、R.A.ハインライン氏の『月は無慈悲な夜の女王』(同)の主人公(月面育ち)は地球滞在中、ヒイヒイ苦しんでます(この問題を無視したSF作品のいかに多いことか)。それに昔聞いた話ですが、高重力下で育成実験したカエルから奇形が生まれたそうですから、"宇宙暮らし"の人が1Gで暮らすと相当危険かも知れません。重力が小さい方が体重の負担が減って楽なわけですから、いったん宇宙に適応すると後戻りは困難でしょう。何事も楽を覚えるとなかなか捨てられませんもんねえ。
 宇宙進出が順当に進んで宇宙にいる人口が増えると、重力下で暮らす人と、宇宙でのみ生きる人に二極化する時代が来るのかも知れない。これもまた、地球の辺境化を促す一因となるのでは、と考えるわけです。あくまで宇宙空間で日常を過ごす人の話であって、ほかの天体に移住した人などはまた別ですが。

 もっとも、人間の肉体に宇宙に適応する余地があるのか? という疑問も残ります。宇宙にいるとカルシウムが流出してしまうので、宇宙飛行士は長時間のトレーニングを義務付けられていますが、それでも弱っちゃうんだとか。今回は重力に絞って書いてますが、このほかにも放射線など健康面の課題は山積しています。これらの問題を克服できる医療技術か、恒常的に1Gに近い環境を得られない限り、本格的な宇宙進出はとうてい望めない怖れもあるでしょう。私たちの方が宇宙にアジャストできるか、宇宙に「小さな地球」や「別の地球」をつくらないと生きていけないのか? まだ答えは出ていません。

 しかしどのみち、地球はやっぱり辺境と化すでしょう。地球に留まれば、資源の枯渇か環境の変化で遠からず滅亡に瀕するし、軌道エレベーターができれば、今より大規模な実験もできて宇宙での安定した生き方を確立できるのではないか。そこに活路を期待したいところです。ですから、人類社会が存亡の危機にでも陥らない限り、宇宙進出が完全に止まることはないでしょう。何よりも「それでも人は前へ進む」ものですから。

神の杖か悪魔の槍か

2012-03-16 20:01:51 | 気になる記事
米が宇宙兵器「神の杖」を研究開発 衛星の誘導で地上攻撃

 米国は、「神の杖」を含む多種の宇宙兵器の研究・開発を始めている。宇宙プラットホームに小型推進ロケットを装着した直径30センチ、長さ6.1メートル、重さ100キロのタングステン、チタン或いはウランの金属棒を搭載するという計画で、衛星の誘導で地球上のすべてのターゲットを攻撃することができる。金属棒が地上から1000キロ離れた宇宙から急降下する際のスピードは時速1万1587キロに達し、ターゲットにぶつかる際の力は原子力兵器にも引けを取らない。(後略。中国網日本語版=チャイナネット=2月29日、JAPANSE.CHINA.ORG.CNより引用)


 相当マユツバな気もするのですが、一応真に受けて一筆。
 衛星の軌道速度を初速として利用し、単純に衝突の衝撃を主な破壊力として地上を攻撃する、いわば人工隕石ですね。誤解されがちですが、金属棒のスピードが「時速1万1587km」とあるのは、落下によって得るスピードではないはずです。金属棒を搭載するプラットフォーム衛星とやらは高度約1000kmですから、平均軌道速度は秒速7.35km=時速2万6460km。仮に無理くり大気中に突っ込ませるとして、棒が大気圏に突入するとブレーキがかかり、あるいは誘導のためにも速度が半減すると考えればいいのでしょうか?
 この発想自体は大昔からありましたが、弾道軌道ではなく衛星軌道上からの物理的攻撃というのは、スピードが出すぎるゆえに迎撃困難な代わりに命中精度が低く、あまり現実的ではなかったと聞きます。そもそも衛星軌道上からモノを落とすのは大変なエネルギーが必要で、単純に落とせば地上に到達するというものではありません。レールガンのようなシステムで発射するとしたら、反動でプラットフォーム衛星本体の軌道も大きく変化してしまいます。
 こういう問題をクリアできるのだとしたら、近年の材質や誘導技術の向上で可能性が高まったのかも知れませんね。
 核兵器と違って放射能汚染もないし(ウラン製はちょっと気になりますが)、落下質量か速度を大きくすればそれだけ破壊力が増す。実用化すれば一種の最終兵器のような物になるかも知れません。ちなみに「宇宙条約に違反している」というのはお門違いです。何度も述べてきましたが、国際法のほとんどは罰則や強制力がないため、ほとんど抑止力にならない。だから「違反だから打ち上げはで"きない"」というのは空論です。中国の衛星撃墜実験などを見れば明らかなように、宇宙開発先進国(同時に軍事大国)は違反など屁とも思わず実行します。
 とはいえ、こんな大量虐殺兵器を打ち上げたら(同盟国を除く)多くの国々の敵意を買い、武力行使の誘因になりかねません。ましてや本当に使えば、世界じゅうが捨て身になっても反撃し、湾岸戦争時のイラクのように袋叩きにされかねませんし、命令を出す権力者も歴史に汚名を残すことは確実で、正気ならビビッて使えないでしょう。

 では、この情報が意味するところは何か? この神の杖とやらの本質は、情報そのものが武器ということですよね。「わが国はこれだけの能力を持っている」というハッタリです。本気なら極秘で造ってるでしょうし。
 実際には核兵器と同じで、遅かれ早かれ他国も同じ技術を手にして撃ち合えなくなり、威嚇と駆け引きにしか使えない。本当に研究しているなら今後実験をやるかも知れませんが、実戦配備の手前(いつでも発射準備可能にしておく)くらいで寸止めしておくのではないでしょうか。まあNBC兵器の部類に入らないから、限定的だったら小国相手に使っちゃうかも? とかすかに思わないでもありませんが、あとは理性を喪失した狂信者が権力の座につかないことを祈るばかりです。

 なお軌道エレベーターを、同じように利用するという発想を以前見たことがあるのですが、あまり現実的ではないと思われます。この「神の杖」が兵器として有効なのは、

 (1)機動性があり、宇宙空間にいるので反撃が困難
 (2)無人の使い捨てで、反撃されて壊れてもいい
 (3)量産可能

 ──という点ゆえです。冷戦時代の核戦略の主役が、大陸間弾道弾(ICBM)から潜水艦発射型の中距離弾道弾(SLBM)に移ったのも、深海で隠密行動をとる潜水艦は発見・反撃が困難で、しかも広範囲に配備できるからです。これに比べ軌道エレベーターは、巨大過ぎてそう簡単に軌道変更できない上、地上から静止軌道を超えて伸びる構造物を隙なく防衛するなど事実上不可能でしょう。本気、または捨て身で攻略されれば勝ち目はなく、再建も大変です。軌道エレベーターは、兵器としてはあまり割に合う代物ではありません。

 それにしても、宗教的背景(天から鉄槌が下るというのは文字通り「天誅」というか、特にキリスト教圏ではいかにも神の裁きみたいなイメージに結びつくと思われる)もあるのでしょうが、よくもまあこんな傲慢なネーミングができるものですな。『七都市物語』のオリンポスシステムを思い出しますが、神の杖じゃなくて悪魔の槍だろうこれは。

少しだけ

2012-03-11 22:00:22 | その他の雑記
 取り込んでいてきょうは長々と書けないのですが、まずは業務連絡。

 N様
 !!!!様
 Taka様


 遅くなりすみません、プレゼントきょう発送いたしました。しばらく経っても届かない場合はお知らせください。

 きょうで東日本大震災から1年が過ぎました。これまでに3回、合計すると50日くらい被災地を訪れましたが、山積する問題は解決の道筋が見えず、色んな大切なものが失われたり、震災や原発事故がなければ、対立することもなかったであろう人たちがいがみ合ったりと、「終わりが見えない」ということが、いかに人を疲弊させるかを感じました。
 軌道エレベーター派としてできることは取るに足らないものですが、昨年述べたことはやりました。復興はまだ遠く、震災の犠牲者の方々のご冥福と、被災地の前途を祈るばかりです。

OEV豆知識(27) よくある誤解

2012-03-08 00:31:17 | 軌道エレベーター豆知識
 久々の「豆知識」です。軌道エレベーターが多くの人に知られるようになってきたのは喜ばしい(だけど「宇宙」が主流なのは複雑)ですが、その分、誤解されたまま広まっている情報も多いようです。今回はそうした中から、基礎知識にかかわる誤解について説明します。
 以下の記事で、カギカッコの赤い文章は間違った知識ですのでご注意ください。


「長さは静止軌道まで/静止軌道が終点」
 静止軌道部は軌道エレベーターの最重要部ですので、地上から伸びているのがここまでだと思われることがあるようです。しかし、軌道エレベーターは静止軌道を挟んで重さのバランスをとっているので、さらに上(外側)に伸びています。十分な質量を持つカウンター質量(おもり)を静止軌道のすぐ外側に設ければ、静止軌道"あたり"までの長さにすることも可能ですが、そのようなモデルを構築する意味はあまりないでしょう。


「地球の自転の遠心力で飛び出さないよう頂点をおもりで押さえる」
 先日の大林組の構想がニュースになった時、この記述がネット上を飛び交っているので驚きました。これは正反対で、おもりがないと、そこから下の構造物がすべて地上に落下してしまいます。力学的なバランスから言えば、おもりはむしろピラーを引っ張り上げて全体の構造を維持する役割を果たしていると言えます。静止軌道を挟んで下の部分は地上に落ちようとし、上の部分は外側に飛び出そうとする力が働いています。ですから上の項目でも述べましたが、両者の重さを等価に保つのが静止軌道エレベーターの基本原理です(質量バランスをあえて偏らせた応用モデルはあるけれども、その差はわずかです)。つまりは静止軌道を支点にした、やじろべえのようなものだと思ってください。


「たくさんロケットを打ち上げ、膨大な資材を運んで造る」
 軌道エレベーターを造るのに、どれだけロケットを打ち上げなきゃいけないと思っているのか? というのはよく言われる批判なのですが、完成までエレベーターが使えないという先入観ゆえの誤解でしょう。結論から言えば、近年の理論ではロケットの打ち上げは4回か5回くらいで済みます。軌道エレベーターの建造は、極めて細い、自重プラスほんのわずかな荷重に耐えるギリギリの太さのケーブルから始まります。このケーブルと、それを展開する機器をロケットで運び、最初の1本を引き、ロケットの使用はこれで終わり。あとは、このプライマリーケーブルを伝って少しずつケーブルを太く補強しながら、付帯施設などの資材を運んで完成させるのです。仮に計算通りいかず、打ち上げ回数が倍になっても10回以下ですね。軌道エレベーターの実現には、大量のロケットを打ち上げる必要はないと考えられます。


「ラグランジュ点につながっている」
 この場合のラグランジュ点とは、地球─月系のラグランジュ1(L1)のことを指しているのでしょう。これは地球と月の共通重心から32万km以上離れており、静止軌道エレベーターを、おもりを設けずにピラーの延長だけで形成しても全長は約14万km超で、とても届かない上、公転速度が異なるため常に「つながる」のは無理です。ただしこのL1に、地球とはつながらない独立した軌道エレベーターを設けるアイデアはあります。なお余談ですが、この地球─月系のL1を「地球と月の引力がちょうど釣り合っている中和点」と思っている方も多いでしょう。実際問題としてその解釈で支障はないのですが、厳密に言うと完全な中和点から、ほんの少し地球寄りになります。


「日本に造れる」
 福島第一原発に軌道エレベーターの地上基部を造って核のゴミを宇宙に棄ててしまえという動画か何かを観たことがあるのですが、日本の領内か排他的経済水域、あるいは近海に造れると思っている方がおられるようです。ですが静止軌道エレベーターの地上基部は、原則として赤道近辺に設けます。エドワーズモデルは南北緯35度まで可能としていますが、安定性が悪いので私はあまり好みません。もちろん絶対に不可能とは言いません。赤道を挟んで、南半球における日本と同じくらいの緯度の場所(パプアニューギニアあたりか?)との間でピラーをシンメトリーの構造にすれば、東京に造ることだって不可能ではないでしょうし、個人的にはその方が安定するとさえ思います。とはいえ、それは軌道エレベーターが実現し、その技術がさらに発展した後に開ける可能性であり、少なくとも第1号が日本近辺にできることはないでしょう。


「1周90分で地球の周りを回っている」
 これは小説に書いてあったことで、小説はそれ自体がフィクションだから、ほかの誤解とはちょっと事情が異なりますが、読んだ方が誤った知識を持たないために一応。静止軌道エレベーターは地球の自転と同期していますので、このようなことはありえません。なお90分というのは、国際宇宙ステーションのおおよその周期です。


 以上、揚げ足取りのようですが、こんな間違いは瑣末なことで、むしろこれをきっかけに軌道エレベーターについて理解を深めてもらえたらと思い列挙しました。どんな分野でも、学べば多かれ少なかれ間違えます。私も軌道エレベーターの原理についてたくさん間違った解釈をしていて、追求していく中で色んなことを知りました。皆さんももっと知っていただければ嬉しいです。
 間違えることがあるのは、あなたが前進し、未知の領域に足を踏み込んでいるからです。だからそれはは恥でも何でもない。恥ずかしいのは間違えた自分と向き合う勇気のない人の方ですから、萎縮せずにどんどんトライ&エラーしましょう。
 知ることは生きること、知ることは楽しい。

プレゼント当選者発表と金星・木星の話

2012-03-06 00:14:37 | その他の雑記
 天文の話題を一つ。今月は金星と木星の接近があります。当たり前ですが実際に隣り合うほど近づくわけではなく、地球から見ると並んで見えるだけですけれども、13、14日には真西の空にほぼ水平に並ぶのが見えるそうです。26日頃には上弦の月も寄ってきます。私としては、以前からこの三つを、右のような構図で撮りたいなあと思っているのですが(以前新聞で見たことがある。ちなみに右の画像は合成です)、今回はうまい具合には並んでくれそうにないのが残念です。

 さて、10万IP達成記念プレゼントの「軌道エレベーターポケットブック」の印刷版、以下の皆様にお送りします。。。といっても3名様ですけどね。


 N様
 !!!!様
 Taka様


 ご応募、誠にありがとうございました! 間もなく発送しますので、今しらばくお待ちください。
 やっぱり10人も来なかったな ( ̄□ ̄;) とはいえ、それでもありがたいものです。次回の更新くらいまでは、受付しておりますので、今からでもという方がいらしたら、お待ちしております。