軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

軌道派アイデアノート(3) コリオリ対策

2011-06-21 21:05:34 | 軌道派アイデアノート
 軌道エレベーターについて、私的な発想を紹介する「アイデアノート」の3回目。今回はコリオリ対策についてです。コリオリの説明と、軌道エレベーターに与える影響について、ここでは簡単な説明にとどめますので、詳細は「軌道エレベーター豆知識」の(22)をご覧ください。

 さて、コリオリとは、回転する系の中にある物体が回転の中心に近づくか、あるいは遠ざかる運動をした際にかかる、横方向への慣性(力)のことです。地球上を例にとると、あなたが赤道直下のA地点から、北半球のB地点に移動したとします。地表にいるあなたは地球は自転に従って円運動をしているわけですが、A地点よりもB地点の方が回転半径が小さい。つまり東方向への運動エネルギーが小さく速度が低いので、B地点に行くほど、右(東)方向にズレていく力があなたに働きます。正確には、あなたに力が加わるのではなく、あなた自身が持っているベクトルが、まっすぐ進ませないのです。これは現実の生活においては人間が感じ取れるようなものではなく、打ち消されてしまうのですが、巨視的に見ると影響が観測でき、台風が渦を巻くのはこのためです。

 軌道エレベーターにもこれが働きます。ピラーの上の方ほど回転半径が大きいので、昇降機が上昇すると、ピラー上部の運動エネルギーとの差から、昇降機がピラーに引っ張られます。そして相対的に小さいものの、ピラーの方も昇降機に引っ張られてしまい、軌道エレベーター全体の角運動量に影響を与えて不安定にさせるというものです。しかしながら、豆知識でも述べたように、私個人はコリオリをさして問題視していません。主な理由としては、

 (1) 昇降機が降下する時には(積載量に差がなければ)まったく逆の力が働いて相殺される
 (2) 近年の軌道エレベーターのモデルは遠心力の方を強めに設定しているため、ピラー全体が逆さにした振り子のような運動をすることによって長期的には回復する力が働く

 ──というものです。ついでに言うと、1mあたりの上昇で0.00007m程度横に動くだけ。平均時速60kmで上昇すれば、横方向の加速度は0.001m/s^2強くらいなので、昇降機の乗り心地にはまったく問題ないでしょう。もちろんマクロな視点で見たら、局所的な振動の原因につながるかも知れず、ピラー全体がピンと張った糸のように安定することはないでしょうが、はっきり言って軌道エレベーターの揺動の原因は、月や太陽の引力による摂動、駆動機関による細かい振動などの方がよっぽど深刻です。
 
 それでもコリオリはやたらと問題にされるんですよね。私の考えるコリオリの解消策、図で見てもらうのが一番でしょう。



 これでええんちゃう?
 静止軌道から下のピラーを、重量が増えないように東西方向に枝分かれさせ、中央ピラーの係留索として使用するものです。静止軌道から上は、上述の振り子運動がより強く働きます。
 言うまでもないことですが、枝分かれしたピラーも昇降機が行き来し、さらにこれを南北方向にも展開することで、中・高緯度地域からも昇れるようにする。また、どこか1か所のピラーが断絶しても、ほかの枝ピラーが応急的に全体を支えることで、摂動対策や倒壊対策、その他のリスク分散も兼ねています。あくまで一例であって、これをもっと複雑にして安定度を高め、かつ多機能化するのが望ましいですし、結局そうなるんじゃないでしょうか?
 まあ実際は、静止軌道までの高さが地球の直径の3倍くらいあるので、横方向への足場が狭いというか、こうガッシリとは支えられませんが、オービタルリングで安定させるという手もありますし、ほかにもアイデアはありますので、また機会を改めて紹介します。
 そんなわけで、やはりコリオリは大した問題じゃないんじゃないでしょうか。

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『100,000年後の安全』感想

2011-06-05 23:09:09 | その他の雑記
 フィンランドのオルキルオトに建設中の放射性廃棄物最終処分場の様子を伝える『100,000年後の安全』を観てきました。
 オルキルオトの処分場に関しては、「軌道エレベーターによる核廃棄物の処分」でちょっとだけ触れていて、当時資料が少なくて「もっと知りたい」と思っていたので、楽しみにしていました。
 深地層中にアリの巣のようにトンネルを巡らせて部屋を作り、そこに10万年にわたって核のゴミを封印する。計画自体は、日本を含む諸外国の処分場と大差ありません。しかし先進国の中で、放射性廃棄物(特に高レベル)の最終処分の実作業を始めた国はいまだにまだないんですよね(処分場作ってるくせに受け入れ合意が決まらない)。オルキルオトの本格稼働は約100年後(!)だそうですが、行き先さえ決まってない国ばかりの中では進んでいる方かも知れません。

 さて、本作で興味深かったのは、はるか未来に文明の断絶が生じて、私たちの子孫が知らずに施設を掘り起こす危険性に重点を置いていることです。理由は様々に考えられますが、例えば知識を継承せずに、何かお宝でも埋まっているんじゃないかと、墓荒らしのような真似をするとか。実際、核燃料の廃棄物は再処理可能な部分を含んでいる場合があるし、様々なレアメタル、場合によっては金などを含んでいて、有害性さえなければ希少金属の宝庫だったりしますから、何の施設か知っていてあばかれる可能性さえあるかも知れません。劣化ウラン弾つくるためとかね。あるいは宗教的な理由とか。。。映画『続・猿の惑星』では、核戦争後の人類がコバルト爆弾を偶像崇拝の対象にしているというエピソードが出てきますが、まさにこんな事態に考えを及ぼし、ほかにもいくつかの理由を挙げています。
 こうした思考は重要だと思います。少なくとも、人類が現在の延長のままで10万年も存続できるなどとは私はまったく信じていないし、思想的パラダイムの変化はあって当たり前でしょう。
 本作は、このような事態が将来起きたと仮定し、施設に侵入した未来の人類に語りかけるナレーションを交えながら映像が展開していきます。深閑とした施設内部の様子を伝える一方、事業を進める会社や関係者から、未来のことについて返答に詰まったり、「わからない」という言葉をたくさん引き出したりしたのはお見事でした。

 ですが、個人的にはあまり好感が持てませんでした。施設をひたすら不可解で不気味なものとして印象づけようとしていて、作り方がフェアじゃない。一見ドライで無機質な映像のようですが、制作者の粘着質な感じが伝わってくるんですよね。
 たとえば、「将来施設があばかれたとしても、その頃には今よりも優れた処理技術が確立しているかも知れない」とか、ポジティブな宣伝用のロジックを事業者たちが用意していないわけない。にもかかわらず、コメントの紹介は一面的です。
 そして何よりも、施設や収納容器の耐久性などについてほとんど触れていない。だから、どのくらいの規模の災害や衝撃で容器が破損し、放射性物質が漏出するとかがわからない(私もあまり人のこと言えませんけどね)。簡単でもいいから説明して、未来の人類がどのようにして施設をあばき、被爆しうるのか、観客の想像力を誘うように作るべきだと感じました。
 邪推でなく、本作はそれを避けている。きっちり説明したら「何だ、すげー頑丈じゃん」なんて思われ、危険な印象を薄めてしまうのを回避したのでしょう。結果として、肝心なところをヴェールで覆い隠し、施設を謎に包まれた、畏怖を誘うパンドラの匣として描くことで、人々の原罪意識をくすぐります。特に、東日本大震災からわずか3か月しか経ていない私たち日本人には、核へのアレルギーをひときわ植えつけることでしょう。
 しかし、本作が観客に印象づけている恐怖感の正体は、放射性廃棄物の危険性そのものではなく、未知なるものへの不安感です。これは、伝えるべきことを伝えないことによってもたらされているものであり、ドキュメンタリーフィルムがそれでいいんでしょうか?

 私は決して放射性廃棄物の最終処分の現状に賛同しているのではなく、むしろ否定的立場です。私たちのいま現在の消費のために、有害な負の遺産を残すというのは、子々孫々、どれだけ罵倒されても仕方ない。しかし(私のセリフではありませんが)的確な判断は正確な情報があってこそ下せるものです。そして情報というのは、的に向かって放たれた矢のようなもので、エネルギーや方向性、つまりベクトルを持っています。情報を発信する人は、受け取った人を何かしら変化させようとして発信するのです。本作はそのベクトルがかなり強い1作という気がします。
 あえて監督さんを擁護するなら、低予算なのがアリアリとわかるので、細かいフォローができなかったのかなという気もしないでもない。言いすぎかな? 。。。とはいえ、核エネルギーのあり方に強い関心を持つ私としては、貴重な資料映像を観られたのは収穫でした。

 それにしても、調子づいて言うわけじゃないんですが、やはり核の全廃には軌道エレベーターしかない。私は本気でそう思います。オルキルオトの施設、本格稼働は100年って。。。だったらそれまでに軌道エレベーター造れるよ!

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