軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

ディープ・インパクトとアルマゲドン

2010-03-26 23:03:44 | その他の雑記
「2012」に引き続いて映画のお話を。
 前回の雑記で「アルマゲドン」をデタラメと述べたら、同時期に公開された「ディープ・インパクト」が今夜、日本テレビ系で放映してますね。両作ともに、大型天体の地球への衝突という題材を扱っていながら、科学考証の面で天と地ほども異なる作品です。「ディープ・インパクト」の方が、「アルマゲドン」とは比べようもなくマトモだと私は評価しています。

 たとえば「アルマゲドン」では、固体燃料ロケットブースターのようなものをオービター本体に取り付けたスペースシャトル(のようなもの)が登場し、すぐ近くの発射台から2機連続して打ち上げられたあげく、これが月まで飛べてしまう。
 もちろんこんな代物は現実には存在しないし、現行のスペースシャトルはせいぜい高度600kmくらいまでしか上昇できません。月までの距離は平均38万km。東海道新幹線に例えるなら、東京から隣の品川までしか行けないようなものです。
 それに、スペースシャトルの発射台は、打ち上げ時の振動を水などで吸収していて、そうしないと自らの振動で機体が壊れてしまう。それを、すぐ目の前で2機も発射させられるわけないだろ! こんなものを短期間で造れるなら苦労しません(月の引力によるフライバイを利用して、小惑星に後ろからとりつくというのは面白いと思ったけど)。
 さらに、ブルース・ウィリスたちが船内から宇宙服(与圧服)を着てすぐ真空の船外に出るわ(少なくとも現代の宇宙服の場合、数時間かけて気圧を下げ、体を慣らしてからでないと着用できない)、宇宙空間でグライダーみたいに旋回して飛んでくわ、そもそも小惑星の発見がマヌケなまでに遅すぎるわ(テキサス州大のモノが18日前まで見つからないって何だよ?)。。。なんてのを観た日にゃあ「ええ加減にせえよ」と言いたくなってしまった。
 ある意味ハッタリもここまで来ればかえって天晴とも言えますが。。。マイケル・ベイ監督恐るべし。

 一方「ディープ・インパクト」に登場する宇宙船「メサイア」の推進システム「オリオン(オライオン)」は、冷戦時代に本当に研究されていたものです。推進に核を使うという過激な代物ですが、大質量を加速させるのには都合が良く、少なくとも試算は行われたらしい。当時の研究成果があるからこそ、この短期間に作り上げられたわけで、実に説得力があるし、こういうネタが好きな人にはグッときますね。
 また、核ミサイルも使ったものの役に立たなかったという設定で、これも、ロシアの弾道ミサイルが、まあ無理すればこのように使えないこともないとのこと(映画でも気休めだとしか思えんかったが)。

 両作とも、結果として核で天体中心付近から破壊するという方法をとるのですが、いずれにしろ、割っても軌道はほとんど変わらないという研究結果もあるそうです。この点は両作ともに苦しいのでしょうか。 以前ある天文台の人に聞いたら「あんな(核で割るという)やり方はダメでしょ」と鼻で笑ってました。

 時間=距離に相当な余裕さえあれば、中心から割ろうとしなくても、無人の核弾頭搭載ロケット(ようはミサイルだけど)を量産して、端っこに片っ端から打ち込んで蒸発させ、重心と向きを狂わせて、天体自体の角運動量によって徐々に軌道から外れさせるという方法をとれるかも知れませんが、映画ではその猶予がなかったということなのでしょう。ちなみに「アルマゲドン」の方では、トッポい科学者が「そんなの無駄」と一蹴しているんですが、そうかなあ? まあ確かに18日しかないんじゃねえ。。。

 私とはまったく逆の、「アルマゲドン」の方がよく出来ているという評価も読んだことがありますし、狙いが違う作品にこういうツッコミをするのは無粋かも知れませんが、私は、ハリウッド映画にしては、「ディープ・インパクト」の方が良質な感じがしました。

 軌道エレベーターに関係ないネタばっかり続きましたね。すみません。間もなく1周年です。御挨拶の文とともに、この3か月ぶんの目次を、近く掲載しようと考えています。




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2012

2010-03-23 20:37:56 | その他の雑記
映画「2012」がレンタル開始になりました。
 ある日突然ニュートリノが地球内部の物質と反応を起こして、地下に熱がたまって大災害が起きるという、いやもう「ありえねー!」という作品。このノリを楽しむ一面もあるのですから、そういうありえない物語を楽しむか、ツッコミを入れて楽しむかは人それぞれでしょう。
 私も特撮が楽しみで観たクチですが、「ここにはマジにツッコまんと」と思う場面もありました。

 たとえば、準主役格の科学者が、地磁気が逆転した上に、地殻が23度滑って北極の地理上の位置が変化したと説明するシーンがあります。その後、米大統領首席補佐官と、別の学者がこんな会話を交わします(英語でも確認しましたが、このように言ってます)。

「ということは、今や北極がウィスコンシンの辺りってことか?」
「正確に言うと南極ですけどね」

いや、正確に言っても北極だろ。
 もちろんこの場合、磁極のN極とS極は変わりますし、NとSは北と南の頭文字ですけれども、磁場が逆転したって、今の北極を「南極」と呼ぶことはないでしょう。人類史上未経験の事態ですから、本当に起きたらどうなるかは断言できませんが、この場合はちゃんと決まりがあるので。
 天体の北極と南極は、自転の向き、もしくは北極星との位置関係で決まります。金星のように磁場がない星だってたくさんあって、ちゃんと北極と南極が決まってるんですから、磁場の向きで決まるわけではありません。この映画では地球自体の相対的位置などは変わらないので(多少影響受けてるかも知れないけど)、南北の呼び方は変わらないはずです。

 さらにこの映画、極の南北以外にも間違っているのではないでしょうか? ウィスコンシンのミルウォーキーを基点にしたとして、位置は北緯43度。地殻が23度ぶん滑っても距離が足りません。磁極としての北極は、北極点(地軸)から数百~1000kmほど離れていて、常に変動しているそうですが、それを差し引いても足りない。
 どうも、制作者は地軸と磁極をごっちゃにしていて、地軸がもともと23.4度傾いているから、さらに23度傾くことで、ウィスコンシン付近にずれたと解釈しているように思われます。しかし地軸の傾きというのは、黄道面=地球の公転軌道面に対する傾きであって、緯度がズレている(北極点が北緯67度付近にある)というわけではありません。地殻が滑ろうと磁性が逆転しようと、地軸の位置は南北緯90度です。

 わかっていて演出でやっているのかも知れませんが。。。まあ、「アルマゲドン」みたいなデタラメな映画は沢山ありますから、こんなのかわいい方ですね。

 それにしても、今書店やネット上などで2012年に世界の終末が来るとのたまう手合いが増えてきてるようです。そんなに世界が滅びてほしいのかと言いたくなりますが、案外そういう人、多いんだろうなと思い直しました。
 オウムなどの例を見るまでもなく、えてして自我の肥大した(そのくせ下積みの努力をしない)人ほど、自分の不満を世間のせいにしたがるもので、「自分の偉大さを理解できない世界なら滅びてしまえ」などと考える人は少なくないのかも知れません。
 「アセンション」だの「フォトンベルト」だのも加えて、結果として今よりいい世界になるという予言もあるので、そういう人は、自分だけは滅亡に巻き込まれないと思っているのでしょう。

 1999年のノストラダムスの予言が世間を騒がせた際に、当時山のように出版されたノストラダムス予言本を検証する本を書いた作家の山本弘氏が、「予言者の原則」としてこう述べています。「予言者(預言者、霊媒、占い師、ノストラダムス予言解釈者も含む)は自分の予言がはずれても決して反省しない」。
 きっと2012年についてもこの原則は当てはまるでしょう。でも私はこれにもう一つ加えたい。予言を信じる人が次から次へと出てくるから予言者は反省しないのです。だから、
「予言を信じたがる人は、その予言が外れても決して学習しない」。

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「軌道エレベーター定義書」を新設

2010-03-15 00:05:00 | その他の雑記
 今回はコーナー(画面左の「カテゴリー」のこと)を一つ新設します。題して「(軌道派による軌道派のための)軌道エレベーター定義書」。

 過去にも書いたように、以前からこのようなものが必要だと考えていました。
 このホームページも来月で1年になります。多少なりとも軌道エレベーターについてあれこれ記事を書いてきましたが、ただでさえ専門用語などが多いこの分野。少なくとも、伝えようとしている「軌道エレベーターとは何ぞや?」という基本事項について、記事のたびにブレないよう、この「軌道エレベーター派」内で完結して使えるモノサシが必要ではないか?
 そういう思いから、軌道エレベーターの定義というものを作ろうと思い立ちました。

 とはいえ、最初は極めてシンプルな数十行の箇条書きに留めます。というのも、今後の更新作業を通じて、内容の完成度を上げていきたいからです。
 これまで記事を書くことで見出したことや発見したことなどが多々あり、当然これからも「あ、この点にも触れなくちゃ」などということは山ほど出てくることでしょう。たとえば、定義中で触れている「オービタルリング」などは、これ自体の定義が必要でしょうから、いずれ独立した項目を設けたいと考えていますし、いずれ図も添付したい。

 そんなわけで、勿体ぶった文体ではありますが、まずは簡潔なものを骨格として作り、徐々に肉付けしていきたいと考えています。ご覧いただいている皆様の中で、「こういうのも定義に入れないとまずいんじゃない?」などという点があればご指摘ください。
 私の好みも入った、あくまで軌道派のみにおける定義書ではありますが、これに限ってはお遊びはありません。そうして、「軌道エレベーターの定義」を成熟させ、多くの皆様に受け入れられ、通じるものになれば嬉しいです。
 つまり、この定義書の最終目標は、タイトルのカッコの中がなくなることと言えるかもしれません。さあ、いつのことやら。ただでさえ衰退の一途にある「軌道」の名、果たしてその時が来るのか。。。?

 何はともあれ、「(軌道派による軌道派のための)軌道エレベーター定義書」は、この下の記事をご覧ください。

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(軌道派による軌道派のための)軌道エレベーター定義書

2010-03-14 23:57:42 | 「軌道エレベーター定義書」と画像提供について
 当サイトにおける、軌道エレベーター及びその関連事項の用語や概念を用いるにあたり、前提とする定義です。閲覧のご参考になれば幸いです。

1.軌道エレベーターの定義
 任意の高度における衛星軌道上に、恒常的あるいは一時的に重心を有する人工衛星の一種であり、天体(主に惑星)の周囲を公転しながら、当該天体の表面もしくは上空と、より高度の宇宙空間との間で質量を輸送するシステムの総称。「宇宙エレベーター」とも呼ばれる。
 主たる輸送機関にロケットを使用せず、電気その他を動力源とした駆動または推進、もしくはそれ(軌道エレベーター)自体の角運動量を用いて質量を輸送する。ただし、ロケットその他の噴射式推進機構を補助的に使用することはあり得る。

2.基本分類
(1) 静止軌道エレベーター
  静止衛星軌道上(地球の場合は高度約3万5800km)に重心を持ち、主星となる天体の自転速度と同期して赤道上を周回するもの。もっとも一般的なモデルであり、本サイトにおいては、特に断りなく「軌道エレベーター」と呼ぶ場合はこれを指すものとする。なお、建造段階の一時期に重心が静止軌道上にあるが、完成時には別の位置に定まるものもこれに含む(*)

(2) 低/中軌道エレベーター、または(極超音速)スカイフック
  低-中軌道上に重心を持ち、主星となる天体の自転速度より速く周回するもの。当該天体の自転と同期せず、したがって天体表面に接触しない。

(3) 高軌道エレベーター
  高軌道に重心を持ち、主星となる天体の自転速度より遅く周回するもの。(2)と同じく当該天体の自転と同期せず、天体表面に接触しない。

(4) 傾斜軌道エレベーター
  (2)(3)のうち、主星となる天体の赤道面に対し傾斜角を有する軌道を周回するもの。高緯度上空の軌道や極軌道などを周回するものはこれに含まれる。

(5) その他
  マスドライバーやレールガンなどとのハイブリッド型も、形態や使用方法により「軌道エレベーター」に含む。

 これより下記では、特に断らない限り、地球上における静止軌道エレベーター=上記2の(1)=を指すものとする(ただし、ほかの型の軌道エレベーターと重複する部分もある)

3.発達度による分類
(1) 第1世代
  地上と宇宙をつなぐ基本的、または小規模なケーブル/テザーを輸送機械(以下、昇降機と称する)がグリップして上下するもの。静止軌道エレベーターの要件を最低限満たした、初期の基本的なモデル。

(2) 第2世代
  第1世代から輸送その他の能力を拡大し、付随的機能を備えたもの。例として、
* 任意の高度へのステーション設置
* リニアモーターなどの導入による、構造体内部を昇降機が上下する機能
* 静止軌道より低高度での落下、高高度での遠心力を用いた上昇などによるエネルギーの回収
* 質量を第2、第3宇宙速度で投射する機能
 ──など、こうした付随機能を複数備えたもの。

(3) 第3世代
  軌道エレベーターの構造を、鉛直構造のみであった第二世代から、立体的に広げてより機能を拡大したもの。オービタルリングによる軌道エレベーター間の連結や、地球上の高緯度地域との複合的連結などを行ったものなど。

(4) その他
 第2世代の付随機能を最低一つは備えながら、昇降システムは第1世代のケーブル状のものを使用し続けるものについては「1.5世代」、さらにこれに第3世代の特徴も備えたものは「2.5世代」とする。

4.その他関連用語
ピラー:地上(天体表面)もしくはその上空と、より高度の宇宙空間を結ぶ軌道エレベーターの本体を支える基本構造体を、素材や規模にかかわらず「ピラー」と呼ぶ。この呼称は第1から第3世代まで共通して用いる。

地上基部:軌道エレベーターのピラーと、天体表面において接続する場所に設けられた施設を指す。当サイトでは陸上、海上にかかかわらず「地球上の基部」という意味で「地上基部」と記す。

昇降機:業界用語では「昇降機」とはエレベーターシステム全体を指すが、本サイトにおいては、軌道エレベーターのピラーに沿って移動を行う乗り物や運送機械を「昇降機」と呼称する。

軌道対称(構造):軌道エレベーターの重心となる位置=地球周回軌道(主に静止軌道)を挟んで引っ張り合って支える構造。主にピラーに負荷をかけないために用いる。一例として、低軌道と高軌道のステーションが「2次ピラー」によって静止軌道を挟んで引っ張り合うことで、軌道エレベーター本体の1次ピラーに力学的に依存しないようにするもの(右図参照)。同一軌道上を周回する複数の衛星が同居しているとみなすこともできる。軌道エレベーター本体の基本構造も、この軌道対称構造の一例である。当サイトの独創にもとづく造語であり、当サイトでは、ピラーへの負担を軽減するために、この構造を多く用いる。応用として「軌道対称性を持つ」などという表現もありうる。

(以上の項目は、随時加筆・修正し改善を続けます)

(*)この記述で指すのは、完成後のピラーにかかる張力のうち、遠心力を強く設定して安定させる研究モデルを想定している。

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秋葉原で年会報売ってます

2010-03-11 22:13:41 | その他の雑記
 更新が滞っていてすみません。きょうはお知らせを。
 宇宙エレベーター協会(JSEA)のホームページでもお知らせしているのですが、JSEAの初年度年会報CD-ROM「JAPAN SPACE ELEVATOR ASSOCIATION ALMANAC 2008年度 日本宇宙エレベーター協会(JSEA)年鑑」(一般販売版)を、秋葉原にあるレンタルショーケース店「アストップ」のケース「F-25」に置き、委託販売をしております。

 賃料などがかかるので、本体価格1000円に100円増しで販売してますが、代わりに先着47名様に、「宇宙エレベーターポケットブック」をおまけにつけさせていただいています。
 ぶっちゃけた話、委託時点での在庫は47部ですべてだったのです。今月2日に箱に入れたので、現時点の在庫は不明です。日曜日に確認しにいく予定ですが、変化がなかったら悲しい。

 販売期間は4月1日まで。このところモノの宣伝ばっかですね。でも、実は私が年会報の編集委員長なんですよ。買ってください。
 そろそろ次年度の制作にとりかからないと。。。次は本題の軌道エレベーターネタの予定です。

(以下は年会報の目次です)

「JAPAN SPACE ELEVATOR ASSOCIATION ALMANAC
2008年度 日本宇宙エレベーター協会(JSEA)年鑑」(一般販売版)


年会報発行に寄せて
(献辞)The Space Eleavtor: Where We Stand and Japan's Growing Role
JSEAの歩み
メディア出演・掲載記録
会員アンケート結果
09年度事業案

特集1:第1回宇宙エレベーター技術競技会(JSETEC)速報
 JSETEC参加レポート

JSEA理事座談会

会員による寄稿
 SE実現は未来のパーティー
 構築原理の美しさに魅了されて
 SEに乗るための(たぶん)必須事項
 『機動戦士ガンダム00』に見るSE
 宇宙に夢中という幸せ
 先見の明によるSEの建造
 Happy birthday from Germany!

特集2:「機動戦士ガンダム00」
 前編 軌道エレベーター勝手に検証
 後編 ブレイクピラーは起きるのか?

2008年度活動報告
 第1回ワークショップ
 2008 Space Elevator Conference('08 SEC)
 第2回ワークショップ
 第1回日本宇宙エレベーター会議(JpSEC'08)

編集後記
 

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