軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

米LiftPort、月軌道エレベーターへ向け資金を公募

2012-09-27 21:03:45 | ニュース
 米LiftPort社は、地球近傍の軌道上と月面を結ぶ軌道エレベーター(月軌道エレベーター)を実現するために、一般の有志からの資金公募を行った。
 同社の提案する月軌道エレベーターは、地球─月系のラグランジュ1と月面との間にテザーを結び、クライマーにより人や物資を運搬するもの。最終的には地球上の静止軌道エレベーターも設けて、月と地球を往復する安価なルートの確立を図る。なお今回公募したのは、その実験のための資金。



 同社はこれまで、静止軌道エレベーターの実現と営業を掲げてきたこともあるが、資金不足と要素技術の遅滞もあり依然として達成できず、実現の見通しは立っていないのが実情。そこで、より早期に実現できる可能性が高い月軌道エレベーターを短期目標に掲げ、一般市民からの資金調達を通じたPRを行うとともに、新たな存在意義と方向性を模索する狙いもあるとみられる。
 同社によると、今月18日までに当初目標の8000ドルの14倍にあたる110000ドルが集まったという。(軌道エレベーター派 2012/9/27)

(以下は軌道エレベーター派の雑文です)
 更新滞っていてお詫びします。今回は「ニュース」と「気になる記事」を併せた内容を書き散らかします。
 さて今回の提案ですが、地球─月系のL1を重心に設ける軌道エレベーターであり、高軌道エレベーターの一種とも言えますが、完成型は微妙に月から吊り下ろされるバランスになりますか。構想そのものは、軌道エレベーターのバリエーションの一つとして、ずいぶん昔から提唱されていたものであり、特に新しいモデルではありません。私もポケットブックで触れてますし。方法もL1を足場とし、そのまんまテザーケーブルを伸ばして造る典型的なブーツストラップ式。図によると全長25万km程度のようですね。月は自転周期が公転周期と同じなので、基本的に地球に同じ面を向けているのですが、それでも結構なブレがあるので、月面と直にくっつけてしまうというのは少々大胆な気もします。第1世代のモデルであってピラーが剛体ではないから、月そのものに吸収してもらうなど、その辺は何らかの免振機構が設けられるのかも知れません。素材の要求強度も低く、少なくとも地球上に造るよりは現実味があるのでしょう。

 月探査機などは、別にL1を通過して月へ向かうわけではないので(通常はもっと速いスピードでL1とは異なる「中間点」というのを通過していきます)、宇宙船などは任意の高度でエレベーターに取りつくのが合理的でしょう。少なくとも現代の技術では、それはそれで大変なはずですが、月周回軌道に送りこんだり帰ってきたりするのよりは低コストではあるのでしょうね。
 とりわけ有人飛行の再開には役立つのではないかと。アポロ(サターンV)が月へ向かう際には、地球の重力を振り切るために大量の燃料を消費するので、当然莫大なコストを要するのですが、帰りは帰りでスピードが出すぎて結構大変なんですな。アポロの帰還船が地球に戻る時のスピードは、有人の移動体による史上最速のスピードとしてギネスにも認められていて、そのまま地球大気圏に突っ込むと燃え尽きる。このため、アポロの再突入カプセルは大気圏上層に浅く突入して、深入りせずに再び宇宙へ逃げるという「スキップ弾道」と呼ばれる行程を7、8回行って徐々にスピードを殺した後に地上に帰還しています。
 LiftPortの月軌道エレベーターが実現すれば、こうした負担も軽減されるでしょうし、月の重力は地球の1/6で大気もないですから、人を載せたクライマーの運行も地球上よりは平易になると思われます。Liftportは将来的には、地球上に築く静止軌道エレベーターとのコラボで、この月軌道エレベーターの運用を想定しているそうですから、そういう時代が来ればいいと願うのは、いつものことであります。

 今朝の朝日新聞によると、現在進行中の米大統領選では、ブッシュ政権がぶち上げた「月面回帰」に両党とも触れないという有様ですし、個人的には、軌道エレベーター業界を活気づけてくれるこういう話題が出てくるのは大歓迎なのですが、今は話半分以下に受け取った方がいいかも知れません。LiftPortといえば、以前は2018年までに軌道エレベーターを造って第1便をリフトオフさせるという大風呂敷を広げ、その後目標年を2030年代にシフト。さらに500万円程度の借金が返せず右往左往したりという話も耳にしましたから、今もさぞや青息吐息に違いない。今回の話でも「俺ら静止軌道エレベーターぶち上げてんだけどさあ、まだまだかかるわ」と正直に述べているあたり、結構泣けます。
 だから今回の話も山師臭い雰囲気を感じる方も多いでしょう。Michael Laine 氏がプロモしていて、私4年前にちょっとだけお会いしたことがあるんですが、こんな人だったっけか。。。? しかし、この草の根運動には色々と苦しさが伝わってくるのは同志的な気持ちが沸くというか、他人事とは思えんわ。オービタってるなあ。でも月面着陸用ロボットにアームストロングと名付けるのはどうでしょうか。
 庶民の力で本当に実現すれば素晴らしいんですがねえ。私も面白半分に寄付しようかと思ってたのですが、もう終わっちゃったかな? 皆さんには勧めませんが。

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JAXA「軌道エレベータ"構想段階"」

2012-09-12 22:31:12 | その他の雑記
 またまた更新に間が空いてしまいました。気管支炎がぶり返して、ちょっと体調不良です。しかし、外注で受けた原稿をようやく脱稿したので、これで少し余裕ができました。この軌道エレベーター派も、このところ内容が脱線してばかりだったので、原点に戻った更新ができればと思います。そんなこんなで、きょうは宇宙とJAXAがらみのことを一筆。

 JAXAが『日本の宇宙探検』という書籍を刊行しました。広報誌をちょっと厚めにした感じの、一般の広い層向けの本で、あまり突っ込んだ情報はないのでコアな宇宙ファンには向いていませんが、わかりやすい内容で価格も500円とリーズナブルな一冊です。日本人宇宙飛行士の活躍やインタビュー、有人宇宙飛行ミッションの歩みなどが掲載されています。1957年から2011年までに打ち上げたロケットの一覧は資料価値もありそうです。
 その中の72頁。「宇宙へ向かうエンジン、宇宙で使うエンジン」という項目があります。ふだんあまり宇宙に関心を示さない人、というか、はっきり言うと「はやぶさ」とか「金環日食」の時にだけファンになるような人には、今は亡きスペースシャトルのSRBと「はやぶさ」のキセノンイオンエンジンも同じようなものだと思うでしょうから(まあそういうのどうでもいいんでしょうけど)、こういう区別をきちんと説明しようとするのは好感が持てました。
 さて、この頁に「宇宙への/宇宙での推進手段」という表があり、「プロペラントなし」の項目を下に読み進むと。。。軌道エレベータ」の文字が! 「構想段階」にカテゴライズされています。天下のJAXAの本に軌道エレベーター? 構想中?(別にJAXAが構想してるんじゃなかろうが)これはつまり、宇宙航空研究開発機構(正確にはJAXA有人宇宙ミッション検討のミエル化チーム)の皆さん、
 
 JAXAは軌道派ってことでよろしいですな、あ?

 (C)青田龍彦。しかしもっと気になったのは、「軌道エレベータ」のすぐ下。「ワープ ワームホール」って、超空間航法じゃねーか! 軌道エレベーターはここまで飛躍したモノの1コ上かい。確かに、どちらも現代物理学の範疇で説明可能ですが、軌道エレベーターの基本原理は古典的なニュートン力学の範囲でおおむね説明できる一方、時空を捻じ曲げるワープやワームホールは相対性理論の体系(アインシュタイン=ローゼンの橋など)が必要ですからね。ちょっとレベルが高くて実現までの距離が違い過ぎる。まだ「妄想」段階だよ。
 しかも、マスドライバーが「研究中」で軌道エレベーターが「構想段階」って、そんなご無体な。我々のやってることって研究扱いされてないのね。結局、軌道エレベーターはまだまだトンデモネタ扱いということですかねえ。うーん。。。

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