軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

今年1年、ありがとうございました。

2013-12-31 14:10:09 | その他の雑記
 バタバタしてたら大晦日ですよ皆さん。この軌道エレベーター派では、3か月から半年くらいに1回のペースで、目次(更新記事へのリンク一覧)を掲載してきました。特に毎年元日は年頭あいさつと目次をセットでアップします。目次の最後には前回の目次へのリンクを付けており、たどっていくと、過去4年余りの更新の目次を順次閲覧できるようにしてあります。余談ですが、目次をアップすると瞬間的にアクセス数が跳ね上がります。
 しかし一時体調を崩していたこともあり、この2年間は目次を載せておらず、最後の目次は2012年1月1日でした。このまま明日の元日を迎えると、一気に2年分載せなければならないので、きょう2012年分、あすは今年のまとめの13年の分を掲載することにしました。
 皆様はこの1年、いかがでしたでしょうか? 私はお陰さまで体調も元通りになり、なんとか元気にやっています。一時期は大変でしたが、色々環境も変わって、結果的に良い方に転んだ1年でした。色々気づかってくださった方もおり、感謝に堪えません。
 一方で、今年は金子隆一先生が逝去され、日本ではこの分野における最大の貢献者と言っていい方を失いました。まだまだ伺ってみたいことが沢山ありましたが、その実績に恥じない活動をしていきたい、と思っています。
 今年1年、当サイトをご覧下さった皆様、誠にありがとうございました。来年も軌道エレベーター派をよろしくお願いいたします。それでは皆様、よいお年を。


目次(2012年1~12月)
前回の目次からきょうまでに更新がなかったコーナーについては、一番最近の記事を載せています。

軌道エレベーター派宣言
 あいさつに代えて、このホームページのスローガンのご披露

軌道エレベーター早わかり
 はじめて「軌道エレベーター」という言葉を知った方のための、簡単な基礎知識の説明

(軌道派による軌道派のための)軌道エレベーター定義書
 当サイトにおける「軌道エレベーター」の構造や分類などについてまとめた定義一覧

軌道エレベーター豆知識
 軌道エレベーターに関する情報や知識をテーマ別に紹介
(27) よくある誤解

軌道エレベーターが登場するお話
 小説やアニメなど、軌道エレベーターに関係する物語のあらすじと、作中に登場する軌道エレベーターの特徴の解説
(10) 南極点のピアピア動画

専門書・論文レビュー
 軌道エレベーター関連書や論文の紹介
 (6) 宇宙エレベーター -宇宙旅行を可能にする新技術-

軌道派アイデアノート
 軌道エレベーターに関する管理人のオリジナルアイデアの紹介
 (4) デブリ根絶計画(上)
 (4) デブリ根絶計画(中)
 (4) デブリ根絶計画(下)

軌道エレベーター学会
 軌道エレベーターに関する研究発表
 軌道エレベーターによる放射性廃棄物の処分(改訂版)序文と目次
 I章 軌道エレベーターの可能性
 II章 放射性廃棄物処分の現状
 III章 軌道エレベーターによる放射性廃棄物の処分
 IV章 処分計画の改良・応用例
 脚注・参考文献

ニュース
 独自取材のストレートニュース
2.21「スカイツリーの先は宇宙…大林組が軌道(宇宙)エレベーター構想」
6.21「大林組が講演」
7.29「軌道エレベーター 高まる関心」
8.17「第4回宇宙エレベーター技術競技会(JSETEC2012)開催」
12.19「『宇宙エレベーターシンポジウム 誰もが行ける宇宙へ』開催」

気になる記事
 タイトル通り、報じられたニュースから気になるものを拾って二言三言。
1.6「NASA『マジで度肝を抜かれた』」
3.16「神の杖か悪魔の槍か」
7.16「ヴァン・アレン帯に反物質」

その他の雑記
 テーマにこだわらない、日々の他愛のない感想や雑学メモなど
1月
1.1「年頭あいさつ:軌道派の責務とは」(2011年以前の目次も掲載しています)
1.18「なぜ1日は24時間より短いのに「うるう~」はいらないのか?」
1.23「お年賀懺悔」
1.29「君も地震予知に貢献しよう」

2月
2.5「病臥につき」
2.9「軌道エレベーターによる放射性廃棄物の処分(改訂版)をアップしました」
2.27「ありがとうございます 訪問者10万人記念プレゼント」

3月
3.6「プレゼント当選者発表と金星・木星の話」
3.11「少しだけ」
3.27「地球に戻れない」

4月
4.2「3周年:伝えたいことを信じられるのは意外と幸運」
4.9「ロードマップ会議再び。」
4.12「なかなか興味深い北の『衛星打ち上げ』」
4.13「宇宙征服ならず」
4.18「気になる『宇宙兄弟』の音」
4.24「『僕はビートルズ』が終わってしまった」

5月
5.3「神と科学に関する2冊の本」
5.10「新語「オービタる」試験供用開始」
5.13「尾瀬の雪だるま」
5.26「軌道エレベーターから日食は見えるか その2」

6月
6.3「未来図の実現度」
6.29「病臥につき その2」

7月
7.4「やっぱりそうだった」
7.24「やっと飾れた」
7.29「今月31日は軌道エレベーターの日」

8月
8.8「JSEA年鑑完成」
8.26「『プロメテウス』観てきたんですが」

9月
9.12「JAXA"軌道エレベータ"構想段階"」
9.27「米LiftPort、月軌道エレベーターへ向け資金を公募」


10月
10.23「宇宙から歌声を」

11月
11.12「月のうさぎ形模様 巨大隕石の衝突跡」

12月
12.1「セルカンの思ひ出」
12.19「事実上の弾道ミサイルにあらず」
12.31「よいお年を」

 2011年以前の目次は、2012年1月1日の更新の雑記「年頭あいさつ:軌道派の責務とは」をご覧ください。

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2012年度JSEA年鑑完成

2013-12-29 21:58:16 | その他の雑記
 "2012 JAPAN SPACE ELEVATOR ASSOCATION ALMANAC"(2012年度宇宙エレベーター協会年鑑)が完成しました。宇宙エレベーター協会(JSEA)の正会員と協会関係者に配布されるものなので、一般には出さないのですが、間もなく電子版で配信予定です。軌道派のSS木君、後は任せた! 左は表紙デザイン。iOS7のアイコンのように、昨今流行のフラットデザインにしてみました。ロゴをはじめ青系を使うことが多いJSEAとしては新境地かと。
 「2013年度の間違いじゃないのか?」と思われるでしょうが、いえ12年度版なんです。諸事情あって、あと2日余りで今年も終わろうという時期に、かえってヒンシュクかも知れませんが。というか我が協会は13年度で5周年なので、当初は12、13年度の合併号にしようと思っていたのですが、協会から「12年度単独で出せ」との仰せがあり、秋から動き出したという事情もありまして。
 いやもう、ここ数週間はこれの編集作業にかかりっきりでありました。お茶の水のド○ールに居座って黙々と編集。。。これが完成して、ようやくきょう年賀状書いてますよ。久々に体が空いて放心状態。しかし、今回遅れた教訓を生かして、年明け早々次年度に取りかかる予定で、次は5周年記念号としてボリュームのあるものを作ろうと思っていまして、できれば一般販売もしようと販路を模索中です。次号では、「軌道派」色を出そうという野望も抱いております。

 2012年度JSEA年鑑の中身は次の通り。

 あいさつに代えて
 2012 年度のトピックス
(特集)レポート:宇宙エレベーターシンポジウム
 会員?による覆面座談会三たび
(活動報告)宇宙エレベーター講演会+総会
      第4回 宇宙エレベーター技術競技会(JSETEC2012)
      第5回 宇宙エレベーター学会(JpSEC2012)
 2012 名珍場面

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『ゼロ・グラビティ』観てきました。

2013-12-23 22:19:21 | その他の雑記
 映画『ゼロ・グラビティ』観てきました。はじめに言います。宇宙好きの奴、全員劇場で観ろ!
 ストーリーは、船外活動(EVA)中の宇宙飛行士がデブリの衝突で放り出され、絶体絶命の状況に陥るというもので、『ドラゴンフライ』というか『冷たい方程式』のような状況が次々と襲ってくるという感じ。
 いえね、結構ツッコミ所はあるんですよ。ネタバレは避けますけど、 

 ああなって
 こうなって
 そうなる


。。。ていうのはいくら何でもないだろう(MMUやSAFERでΔv得られんのかあ!?)、と言いたくなるのですけれども、それを上回る映像の迫力がすごい。無重量状態の描写も概ね正確だし(ただし慣性の描写に疑問を感じる箇所はある)、正確という以前に独特のアングルだけでも見所十分です。
 実在する宇宙機(ただし運用年代がバラバラだけど)や宇宙飛行士のEVAを、ここまでタップリ描写した映像作品は初めてじゃなかろうか? とにかくあのダイナミックな映像は一見の価値あり。それも劇場の大画面で観ないともったいない。

 しかし、何より本作で評価したいのはです。おと! Oto! It's Sound! 宇宙空間で聴こえるはずのない音を、効果音としてほとんど入れてないんです。登場人物のヘルメット内に聴こえてもおかしくない音(つまり通信を除けば、物理的に接触していない限り聴こえない音)のみを観客にも聴かせて、これは始めの方の場面なので書いてもいいと思いますが、スペースシャトルにデブリがバカスカ当たるシーンなども、衝突音の大部分は聴こえない。この大パニックと正反対の静寂が逆に多くを物語り、観ている側にも戦慄が走るというものです。
 これだよ、こうでなくては! 『アポロ13』だって音入りだったし、心配していた『宇宙兄弟』も結局音が入っていました(『プラネテス』を超えられなかったな。。。)。しかし私は常々、宇宙は無音で描いた方がカッコイイと思っていました。リアルに描きたかったら無音を恐れるな、と。
 もちろん作品にもよるわけで、『ガンダム』や『スター・ウォーズ』で音なしじゃ話にならない。ですが少なくとも、近未来程度の時代設定で、地球近傍、せいぜい月軌道の内側までが舞台の作品は、音を入れたらかえってカッコ悪いぞ、ただし戦争物を除く、といったところでしょうか。嘘の効果音がない。この点一つとっても、この本作は希有な映画だと思います。
 なお余談ですが、原題は"Gravity"(重力)というのですが、日本公開で正反対の「無重力」というタイトルにしたのは正解だと思う。日本の大衆向けにはこっちの方がわかりやすいです。
 もう一度言う、全国の宇宙オタクたちよ、劇場で観ろ!

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軌道エレベーターが登場するお話(13) 翠星のガルガンティア

2013-12-15 21:24:32 | 軌道エレベーターが登場するお話
翠星のガルガンティア
原作 オケアノス
「翠星のガルガンティア」製作委員会
(2013年)


 この春に放送され、続編製作が決まった人気作品です。今回は、普段以上にネタバレが多いので、未見の方はご注意ください。特に今再放送中ですので。

あらすじ 人類銀河同盟の兵士レドは、友軍からはぐれて宇宙を漂流する。人工冬眠から目覚めた時に彼がいたのは、人々が洋上生活を営む未知の惑星だった。どこへ漂着したのか理解できず戸惑うレドに、乗機チェインバーが告げる。「太陽系第三惑星、地球。これまで記録においてのみ存在を示唆されてきた、人類発祥の星である」

1. 本作に登場する軌道エレベーター
 本作の世界では、海面上昇で陸地の大半が没した未来で、人類が船団で洋上生活を営んでいます。おそらくは私たちの世代の直系の子孫であろう人類は宇宙へ進出し、残された人々の文明レベルがアナログ生活に退行したと考えられます。ですので軌道エレベーターそのものは存在していません。
 しかし、レドは旧文明の研究所だった海底の遺跡で、過去の歴史のデータを回収し、再生した映像に軌道エレベーターが登場します。おそらくは静止軌道エレベーターであり、これが複数建造されていた上に、マスドライバーやロストロム・ループのようなものも映っていて、質量を宇宙へ輸送するために様々な手段を併用していた様子がうかがえます。
 旧文明の人類は、急速に寒冷化する地球から脱出するため、新たな居住地を求める勢力と、生体改造による宇宙への適応を主張する勢力に分かれて争い、再生映像の中で静止軌道エレベーターが破壊されるシーンも登場します。この抗争が、人類銀河同盟と敵性体「ヒディアーズ」の生存競争につながっていくことになるのですが、それはここでは割愛します。
 そして物語終盤、ガルガンティア中央部に残されていた旧文明の遺構に、船団長のリジットがキーを差し込むと、インターフェイスに"Orbital Mass driver system"という文字が表示されます(彼らは読めない)。ガルガンティアでは「天のはしご」と呼ばれ、海水をリアクション・マスに用いる打ち上げ機構です。かつては宇宙に物体を打ち上げるために使用していたと思われますが、半壊してそこまでの機能は失われており、彼女は敵対する船団を攻撃するためにこれを砲台として使用します。
 このように、本作には軌道エレベーターの登場はほんのわずかで、このため今回は説明図も省きます。しかし、重力制御でも実現しない限り、「宇宙への移民」というプロセスは、やはり軌道エレベーターなくしては不可能であろう、これはSF作品の常識になりつつあるのはないか、と思います。もっと設定を詳しく知りたいものですが、さらっとしか出てこないということは、それだけ説明不要で当たり前のアイテムになったのであり、喜ばしいことでもあると思うのです。


2. ストーリーについて
 この作品には、「オリジナリティって何だろう?」と考えさせられました。舞台設定は映画『ウォーターワールド』みたいだし、雰囲気やキャラは『コナン(名探偵じゃない方)』や『ナディア』みたい、主人公は『ボトムズ』みたい、チェインバーの動きは『レイズナー』みたいと「みたい」の連続で、どこかで見たような設定ばかり。ストーリー展開も「レドが人々と触れ合って情緒豊かになって、同盟に懐疑を抱くようになるんだろうな。ヒディアーズの正体はクジライカで、人間の末裔なんだろうな」などと先が読めてしまうほどでした。
 にもかかららず 画面の中から漏れ出てくる圧倒的な個性に1話から引きずり込まれてしまった。これは、ちょっとしたシーンにも深い設定を用意しているというだけでなく、それをいかに見せるかに心を砕いているためだと思います。濃縮果汁の一滴と言いますか、ほんのちょっとしか出てこないマシンキャリバー(チェインバーを含む人類銀河同盟の人型兵器)の集団戦闘のカッコよさや、異星人とのファーストコンタクトにも等しい、ガルガンティアの人々とレドとの、試行錯誤しながらの(でも意外に知的な)コミュニケーションの描き方をはじめ、ありきたりの設定でも「この後どうなるんだ?」としっかり思わせる部分を丹念に作り込んでいる。素材を生かすかどうかは、料理の腕次第なんだなあと思わずにいられません。

 しかし何と言っても本作を面白くしているのは、チェインバーの立ち位置でしょう。

 「当機は、パイロット支援啓発インターフェイスシステム。
 貴官が、より多くの成果を獲得することで、存在意義を達成する」


チェインバーは作中何度もこのように繰り返します。コマンドに従属する単なる兵器ではなく、マシンキャリバーは兵士の促成システムの一環を担っているらしく(『ぷちっとがるがんてぃあ』によると睡眠学習までさせてるらしい。夢くらい好きに見させてやれよ)、チェインバーはレドを護り、知識を授け、時に彼の心理を映す鏡となり、ガルガンティアの人々との意思疎通を助けて、成長を導く保護者・教師的な存在になっていきます。
 レドと同じように、チェインバーも友軍とのリンクが断たれたために独自に論理を発達させざるを得ず、ガルガンティアに身を寄せてからは特に、同盟の規範よりも「レドの生存」を優先して自らの行動規範を構築していったようです。それは結果的に、異質な社会に放り込まれたレドが、自立して新たな生き方を切り開くことの後押しになっていきます。まるで「レドの幸せとは何か?」と考えていたかのようにさえ見えます(クーゲル中佐のストライカーとこんなにも差がついたのは、あっちは指揮官機だからだろうか?)。
 そして最後の戦いで、敵機と刺し違える覚悟をしつつもエイミーたちとの再会を希求するレドに対し、「兵士に不適格」として軍籍を剥奪し、コクピットをパージしたチェインバーの論理は明らかに詭弁であり、彼(あえて「彼」と言おう。チェインバー自身、この時から自らを「当機」ではなく「私」と呼んでいる)が「機転を利かせた」にほかなりません。

「この空と海のすべてが、あなたに可能性をもたらすだろう。
 生存せよ 探求せよ その命に、最大の成果を期待する」


 単独で敵と結着をつける直前、チェインバーがレドに告げた別れの言葉は、なんと慈愛に満ちていることか。レドが人間らしさを得ていったように、彼もまた心を得たのではないかとさえ思えてきます(前回述べたように、彼に本当に心があるかどうかは問題ではない)。
 知と生は等しい、不可分なものであり、生きることは知ることである。これがこの物語のテーマの一つなのではないか、と私は受け止めています。実に実に真摯で、美しいお話だったな、というのが観終えた印象です。
 ちなみに『ぷちっとがるがんてぃあ』のチェインバーはかなりイヤミな性格で、レドを小馬鹿にして泣かせている。



3.「翠星のガルガンティア」ぷちっと経済学
 ところで、レドはガルガンティアの生活を「非効率」と言うのですが、本当にそうか? 本作は背景設定の奥深さを感じますが、物理的な問題(たとえばあれだけ巨大だと、波によるねじれとかで連結器に巨大な負荷がかかって危険だろうに)は置くとしても、ガルガンティア船団の物質的な豊かさは常軌を逸している。 情報不足で私が誤解してたらごめんなさい。その上でツッコミます。
 色とりどりの服や装飾品まで身につけ(ラケージ様のあのカブいたお姿は略奪品だろうからいいとして)、わかめパンのような加工食品(干物はまだしも)を食べて、大量の紙を消費し(つまり紙が貴重品でない)、酒まで飲んでいる。ほかにも家畜を育てて焼き肉にしてタレかけて食っとる。これはすなわち、繊維を調達し、小麦など穀類を育てて家畜を飼育(確かにその場面あるけど)できる規模の農業生産力を有することを意味します。
 農業白書などによると、1kgの牛肉を得るには10倍近い穀物が必要だといいます。全長4kmといえば大きく感じて、船には階層があるから延べ床面積の合計はその何倍にもなるでしょうが、継代種子を得て連作障害を回避するには休耕地も必要だし、農場経営には全然足りないでしょう。嵐や時化で塩水かぶったら農地が全滅しちゃいそうだし、そんな環境では家畜なんて絶滅危惧種だよ。このほか製紙工場や酒の醸造所まであることになる。娼窟まであるし(男娼ばっかの)。 このコンパクトな空間にこれだけ多様な1~3次産業が成立しているというのは、現代の市場経済システムを超越してますよ。
 食料以外の鉱物資源の類は旧文明の遺跡から頂戴するとしても、とうてい船団内でエネルギー収支が釣り合った系が成り立っているとは思えない。それでもアリというなら、推定できる「画面に映ってないガルガンティアの真実?」は次の通り。

 (1) 実は陸地の住民と取引している
 (2) 人間、家畜、植物、水、土壌すべてが旧文明のテクノロジーで改良されている
 (3) 使い捨ての奴隷的階級がいて生産を支えている――こんなところか?

 ぶっちゃけ(1)なら全部解決する。(2)は理屈付けとしてはちょうどいい。海にヒカリムシがいるように、ガルガンティアの時代の環境は、遺伝子操作やナノマシンの混入など、旧文明のバイオテクノロジーで改良された生物の末裔で成り立っているのかも知れません。このため人々が意識的でなくても自己調整され、持続可能だとか。彼らは動物のように体内でビタミンを合成でき、壊血病にもならないのかも知れない。とにかく、どこかで辻褄を合わせているのでしょう。(3)はクーゲル船団のようなケースであり、人類銀河同盟の縮図ですが、実はガルガンティアの人たちも底辺層から搾取していたのだ…とか。

 だがそれでも、生産力だけでは決して解決しない疑問、それは貨幣経済が成立していることです。レドはバイトをして、紙幣とコインでお給料をもらいます。ということは造幣局と中央銀行まであんのか!
 確かにガルガンティアほどの大きさだと、お金がないとそれはそれで不便ですが、よしんば造幣機能があっても、離合集散を繰り返す船団では市場が不安定すぎる。そもそもお金とは単なる数字であり、存在しない価値です。それに価値を与えているのは政府による信用保証であり、治安維持機構や需給調整機能とセットでなければ成り立たない。一応徴税制度はあるらしいけれども。
 実際、通貨危機が起きても不思議じゃない事態が生じています。物語中盤で、フランジさんたちの船団30隻ほどが離脱しますが、するとどうなるか? 離脱組には造幣機能がなく、ガルガンティアでしか使えないお金を持ってても意味ないから、その前に物資に換金しようとします。するとガルガンティアでインフレと品不足が起きて市場が混乱します。これを解決するには、通貨当局が市場介入して政府備蓄を放出する必要がありますが、船の寄り合い所帯でそれができるんでしょうか? むしろ信用不安が加速するでしょう。
 ほかの船団との共通貨幣も、上位機関や為替取引市場がない以上ありえない。造幣機能のある船団が貨幣を乱発し、ほかの船団から物資を買いたたく危険もあるし、資源不足とか疫病とかの危機に陥った船団は、すぐに貨幣の信用保証を放棄してしまう。一体どうやって経済を維持しているのでしょうか?
 これはハイテクや物量で解決できる問題じゃないです。しかし、逆に言えばアタマで解決すべき問題なので、通貨の破綻を回避できる、何らかの知恵がある、ということなんでしょうね。だとすると、やっぱり相当効率の良いシステムを構築しているとしか思えないんですが。。。レド、お前はガルガンティアの真の姿を知らないだけだ。
 くだらんツッコミ失礼しました、また来週…はない。ぷちっとがるかんてぃあ!


4. 続編に期待
 てっきり、本作は後半で人類銀河同盟が地球に目を付けて攻め込んできて、レドは地球の側につくのではないか、なんて展開になるんじゃないか、と思っていたんです。その時、ヒディアーズ(クジライカ)との共存が物語の鍵になるのであろう、と。何しろ裏設定が相当ありそうな感じがするもので。でも一方で「1クールじゃ無理だよな」とも思ってました。だからこそ、やはり続編制作決定はいちファンとして嬉しいですね。
 続編で軌道エレベーターに関することや、何か面白いことがあったら、また取り上げようと思います。放送を楽しみに待ってましょう。

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君に「心」はあるか

2013-12-01 20:50:47 | その他の雑記
 キムタク主演のドラマ『安堂ロイド』が放映中です。全話観たわけじゃないですが、「日本のTVドラマ」で「SF」の「オリジナルストーリー」としては結構頑張ってると思うのは私だけでしょうか? で、先日この番組で本田翼ちゃんがキムタクに「感情のプログラムをインストール」するシーンがあったのですが、「いやそれは感情があるかのように振る舞うプログラムだろ」とツッコんでしまいました。ついでに言うと未来のアンドロイドのくせしてインストールもデータのロードも遅すぎだろ。そんなわけで、次回更新内容にも少し関係することもあり、今回は感情=心の問題について少々。

 自分以外の人間に「心」はあるのか? あるに決まってるじゃないかと思われる方も多いでしょうが、実はそれを証明する術はない。なおここで言う「心」とは、「感情の起伏を伴う、自らを外界と区別して認識する働き」と定義します。「自我」「自意識」「魂」「感情」「精神」などと言い換えることも可能です。とにかく何かを「思い」「感じ」、何らかの「気分」を有する内的現象と考えてください。

 私は猫を飼っていて、遊んでやるとはしゃぎ、叱ればションボリし、お腹をすかせると甘えてくる。心があるようにしか見えないのですが、実体は脳というハードウエアで走る、単なるプログラムの対外反応に過ぎないかも知れず、両者を区別する方法はない。残念ながら、私の行為は猫に自分を投影しているに過ぎず、期待や信仰の域を出ていないのが現実です。
 そしてこれは人間にも当てはまります。心は脳の電気的・生化学的反応の副産物であり、高度に複雑化した生命維持機能のオマケに過ぎない。そのオマケの表面的な活動は、複雑な対話であっても極めて単純な二進法的演算の集積で模倣可能だそうです。そして人間の意識が脳の器質から分離して存在しえないことは、以前にも述べました。ゆえに私たちは、自分が「水槽の中の脳」(この世界の実在を証明できないというパラドックスの一つ。映画『マトリックス』で、薬を飲む前のキアヌ・リーブスが置かれていたような状況)であるかどうかさえわからない。つまり、

 (1) 心と同様のリアクションは人工的に再現できる
 (2) 心は脳から切り離せない(外部から注入できるようなものではない)
 (3) 従って、心があるかどうかは自分にしかわからない(他人には本物の心とプログラムによる模倣の区別がつかない)

ですから、キムタクにプログラムをインストールしなければ感情が宿らないというなら、それは本当に単なるプログラムでしかない。キムタクのボディに本物(?)の感情を有するキャパシティがあるなら、インストールせずとも自然発生するはずです。インストール後に情緒を獲得したかのような変化は見せかけであり、単なる情報処理のアウトプットでしょう(ただし、すでに心があっても「感情とは何か」を経験則で知らないので、それを学習するプログラムであるなら別ですが)。

 もちろん合理的に考えれば、他人も自我を持っていることや、自分が水槽の中の脳ではないだろうということは、高い蓋然性があるとは思います。だってね、仮に私が水槽の中の脳で、私の見聞きする世界はすべて幻だったとして、私の脳味噌にきゃりーぱみゅぱみゅのにんじゃりばんばん聴かせて誰が得すんのかと。自分だけ特別な存在だなんて自意識過剰もいいとこですわ。
 しかし証明はできない。自分に心があることは、自分自身の心が感じ取れますが、他人の中に同じものあるかどうかは憶測の域を出ません。これは相当科学が進んでも解明困難じゃないかと思います。 
 これは『胡蝶の夢』のような物語からデカルトの哲学、チューリングテストや「中国語の部屋」(どちらも知性を機械的に模倣できるという思考実験)まで、昔からの議論のテーマであり、新しい観点ではありません。それに「この世は自分以外、全部虚構なんじゃないか」というのは、思春期の青少年にとって通過儀礼的な思考でもあって、あなたも一度くらい考えたことありませんか? 多感な時期の妄想として自然に卒業したでしょうが、妄想だという証拠はないのだ! 私たちの心は死ぬまで孤独です。

 しかしながら、学術的重要性とは別に、それは大したことじゃないです。自分以外の人間が全員オートマタや虚像だとしても、相手に心を「感じる」のは、あくまでこっちの問題だからです。それに、孤独だから他者の心に想像力を及ぼし、理解しようと努力するわけで、他者に心が宿っていようがなかろうが、こちらが生き方を変えて大切なものを陳腐化させる必要はないということです。
 私はこのブログ中で「心がある」という表現をたまに使います。科学的に見たら、心と呼ぶ機能を相手が必ず宿しているかどうかは不明だけど、それににかかわらず、こっち側の心が、相手の温かみやシンパシーを感じるから「心がある」と書く。科学的な見解の話ではないですから、心のある人なら、その辺の区別ちゃんとつくよね?

 最後にまた安堂ロイドに戻りますが、「あいつはロボットなんだぞ」とか言われながらも、柴崎コウ姐さんは彼を受け入れようとします(なんかキムタクにはもともと心があるっぽいんですが)。他者の心の実在が不明な以上、これは私たちが現実世界でやっていることと、まったく何の変わりもありません。
 彼女は正しい。相手の心を感じ、重きを置く心を自分が持っていることは、誰に証明してもらう必要もない。この事実の方が、相手に心があるかどうかよりも比べようもなく大事だ。他者に心があるかどうかは、とりもなおさず自分が、自身の内にいるその人に心を宿らせられるかどうかにかかっているのです。

 。。。なんて書いた後にきょうの放送観たら、キムタク初期化されとった (´・ω・`)

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