軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

よいお年を

2012-12-31 10:16:25 | その他の雑記
 今月転居して、直後に衆院選なんかあったもんだから年賀状書いてる暇もない。荷物整理もできないうちにあっという間に大みそかですよ。

 振り返ると、今年は2月に大林組が「宇宙エレベーター建設構想」を発表するという、軌道エレベーター史に残る一大イベントがあり、まだここで伝え切れていない新たな話題もあって、とにかく記念すべき年でした。
 一方で、軌道エレベーター業界(?)全体としては、我々宇宙エレベーター協会(JSEA)も色々やってきましたが、初期の成長の限界点が見えてきているというのが、私の率直な感想です。今年、関連イベントなどが何度か行われましたが、パネルディスカッションなどを見るに、「まだ見ぬ軌道エレベーターについて語る」という域を出られないため、堂々巡りになる傾向を感じます。
 ようはこの先のネタが足りない。カーボンナノチューブが発見された時のような、次なるブレイクスルーが、せめてそれを実感させる新たな成果や発見が必要な時期に来ているのだと思います。そうでないと、リニアモーターカーのように、また話題に上らなくなっていくでしょう。
 しかし、私はそれでもいいと思っています。どうも一知半解のまま話題先行だけになっても意味がないし、自分たちのやってきたことを見つめ直すこともできるでしょう(気まぐれな便乗派みたいな人たちをそぎ落とす機会にもなるし)。世間の関心に必ず波はあり、忘れられたころに、再び関心を集める時が来るものです。その時、これまで着実に蓄え、積み上げてきたものはあるので、それがきっと次の伸びしろにつながるであろうと。
 2013年が、軌道エレベーター史においてどのような年になるか、予想はつきづらいのですが、軌道エレベーター派としては、とにかくも動じずに、伝えるべきことを伝えていきたいと思います。今年は諸般の事情で更新がななかなか進みませんでした。お詫びいたします。どうぞこれに懲りず、来年もよろしくお願いいたします。
 世界の軌道派の皆さん、どうぞよいお年をお迎えください。

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事実上の弾道ミサイルにあらず

2012-12-19 21:59:28 | その他の雑記
 北朝鮮が衛星を打ち上げてしまいました。世間は大騒ぎでしたが、個人的にどうにも引っかかって仕方のないことがあります。それは、テレビメディアなどが連呼する「人工衛星と称する事実上の弾道ミサイル」という言葉。宇宙好きの人なら、いかに滑稽で間違った言い回しかわかるはずです。

 「衛星打ち上げロケットを装ってはいるが、正体は弾道ミサイルですよ」という意味で言っているのはうかがえます。しかし、かの国は今回の打ち上げ、地球周回軌道に物体を投入しました。こりゃミサイルとは呼びません(軌道上の何かに命中させたとかいうならまた違ってくるけど)。弾頭部分が弾道軌道を通って何かしらの目標位置に着弾せず、そのまま地球周回軌道を回り続けているんだから、これはもう、

 事実上、弾道ミサイルではない。

 「人工衛星と称する」も何も、れっきとした「人工衛衛星(及びその打ち上げロケット)」です。「事実上」に該当するのはこっちの方でしょう。衛星が機能喪失しているらしいから「衛星にはならなかった」という発言もTV番組で聞きましたが、機能に関係なく、地球周回軌道上にのったものはすべて「衛星」です。柵越えしてホームランになってるのに「事実上の内野安打」と言ってるようなもので、いったい誰が、この間違った認識にもとづくトンチンカンな呼び方を考え出したのでしょうか?

 「事実上の弾道ミサイル」という呼称にメディアがこだわるのは、ミサイル開発に直結することを強調し、視聴者などにその危険性を認識してもらうためなのでしょう。しかし、やはりこれは誤用と言わざるを得ない。無理して「事実上の弾道ミサイル」と言い続けるより、一言付け加えて「事実上の弾道ミサイル実験」とするだけで全然違うはずなのですが。。。あるいは衛星の存在が確認された時点で「弾道ミサイルの開発に直結した衛星打ち上げ」とか、「弾道ミサイルの技術に転用可能なロケット」などと呼ぶのが適切だった、と私は考えます。
 
 もちろん、ミサイルだろうが衛星だろうが、国連安保理や六か国協議の決め事を反故にする行為が非難さるのは当然です。以前「アポロ計画と戦争」という記事で述べたように、衛星の打ち上げ能力を持つことは、すなわち大陸間弾道弾を開発し、地球上のどこでも攻撃ができる技術水準に達したであろうことを意味します(命中精度は別として。精度が悪い方が怖いし)。また今回はきちんと情報公開をしない以上、打ち上げるまで、ミサイルか衛星用ロケットかわからず、本当に弾道ミサイルだったら、ましてや兵器が搭載されていたら、という脅威は紛れもなく存在していました。言葉使いをあげつらいはしましたが、事実上、弾道ミサイルを有したに等しい。すでに核実験をやっていますから、戦術型ではなく戦略核兵器の保有を意味することは確かで、憂慮すべきことには変わりません。

 正直、ここまでやってのけるとは思わなかった。しかも極軌道方向へ打ち上げたと思ったら(東向きより推力が要る)、太陽同期軌道に乗せたらしいというのは本当に驚いた。太陽同期軌道は、単純に真北や真南に打ち上げるだけではいけなくて、完全な極軌道よりちょっと軌道を傾ける。この傾きが大きすぎても小さすぎてもいけない。これは地球の密度のムラによる重力偏差を利用し、地球の公転にあわせて軌道面を1年で1回転させるという、けっこうな上級ワザであり、これを「衛星ビギナー」のあの国がやってのけたのです。
 結局今回の衛星、故障したのか何も機能していなくて、単なるデブリと変わらないようですが、その程度のことはいずれ解決してしまうでしょう。問題は衛星軌道に物体をのせてしまう能力をあの国が有したという事実です。しかも情報戦でフェイントをかけ、なかなかの外交巧者でもあるようで、安全保障上本当にまずい状況になったという気がします。
 これからどうなるのでしょうか? 宇宙開発は常に、軍拡競争の表の顔を演じてきました。おそらく、それは今後も変わらない。その表の面を利用して北朝鮮のような国が技術を発展させ、国際社会のイニシアチブを握る大国の軍事的優位がゆらいだ時のことに、私たちはもっと想像力を働かせるべきでしょう。

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「宇宙エレベーターシンポジウム 誰もが行ける宇宙へ」開催

2012-12-09 12:41:53 | ニュース
 先月開かれた催しで、引越しが重なって取り上げるのが遅れてしまいましたが、ひと月遅れで紹介します。日本科学未来館は4年前の11月、私たち宇宙エレベーター協会が初めて学会を開いた会場で、久々に訪れて隔世の感ありでした。詳細は協会の会報に書く予定なので、ダイジェストのニュースとして紹介します。


「宇宙エレベーターシンポジウム 誰もが行ける宇宙へ」開催

 軌道エレベーター(以下、発表内容に従い「宇宙エレベーター」と表記)の可能性について意見を交わす「宇宙エレベーターシンポジウム 誰もが行ける宇宙へ」が11月16日、東京都江東区の日本科学未来館で開かれ、約200人が参加した。
 「宇宙エレベーター実現プロジェクト」を進めている日刊工業新聞の主催で、宇宙エレベーター協会(JSEA)が協力。第1部では、「宇宙エレベーター建設構想」を発表した大林組エンジニアリング本部のの石川洋二氏が構想について講演した後、JSEAの大野修一会長が活動内容を報告。続いて第2部では「宇宙エレベーターAWARD」と題して募集した論文の入選作品の表彰が行われた。
 論文は宇宙エレベーター実現の上で「技術的な問題」「社会的な問題」の2テーマで募集。中央大学の学生による「宇宙エレベーター建造における社会的問題~建造初期段階における主導組織について~」が最優秀賞に選ばれたほか、複数の大学、高校生らによる論文が表彰された。
 表彰の後には、石川氏や大野会長のほか、エレベーター製造の技術者などによるトークセッションが行われ、実現の可能性や課題などについて話し合った。(軌道エレベーター派 20112/09)

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セルカンの思ひ出

2012-12-01 22:23:26 | その他の雑記
 今年も残りひと月。こんな時期なのに引越しをしまして、忙しくて更新が途絶えてました、申し訳ありません。とはいえ、以前より原稿を書きやすい環境かも知れません。更新に努めますのでよろしくお願いいたします。

 さて、今年は科学の分野で、iPS細胞絡みのスキャンダルが世間を騒がせましたね。この事件を見ていると、私たち宇宙エレベーター協会(JSEA)は思い出さずにはいられない人物・出来事があります。今回は当時のJSEAの裏話を。

 アニリール・セルカン。「NASAの宇宙飛行士候補」「プリンストン大数学講師」などと称していた経歴のほとんどが虚偽と判明した上、博士論文に盗用が認められ、東大から初めて博士号を取り消された元助教。
 このほかに彼は「NASAで宇宙エレベーターの研究をしていた」とも主張しており、日本(だけ)で著書を出していたほか、氏が監修したとされる『宇宙エレベータ』という映像作品まで制作されました。ちなみに氏はJSEAのスタッフでも会員でもなく、活動には一切参加してません。しかしわずかに接触の機会があり、JSEAの初期メンバーは直接対話したことのある、数少ない証人でありましょう。

 JSEA内では早くから氏について「なんか変だぞ?」という声はありました。というのも、我々の持つ軌道エレベーター業界(?)のコネクションと氏が全然交わらないんですね。2008年の米国会議、バンケットの余興で上記の『宇宙エレベータ』を上映しました。色んな研究者やNASAの人なども来てましたが、上映時に「この人知ってます?」と周りに聞いても誰も知らない。
 経歴の虚偽を細かく暴いた功績は、マスコミではなくネット上の無数の人々に帰すべきでしょう。翌年に某全国紙で紹介された(暴露記事ではない)のが引き金になったと思われるのですが、ようはその記事のせいで目立ち過ぎてしまい、経歴の矛盾に突っ込まれるようになったらしい。掲示板やWikiで洗い出しが行われ、やがて大手マスコミも報じ始めました。

 氏が「宇宙エレベーターの研究者」と称していたので、問題が大きくなるにつれJSEA内でも対応を話し合い、何かあったら「氏はメンバーではありません」と表明するつもりでした。海外の研究の流用も認められたので、私もその年12月のルクセンブルク会議で「出席者に日本の状況を伝えて警告すべきでは」と提案して文書の草稿まで書いたりしました。結局余裕がなくて見送ったんですが、「行ってきます」なんて書きつつ、裏でこんな準備もしてたんですよ。この辺の経緯は、2009年度JSEA年鑑で特集記事を書いています。彼の主張するエレベーター関連の検証もしてますので、会員の方はご覧ください。

 そうこうしているうちに、年明け3月に東大が処分を決めたのでした。氏が唱えていた「ATA」と呼ばれるモデルの発想は既存のもので、著書などに載せている資料は他人のもの。NASAで研究したというのが嘘であることは、ほぼ間違いありません。氏の発表資料にJAXAの知り合いが名を連ねていて、「名前勝手に使われてませんか?」と知らせたら案の定そうだった。
 一方、映像に登場するモデルについては、軌道エレベーター固有の問題点はあれど致命的な破綻はなく、よく設定は練られていたと私は評価します。しかし氏の監修というのは単なる「名義貸し」だったのだろうと考えています。制作サイドに話を聞きに行った際に、実に興味深い裏設定などもうかがったのですが、その後会った本人よりも微細に説明してくれて、質問にも色々答えてくれました。

 この人、結局何がしたかったのかいまだにさっぱりわからない。それだけに話題としては興味深いのですが、氏の起こした出来事は、今もJSEAにとって教訓になっています。弱小団体の私たちとしては、志を同じくする人は基本的に歓迎なのですが、軌道エレベーターの話って、ペテンが入り込みやすいのです。だから我々がもっと見る目を磨かなければいけない、これに尽きます。今も酒の席などでこの台詞が出るんです。
 「第二のセルカン氏が出てきたらどうするんだよう?」

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