軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

宇宙エレベーター協会の功罪

2009-10-30 00:03:52 | その他の雑記
 宇宙エレベーター協会(JSEA)の活動にかかわって2年近く。とにかくやることが多く、今は12月に開く会議の準備や年会報の発行などの準備に追われている。そのこと自体は楽しんでもいる。でも、「何か違う」という気がして仕方がない。
 この違和感の正体ははっきりしているし、JSEAに加わった時からわかっていた。こういうことをしていても、おそらく軌道エレベーターの実現は近づかないと考えているからだ。

 JSEAは、モーターを備えたクライマーがケーブルをよじ登るモデルの模索に力を傾注している。このこと自体が間違いだとは思わない。競技会形式で楽しめるイベントにしたり、それをレゴブロックで作ったりと、多くの人の関心を喚起して軌道エレベーターを身近にした協会の功績はとても大きい。
 これが問題なのではない、「これだけ」という視野狭窄が問題なのだ。JSEAが宣伝しているのは、数ある軌道エレベーターの形態のほんの一つでしかなく、しかも、ひょっとしたら現実には必要ない(実現不可能という意味ではない)モデルかも知れないとさえ私は考えている。

 JSEAは色んな媒体から取材を受けているし、最近はいろんな物書きが軌道エレベーターに触れているが、結果として出る記事の多くはJSEA(あるいはエドワーズ)が特化しているこのモデルの受け売りをしているだけで、しかも軌道エレベーターについて一知半解のまま伝えるものばかり(確信犯でやっている媒体もあるが)。JSEAは、「軌道(宇宙)エレベーター」といえばコレ」というたった一つのイメージを固定化させてしまった。
 このページの画像は私がデザインを起こし、友人にCGに仕上げてもらったもので、あちこちから使用許諾を求められる。そのことはとても光栄なことだし、アピールのためには一つの集約したイメージを押しだす必要はあると考えたので作ったのだけれども、同時に、詳しくない人たちに固定観念をインプリンティングしてしまった。それは新しく知識に触れる人々の可能性を摘む行為であり、私を含むJSEAの罪だと考えている。

 やるべき研究、与えるべき情報、アピールすべき対象はもっとほかにあるのではないのか?

 この「軌道エレベーター派」を立ち上げたのも、こうした違和感があったので、自分が重要だと考える多様なエッセンスを温存しておきたいと考えたからなのだが。。。
 このほかにも、問題を上げればきりがないし、協会には人的・財政的リソースの不足から、やりたくてもできない課題も多い。しかし、自分たちに疑いの目を向けようとしない限り、ミスリードの危険から脱却できないだろう。

 私はJSEAの仲間たちに、とても感謝している。こんなやりがいのある、楽しい思いをする機会を得て、その活動に役立てていることは大変な喜びなのだ。
 だからこそ言わなくてはいけない。私たちは何をしようとしているのか?

 こうした懸念をJSEA内で解消していく準備も進めてはいるし、独自の構想もあるが、このホームページが、JSEAを客観的に映す鏡になればと思う。
 軌道エレベーターへの愛(?)は、協会の仲間も私も変わらないのだから。
 

常磐線特急電車の怪

2009-10-24 00:10:56 | その他の雑記
 このところ忙しくて更新が滞りがちですみません。宇宙エレベーター協会で紹介したネタの使い回しなのですが、今回は電車のお話を。
 JR常磐線の特急「スーパーひたち」に乗っている時、茨城県内の取手─藤代間で突如車内の電灯が消えて暗くなり、少しすると元に戻る。。。こんな体験をした人はいませんか?
 この場所で工事中に感電死した作業員の霊が電気を消している。。。というのはただの都市伝説。この電灯が消える理由、なんと宇宙に関係しているんですね。

 電灯が消える地点から数十km離れた茨城県石岡市に、気象庁地磁気観測所という施設があり、ここは以前紹介した「宇宙天気予報」に情報提供しています。
 常磐線の東京近郊地域は電力供給の仕組みが直流なのですが、これが地磁気の観測に影響を与えるため、電車が観測所に近づくと交流に切り替えるよう義務づけられており、この切り替え地点が取手─藤代間なのです。
 こういうのを「デッドセクション」というんだそうで、電車がデッドセクションを通過するわずかな間、電力供給が途絶えて消灯するのです。この間、電車は惰性でいわば空走しているらしいです。
 昨今の車両はデッドセクション通過時にも停電(?)しない仕組みになっており、今では照明が消えるのは一部の特急のみだそうです。常磐線とおおむね並行する路線を運行している「つくばエクスプレス」も、最新車両なので停電こそしませんが、同観測所のためにデッドセクションが設けてあるそうです。

 走行中車内が暗くなるのが、何十kmも離れた地磁気観測所のためであり、この結果がさらに遥か遠い宇宙での人類の活動にも影響しているなど、乗客のほとんどは知らないでしょうね。


おすすめの本「悪霊にさいなまれる世界」

2009-10-14 00:01:23 | その他の雑記
 軌道エレベーターには関係ないですが、きょうはおすすめの本を紹介します。先日再刊されました。
 本書は有名な故カール・セーガン博士の著作で、科学的思考の大切さを訴えている1冊です。もう10年以上前になりますか。。。当時は「カール・セーガン 科学と悪霊を語る」というタイトルで新潮社から出ていて、私が買った時はハードカバーの1巻本でした。

 人を不幸にする最大の原因は無知と貧困であり、人が本当に闘うべき敵だと私は信じています。無知は人間の残虐性の源であり、貧困は知る機会を人から奪って無知を助長する。この考えに大きな自信があります。
 こんな考え方をするようになった重要な柱の一つが本書で、この本から懐疑精神がいかに重要かを学びました。

 神話や伝承、信仰、都市伝説、UFOと宇宙人、霊、妖精・妖怪、魔女裁判など、本書で触れている話題と例証は実に幅広いですが、こうした根拠のない信仰、迷信や偏見などなど。。。想像力に欠けた、客観性や根拠のない思考が、いかに厄介なものであるかがわかる。そして、誰もが陥りやすいこうした思考停止を、冷静に論破する姿勢で一貫していて、この上ない説得力があります。
 印象的だったのが第十章の冒頭。以下、多少要約してあります。

『うちのガレージには火を吐く竜がいるんだ』
あなたは言う『竜はどこだい?』『ここにいるよ。うちの竜は目にはみえないんだ』
あなたはこんな提案をする。床に小麦粉を撒いて、竜の足跡を取ろうじゃないか。
『だが、うちの竜は宙に浮いているんでね』
赤外線探知機で炎をとらえよう→『目に見えない炎は熱くないんだ』
スプレーで絵の具を吹いて見えるようにしては→『物質でできてないから、絵の具がつかないんだ』
 さて、目に見えず、物質でできておらず、宙に浮いた、熱くない炎を吐く竜がいるというのと、そもそも竜がいないのとでは、いったいどこがちがうのだろうか?

 これは幽霊や宇宙人の実在を主張する人たちの主張に対する強烈な皮肉であり、なんと説得力があることかと、それはもう感心してしまいました。著者はこう述べています。「検証できない主張、証明のしようのない主張は、たとえどんなにそれがわれわれの心を躍らせ、不思議を思う気持ちをかきたてられたとしても、真実としての価値はない」
 本書を読んだ時、依るべき立ち位置を得たような気がして、これは私の重要な姿勢の一つとなっています(調子に乗ってよく破るんですが)。

 まあ理屈を述べ過ぎましたが、ともかく面白い! また、自身の余命が短いことを悟った著者が、折に触れて妻への感謝や情愛を述べているのも印象的です。今回の移籍でタイトルも原題の"The Damon-Haunted World" に忠実になっていいですね。
 でも早川文庫高いですから、Amazonで新潮社刊の中古品買うといいです。さっき調べたら550円でした。

 最初に無知と貧困は不幸の原因だと書きましたが、今でもその考えに揺るぎはないか? どこか見落としはないか? 何度も自分自身に疑いの目を向けて、折に触れて問い続けています。重要なのは問い続けることであり、だからこそ、今自信を持ってそう言えます。懐疑精神の要は、まず自分を疑ってみることです。
 多くの人に読んで欲しい、同じ感動を味わってくれたらとても嬉しい1冊です。

台風が来る

2009-10-07 23:48:14 | その他の雑記
「非常に強い」台風18号が近づいています。予想では、まるで全土を蹂躙しないと気が済まないかのように、日本列島が見事なほど進路にかぶっています。すでに西の方は暴風域に入っているそうです。
 この台風、どうして北半球では左向き(反時計回り)、南半球ではその逆なのかご存じでしょうか? 地球の自転が関係していて、いわゆるコリオリと呼ばれる力によるものです。

 我が国日本のある北半球で説明しますと、台風は赤道付近で発生した低気圧が発達し、北上してきますね。熱帯低気圧と言うくらいですから当然気圧が低く、周囲の大気が台風の中心部に向かって引き寄せられて進んでいきます。
 仮に、いわゆる台風の目、つまり中心部が北緯45度にあるとします。地球は球体で東に向かって自転していますから、同じ地球上でも北に行くほど回転半径が小さい。だから45度より高緯度、つまり北では台風の中心部よりも東へ動く速度が遅い。一方、45度より低緯度=南では中心部より速く動いています。
 このため、大気が北から低気圧に引かれて流れ込む時には、中心部の方が速く東進しているためついていけず、西側から追いかけるように流れる。逆に南側の大気は中心部より速いので、先回りして東側から流れ込む。この結果、反時計回りの渦が形成されると考えられています。

 お風呂や洗面台などの栓を抜いた時、渦の巻き方がこのコリオリの力で決まる、というのは迷信です。台風が地球規模のダイナミックな現象だから影響を及ぼすのであって、貯め水程度では作用する力が小さすぎて、渦の向きを決定するには至らないそうです。北半球の地域でも、その時の水流の向きや水道管の構造次第で、右にも左にも巻きます。ちなみに、このコリオリは軌道エレベーターにも大きな問題とされているのですが、今回は雑記なのでまた今度。
 皆さん、大雨や強風に気をつけましょう。

OEV豆知識(21) 課題・問題その1 他天体との衝突(下)

2009-10-01 23:47:26 | 軌道エレベーター豆知識
 豆知識「他天体との衝突」の3回目。最後に、天然の物体、すなわち自然に地球へ飛んでくる天体との衝突について触れたいと思います。
 
1.大きいものと小さいもの
 一般的な「星」と呼ぶに満たない天体で、大半は数mmや数cmの微小天体。宇宙空間を漂う塵がほとんどです。大きめのものは小惑星と呼びますね。小惑星はけっこう頻繁に地球の軌道とニアミスを起こしているのですが、大きめのデブリ同様、NASAや世界各地の天文台といった観測施設、さらにはアマチュア天文家などが観測・追尾していて、位置や軌道がおおむね把握されています。
 ですから軌道エレベーター(OEV)とぶつかりそうになっても、前回までに述べてきたように耐えるか、小惑星並に巨大なものはよける(OEVの構造体を人為的にくねらせる)ことが対処の選択肢になると考えられます。アーサー・C・クラーク氏の「楽園の泉」(早川書房)で語られる火星のOEV構想には、衛星「フォボス」をOEVがよける光景を見世物にしようなんて発想も登場するくらいです。

 微小な塵が地球の引力に引かれて落下してくるものについては、スピードはかなり速いものも多いんですが、デブリの対処をすでに紹介してますし、軌道上にたくさんあるデブリの方がまだ深刻と言えます。そんなわけで、大きな天体はよける、小さなものは耐えるということで解説済みとして、ここでは天然微小天体の集中攻撃、いわゆる流星雨を主な対象として扱いたいと思います。なお、放射点が天頂方向に来るものを特に流星「雨」と呼びますが、ここではこの呼称に統一します。

2.流星雨
 年に数回は見られる流星雨。今年も8月にペルセウス座流星群(これは「雨」ではないですが)などが観測されました。ではその正体は何だと思われますか? 主な原因は彗星にあるのです。
 大半の彗星の主成分は岩や有機物質などを含む氷です。ようはゴミの混じった雪ダルマで、太陽に近づくと太陽風によってこれがガス化し、反対方向に尾を引きます。このため「ほうき星」とも呼ばれます。ちなみに、彗星の尾は進行方向の反対ではなく、あくまで太陽から遠い方へ伸びます。彗星の由来も非常に興味深いのですが、長くなるので後日の雑記で書こうと思います。



 これが流星雨とどういう関係があるのか? 彗星は尾を引いている間、ガス化した成分を軌道に沿って飛び散らかして行きます。彗星と地球の軌道が交差すると、地球がその帯の中に突入したたりかすめたりして、彗星の残りカスが地球大気に突入し、燃え尽きて流星になるのです。彗星というのは荷台を持ち上げたまま砂利を落として走るダンプカーみたいなもので、地球がその跡を踏む車のような感じでしょうか。

3.軌道エレベーターへの影響と対処
 ここでOEVへの影響ですが、流星雨は秒速70~80kmくらいザラで、軌道上のデブリの何倍もの速さで突入してきます。「雨」というくらいですし、地上から肉眼で見えないものも多いので、OEVにしてみれば機関銃を連射されているようなものですね。ですから流星雨への対処も、OEV実現において考慮しなければならない重大問題なわけです。

 ではどうするか。現存の人工衛星は流星雨に対し、向きを変えて流星雨に対する面積を少なくし、太陽電池などを保護して耐えしのぐのだそうです。
 「これだけかよーう!」と、自分で書いておいてツッコミたくなるんですが、幸運にも、流星雨はたいてい予測がつき、かつ一定期間後に過ぎ去る現象です。OEVも流星雨のシーズンには、推進剤も併用して負荷をかけてでも、重装甲にして耐えさえすればよいのではないか、というかそれしかないんじゃないかと思います。それだけやって破壊された部分は素直に修理しましょう。
 興ざめな消極的結論かも知れませんが、反面、OEVを利用した高高度からの流星観測や研究だって可能になるかも知れない。そう思うと、これもまた一長一短ありではないかと思うのです。上述の「楽園の泉」のように、一種のショーにしてしまえたら楽しみだと思いませんか!
 OEVはまだまだ課題山積ですが、こうした課題を一つ一つクリアしていき、逆手にとって有効に生かして、もっともっと楽しい時代が訪れて欲しいと思うのです。
 3回にわたって他天体との衝突を扱ってきました。次回はまた、別の問題について触れたいと思います。