軌道エレベーター派

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Fountain式(工法)とOrbital Shield (2)

2009-12-16 22:21:03 | 軌道エレベーター学会
2. 本稿で提示するモデル(全体図以外の画像はクリックすると拡大されます)

 これに対し、軌道エレベーター派が提示するモデルは次のようなものである(右図参照)。なお、これはアイデアを誇張した図であり、このままのものが即建造可能だという意味ではない。基本構造や主だった特徴は次の通り。

* 地上基部に工場を設け、半永久的に本体(本稿では便宜的にピラーと呼ぶ)の素材を途切れなく製造し、上へ向けて送り出す。ピラーの質量バランスは、静止軌道の外側=遠心力の方がわずかに強く、この力で製造されたピラーを引っ張り上げ続ける。

* 昇降機はピラー内部を上下し、これにより対流圏での気象の影響を抑える。昇降機の動力は、重力が半減する高度までは、通常私たちが使用している巻き上げ式エレベーターと同じ方式、十分に重力が小さくなる高度より上では、リニアモーターを使用する。レールなどのリニア昇降システムの構造は、静止軌道を挟んで保つ自重のバランスと、ピラーへの負荷で相互に支え合っている。

* ピラーの低軌道部と高軌道部の間を、ヴァン・アレン帯を貫通する筒状の外壁で覆う(本稿ではこれをオービタルシールドと呼ぶ)。シールドはピラーに複数箇所で接続しているが、静止軌道を挟んだ重力と遠心力で生じる自重のバランスと強度によって力学的に自立しており、ピラーに上下方向の構造支持を依存しない。横方向のみ姿勢維持を依存する。つまりピラーに支えてもらっているのではなく、この土管のようなシールドは、独立して静止軌道上を周回する一つの人工衛星である。このほか、静止軌道を挟んで上下に伸びる構造を持つ部材はすべて、シールドやリニアレールのように重力と遠心力で自重を保ち、ピラーへの負荷を極力軽減するように造られる。

* シールドの断面は多重構造になっている。内側には、国際宇宙ステーションの日本モジュール「きぼう」に使用されているホィップルバンパのような衝撃吸収材とリアクティブアーマーを合わせたような構造材を設ける。バンパは複層になっていて、蛇腹のように曲げられる。その周囲を、グラフェンやカーボンナノチューブなど、本体と同様かそれに準じた、軽く柔軟・頑丈な素材の重厚なネットで覆っている。このシールドで、ピラーと昇降機を放射線や衝突物、攻撃などから防護する。

* シールド内側の静止軌道のほか、低軌道や高軌道など任意の位置にステーションを設ける。ただし静止軌道ステーション以外、高度維持を力学的にシールドに依存する。

* ピラーの周囲には、ピラー本体の基礎材料と同じか、それに類する素材のケーブルが数本(必要なら多数)、並行に設置してある。このケーブルを必要に応じて引っ張ったり緩めたりすることで筋肉の役割を果たし、摂動などによるピラー全体の屈曲を補正する。同時に、この筋肉ケーブルは非常時のピラーの補強用や人員の待避線なども兼ねる。

* 末端のカウンター質量は、ピラーの構造体を収納・分解する作業場を兼ねる。ここで分解されたピラーの部品や材料は昇降機で地上へ降ろされ、地上の工場で再利用される。

 このような構造により、途切れなく本体素材を送りだしてメンテナンスを簡便化し、デブリや放射線から人や構造体を守る。そして振動をできうる限り小さくすることを試みる。

3. Fountain式(工法)による建造方法
次に、本稿のモデルを建造する方法を説明する。ここではFountain式(工法)と便宜的に名付けた。
 この工法は、テーパーを設けないで建造が可能な強度を持ったケーブルおよび構造体の素材が開発されたことを前提とする。手順は次の通りで、(1)かr(3)までは、JSEA同様、エドワーズ氏のプランに基礎を置いている。
(1) ピラー用ケーブル素材と作業用宇宙船、末端に設置する衛星、燃料を積んだペイロードをロケットで高度約300kmの低軌道に打ち上げる。
(2) ペイロードの中身を低軌道上で組み立て、作業用宇宙船は衛星とケーブルを積んで、さらに静止軌道上まで到達
(3) 静止軌道上からケーブルを地上に向かって繰り出しながらロケットは上昇を続け、ケーブルの先はやがて地上に到達。ロケットは末端でカウンター質量として固定する──ここまでは、おおむね前述のプランと同じ。ただし、末端には、ケーブルを自在に巻き取ったり、逆に繰り出したりする、糸巻きのような機能を持った衛星を設置する。これを「巻き取り衛星」と呼ぶ。
(4) ケーブルが地上に到達する予定地には、素材生産工場をあらかじめ設けておき、いつでもケーブルを生産できるようにしておく。
(5) 軌道上からのケーブルが地上に到達した時、工場で生産を開始し、先端同士をジョイントさせる。
(6) ジョイントが成立したら、巻き取り衛星が軌道の外側に後退し、ケーブル全体の重心を静止軌道の外側に偏らせる。これにより、心力の方がやや強くなり。ケーブルはピンと張った状態となり、工場の生産したてのケーブルを引っ張り上げる力がかかる。
(7) 力に合わせて工場はケーブルを生産し、ケーブルの荷重能力に応じて徐々に太いケーブル途切れなく生産して繰り出す。一方、末端の巻き取り衛星は、全体の質量バランスを保ちつつ、常にケーブルの巻き取り量と、巻き取った分で変化する高度を計算しながら、能動的に調整を行う。巻き取り量が、質量バランスの偏りの限界値を超えたら、静止軌道にプールする。
(8) この作業を続け、当分はひたすらケーブルを太くしていく。必要なら、まきとり衛星のメンテナンス機器や、人間や物資(特に静止軌道ステーションの材料)を繰り出すケーブルにくっつけて宇宙へ送り出すことも行う。
(9) ある程度の太さになったら、筋肉用ケーブルも一緒に生産し、筋肉ケーブルの巻き取り機器と一緒に送り出す。
(10) 十分な太さになったら、中を中空にしたチューブ状に構造を変え、再びそれを送り続ける。さらに太くなり強度が増したら、ケーブル素材に電磁誘導体を取り付けた構造体を生産し、引き続き送り出す。
(11) これを続けて、十分な負荷に耐えるほどの規模や強度に達したら、昇降機や周辺機器を取り付け、運用する。選択肢によっては、工場を増設や拡大して本体を数本に増やす。昇降用設備を取り付けられる段階に達して一定の機能を有した時点から、本体をピラーと呼ぶこととする。ピラーと呼べる規模になった時から、地上基部工場は単純なケーブル生産ではなく、複雑な構造を随時生産して送り出す施設に仕様を変更する(前節の断面図はピラーが3分割してあるが意味はない。ただし、昇降機はコリオリの力の負荷を赤道面に収めるために東西に配置することを念頭に置いている)。
(12) 昇降機が運用可能になったら、巻き取り衛星に貯まった素材を分離し、昇降機に載せて地上に持ち帰り、材料として再利用する。この作業を繰り返す。
(13) 並行して、オービタルシールドを輪切りなどにしてピラーに取り付けたものを生産し、これまでと同様に持ち上げていく。
(14) 質量バランスをとりながらシールドを組み立て、力学的に耐えられる規模になれば、シールドの低軌道や高軌道部にもステーションを設ける
(15) それぞれが運用可能になれば完成。ただし、地上基部工場は常にピラーを製造し続け、末端では常に余った分を切り取ってエレベーターで地上へ送り返し、再利用する。

4. 軌道エレベーター派のロードマップ
 このように、このモデルはクライマーを使用しない。私はクライマーが無駄だと考えているわけではなく、技術が成熟しさえすれば、運用に大きく貢献することは疑いない。しかし必要条件ではない。
 クライマーがなくても、軌道エレベーターは実現できる。
 軌道エレベーター派は、当面このモデルの詳しい検証と理論の完成に力を傾注したい。今回、数値的裏付けなど詳細な検証を行っていないので、それを含めた理論の完成に2~3年。その後はスピンアウト技術の模索も含め、転用可能技術の検証や調査に充て、その間、本体に使える素材の登場を待つ。
 本稿のモデルは、テーパーを設けずに静止軌道から吊りおろして自重を支えられる素材を前提としている。JSEAのモデルは、テーパーを設けることを念頭に置いているため、素材として完成するのは「テーパー有」の方が早いだろう。しかし、技術の発展や開発がそこで止まってしまうはずはない。
 そこで、エドワーズ氏やJSEAが想定する素材の完成に要する年数プラス3年で「テーパー無」素材が登場すると見なし、その時にすぐに建造に着手できる総合計画を提出することを目指す。
エドワーズ氏らの予想通り15年程度で基礎技術の完成や周辺環境の整備が実現するなら、軌道エレベーター派は18年での実現を視野に入れ、研究を続ける。

おわりに:研究には多様性が不可欠
 今回、JSEAへのアンチテーゼともとられかねない、いささか挑発的な発表を行ったのは、JSEAを否定するためではない。研究には多様性が必要だと考えているからであり、研究者同士が相互に切磋琢磨して実現可能性を高めるためのものにほかならない。
研究というのは、一分野に一方針のみという状況では進展せず、生物の進化のように環境の変化で袋小路に陥りやすい。競争や議論のない処に発展はない。
 本稿も、数ある構想の一つでしかなく、今後改善していきたい。興味をもたれた方がいたら、自由な発想で、軌道エレベーターの研究の多様性を広げてみていただきたい。
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