軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

OEV豆知識(25) 課題・問題その4 倒壊(中)

2010-09-26 20:49:18 | 軌道エレベーター豆知識
 またまた間が空いてしまい、申し訳ありません。今回の豆知識、上下の2回の予定でしたが、後半を書いていたら長くなってしまい、上中下の3回に分けることとしました。何卒ご了承ください。

 さて、軌道エレベーターの倒壊について、前回は考えられる主な原因と、それに対する備えの考察を紹介しました。しかし、トラブルというのはいつか必ず起きるもので、備えがあっても倒壊するかも知れない。そうなったらどのような事態が生じるのか、それに対しどのように対処するかについて、自分なりの一考を紹介します。
 先に覚えておいていただきたいことがあります。軌道エレベーターの高度約2万5000kmから、静止軌道を挟んだ2万kmくらいの範囲位置にあるものは、何らかの原因で切り離されても、一定以上落下も飛び出しもしません。軌道エレベーターに加わっている力は、静止軌道、つまり高度3万6000kmを境に上下の方向へ引っ張られているのですが、上述の高度約2万5000km超の部分は一定以上の軌道速度を得ています。このため、もっと上や下の構造体とつながっていれば、そちらに引っ張られていきますが、そうでない限りこの部分は地上に落ちてくることも、宇宙へ向かって飛び出していくこともないので、これを念頭に置いてお読み下さい。
 その上で、軌道エレベーターの本体が千切れた場合に、

 (1)上昇または下降中の昇降機
 (2)ちぎれた本体

 ──がそれぞれどうなるかに大別して考え、その時にどのような対処をとるべきかについてます。そして今回は、(1)の昇降機についてでです。
 本体とセットで考えなければならない点も多いのですが、ひとまずは単独で。何らかの原因で軌道エレベーターが寸断された時、昇降機(正式な業界用語ではエレベーターのシステム全体を「昇降機」というのですが、当サイトでは特に乗物を指して用います)に人が乗って上昇または下降、もしくは駐機中であったら、昇降機に何が起きるか?
 上述の高度約2万5000kmを、ここでは便宜的に「限界高度」と呼ぶことにします。昇降機が本体とくっついたままなら、この限界高度より下に位置していた場合は地球の方向へ、上なら宇宙の方へ、それぞれ本体と一緒に落ちるか飛ばされて行くことになります。
 昇降機が本体から離脱した場合は、限界高度より下は落下。限界高度から上の約2万kmくらいの範囲にあれば、地球を周回する楕円軌道に遷移して宇宙を漂流することになり、このうち静止軌道に非常に近ければ、ほぼそのまま静止軌道を周回します。で、約高度4万6000kmよりも上は、地球の重力を振り切って飛んで行ってしまい、位置関係次第では月に落下する可能性もあります。

 このような事態のために、どうすべきでしょうか? 地上に近い方から、
 (1)-1 高度約50kmくらいまで
 (1)-2 高度約50kmから200~300kmくらいまで
 (1)-3 高度約300kmから約2万5000kmくらいまで
 (1)-4 それより上
 ──に分けて考察します。

(1)-1 高度約50kmくらいまで
 まず(1)-1ですが、昇降機が高度50kmくらい、ようするに成層圏あたりまでの位置にいた場合は、生命維持部分のみを残して分離し、パラシュートで降下させるということで解決できるでしょう。実際、スペースシャトルの固体燃料ロケットブースター(SRB)が高度45~47kmくらいで分離され、パラシュートで海上に落下、回収されています。これに準じた発想で、昇降機に地上に降られる装備を付ける、と。
 SRBは無人ですから、海上に叩きつけられるように着水します。もし人間が乗っていたらただじゃ済まないであろうというのは想像つきますが、SRBはカラの状態でも約90tもあります。これに対しソユーズの帰還船は約3tですから、これを参考に考えると、昇降機の有人の生命維持部分を非常時には分離し、同様の手段で回収するのは不可能ではないでしょう。いずれにせよ、少なくとも高度50kmくらいまでは、無人とはいえ精密機械をパラシュートで降下させ、回収する技術は確立しているわけですから、あまり問題はないと思われます。

(1)-2 高度約50kmから200~300kmくらいまで
 成層圏から上ですが、これがかなり厄介です。まず前提として、地上から上がってきたら、このあたりで別装備の昇降機に乗り換える必要があると考えます。乗物の材質や耐熱性によりますが、高度数百kmくらいまでは、加速して空力加熱で燃え尽きない範囲で済む可能性がありますので、アポロやソユーズの帰還船の再突入カプセルのようなものを昇降機に装備する(あるいは昇降機全体をそのような仕様にする)ことで、地上へ帰還するということにします。かなり危険ですけどね。
 ただし、アポロやスペースシャトルは地上に対して斜めに落下してくるのですが、軌道エレベーターから落ちたら、高度にもよりますが、コリオリで若干斜めになるものの、地上に対しおおむね真っすぐに近い角度で落ちてくるはずです。大気の抵抗でブレーキをかけられる距離がとても足りないでしょう。軌道エレベーターの高度300kmあたりから落下したら、成層圏に達する頃にはシャトルなどの再突入速度と同等のスピードに達してしまうと思われ、実質的には、この手が通じるのはせいぜい高度100kmや200km、よくても300kmくらいまでが限界であろう、という風に区分した次第です。

(1)-3 高度約300kmから約2万5000kmくらいまで
 ではこれより上ですが、 一番手っ取り早いのは、単純に命綱に相当するケーブルを静止軌道ステーションからくっつけたまま上下すりゃいいんじゃない? と思っているんですね。本体にしがみつく以外に、そのような命綱を付けといて、本体が破断したらパージして、命綱をたぐって、ステーションの方にも引っ張ってもらって自力帰還すると。下から昇ってくる場合は、途中まで垂れている命綱につかまるわけです。この命綱は多いほどいいです。
 これは応急措置で良く、千切れていったん本体との接続を失った後、命綱で上昇して、千切れた本体の端っこに再びしがみつくと。もっとも、これなら通常の昇降時にも引っ張ってもらえば昇降機側の動力が不要という見方もできますが。相対的に静止軌道ステーションが引っ張られてしまいますが、まあなるべく巨大化して質量の比を大きくするとともに、静止軌道ステーションには当然姿勢制御機構があるはずですので、昇降機と引っ張り合っている間、姿勢維持しようということで。
 命綱まで一緒に切れてしまったら? 落ちて燃え尽きるしかない。。。じゃ困りますから、一応の回答はあります。これは、総合的な回答でもあるので、後ほどまとめて。

(1)-4 さらに上
 限界高度の範囲内では、昇降機はある程度落下したら微妙に長めの楕円軌道に遷移して、要するにそれ自体が独立した人工衛星になってしまいます。とりあえず落ちてきたり、外側に飛び出したりする心配はありませんが、代わりに宇宙空間を漂流することになります。静止軌道より外側では、この上下関係が逆になります。これを踏まえた上での対処をいくつか。。。
 いずれのケースも、漂流している間の生命維持は極力長く持たせることは当然ですが、(1)-3で説明したように、命綱につながっていれば、それで解決はできると思います。で、この高度の場合は、命綱が本体と一緒に切れてしまった場合に備えて、昇降機が自力の宇宙船として行動できる機能を持たせることができれば、それに越したことはないでしょう。で、いったん切り離されてしまった本体の切れはしに再び自力で取りつくと。あとは、脱出ポッドなどもあるといいですが。
 ちなみに、時間の制約さえなければ、この限界高度の範囲内であれば、軌道に乗っていずれは元にいた位置に戻ってくるんですよ。ですが、限りなく静止軌道に近い楕円軌道などに乗ったら何日かかるかわかったもんじゃありません。ですので、生命維持機能は極力長期持たせるにしても、1周するまで待つのは無理がある気がします。持久戦よりも自力帰還に機能を優先させた方がいいかも知れませんね。

 上述したように、静止軌道から上は、それより下の対処をほぼ上下逆に使うことが主な選択肢になりますが、あとは限界高度の上限よりも上の場合。これは、やはり命綱をつけておくのが望ましいと思いますが、本当に飛んで行ったらまず助からないですね。人工惑星と化すか、月の引力につかまって落下するか、どちらにしろ絶望的な末路が待っています。
 代わりに地上に落下して叩きつけられたり、燃え尽きたりする心配はないですから、上記の命綱や宇宙船としての機能に期待するほか、あとは救助体制を二重三重に組んでおくことが必要だと考えます。とはいえ実際は気休めで、いったん放り投げられたら救助は不可能じゃないかなあ。。。? この回答も含め、上記全般について、これ以外の総合的な回答を考えてはいますが、これは構造体の方とまとめて最後、つまり次回に述べます。

今回のまとめ
(1) 本当に倒壊した場合の考察は、本体と昇降機に大別される(今回は昇降機)。
(2) 倒壊した際の昇降機の挙動および対処は、パラシュート降下、カプセルでの再突入、漂流など、高度によって異なる。
(3) 高度によっては救助等は困難になる。

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サンダイバー

2010-09-14 00:09:52 | その他の雑記
太陽に飛び込み、決死の観測
 太陽に飛び込んで、決死の観測を行う探査機が打ち上げられることになった。太陽にこれほど接近する探査機は例がなく、ギリギリまで観測したデータを地球に送り届けながら、最終的には高熱で蒸発するとみられる。(朝日新聞9月3日付夕刊)


 対象の天体に衝突して観測を行う探査機自体は珍しくはないですが、太陽は初めてなんですね。人間の目と同じ波長域の光で見た時、どのように見えるのか、ぜひ映像を送ってほしいものです。まあ天然の核融合炉に特攻をかけるのですから、最後は映像が真っ白になるか、その前にカメラが溶けて壊れるか、さらにその前に熱や放射線で通信途絶になるかのいずれかでしょうが、非常に興味深いです。

 ちなみに今回の表題にした「サンダイバー」は、デイヴィッド・ブリンのSF小説です。太陽表面にいる生命体の調査のため、主人公の科学者ジェイコブたちは、外部の熱をビームに変換して排熱する「サンシップ」に乗って太陽に接近するというお話で、今回の記事を読んで思い出しました。
 この作品、軌道エレベーターらしきものに触れているんですよ。どうやら本作の世界では、エクアドルその他の赤道上の地域に「ニードル」と呼ばれる、ものすごい高い構造物があるらしく、記述から言って軌道エレベーターに類するものに違いありません(主人公の名前が「ジェイコブ」なのも意味深です)。ちなみに、ニードルの存在は本筋には直接関係しません。
 20年以上も前に読んだのでうろ覚えなのですが、ジェイコブは昔ニードルから飛び降りて、何らかの危機を解決したものの、彼を救うために恋人が犠牲になった。これがトラウマになっていて、彼女が死ぬ場面が脳裏に焼き付いて彼を苛み続けます。
 お話自体ははっきり言ってつまんないですし、SF的にも着目すべき作品でもありません(カバーイラストはカッコいいぜ)。しかし、終盤のシーンだけは妙に覚えています(絶版だから多少のネタばらしはいいでしょう)。
 サンシップは制御不能になって太陽に落下していき、ジェイコブも瀕死の状態になるのですが、この時初めて、恋人が死ぬ時以外の姿で記憶によみがえり、「幸せな思い出が沢山あるのに、どうして私の死に際しか思いださないのよ、コラ」と、彼に説教を始めるんですね。ずーっと過去にとらわれていたジェイコブは、この時やっと苦悩から解放されます(死にそうなんだけど)。どうやって脱出するのかは、本編をお読みください。。。って、もう絶版でした。

 そんなことを思い出したのですが、話を戻しましょう。探査機は「ソーラー・プローブ・プラス」というんだそうで、2018年までに打ち上げ予定。太陽表面は6000度近いですし、コロナはその比じゃないくらい高温だそうですが、できるだけ耐えて接近してほしいですね。「はやぶさ」よりも自己犠牲的なドラマになるかも知れません。現実のサンダイバー、楽しみだなあ。

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OEV豆知識(24) 課題・問題その4 倒壊(上)

2010-09-09 20:25:30 | 軌道エレベーター豆知識
 ちょっとわけあって更新が滞っており、申し訳ありませんでした。伸び伸びになっていた強化月間の一応の締めくくりとして、久々の「軌道エレベーター豆知識」。誰もが気になる軌道エレベーターの倒壊について、上下2回でお送りします。

 軌道エレベーターが何らかの原因で倒壊した場合、規模によっては大惨事に至る可能性は決して低くないでしょう。初心者(?)がよく指摘する疑問でもあります。あらゆるケースをすべて想定するのは無理ですが、今回はいくつかのケースに分け、倒壊の原因や対処などについて自分の考えを述べててみたいと思います。まずは倒壊の原因について。
 はじめにお断りしておくと、経年劣化などによる一時的な損耗は、通常、あるいは応急的なメンテナンスによって修復可能と判断できますので除きます。今回の考察の対象は、「OEVの構造体が急速に、あるいは一気にぶった切れて、放っておいたら構造体が落下や漂流してしまう事態」を対象とします。
 軌道エレベーター(以下OEV)の構造体が寸断されてしまう主な原因としては、大きく分けて

 (1) 天災
 (2) 事故
 (3) 人為的破壊行為
 ──といったところでしょうか。まあどんな乗り物にも当てはまることなんですが、OEVの場合ではどうでしょう。

(1) 天災(デブリや隕石など)
 自然現象による被害については、デブリの集中や隕石の衝突などが考えられますね。デブリの起源は人工物ですが、廃棄物による宇宙の環境問題として、こちらに区分します。過去の豆知識で述べたように、OEVそのものがデブリ問題解決の切り札となりうるものですから、OEVによって減らしていくことで根本的解決を目指すべきでしょう。流星雨のようなケースは、これも過去に述べたように予測可能ですから、エレベーター自体を屈曲させるなどして回避できるかも知れません。最近は大出力レーザーでのデブリの除去という研究も進んでいるそうですから、この技術にも期待したいところです。
 次に隕石。多くの小惑星をスペースガード協会などが監視していますから、予測・回避は可能。そうでなくても、OEVをぶった切るようなほど大きな隕石なら、そのまま地上に落下して、大災害をもたらしかねません。それくらい大きな隕石は安全基準を超えていて免責事項ではないかと。普通の橋やビルだって、隕石はもちろん、航空機が落ちてきてぶつかったらひとたまりもないですが、そんな事態までは想定して造ってませんよね。

(2) 事故
 まずは人工衛星の衝突。これもOEVの登場によってロケットの打ち上げや人工衛星の運用が減少し、それでも運用が必要なものは、またまた過去で説明したように対地同期軌道を周回させるなどして刷り合わせをすることで回避は可能であろう。。。ていうかそうしてもらわないとOEVが造れませんので。
 このほかには、乗り物同士でぶつかるとか落下するとか、あるいはステーションに衝突したり、運用のヒューマンエラーとか火災などが考えられますが、まあこれは、運用管理やメンテナンスをしっかりせえよ、としか言いようがないですよね。運用マニュアルを厳守させ、部品等はこまめに点検や補修をし、危険物は持ち込ませず。。。でしょうか。
 事故に関しては原則「気をつける」しかないので、あとは本当に起こって構造体が破断した場合、どう対処するかということについて述べることを持って考察に替えたいと思います。これは次回に。

(3) 人為的破壊行為
 これは、(3)-1.攻撃は外部からか、内部からか (3)-2.誰による破壊行為か ──に分けて考えたいと思います。
 まず(3)-1ですが、外部からの攻撃に関しては、残念ながら完璧に防衛することは不可能でしょう。OEVは構造上極めて脆弱で、どこか1か所でもちょん切れれば即致命傷になりかねませんし、ミサイルでも命中すればひとたまりもありません。地上でカバーできる範囲に関しては、迎撃ミサイルや護衛艦隊の配備、スクランブル体制の整備などは当然ですが、少なくとも地上や海上から発射・発進する兵器による攻撃に関しては、最低限同じ手段があれば迎撃できますので、あとは数と迅速さ・正確さの勝負です。要塞化して最新装備の軍隊に守ってもらう必要がありますね。
 一方、成層圏の上の方になると滞空が困難になってきますから防衛も困難になるでしょう。そして、時間の制約さえなければ、衛星軌道上に爆弾でも撒いておけば、いつかかならず衝突するので、これを回避できないほど大量にバラ撒かれたら命取りかも知れません。ただしこの点については、宇宙空間では、攻撃する側も攻撃手段を軌道に乗せるなどのコストがかかって大変だし、おのずと感知されるでしょうから、少なくとも地上ほど攻撃可能性は高くないかも知れません。いささか願望に過ぎますが、これらの条件に、上述のレーザー技術などの手段が色々加わることを期待したいところです。

 しかし、もっとも憂慮すべきは、爆発物などで内部から破壊されることです。はっきり言って、こうなったらもうお手上げ。現代の航空機だって、手榴弾1個持ち込まれたら一巻の終わりです。大韓航空機爆破事件しかり、ロッカビー事件しかり。ですから、乗り降りや貨物の運び込みの際のチェックにすべてがかかっており、やるべきことは現代の空港とまったく同じです。セキュリティを何重にも徹底する。これに尽きます。

 で、(3)-2の破壊行為の主体ですが、A国家 Bテロリスト Cその他の犯罪者に大別します。これを論ずるのは、誰が攻撃してくるかということが、どのような装備を保有しているかという推定にもつながり、(3)-1で述べたうちのどのやり方で防ぐかということに対応するからです。
 さて、ABCの中で、質・量ともに最大の武力を有しているのは言うまでもなくAの国家です。ロシアなどは衛星軌道に到達するミサイルも開発していて、もし敵に回れば危険ですが、私はほとんど心配していません。そもそも建造段階で国家間の刷り合わせを行わないはずはないからです。
 「OEVは兵器として利用できるから、所有すれば世界の支配者になれる。だから国家が所有すべきでない」なんて意見がありますが、漫画かアニメの観すぎです。確かに兵器転用はできないこともないですが、割に合わなくて、とても使えたもんじゃありません。上記で述べたようにOEVはその構造上、攻撃力能力以上に防衛が困難だからです。
 核兵器と同じで、一度でもOEVを兵器として使おうものなら、「破壊やむなし」という世論が形成され、湾岸戦争の時のイラクのように世界中から袋叩きにされて壊されてしまうでしょう。攻撃すれば自滅を招く、だから撃てない。冷戦時代の核戦略を支配した「相互確証破壊」と同じです。
 ですから、OEVを建造・保有する主体は、否応なしに「軍事利用は絶対しません。だから攻撃しないでね」と自ら宣言・約束して安全保障上の保険をかけざるを得ない。少なくとも純軍事的に見た時、OEVの保有は支配者になるどころか、むしろアキレス腱を抱えることにほかならないのです。
 それに、国家といっても単独での建造はありえず、結局は力を持った複数の大国の間で条約を結び、国際コンソーシアムを立ち上げるのが一番ありうるケースだと私は考えています。この点については、別のコーナーで詳しく述べるつもりですが、そんなわけで、OEVの仮想敵として、国家の優先順位は低いと良いと考えます。ていうか、そうなったらもう戦争ですから、OEVだけ守っても意味がありません。

 次にBとCは非合法活動としてひとくくりで考えます。動機面では、OEVはテロの標的になりやすいかも知れません。反政府組織の破壊工作はもちろん、宗教的な反発も買いそうですし、どこか別の場所へ被害を与えるためにOEVを壊すなんてのもあるかも知れません。三島由紀夫の「金閣寺」じゃありませんが、当人以外には理解しがたい信念や感情に基づいて壊そうとする人もいるかも。ただいずれにしても、攻撃の手段や規模は、結局は個人や非合法組織レベルの財力や取引で成立する範囲に限られることになります。
 その上で採られうる手段を考えると、上述したように、破壊工作者の潜入が一番危険で、かつ実行する側にとっては安上がりなので、とにかくセキュリティを厳重にというほかない。一方外部からの攻撃は、個人は実行力から言って論外。非合法組織の場合は相当な資金と人手、装備が必要であり、上記(3)-1で書いたように防衛部隊を配備しておくことでかなりの対処になるでしょう。防衛力が充実していれば接近すら難しい。ミサイルを打ってくるなんて可能性もありますが、長距離ミサイルの購入や運搬などという、金がかかって目立つ取引ができるテロ組織なんてそうはないでしょうし、これは別次元の話なのでちゃんと官憲に摘発してもらわないと。
 ですので、そんな一般人や裏社会の人たちが、軌道上で攻撃をしかけてくるというのは、宇宙へ行く手段がよっぽど低価格化・一般化した時代でなければありえず、それこそOEVが発展しなきゃありえない話でしょう。もちろん運用中の人工衛星同士を衝突させてデブリを大量に発生させるなんて手もありますし、最近は一般向けの宇宙旅行プランを立てるような民間企業も出てきてますから、そうした企業などが飛ばした宇宙船を9.11テロのように乗っ取ってOEVにぶつけるなんていうのも考えられますが、それは衛星や宇宙船を管理・運用している人々の責任で防いでもらわなくてはいけません(9.11だって航空機が突っ込んで壊れたことはビル側の責任ではなかろう)。それに、衛星にしろ宇宙船にしろ、素人が1人や2人で扱えるものではありませんね。
 上述(何度もこの表現すみません)したように、OEVが実現すれば、長期運用の衛星や、地上と宇宙を往復するための宇宙船は減る方に進むと思われますので、その辺にも期待です。 

 そして何よりも、これらを考慮した上でなお、もっとも有効な手段、それは1基や2基壊しても無意味なほど、OEVを沢山造ってしまうことです。地球をOEVでハリネズミのようにして、さらにオービタルリングでつないで相互に補強もすれば、ちょっとくらい壊れても、中心構造はほかのOEVが支えてくれて温存だって可能です。

 「今さらOEVを壊したところで敵にダメージを与えられず、目的を達成しえない」そして、「沢山あるから、誰かが1基や2基保有しても特に優位にならない」という状況を現出すること、それこそがOEVが破壊行為の標的となることに対する戦略的な最終勝利であろうと私は考えます。

 長々と書いてきましたが、上記の点を考慮すれば、OEVが倒壊する心配はまったくないのかというと、断言できるわけではありません。世の中に絶対はありませんし、災害や攻撃は未然に防げても、人間が運用していればいつかは事故や過失が生じます。ですので、本当に倒壊したらどうなるか、またその時のための技術的な備えなどの考察を、次回に行うこととします。ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

今回のまとめ
(1) OEVが倒壊する原因としては、天災、事故、破壊行為などが考えられる
(2) 考えられる天災や事故の多くは対処や回避が可能と思われる
(3) 破壊行為に対しては、政治的・物理的両面の対処が必要

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