10年先も君に恋して
NHK(2010年)
軌道エレベーターは出てこないんですが、ささやかなかがら撮影にかかわった作品でもあり、当サイト10周年ということで、タイトルにあやかり扱ってみることとしました。今回は結末まで書いてますので、ネタバレご注意ください。
あらすじ:出版社で働く小野沢里花(上戸彩)は、トレンチコートをまとった怪しい男(内野聖陽)に付きまとわれる。彼は10年後から来た夫だと主張し、これから出会う若い時の彼と結婚するなと告げる。「NHKドラマ10」で放送された全6回のテレビドラマ。
1. 軌道エレベーターは登場しません
本作の世界で軌道エレベーターが実現しているわけではなく、作品独自のモデルも登場しません。里花と恋仲になる丸山博が「宇宙エレベーター」の研究に取り組んでおり、話題に出るのみです。かろうじて里花の空想でCG映像が出てきますが、宇宙エレベーター協会(JSEA)の仲介で提供した映像を流用したものです。
もともと本作に軌道エレベーターは不可欠の要素ではなく、「主人公の恋人が打ち込んでいる夢」であれば何でもいい。AI研究でも宝探しでも、置き換えても同じストーリーが成り立ちます。毎回、作中の軌道エレベーターの特徴を解説している当サイトとしては「登場するお話」とはみなせないので、番外編にした次第です。
2. ストーリーについて
本作は「もしあの時、別の選択をしていたら」という、誰しも一度は抱くであろう思いが主要テーマになっています。主な舞台は2010年で、10年後のシーンを織り交ぜながら進みます。
里花と博は出会って1年ほどで結婚しますが、やがて夫婦間に亀裂が入り、2020年には離婚寸前になります。ちなみに離婚届に「平成32年8月」と書かれてるんですが、まさかその年が来ないとは思わなんだ。
で、10年後の博(以下「博(40)」と表記)は、恩師のタイムトラベル理論(?)に基づく装置で2010年に来て里花(同「里花(26)」)の前に現れ、「どうせ不幸になるのだから結婚すべきでない」と、当時の博(同「博(30)」)との恋路を邪魔します。
この時点でツッコミ所というか矛盾全開。今現在結婚してるってことは、計画失敗したってことじゃね? 当時のJSEAの飲み会では「タイムマシン完成してるなら軌道エレベーターいらねーじゃん! (゚∀゚)」(タイムトラベルが出来るということは、距離の移動もできることに等しいから、宇宙にも行けるのではということ)なんてツッコまれてました。
SFっぽい用語がちりばめられてますが、雰囲気づくりのツールに過ぎません。そのトンデモぶりとツッコミ所の多さも、それはそれで楽しめますが。
ストーリー上の深刻な矛盾点も少なくありませんが、あくまで恋愛ドラマして観ればとても面白く、今から恋をする人も、結婚して過去を振り返る人にも楽しめる作品です。
真面目に言うなら、博(40)がいくら諭そうと、里花(26)が理解して従うなどありえないでしょう。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉がありますが、人には経験からしか学びえないこともあって、人とのかかわりあいこそ、その最たるものではないでしょうか。
博(40)と里花(36)が「もう離婚しかない」と考えたのは、9年間の結婚生活を積み重ねたからであり、見る限り2人とも身勝手過ぎるとはいえ(結婚が彼等を不幸にしたのではなく、彼等が結婚を不幸なものにしてしまったのだ)、とにかくその時の経験と感性が導き出した見解です。それを里花(26)に投げかけても、同じ解答を共有できるはずがない。自分で得た教訓じゃないんですから。
たとえ「あの時の自分」が別の選択をしても、「あの時の自分以上」のことなんかできないんですよ。今いる場所から前に進むしかないのだと知っている人は、すべからく失敗や後悔や反省を経てそれを学んだはずです。
もっとも、せっかくのタイムマシンを使ってやることが別れさせ屋って、そんな男とは離婚した方がいいと私も思いますが。
結局、里花(26)は博(40)の言葉に動揺し、さらに彼に惹かれながらも、博(30)への思いを守ろうとします。そんな彼女に、逆に博(40)はかつての思いを呼び起され、自分のせいで亀裂が入った博(30)との仲を修復することに尽力します。そして自身も里花(36)とやり直そうと決意して、10年先に帰っていきます。
結末は、こういう人生やり直す系(?)とでもいうべき物語の王道ですが、王道ゆえに心温まるラストであります。
余談ですが、本作は当時非常に人気が出たそうで、それはクリスタル・ケイさんの挿入歌に負うところが大だったと個人的に思います。
もう一度 やり直せるのなら 思い出が消えてもいい
もう一度 君に遭えるのなら 今度こそ離れない
こんな歌詞がストーリーに非常にマッチしていて、せつない曲調の歌がドラマの要所で、文字通り功を奏していました。
3. 撮影秘話?
下の画像は本編のワンカットです。赤い矢印の人物にご注目ください。
これね、たぶん私。すまんな (・ω・)
向かって右隣は、おそらく軌道派の密偵・SS木君、さらにその右は当時JSEA理事だったO島姐さんの可能性が高いです。JSEAが2010年に開いたクライマーの競技会で、本作のロケが行われました。主催者側スタッフであった私達は、そのままエキストラとして参加したのであります。
私とSS木君はこのほかにも、振り返りながら走る(だったと思う)という、些末な演技も要求されて撮影したのですが、そのカットは結局使われませんでした ( ;∀;)
競技会の様子のほかに、近くの草むらで里花(26)と博(40)の対話シーンの撮影も行われ、夏のすごい暑い日で、コートを着た内野聖陽さんの姿が、遠巻きに見てるこっちが暑苦しくなるくらいでした。上戸彩さんや木南晴夏さんらもナマで見られて眼福の思い出です。
残念ながら、現在はDVDが絶版状態らしく、レンタルでも見かけたためしがないのですが、放映から来年で本当に10年経つので、再販などされるといいですね。当サイトも10年経ちましたが、今も変わらず軌道エレベーターに恋してます。