軌道エレベーター派

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軌道エレベーターが登場するお話 古典(3) 超時空世紀オーガスほか その3

2023-07-29 11:45:11 | 軌道エレベーターが登場するお話


超時空世紀オーガス
毎日放送、東京ムービー新社(1983年)
超時空世紀オーガス02
バンダイビジュアル、ビッグウエストほか(1993年)

その1
その2

「超時空世紀オーガス02」のあらすじ 大地から発掘される謎の兵器「アーマー」で国々が争う世界。整備工の仕事を失った少年リーンは軍に入隊し、敵国に潜入して謎の少女と出会う。2人は謎のアーマー・オーガス02に助けられ、世界の秘密を知ることになる。

5. オーガス02について
 「超時空世紀オーガス02」(以下「02」)は全6話のOVAで、「超時空世紀オーガス」(以下「前作」)の正統な続編ではありますが、前作のラストから続く話ではなく、まるで違う物語です。

 舞台は、私たちの世界における中世~近代くらいの、ヨーロッパっぽい国々。この世界では200年前から突然、文明レベルを超越するアーマーが発見されるようになり、中には前作のオーガスに酷似したアーマーも見つかっています。大国ザーフレンとリヴリアはアーマーを軍備に投入し、緊張が高まっています。

 主人公リーンは、恩義ある親方の遺族を援助するため、前金をもらってリヴリアの軍人となります。あらすじにあるように、彼はザーフレンの軍事機密である少女ナタルマを連れ出す命令を受けます。ナタルマはジ・Oみたいなザーフレン軍の超巨大アーマーを制御する能力を有するが故に追われ、リーンとナタルマが追手に捕まりそうになったところへ、オーガス02に乗る老人に命を救われます。
 ブリューゲルのバベルの塔の絵みたいに地上数kmから上が失われた軌道エレベーターに、老人は2人を連れていきます。
 前作において、機械文明ムーのロボット「大尉」が主人公の仲間になるのですが、終盤に主人公たちを援護して犠牲となります。この老人は、密かに生き延びた大尉が自らを修復した姿でした。

 前作のラストで、絡まり合った時空は再び分裂したものの、不完全で部分的に重なり合う世界も残ってしまった。各地で見つかるアーマーは、その影響でリーンの世界に出現したもので、ナタルマは前作の主人公・桂木桂とエマーン人ミムジィの間に生まれた子どもの子孫でした。
 大尉はナタルマを探し出し、時空修復を完全にして彼女を本来の世界に戻そうと、新たな時空震動弾を自力開発していました。オーガス02もね。

 で、そうこうしてる間に両国が超巨大アーマーで交戦し、残った一方が暴走状態に。リーンとナタルマはオーガス02で闘って暴走を止め、時空が再び修復されます。リーンの世界からアーマーが消え、ナタルマはエマーンと思しき世界に飛ばされて終わり。

 こう書くと前作の要素を色濃く反映していると思われそうですが、むしろ共通点は取って付けたような感じ。「おお、この老人は大尉だったのか」と少し興味を引かれたものの、ドラマ展開はありがちだし、大して印象に残りませんでした。


6.「02」に思うこといろいろ
 「02」の最大の不満は、大尉の声を前作と別の方があてていたということです。なんで前作の屋良有作さんにしなかったんだ。
 正体がバレちゃうと思って替えたのかもしれませんが、むしろ前作ファンは「声が同じだからひょっとして…」と先の展開に期待するものですよ。ミスター・ブシドーの声がグラハムと違ってたらみんな怒るだろ!? 声優さんに非はないけど、明らかにミスチョイスでした。

 もう一つ、「02」で「なんじゃこれは!?」と面食らったのは、長唄や狂言みたいな主題歌。

 超時空世紀オーガス02 前期OP

 ↑これ聴いてみてチョーダイ。「狂言師がアニメの主題歌を!?」と思ったらヒカシューの巻上公一さんでした。「ハァ~くっさめくっさめ」とか聴こえてきそうな歌で、やたらに耳に残って本編を観る集中力が削がれてしまった。強烈な個性ではあるが。。。

 1980~90年代のアニメ業界というのは、レンタル店を消費の主戦場とした、オリジナルビデオソフトが乱発されていった時代でした。
 ソフト不足の中、一定のファン獲得が保証されたTVシリーズの続編は格好の商品企画でした。メディアミックスは今でこそ当たり前の戦略ですが、「装甲騎兵ボトムズ」「銀河漂流バイファム」などなど、TVで人気が出た作品の新作OVAが続々発売・レンタルされました。こうしたOVAは、レンタル市場にけっこう貢献していたのではないでしょうか。
 反面、微妙な商品も登場するわけで、「02」もその中の一つだったと言えます。前作のファンが飛びついて、心躍らせる内容とは言いがたく、過去作に乗っかった安易な作りで存在感が希薄な印象です。
 実際、当サイトの開設当初から、前作は当然外せない作品としていずれ触れるつもりだったのですが、おさらいのために調べてたら「え、続編なんてあったの?」と初めて知った次第。お陰で新たに視聴の必要があり、なかなか紹介できませんでした。


結び:TVアニメのハードSF化
 多元宇宙(マルチバース)、並行世界(パラレルワールド)、近年では世界線など多様な呼び方がありますが、SFにおいて常識化したのはここ数十年の歴史と言っていいでしょう。ここでは便宜的に「多元宇宙(論)」に呼び方を統一します。

 ヒュー・エヴェレットの多世界解釈や、観測が過去に影響を与えるとしたジョン・ホイーラー(とアンドリュー・トラスコット)の遅延選択実験など、量子力学の台頭と相まって、20世紀後半の物理学では、宇宙が無数に存在するという仮説が知られるようになってきました。

 多元宇宙論は、事象を決定論で扱わない量子力学のエクスキューズのような一面があり(量子論における重ね合わせや同時性の崩壊、観測決定性などは、多元宇宙を同時に垣間見ているという考え方がある)、SFとの相性が良く、特にタイムパラドックス-たとえば「過去にタイムトラベルして親を殺せばその子はどうなるか?」といった矛盾-を解消する方便として好都合でした。
 多元宇宙論を積極的に取り入れたSF作品が数多く登場し、今では、ある選択をすると、別の選択をした世界とは異なる世界に分岐する、という設定は定番の手法と化しています。この変化は、時空を扱うSF作品におけるパラダイムシフトだったと言えるでしょう。

 「超時空世紀オーガス」はその過渡期に、いち早く多元宇宙論を取り入れたSFアニメの先駆けであり、エポックメイキング的な作品でした。その1でも述べましたが、このほかにもハードSFの設定や現実の理論、要素を進取的に使っています。慣性制御、ほんの少しだけど量子論、温室効果(地球温暖化)、特異点(言葉だけだが)、そして軌道エレベーター。
 我が軌道エレベーター派としては、「地球人の文明の産物としての軌道エレベーター」が登場した、初の映像作品であり、一つの転換点と見なしています。正常に機能している場面の描写はさらに後の作品まで待つことになるけれども、本作はサブカルチャーにおける軌道エレベーター史上、不動の位置づけにあります。

 一番最初に書いたように、「超時空世紀オーガス」は、私が軌道エレベーターを最初に認識するきっかけとなった作品でした。この作品がなければ、軌道エレベーター派はなかったかも知れません。
 その原点たる作品を、サイト開設から14年かかってやっと紹介できました ε-(´∀`*)

 今年は放映40周年。VODで配信してないみたいですが、なんとかならないですかね。その時はご覧あれ。ここまで読んで下さり、誠にありがとうございました。

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