軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

きょうは軌道エレベーターの日(2023年プレゼント)

2023-07-31 20:36:41 | その他の雑記
軌道派の同志諸君、本日7月31日は「軌道エレベーターの日」です。
 毎度毎度ワンパターンですが、1960年7月31日、軌道エレベーターの父(の一人)であるロシア(当時はソ連)のユーリ・アルツタ-ノフが、「プラウダ」紙上で
静止軌道エレベーター
の構想を紹介しました。「軌道エレベーター -宇宙へ架ける橋-」に、このように述べられています。

 これこそ、軌道エレベーターの原理上の必要条件を正確に示し、
 かつその利点のすべてを正確に指摘した、史上初の構想であった


 軌道エレベーターの原初的アイデアは、同じくロシアのコンスタンティン・ツィオルコフスキーが先駆者と言えますが、地上から建造物を積み上げていくツィオルコフスキーのイメージに対し、アルツターノフは静止軌道から
ピラー
を吊り下げるという、軌道エレベーターの基本中の基本であるモデルを提唱したのでした。

 我が軌道エレベーター派はこの偉業に敬意を表すとともに軌道エレベーターの普及を願って、7月31日を「軌道エレベーターの日」と勝手に決めています。ただし「軌道」な。お忘れなく!
 で、毎年記念のプレゼントを差し上げております。今年は以下のものを予定しています。

1. 雑誌「フィギュア王」No.301 総力特集・超時空世紀オーガス 1名様
 「軌道エレベーターが登場するお話」で紹介した、我が軌道派の原点的作品「超時空世紀オーガス」について特集した雑誌です。ただしホビー誌なので玩具やプラモデルの紹介記事がメインです。このほかには簡単な設定紹介や制作者のインタビューなどを掲載しています。軌道エレベーターについて解説は全然ないんだけどね。

2. 学研 組み立て式天体望遠鏡ウルトラムーン 1名様
 アルテミス計画への関心から、月に興味を持つ子供たちも増えるだろうということでチョイス。対象は6歳以上とのことです。

3. 宇宙にちなんだグッズ 若干名様
 昨年に続き、ご応募があった場合に購入してお送りすることにしているので、届いてのお楽しみということにして下さい。これまでに、宇宙食やブロックなどをお送りしています。

 応募方法も毎年同じですが、以下の通り。

 必ずタイトルを「軌道エレベーターの日プレゼント希望」とした上で、ご希望の品と、このサイト上で公開してもいいハンドルネームを明記し、画面左「ご意見等はこちらへ」下のアドレスにメールでご応募ください。今回は8月31日を締め切りとし、そのハンドルネームを発表。当選者にのみ、こちらからメールを差し上げます(私の知り合いの方は書いてね)。
 その上で、送付先等を改めてお知らせいただきます。当選者の方は個人情報を送っていただくことになりますが、送付目的以外には使用しないことを確約します。送料は当方が負担しますが、個人情報保護のために私書箱等を設ける場合は、その代金は自己負担でお願いいたします。
 いつも定員割れですが、それでも今年もやります。応募、お待ちしています。

軌道エレベーターが登場するお話 古典(3) 超時空世紀オーガスほか その3

2023-07-29 11:45:11 | 軌道エレベーターが登場するお話


超時空世紀オーガス
毎日放送、東京ムービー新社(1983年)
超時空世紀オーガス02
バンダイビジュアル、ビッグウエストほか(1993年)

その1
その2

「超時空世紀オーガス02」のあらすじ 大地から発掘される謎の兵器「アーマー」で国々が争う世界。整備工の仕事を失った少年リーンは軍に入隊し、敵国に潜入して謎の少女と出会う。2人は謎のアーマー・オーガス02に助けられ、世界の秘密を知ることになる。

5. オーガス02について
 「超時空世紀オーガス02」(以下「02」)は全6話のOVAで、「超時空世紀オーガス」(以下「前作」)の正統な続編ではありますが、前作のラストから続く話ではなく、まるで違う物語です。

 舞台は、私たちの世界における中世~近代くらいの、ヨーロッパっぽい国々。この世界では200年前から突然、文明レベルを超越するアーマーが発見されるようになり、中には前作のオーガスに酷似したアーマーも見つかっています。大国ザーフレンとリヴリアはアーマーを軍備に投入し、緊張が高まっています。

 主人公リーンは、恩義ある親方の遺族を援助するため、前金をもらってリヴリアの軍人となります。あらすじにあるように、彼はザーフレンの軍事機密である少女ナタルマを連れ出す命令を受けます。ナタルマはジ・Oみたいなザーフレン軍の超巨大アーマーを制御する能力を有するが故に追われ、リーンとナタルマが追手に捕まりそうになったところへ、オーガス02に乗る老人に命を救われます。
 ブリューゲルのバベルの塔の絵みたいに地上数kmから上が失われた軌道エレベーターに、老人は2人を連れていきます。
 前作において、機械文明ムーのロボット「大尉」が主人公の仲間になるのですが、終盤に主人公たちを援護して犠牲となります。この老人は、密かに生き延びた大尉が自らを修復した姿でした。

 前作のラストで、絡まり合った時空は再び分裂したものの、不完全で部分的に重なり合う世界も残ってしまった。各地で見つかるアーマーは、その影響でリーンの世界に出現したもので、ナタルマは前作の主人公・桂木桂とエマーン人ミムジィの間に生まれた子どもの子孫でした。
 大尉はナタルマを探し出し、時空修復を完全にして彼女を本来の世界に戻そうと、新たな時空震動弾を自力開発していました。オーガス02もね。

 で、そうこうしてる間に両国が超巨大アーマーで交戦し、残った一方が暴走状態に。リーンとナタルマはオーガス02で闘って暴走を止め、時空が再び修復されます。リーンの世界からアーマーが消え、ナタルマはエマーンと思しき世界に飛ばされて終わり。

 こう書くと前作の要素を色濃く反映していると思われそうですが、むしろ共通点は取って付けたような感じ。「おお、この老人は大尉だったのか」と少し興味を引かれたものの、ドラマ展開はありがちだし、大して印象に残りませんでした。


6.「02」に思うこといろいろ
 「02」の最大の不満は、大尉の声を前作と別の方があてていたということです。なんで前作の屋良有作さんにしなかったんだ。
 正体がバレちゃうと思って替えたのかもしれませんが、むしろ前作ファンは「声が同じだからひょっとして…」と先の展開に期待するものですよ。ミスター・ブシドーの声がグラハムと違ってたらみんな怒るだろ!? 声優さんに非はないけど、明らかにミスチョイスでした。

 もう一つ、「02」で「なんじゃこれは!?」と面食らったのは、長唄や狂言みたいな主題歌。

 超時空世紀オーガス02 前期OP

 ↑これ聴いてみてチョーダイ。「狂言師がアニメの主題歌を!?」と思ったらヒカシューの巻上公一さんでした。「ハァ~くっさめくっさめ」とか聴こえてきそうな歌で、やたらに耳に残って本編を観る集中力が削がれてしまった。強烈な個性ではあるが。。。

 1980~90年代のアニメ業界というのは、レンタル店を消費の主戦場とした、オリジナルビデオソフトが乱発されていった時代でした。
 ソフト不足の中、一定のファン獲得が保証されたTVシリーズの続編は格好の商品企画でした。メディアミックスは今でこそ当たり前の戦略ですが、「装甲騎兵ボトムズ」「銀河漂流バイファム」などなど、TVで人気が出た作品の新作OVAが続々発売・レンタルされました。こうしたOVAは、レンタル市場にけっこう貢献していたのではないでしょうか。
 反面、微妙な商品も登場するわけで、「02」もその中の一つだったと言えます。前作のファンが飛びついて、心躍らせる内容とは言いがたく、過去作に乗っかった安易な作りで存在感が希薄な印象です。
 実際、当サイトの開設当初から、前作は当然外せない作品としていずれ触れるつもりだったのですが、おさらいのために調べてたら「え、続編なんてあったの?」と初めて知った次第。お陰で新たに視聴の必要があり、なかなか紹介できませんでした。


結び:TVアニメのハードSF化
 多元宇宙(マルチバース)、並行世界(パラレルワールド)、近年では世界線など多様な呼び方がありますが、SFにおいて常識化したのはここ数十年の歴史と言っていいでしょう。ここでは便宜的に「多元宇宙(論)」に呼び方を統一します。

 ヒュー・エヴェレットの多世界解釈や、観測が過去に影響を与えるとしたジョン・ホイーラー(とアンドリュー・トラスコット)の遅延選択実験など、量子力学の台頭と相まって、20世紀後半の物理学では、宇宙が無数に存在するという仮説が知られるようになってきました。

 多元宇宙論は、事象を決定論で扱わない量子力学のエクスキューズのような一面があり(量子論における重ね合わせや同時性の崩壊、観測決定性などは、多元宇宙を同時に垣間見ているという考え方がある)、SFとの相性が良く、特にタイムパラドックス-たとえば「過去にタイムトラベルして親を殺せばその子はどうなるか?」といった矛盾-を解消する方便として好都合でした。
 多元宇宙論を積極的に取り入れたSF作品が数多く登場し、今では、ある選択をすると、別の選択をした世界とは異なる世界に分岐する、という設定は定番の手法と化しています。この変化は、時空を扱うSF作品におけるパラダイムシフトだったと言えるでしょう。

 「超時空世紀オーガス」はその過渡期に、いち早く多元宇宙論を取り入れたSFアニメの先駆けであり、エポックメイキング的な作品でした。その1でも述べましたが、このほかにもハードSFの設定や現実の理論、要素を進取的に使っています。慣性制御、ほんの少しだけど量子論、温室効果(地球温暖化)、特異点(言葉だけだが)、そして軌道エレベーター。
 我が軌道エレベーター派としては、「地球人の文明の産物としての軌道エレベーター」が登場した、初の映像作品であり、一つの転換点と見なしています。正常に機能している場面の描写はさらに後の作品まで待つことになるけれども、本作はサブカルチャーにおける軌道エレベーター史上、不動の位置づけにあります。

 一番最初に書いたように、「超時空世紀オーガス」は、私が軌道エレベーターを最初に認識するきっかけとなった作品でした。この作品がなければ、軌道エレベーター派はなかったかも知れません。
 その原点たる作品を、サイト開設から14年かかってやっと紹介できました ε-(´∀`*)

 今年は放映40周年。VODで配信してないみたいですが、なんとかならないですかね。その時はご覧あれ。ここまで読んで下さり、誠にありがとうございました。

軌道エレベーターが登場するお話 古典(3) 超時空世紀オーガスほか その2

2023-07-21 22:49:22 | 軌道エレベーターが登場するお話


超時空世紀オーガス
毎日放送、東京ムービー新社(1983年)
超時空世紀オーガス02
バンダイビジュアル、ビッグウエストほか(1993年)

その1はこちら
 
2. ストーリーについて
 さてお話の中身の紹介。今回は最後までネタバレしますので、未視聴の方はご注意下さい。前回説明した通り、2061年、軌道エレベーターの所属を巡る紛争において、時空震動弾を発動させた主人公・桂木桂は、幾つもの並行世界が入り交じった20年後に飛ばされます。

 20年後の地球には、経済活動重視の「エマーン」、軍事国家「チラム」、人類が滅んで機械だけが存続する「ムー」など、それぞれの時空で発展してきた文明が混在し、衝突を繰り返す状況にあります。ちなみにチラム人は私たちの子孫です。
 各地で不定期に大地が消失し、別の時空と入れ替わってしまう時空転移現象が頻発している上、高度150mから上を覆う「相剋界」によって温室効果が加速しており、いずれ人間が生存できない高温になると予測されています。このため時空混乱の解決が急がれるというわけ。

 そんな中に出現した桂は、エマーンの隊商に拾われて仲間入りするのですが、「特異点」と呼ばれて各勢力に追われる身となります。特異点というのは物理学や幾何学などでそれぞれ意味を持つ用語で、特にブラックホールで物理法則が破綻するポイントとして有名ですね。本作では時空混乱を引き起こした元凶としてこの呼称が使われています。

 そして宇宙空間では「大特異点」が地球を周回しています。その正体は時空震動弾の本体で、地上で起爆させたのになぜか宇宙にあり、特異点と大特異点が接触すれば時空を修復できると考えられている(ただし、たった一つの世界しか存続できない可能性がある)。使徒がアダムと接触してサードインパクトが起きるみたいなものですね。そこでエマーンの上層部は、特異点=桂を本国に護送するよう隊商に命じ、彼を奪おうとするチラム軍と闘うことになります。

 チラム軍には、桂の親友で彼より5年早くこの世界に飛ばされた、もう一つの特異点でもあるオルソンがいました。詳細は省きますが、オルソンは桂と再会後チラムを脱走。2人で大特異点に行くため、軌道エレベーターへ向かいます。
 最後は機械文明のムーが敵となり、敵陣を突破して軌道エレベーターを昇り、宇宙に到達。大特異点に着くと、その中は時間が停止しているのか、それとも20年前につながっているのか、とにかくも時空震動弾発動直前の状況が現出していて、そこに20年前の桂とオルソンがいました。
 現在の2人は過去の自分たちを止めようとし、4人で銃を向け合って撃つ。。。それで時空は再び分裂したらしく、色んな世界で色んな人生を送る主人公たちの短いカットで終了。
 この結末、当時よくわからなくてモヤモヤしたものです。てか今もよくわからないんですが、色んな解釈ができる仕上がりなのだと受け取っています。これぞ文字通りの多世界解釈。


3. 番組不振の主因は何か?
 本作は「超時空要塞マクロス」の後番組でしたが、好評で放映期間を延長したマクロスに対し、本作は確たる人気を得られずに終わりました。当時のアニメとしては新しいSF要素を盛り込んだ斬新な作品ではあっても、シナリオが昭和のフォーマットのせいか、現在の視点で観るとやっぱり展開が冗長で盛り上がりに欠ける。

 古いアニメを観るというのはそういうことなんだ、と割り切ってはいるものの、本作は主人公が軽薄かつ独りよがりな性格で、いつになくツッコミ甲斐に欠けるんですよね。桂はヒロインのエマーン人ミムジィと結ばれるのですが、彼は諸星あたるみたいな無類の女好きです。20年前に妊娠させた恋人の娘が敵として登場し、その娘の前でミムジィとイチャつく。
 元はといえば、撤退命令を無視して不完全な状態で時空震動弾起爆を強行した自分に、すべての原因があるにもかかわらず、自覚と責任感を欠く姿には、いまいち好感を持てない。

 とはいえ、本作の不振の最大の原因はズバリ、主役メカが個性的過ぎたせいじゃなかろうか? 放送40周年の今年、こんな商品も発売されてますが、デザインがマニアック過ぎるというか。。。敵メカも障害物競走のバーが空飛んでるみたいだったし。
 マクロスに登場するバルキリーの美しさ、カッコ良さときたら、当時の少年たちの心を鷲掴みにした歴史的偉業でした。その後登場したオーガスのデザインを見ると、なんかアール・デコからアール・ヌーボーになった感じ? 実際の芸術史とは順序逆だけど。
 個人的には嫌いじゃないんだけど、鳥みたいな小さい顔付きやら有機的な曲線のフォルムやら、これに主役を張らせるのは数十年早いというか、挑戦を通り越して無謀だったんじゃないかと。デザイナーの宮武一貴氏は、同時期の「聖戦士ダンバイン」も担当されていました。うん、オーラバトラーとしてそっちに登場してたらなじんでたと思う。

 マクロスの二番煎じを狙わなかった姿勢には敬服します。しかしオモチャが売れてナンボの世界。玩具メーカーのタカトクトイスは完全変形するバルキリーの玩具を発売して大儲けし、私も買いました。続いてオーガスの可変トイも発売したところ、こちらは売れ行きが思わしくなく、倒産の原因になったとか。1作目で大繁盛し、後番組に命脈を絶たれるいう浮き沈みの激しさ、なんと世知辛い世の中か。。。(´;ω;`)


4. 本作における女性の扱い
 本筋とは別の話になりますが、もし本作を今TV放映したら、厳しい批判を受けることでしょう。
 本作に登場するエマーンは、女性が17歳を過ぎると出産できなくなり、その後は周囲に女性扱いされないというか、男性と性差を持つ存在としては意識されなくなる社会が成立しています。

 脚本やシリーズ構成を担当した松崎健一氏は、並行世界を扱った理由について「『人類とはまったく違う種族も存在する』(中略)という想いも多少は込めていました」と、今年収録のインタビューで振り返っておられるのですが、女性を子どもを産む道具にしか見なさない描写は、当時も(アニメファンの間では)議論を呼びました。ジェンダーが社会問題化しているSNS全盛の現在では非難必至でしょう。
 
 子どもを持たない女性の生き方を支持する場面はあっても、ミムジィは結局は桂の子を懐妊し、なんだかんだ言いいつつエマーン人の型にはまってしまう。男性から見ても、面白みのあるキャラクターではなかったです。今ならそんな価値観を否定し自立するといった真逆の展開になるんじゃないかな。
 放映当時、桂に従う少女の容姿をしたアンドロイド・モームのほうがミムジィより人気があって、アニメ誌の表紙を何度も飾っていたようです。単にロリコンに受けただけでしょうが、狙いはどうあれこういう要素もあるから、本作は「男が男のために作った作品」と受け取られるでしょう。

 恐竜が絶滅せず知的生命に進化した世界とか、石器時代の人みたいな野蛮人の世界とか、ほかにも色々な文化や慣習、生物学的特徴などを描いてはいるのですが、エマーン人の女性観だけピンポイント過ぎて浮いている。ジェンダーを巡る議論に参加するつもりはありませんが、本作のヒロインら女性の位置付けは、私たちの社会に元々ある旧時代的な価値観を増強しただけという感じがしました。
 ざっくり調べてみたところ、本作はVODで配信などやってないみたいなんですが、この設定のせいもあるんじゃないかな。

 エマーン人女性の扱いをめぐる本作の世界観は、いたずらに女性ファンの不興を買ったのではないか。ただし続編「オーガス02」にその子孫が登場するので、結果として設定が生きたことにはなります。そのオーガス02については次回に。ここまで読んで下さり、誠にありがとうございました。

軌道エレベーターが登場するお話 古典(3) 超時空世紀オーガスほか その1

2023-07-07 11:12:37 | 軌道エレベーターが登場するお話


超時空世紀オーガス
毎日放送、東京ムービー新社(1983年)
超時空世紀オーガス02
バンダイビジュアル、ビッグウエストほか(1993年)

「超時空世紀オーガス」のあらすじ 2062年、軌道エレベーターの争奪戦に参加した軍人の桂木桂は、次元兵器「時空震動弾」を未調整のまま作動させる。その影響により時空の彼方に飛ばされた彼がたどり着いたのは、多数の並行世界が入り交じった、混乱した地球だった。
 
 私が初めて軌道エレベーターを認知したのは、本作がきっかけだったと記憶しています。しかし原理がよくわからず、それで「楽園の泉」を読み、その基本原理のシンプルな美が心に刻まれたのであります。その意味では、我が軌道エレベーター派誕生の原点とも言える一作です。
 今年は放送40周年とのこと。記念に長めに書いて何回かに分け、記事をアップします。内容は1作目の「超時空世紀オーガス」を中心とし、「オーガス02」は3回目で1節割く予定です。ネタバレご注意下さい。
 
1. 本作に登場する軌道エレベーター
 本作では、物語冒頭の時点で、南米の陸上に軌道エレベーターが造られています。直径1kmくらいはありそうな巨大建造物です。今でこそケーブルでピラーを構成する動的なモデルが主流ですが、本作を含め、「銀河英雄伝説」(OVA版)やZ.O.E Dolores, iなど、20世紀の作品における軌道エレベーターのデザインは、こうしたぶっとい剛体が定番化していました。
 1話の時点では、何もない荒野に地上基部があり、物語終盤では周囲が小さな街のようになっていました。1話でピラーから攻撃がなされる場面があるので、武装もあるようです。
 正確な高さはわかりませんが、宇宙空間の高度には「ステーション」が設けられています。俯瞰以外の細かい描写はここまで。末端には、本来は「スペースアイランド」という施設が設けられていたらしいのですが、後述の混乱により破壊・分離してしまったようです。このため、末端の状態がどのようになっているのかなどは不明です。



 さて物語の序盤、軌道エレベーターの所属を巡って世界を二分する勢力が対立し、主人公・桂木桂の陣営は時空震動弾(本編では「超時空震動弾」とも)を戦線に投入します。セリフから推察するに、軌道エレベーターという財産を破壊するわけにはいかないから、代わりにエネルギー供給施設を無効化するのが作戦の目的で、そのために時空震動弾を使うみたい。その割には軌道エレベーターに向かってミサイルを撃ったりしてましたが。
 結局劣勢で撤退を余儀なくされるのですが、桂は周囲の制止を聞かず、地上基部のすぐそばで調整を終えないままの時空震動弾を起爆させます。

 この兵器、異なる宇宙をぐちゃぐちゃにシャッフルしてしまう代物で、今風に言えばたくさんの世界線を無理矢理1本にまとめてしまう感じ。この結果、異なる世界の異なる人類が、一つの地球に混在する状況が出現。桂はこの時空混乱から20年後の世界に飛ばされます。正常に作動したらどうなっていたか不明ですが、つまりその後の混乱も悲劇も全部こいつのせい。彼は混沌の原因となった「特異点」と呼ばれて追われるのですが、詳細は次回に。

 で、20年後も軌道エレベーターは残存しています。時空混乱後の世界では、地球全域で上空が「相剋界(本編では「相剋面」とも。資料によっては「相克界」)」と呼ばれる、時空の乱れた層で覆われており、海抜150mより上には上昇できません。場所によっては山が中腹から相剋界に突っ込んでいる光景が描かれています。長野県川上村とか群馬県草津町とか、標高の高い所どうなったんでしょうね?

 軌道エレベーターは相剋界を貫いて宇宙に伸びており、この層より上に行ける唯一の手段となっています。物語終盤、桂は宇宙に行く必要に迫られ、上述のステーションまでたどり着きます。ただし昇降機能は失われているのか、それとも敵の妨害で使用できなかったのか、エレベーターには乗らず自力で上昇するんですが。
 それでも以前取り上げた「宇宙空母ブルーノア」なんかと違って、ちゃんと地球人が宇宙へ行くのに使っていますから、映像作品としては初めて、本来の目的に使われた軌道エレベーターと言えるかも知れません。

 物語の大半は地上のあちこちを旅していて軌道エレベーターの登場場面は少ないし、詳細な設定情報はないものの、本作は軌道エレベーターで始まり軌道エレベーターで終わるお話です。その意味でも記念すべき作品と言えます。

 「オーガス」で軌道エレベーターを認識した人は、私だけではないでしょう。本作は「超時空要塞マクロス」(1982年)の後番組で、軌道エレベーターのほかにも、多元宇宙論、慣性制御など、ハードSFとして通用する凝った設定を盛り込んだ意欲作でした。
 お話は現代の水準から見ると冗長で、当時もヒットには程遠かったんですが、軌道エレベーターらしい軌道エレベーターが描かれた映像作品は、これが初めてじゃないでしょうか。この分野のサブカル史において、外せない1作です。
 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。次回はストーリーや人物について。