軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

ありがとうございます 訪問者10万人記念プレゼント

2012-02-27 22:04:07 | その他の雑記
 今月22日に「大林組が軌道(宇宙)エレベーター構想」の記事をアップしたところ、一日あたりのアクセス数が急上昇。24日(金)には4559IP、7626PVに達し、168万7028あるgooの全ブログのうち、なんと26位に躍り出ました。軌道エレベーター派始まって以来の最高記録です。機械による自動アクセスも混じっているんでしょうが、この日にサイト開設以来の累計IP数が10万を超えました。
 ふだんはのIP数は、平均して120~130、PV数は300~500程度で、開設当初に比べれば少しずつ増えてはきたものの、完全にランキング(1万位以内)圏外。記事を更新するとその翌日は数が2、3倍くらいになり、瞬間最大風速でランキング入りすることがあります。そして数日で平均値に戻るというのがパターンでした。そんなことから、4月に開設3周年を迎えるのですが、10万IPになるのは間に合わないだろうなと思っていました。今回も数字はすでに下降を始めているものの、こんなに伸びるとは思わなんだ。

 大林組さんには1月下旬に取材を済ませていたのですが、「季刊大林」のリリースを解禁日とみなして待っていたら、ちょっと私の手違いもあって1日遅れになってしまいました。しかし、結果としてこれで良かったような気もしてきました。おそらく世間で話題になったところへ、一般の報道よりもやや詳細な記事を載せたので、初報や宇宙エレベーター協会(JSEA)のサイトなどで見て、もう少し細かく情報を知ろうという方などが閲覧して下さったのではないかと思うからです。大林組の皆様、本当に、本当にお世話になりました。ツイッターで紹介してくれたJSEAのK原さんH田さんありがとう。

 で、10万IPを突破記念で、ご愛顧への感謝に代えて、拙著『軌道エレベーターポケットブック』の印刷版を、ご覧の中から先着約10名様にプレゼントいたします。現在発売しているiPhone用アプリの電子書籍(iPad用はこちら)をPR用に印刷したもので、非売品です。本当は電子書籍を買ってくれると嬉しいのですが、新しい閲覧者の方が見てくださっているうちに、ポケブで基礎を知ってもらいたいという狙いもあるので。

 ご希望の方は、「ポケットブック希望」などと見出しを付けたメールに

 (1)宛名と送付先住所(届きさえすれば仮名や私書箱などでも可) 
 (2)ネット上で当選者として発表しても構わないハンドルネーム 

 を明記の上、画面左側の「ご意見等はこちらに」下のアドレスにお送りください。まあ、昨年の「軌道エレベーターの日記念プレゼント」の時もそうだったけど、どうせ10人も来ませんから。。。

 それにしても、毎度驚くことですが、gooブログだけで168万のブログがあるんですよね。仮に半数が個人だとしたら84万人が開設してるわけで、すごい時代だ。何はともあれ、軌道エレベーターのことを多くの方が知ってくださるのは結構なこと。今後ともよろしくお願いいたします。

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スカイツリーの先は宇宙・・・大林組が軌道(宇宙)エレベーター構想

2012-02-22 11:58:01 | ニュース
 スカイツリーの先は宇宙へ──。東京スカイツリーを施工した大林組(東京都港区)が、約40年後に造れる建造物として軌道エレベーター(以下、同社表記に従い「宇宙エレベーター」)の事業構想を発表した。現時点では仮想のプランで実際に造るわけではないが、すでにある技術の発展によって近い将来可能になると位置づけている。

 宇宙エレベーター構想は、同社発行のPR誌「季刊大林」で「タワー」をテーマにした最新号に掲載されたもので、同社の技術陣が近未来構想や失われた建造物の復元などを事業として検証・立案するシリーズ企画「大林組プロジェクト」で取り上げられた。
 「世界で一番高い塔を施工しましたが、高さだけ追求し続けても意味はない。スカイツリーの先はどこまで行くのかを考えた時に宇宙を想像し、宇宙エレベーターを施工会社として検討しました」。同社CSR室副部長で同誌編集長の勝山里美さんは理由について語る。地球物理学や海洋土木など、同社の多彩な分野の技術者、専門家らが通常業務の傍ら取り組み、1年ほどでまとめたという。宇宙エレベーター協会副会長の青木義男・日大教授も監修に加わっている。

 今回提案された宇宙エレベーターは全長約9万6000km。静止衛星軌道(高度約3万6000km)を挟んで2本のカーボンナノチューブ製ケーブルが地上と宇宙を結ぶ。米ロスアラモス研究所ののB・C・エドワーズ博士らによる計画を基礎理論として、建設会社の誇る技術で実際の事業を想定してまとめた形だ。エドワーズプランも具体的な建造手順に言及しているが、大林組の構想は、建設会社が持つ視点と経験を生かした、より現実的なものとなっている。
 「アースポート」と呼ばれる地球上の基部は、赤道海域の沖合に設けられた半没式のメガフロートで、「クライマー」と呼ばれる昇降機械が、ここから人や物資を載せて上昇。静止軌道にはおよそ7日半で到達するが、途中には観測や実験、人工衛星の軌道投入などの施設のほか、高度が上がるにつれて乗客が感じる重力が減少していくため、火星や月と同じ重力環境を体験できる施設も構想している。無重量状態の静止軌道上では大規模な施設が設けられるほか、さらに上の高度にあるカタパルトは、エレベーターの運動エネルギーを利用して、ほかの惑星へ宇宙船を送ることができる。

 建設方法は、ケーブルの「最初の1本」をロケットで宇宙に送り、軌道上から上下に向かって伸ばす。地球側に垂らしたケーブルの末端を地上と結びつけた後、クライマーでケーブルを補強し、建材を運んで完成させる。もう一方の宇宙側の末端には、エレベーターの構造全体のバランスを保つおもりが設けられる(これがないと全体が地上へ向かって落下する)。人が滞在する施設は、ユニット化した部屋を蜂の巣状に接合させて大型化する方法で造り、人間が宇宙空間に出て作業する手間を極力省いた。
 もっとも苦慮したのはケーブルの動きだったという。「宇宙から垂らしただけで、ケーブルがキロ単位で伸びてしまう。施工途中で重みが変化するし、気候やクライマーの上下運動も影響する。現実にどう動くのかを理解するのに一番頭を悩ませました」と勝山さん。こうした問題を解消するため、同社技術陣はケーブルの挙動を細かくシミュレーションし、たとえばケーブルが伸び過ぎた場合には、海上のメガフロートでバラストタンクに海水を注水、アースポート自体が人為的に沈下することで張力を調整するなどの対策を打ち出している。このほか、アースポートが必要に応じて移動できたり、施設のユニットを畳んで運び、宇宙で膨張させて使うインフレータブル構造を採用したりと、建設会社ならではのアイデアが盛り込まれている。
 同社はこうした構想を2050年に建造可能と位置付け、基本的に日本の保有する技術の延長で実現できるとしている。「絵空事とは思っていません。既存の理論と技術の発展の先にあるものとして、宇宙エレベーターをとらえています」と勝山さんらは話し、今後も夢のある建設構想を模索していくという。

 宇宙エレベーターは、地球の自転と同じ周期で回る静止衛星と地上をケーブルなどで結び、宇宙への輸送手段として利用する構想で、SF作品ではおなじみのほか、世界で研究が進んでいる。
 大林組は1936年設立。間もなく開業する東京スカイツリーをはじめ、大阪ステーションシティやドバイメトロプロジェクトなど、国内外の有名な建設事業を手掛けてきた。「季刊大林」は、毎号テーマを決めて、建設を中心とした周辺文化をまとめて紹介する同社のPR誌で、53号まで発行されている。
(軌道エレベーーター派 2012/02/22)

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軌道エレベーターによる放射性廃棄物の処分(改訂版)をアップしました

2012-02-09 01:41:48 | その他の雑記
 「軌道エレベーター学会」のコーナーに、昨年12月の「第4回宇宙エレベーター学会」(JpSEC2011)で発表した、「軌道エレベーターによる放射性廃棄物の処分(改訂版)」の全文をアップしました。
 元々は2008年の米国学会"2008 Space Elevator Conference"で発表したものに、加筆・修正を行ったものです。当時、積み残しの課題があったこと、また昨年3月に東日本大震災と、それに続く福島第一原発事故が発生し、放射性廃棄物の処理問題への関心が高まっていることから、手直しして紹介したものです。
 JpSECではダイジェストのみで、当日は紹介しきれなかった部分も詳細を述べてあります。檀上で「詳細は後日WEB上で公開します」と言っておいて、準備に時間がかかってずいぶん間が空いてしまいました。お詫びいたします。改訂に伴い、タイトルに用いる語句を「核廃棄物」から「放射性廃棄物」に変えましたが(最初の英語での発表は"Radioactive Waste"だったので意味するところは同じです)、主旨は変わっておらず、またI章とII章については、若干データを更新した程度で内容はほぼそのままです。過去にも読んでくださった方がおられましたら、飛ばしてくださっても支障はありません。
 ちなみに本文中にもありますが、これは「軌道エレベーターで放射性廃棄物を放り投げれば、それで最終処分になる」という点に重きをおき、既存のモデルを少々強引に拡張したものを用いて試算を行いましたが、あくまで利用の一例です。軌道エレベーターを利用した廃棄物投棄には、様々な展開方法や可能性があることを知っていただくきっかけになれば、という思いで書きました。
 興味を持ってくださった方がおられれば、ぜひ色んなバリエーションを深めていただければと思います。東日本大震災と原発事故の苦境が一日も早く解決することを祈念し、改めてアップさせていただきます。
 なお、2009年7月にアップした、改訂前の「軌道エレベーターによる核廃棄物の処分」は、紛らわしいので当面の間非公開にします。

 では、序文と目次はこちらから

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軌道エレベーターによる放射性廃棄物の処分(再改訂版)

2012-02-09 01:25:00 | 軌道エレベーター学会

軌道エレベーターによる放射性廃棄物の処分
(再改訂版)



 2008年の米国学会"2008 Space Elevator Conference"で発表した論文(の日本語版原稿)を再度修正し、昨年の「第4回宇宙エレベーター学会」で発表したものです。最初のI、II章は、前回とほとんど変更していませんので、ご存じの方はII章3節目からご覧ください。前回改訂で後半のIII、IV章に、廃棄物の宇宙への投棄方法について太陽に投棄するプランと、2011年3月11日に日本を襲った東日本大震災で生じる廃棄物処理を行った結果を加えました。
 その後、前回改訂の太陽投棄については依拠するデータが少なく根拠に欠けると判断して再び除き、既存の文献等根拠を持つ記述のみに整理して再改訂しました。

はじめに


 本稿では、近年注目を浴びつつある「軌道エレベーター」を使用し、高レベル放射性廃棄物を宇宙空間へ投棄する構想を検証、提案する。
 軌道エレベーターは、ロケットのように墜落や爆発、大気汚染の危険がなく、低コストで安全、クリーンな輸送機関として、世界で研究が進んでいる。
 まだ実現はしていないが、理論的には成熟し、十分実現が可能なものである。技術的にも手が届きそうな域に達し、早ければ10~20年後には建造を始められると唱える研究者もある。

 一方、人類社会は大量の放射性廃棄物を抱え、その量は年々増え続けている。地下に埋めるほかに処分のしようがなく、何らかの原因で漏れ出せば深刻な環境汚染や健康被害をもたらす。根本的に解決できない負の遺産である。
 この解決のため、本稿は軌道エレベーターに注目した。軌道エレベーターは、質量を地球の重力圏外へ脱出させる投射機としての機能を持つ。これを利用し、高レベル放射性廃棄物を軌道エレベーターで宇宙空間に放出、太陽系外への脱出コース、または天然の核融合炉である太陽への突入コースへ乗せる。近い将来に軌道エレベーターが完成すると想定し、この案の具体的なシミュレーションを行い、手順や事業費の試算などを提示する。

 本稿は専門の研究者ではない個人が、私的に集めた資料に基づいて書かれている。矛盾や疑問、意見を抱かれたらぜひお寄せいただきたい。特に各国の放射性廃棄物処分についてより詳細な情報をいただければ誠にありがたい。修正すべき点が判明すれば正し、完成度を上げたい。

 I章ではまず、軌道エレベーターの原理と構造、研究の現状などについて説明し、読者への理解を図る。ただし、本題はあくまでこれを使った放射性廃棄物の投棄計画であるので、極力簡略化して説明する。
 II章では、現在と将来にわたり人類が抱える核廃棄物の量や、処理の現状、懸念される問題点などについて解説する。
 III章では、基本的な軌道エレベーターを建造するプロセスと、これを使っていかに放射性廃棄物を輸送、太陽系外へ投棄するかという手順を説明する。さらにこの計画が推進された場合の必要期間やコストの試算も行う。
 IV章では、Ⅲ章で示した軌道エレベーターを改良して効率アップを行った場合の試算、さらに東日本大震災で放射能漏れ事故を起こした福島第一原子力発電所から生じる廃棄物の処理を行った場合の試算を示して結ぶ。

 なお、I章は軌道エレベーターについて詳しくない方にもご理解いただけるよう、基礎知識に終始している。説明不要という方はI章は3節目のみご覧いただきたい。

目次
I章 軌道エレベーターの可能性
 1. 軌道エレベーターの基本原理
 2. 軌道エレベーター研究史
 3. 軌道エレベーターの利用価値

II章 放射性廃棄物処分の現状
 1. 放射性廃棄物とは
 2. 放射性廃棄物処分の現状
 3. 放射性廃棄物の人体への影響と処分の問題点

III章 軌道エレベーターによる放射性廃棄物の処分
 1. 軌道エレベーターの建造
 2. 高レベル放射性廃棄物の運搬と投棄
 3. 廃棄スケジュール
 4. 費用

IV章 処分計画の改良・応用例
 1.クルーザーを改良した場合の廃棄スケジュールと費用
 2. 福島第一原発の廃炉で生じる廃棄物処分の一例
 3. おわりに

 脚注・参考文献

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軌道エレベーターによる放射性廃棄物の処分(再改訂版) (1)

2012-02-09 01:20:12 | 軌道エレベーター学会

I章 軌道エレベーターの可能性




 軌道エレベーターとは、静止衛星軌道(高度約3万5800km)から上下にケーブルを伸ばして昇降機を取り付け、地上と宇宙を結ぶエレベーターとして使用する、これまでにない輸送機関である。地上から天へと伸びる塔のようなものを想像していただきたい。
かつては突飛な夢物語として受け止められていたが、理論的には十分実現可能なものであり、近年のナノテクノロジーの発達によって、技術的に手の届く域に到達しつつある。
 本稿は、この軌道エレベーターの多様な利用可能性のうち、人体に有害な影響を与える廃棄物、中でも高レベル放射性廃棄物を宇宙空間(具体的には太陽系外と太陽表面)へ投棄する手段を検証し、人類が抱える放射性廃棄物の処分問題の解決を促進しようと提案するものである。
Ⅰ章ではまず、馴染みのない方にもご理解いただけるよう、軌道エレベーターの基本原理と研究の現状について説明する。ただし本題はこれを使用した放射性廃棄物の投棄にあるため、説明は概略にとどめる。


1.軌道エレベーターの基本原理
「宇宙エレベーター」と呼ばれることもある軌道エレベーター。科学に関心を持つ人なら、軌道エレベーターをご存じの方は少なくないであろうが、簡単に説明すると次のようになる。
地球を周回する人工衛星は、地球の引力と、公転による遠心力が一致しているため、高度を維持して周回し続けている。このうち赤道上の高度約3万5800kmを周回する人工衛星は公転周期が地球の自転と同期しており、地上に対し天の一点に静止しているように位置するため、「静止衛星」などと呼ばれる。
 この静止衛星から、地上へ向けてケーブルを垂らしたと想定する。ケーブルを垂下した分、衛星の地球に向いている側(公転軌道の内側)の方がやや重くなり、このままでは徐々に重力に引かれて落下してしまう。そこで、地球の反対側(同外側)にもケーブルを伸ばしてバランスをとれば、衛星は静止軌道の高度を維持できる。
次に、内側のケーブルをさらに伸ばす。また重さが偏るので再び外側も伸ばす。これを繰り返していくと、内側へ伸ばしたケーブルはやがて地上に到達し、地上と宇宙を結ぶ長大な1本の紐になる。
 このケーブルに昇降機を取り付け、人や物資を輸送できるようにしたものが軌道エレベーターである。原理はいたってシンプルであり、厳密に言えば、その実体は静止軌道上に重心を持つ、超縦長の人工衛星である。

 米国のスペースシャトル「チャレンジャー」の爆発(1986年)や、「コロンビア」の空中分解(2003年)、中国での長征ロケット墜落事故(1996年)などに見られるように、現在の宇宙開発の主役であるロケットには墜落や爆発の危険が伴うが、軌道エレベーターにはその危険がない。また、スペースシャトルの固体燃料ブースターが打ち上げのたびに塩化水素や窒素酸化物などの有害物質を100t以上排出するのに対し、大気汚染の心配もない。
 軌道エレベーターは、人が地上と宇宙との間を往復したり、物資を輸送したりする上で理想的な手段である。後に詳述するが、大規模化すれば宇宙への輸送コストは限りなくゼロに近くなる。その実現可能性は手に届くところまで達しようとおり、「明らかに解決不能という課題はない」。(2) 宇宙進出を進める人類にとって、将来不可欠の輸送手段である。


2. 軌道エレベーター研究史
 軌道エレベーターの概念自体は19世紀にまでさかのぼる。1895年、ロシアのコンスタンティン・ツィオルコフスキーは、当時完成したばかりのエッフェル塔をヒントに、地球の赤道上から宇宙へ届く塔のアイデアを紹介した。(3) 軌道エレベーターのアイデアの原点として知られている。
 このアイデアでは、地上から宇宙へ建てていく建造物を想定していたが、1960年、同じくロシア(当時はソ連)のユーリ・アルツターノフが、静止軌道上から吊り下げた形の軌道エレベーターを、「プラウダ」紙に掲載したという。(4)
 一方西側では、その可能性を唱える研究者もいたが、(5) 1979年にアーサー・C.クラークがSF小説「楽園の泉」(6) で取り上げたことが、一般へ普及する大きな契機となった。

 これ以降、軌道エレベーターは科学者やSFファンの間で知られていくようになったが、技術上の課題、とりわけ静止軌道から地上へ吊り下ろせる強度を持つケーブル素材がないために、SFの世界の夢物語にとどまっていた。
 軌道エレベーターの素材には、静止軌道から吊り下げても断裂しないだけの強度が必要という命題がある。およそ62GPa(=ギガパスカル。1Paは1㎡あたり1Nの力が作用する単位で、1Gpaはこの10億倍)、(7) 現存する最強度レベルの高力鋼合金のさらに30倍程度の引っ張り強度が求められ、そうした物質は存在していなかった。そこへ1991年、日本・NEC基礎研究所の飯島澄男(現名城大教授)がカーボンナノチューブ(CNT)を発見した。CNTの引っ張り強度は2001年時点の理論値が45Gpa。(8) 実際には60~100Gpaに達するとみられている。(9)

 CNT発見を機に軌道エレベーターの機運は高まり、議論が加速されて、現在までに多様で具体的な建造計画が提案されている。2002~04年と2008年に米国(10) で開催された国際会議(11) では様々なプランが議論され、今年も開催される予定である。 このほか軌道エレべーターのケーブルを昇降するクライマーの技術発展のため、クライマーの競技コンテストも毎年開催されている。(12)
 2008年6月現在、CNTは安定量産が実現しておらず、このほかにもクリアすべき課題は残されているが、(13) 米国には建造を目的に運営されている民間企業もあり、(14) 研究者によっては10~20年後に建造可能という見方もある。(15)
 最低限必要な建造費は、現在の技術水準から最短で軌道エレベーターを建造する総合的シミュレーションを行ったエドワーズらのプランでは、100億ドル程度で可能だと試算している。(16)
 このほか、非同期軌道型のエレベーターやスカイフック、(17) オービタルリングシステム(18) など、半世紀以上にわたる研究で様々な軌道エレベーターが考案され、原理や構造は多様化している。中には既存の素材で十分建造可能な小型エレベーターのアイデアもあり、理論的には十分に成熟し、その現実味は年々増している。


3. 軌道エレベーターの利用価値
 研究者や構想によって様々だが、軌道エレベーターの輸送コストがロケットに比べて安くつくのは言うまでもない。
 さらに、ケーブルを拡張していき、巨大な筒状まで成長させることに成功すれば、一層のコストダウンが可能となる。それは軌道エレベーターの発展構想として、電磁気推進による昇降システムを採用することによる。いわゆるリニアモーターカーを上下運動に利用すると思えばいい。これにより、静止軌道まで上昇するには電力が必要だが、地上に降りてくるには重力による自由落下で済む。そしてこの時、下りエレベーターの位置エネルギーを利用して発電を行い、上りエレベーターの電力供給に回す(現代の電車にこの仕組みは備わっている)。つまり上り電車の運賃の大半を、下り電車が支払ってくれる(この上下関係は静止軌道の外側では逆になる)。ここまで実現すれば、輸送コストは1kgあたり10ドル、スペースシャトルの1700分の1になるという試算がある。(19)
 軌道エレベーターの実現で、ロケットに依存していた宇宙開発は大きな飛躍が可能になる。宇宙船は打ち上げる必要はなくなり、低重力あるいは無重力の宇宙空間で建造すればよく、大型化もできる。
 また、訓練を受けた宇宙飛行士でない私たちでも、おそらくは高齢者や車椅子の人でさえ、宇宙を訪れる機会が得られることも期待されている。逆に、宇宙空間からの資源の移入も可能になるかも知れない。軌道エレベーターは実に多様な可能性を持っている。

 そして本稿とのかかわりで最も重要なのは、軌道エレベーターが、物体を地球の重力圏外へ脱出させる遠心投射機として利用できることにある。
 末端にカウンター質量(静止軌道より内側のケーブルの重みとのバランスをとるために、外側に設置する重し)を取り付けることで短くするなど、軌道エレベーターの全長は構想により様々だが、概して5~10万km以上に達する。
 地表から放り投げた物体が地球の重力圏を脱する速度、いわゆる第2宇宙速度=1Gにおける地球重力圏からの脱出速度は秒速11.2km。この行為を軌道エレベーターが持つ角運動量を利用して行う場合、一定の高さ以上の所で軌道エレベーターに固定していた物体を放出すると、その物体はもう地球には戻ってこなくなる。地表から離れるほど重力は小さくなり、それに伴い脱出に必要な速度も小さくなる結果、この高度は約4万6700kmになるという。(20) これ以上の高度であれば、軌道エレベーターから放出した物体は地球の重力を振り切って飛んで行き、二度と戻ってくることはない。
 このアイデアは軌道エレベーターの活用案として、月や火星への飛行計画などとして提案されている。軌道エレベーターの遠心投射機能を利用すれば、宇宙船は地球の自転エネルギーをもらって加速するので、月や火星まで、何もせず、事実上コストゼロで送ることができる。旧ブッシュ政権は月や火星の有人探査計画の推進を打ち出したあげく結局実現していないが、(21) 軌道エレベーターを造れば、ロケットを使わず、大幅にコストダウンをしてこの計画が実現可能になる。

 本稿は軌道エレベーターのこの機能を利用し、エレベーターで宇宙空間まで放射性廃棄物を持ち上げた後放出し、処分することを提案する。これにより、現在地球上で根本的に無害にする方法がない放射性廃棄物を消し去ることを目指す。
 軌道エレベーターに関する研究成果は多岐に渡るが、本稿のテーマはこの使用法に重点を置いているため、軌道エレベーター自体についての説明はこの程度の基礎的範囲にとどめて先に進みたい。II章では、放射性廃棄物の現状について説明する。

II章に続く)

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