軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

OEV豆知識(15) 低コストの理由 その1

2009-07-31 23:55:31 | 軌道エレベーター豆知識
 軌道エレベーターなり宇宙エレベーターなりが徐々に世間に浸透してきた昨今、軌道エレベーターがロケットより低コストだということは、常套句のように言われます。
 低コストだから軌道エレベーターは有益、というのは言うまでもありませんが、なぜ低コストなのでしょうか? そのことをきちんと具体的に説明している文章は意外と少ない気がします。そこで今回の豆知識は、この低コストの理由について解説したいと思います。

 軌道エレベーターがロケットに比べて低コストである主な理由は
(1) 燃料を持ち上げる必要がない
(2)(静止軌道より下で)軌道速度まで加速する必要がない
(3) 繰り返し使用できる
(4) エネルギーの多くが回収可能
 ──などが挙げられます。きょうはこのうちの(1)について説明します。

 現在、宇宙へ行く唯一の手段であるロケットが、大雑把にいうと燃料の化学反応で(あるいは推進剤を噴射して)飛んでいることは誰でもご存じでしょう。上記(1)の理由は見ての通り、軌道エレベーター(の昇降機)はこの燃料を積む必要がないということです。実際問題、燃料を積むか積まないかという違いは、宇宙まで質量を運ぶ上で大変な差を生むのです。

 たとえばロケットで高度200kmの低軌道まで昇るとして、全行程を前半と後半の100kmずつに分けたとしましょう。話をわかりやすくするために単純化し、ここでは高度による重力の変化は無視し、非燃焼型の推進剤も「燃料」に含むものと仮定します。

 さて、ロケット本体(宇宙船や衛星など、宇宙へ運ぶモノも含む)の重さが10tだとして、この10tを前半の100kmぶん持ち上げるのに、同じ重さの燃料10tが必要だとしましょう。このロケットが上昇するのに、前半と後半で10tずつ燃料を消費するわけですが、中間点までいくのには、後半の分の燃料も最初から持って行かなくてはいけません。途中にスタンドなんかないですから。その分重くなるので、前半の行程は、本体と後半の分の燃料もまとめて運べるだけの燃料が必要です。
 それゆえに、前半には本体10t+後半の燃料10t=20tを100km運ぶのに必要なだけの燃料、つまり20tの燃料を消費することになりますね。だから打ち上げ時には、10tのロケット本体が、自重の3倍にあたる計30tの燃料を積んで打ち上げねばならないわけです。



 実際には3倍どころでは済みません。たとえば日本のH-IIAは静止軌道まで最大約6tの質量を持ち上げられる能力を持っていますが、全重量約230tのうち、実に85%の約197tを燃料が占めます。米国のスペースシャトルなんざ、せいぜい高度600kmくらいの低軌道までしか上がれないのに、80t弱のオービターと最大約29tのペイロードを軌道に乗せるのに1200t以上(「航空軍事用語辞典++」によれば1700t)の燃料を費やします。
 つまり、ロケットが燃料を使って打ち上げる重量のほとんどは、燃料そのものなのです。宇宙へ持って行けるのは全重量の2割に満たないか、種類によってはほんの数%。地球の重力を振り切るのはそれだけエネルギーを要するということですね。

 これに対し軌道エレベーターは、随時エネルギー(電気)供給を受けながら昇っていくことを想定しています。供給の方法は様々あり、また克服すべき技術上の問題点も数多く抱えてはいるのですが、前提として昇るのに必要な燃料を一緒に持ち上げることはありません。

 登山に例えると、ロケットの場合は必要な手荷物に加えて、登山家の体重の5~6倍もの飲み水か何かを持って登り始めなければいけない(ちなみに2合目か3合目あたりでその大半を飲み干してしまう)のに対し、軌道エレベーターは手荷物だけでいいといったところでしょうか。後者の登山道には水道が引いてあって、途中いつでも水を飲めるからです。どっちが楽か言うまでもありませんね。

 半世紀の技術の蓄積を持つロケットを、まだ存在していない軌道エレベーターと比較して、やたらコスト高だと言い立てるのはフェアではないかも知れません。しかし、現在の宇宙開発がもっと安く済むはず、という点だけをとっても、軌道エレベーターに考えを及ぼすのは大きな意義があると考えます。

 燃料を積まない──何と言っても、これがロケットと軌道エレベーターの最大の違いと言えます。次回も燃料が関係しますが、その燃料によって出すスピードの話です。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「軌道エレベーターの人」

2009-07-30 00:02:32 | その他の雑記
 先日、横浜で開かれた、宇宙エレベーター協会(JSEA)の「JSEAビデオドキュメント上映会&トーク in YOKOHAMA」に裏方として行ってまいりました。イベントとしては利益も出て上々でした。何の因果か私が編集長を務めた、JSEA年会報のCD-ROMも売れまして、いやありがたい。

 さて、その後打ち上げの席で「軌道エレベーター」の編集担当、早川書房のT女史に挨拶。私の古巣でもあるので、内輪ネタで話が弾んだ。。。と私は感じました、はい。
 そして話しているうちに、このホームページの話題になり、「軌道エレベーター」の書籍を取り上げた(7月5日13日の2回)のを見たとのことで、一言。「ひょっとして、軌道エレベーターの人ですか?」
 「い、いや、違いますよ(汗) あのホームページは私も知ってますが、ちょっとイタいですよねぇ」などと、わざとらしくすっとぼけたままバレバレの会話をつづけました。

 山崎豊子氏の「運命の人」が書店で売れてますが、「軌道エレベーターの人」ですか、私は。ついにここまで来たか。「奇跡の人」のサリバン先生とか、「孤高の人」の加藤文太郎のような誉れ高い呼び名と違って、なんか後ろ指さされてるような。。。カタギの人から見りゃ恥ずかしいだけでしょうが、上等だあ! ああ、もっと言ってくださいやし。
 こんな体験もあって、楽しいひと時でした。Tさん、皆さん、また飲みましょうね。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

軌道エレベーターが登場するお話 (6) Z.O.E Dolores, i

2009-07-27 00:00:09 | 軌道エレベーターが登場するお話
Z.O.E Dolores, i(ゾーン・オブ・エンダーズ ドロレス・アイ)
バップ、サンライズ(2001年)

 プレイステーション用ゲーム「ZONE OF THE ENDERS」と同じ舞台設定で描かれたアニメ作品。登場するOEVのエマージェンシー機構が、リアリティのある描かれ方をしています。

あらすじ 軌道エレベーターや惑星間航行が常態化し、火星に植民地が築かれた22世紀の未来。元軍人で運び屋のジェイムズ・リンクスは、ある荷物の運搬を引き受けたために命を狙われる。中身は、意思を持つオービタルフレーム(本作に登場する特殊な人型兵器の名称)「ドロレス」だった。ジェイムズは仲違いしていた子供たちと合流し、追っ手と闘いながら、ドロレスを造った元妻のいる火星へと向かう。

1.本作に登場する軌道エレベーター
 地球の南米に軌道エレベーター(以下OEV)が建造されており、リニア式昇降機が運行しています。基本原理や構造は数ある他作品と大差ありません。物語の前半、ドロレスが敵と交戦して色々壊してしまい、地上基部が洪水に見舞われます。ですが前半のパニックはOEVを印象づけるためのご愛嬌。最後のクライマックスで、このOEVが倒壊の危機に陥り、火星から戻ってきたジェイムズやドロレスが、これを防ごうと活躍します。

 本作で感心するのは、攻撃を受けたOEVの危機回避システムが、かなり妥当に描写されていることです。物理の基礎をふまえた的確なもので、見ていてけっこうシビれました!

 敵のオービタルフレームは、OEV末端部でオモリの役割をする「アンカーステーション」を分断して全体の質量のバランスを狂わせ、倒壊させようと図ります。OEV豆知識でカウンター質量を紹介した時、「カウンター質量はOEVのアキレス腱」と述べたように、うなずける作戦です。
 で、攻撃でアンカーの質量が減ったためOEV全体が落下を始めます。地上では「アイランドステーション」が全体の重みを受けて沈下。この時のOEV管制室の対応がこれまたいい。
 全体の落下を止めるために「アジャスターホイール」という可動式のオモリを、重量の均衡がとれる「バランスポイント」までスライドさせます。必要と思われるフェイルセーフを適切に使っていて、「おお!」と感心しました。ステーション自体をホイールとして使用しないのは、質量があり過ぎて動かせられない、ということで了解しておきましょう。

「第3ホイール崩壊、エレベーターバランス、戻りません」
「軌道エレベーター、落下止まりません!」 

 こういう緊迫したセリフからも、OEVの原理を正しく理解した考察が行き届いているのを感じます。さらに、落下が止まらなければ、OEVが地球の自転方向に向かって地球を鞭打つように倒壊する、とジェイムズの息子レオンが説明します。
 少々脱線して説明しますと、OEVに接触した質量(構造体そのものも含む)が上下に移動する場合、コリオリと同様の力が働くため、このようになると考えられています。
 OEVの構造体は、上へ行くほど大きな運動エネルギーを持っています。約24時間で1周しますから、地上は秒速0.5km、静止軌道部は秒速約3km、本作では全長が約4万7000kmですので、末端部は秒速約4kmで運動しています。つまり、OEVは上へ行くほど、地球の自転スピードより速く動いているのです。
 ですから、上部の運動エネルギーを打ち消さないままOEVが落下なり沈下なりすると、地球の自転を追い越して、全長4万7000kmのOEVが東に倒れることになる。結論として、OEVが倒壊する時は、東向きに地球にぐるぐる巻きつくように倒れると言われています。レオンは、このことを言っているわけです。

 これで完璧、と太鼓判を押せるほど私も自信はありませんが、可能な限り正確に考証しているように見受けられます。エマージェンシーに限って言えば、これほど適切に描写しているアニメ作品はほかにないんじゃないでしょうか。以前このコーナーで紹介した「機動戦士ガンダム00」のOEV倒壊シーンが正しいと思う方は、ぜひ本作をご覧ください。こう言ってはなんですが、こちらを見たら、無秩序に外壁がはがれ落ちてリニアトレインが脱線し、被害を増大させただけの「00」がデタラメにさえ映るのではないでしょうか。

 本作で突っ込みたくなる疑問は、最後の手段として「OEVの下部を必要な分だけ切り離す」ということをしないのはなぜか、という点でした。ほかの手段が効かないなら、この手があります。切り離した分が地上に倒れて被害を招くことは免れませんが、全体が「地球を鞭打つ」よりはましでしょう。
 しかしこの点を除けば、極めて緻密かつ的確で、作り手の丁寧さが伝わるエピソードでした。

 本編では、ドロレスが倒壊を食い止めようと善戦しますが、最後のホイールも攻撃を受けて質量が軽減し、軌道エレベーターの落下は止まりません。ドロレスは自らを犠牲にして、地球を救おうとするのですが。。。結末は直接ご覧ください。
 
2.その他の設定
 同名のゲームやアニメ作品(OVA「Z.O.E 2167 IDOLO」)などと舞台が共通しているだけあって、本作の世界設定は細部まで凝って作られています。人口過剰に陥った地球は、2014年にOEV構想を打ち出し、2027年から建造が始まります。完成は18年後。
 人類はこれを足がかりに本格的に宇宙に進出し、火星の植民地化や木星圏の探査を進めます。ですが、やがて宇宙へ出て行った人々は、辺境にいる人々を意味する「エンダー」と呼ばれて地球の住民に見下され、確執が深まっています。
 また本作では外宇宙で発見された「メタトロン」という鉱物が重要な役割を果たしています。これが空間を圧縮する効果を持っていて、宇宙船の跳躍航法や、「ドロレス」をはじめとするオービタルフレームのボディにも用いら、様々な使い道があるようです。
 古典的なニュートン力学で説明できるOEVが登場する一方で、「空間をねじ曲げる」などという設定が出てくると「うーん」と思わないでもない。。。とはいえ、ネタバレになるので詳細はさけますが、相互矛盾せずに上手な使われ方をしている方だと思います。

 このほかには、ジェイムズを追い続ける男が彼を「ジョン・カーター」(「ターザン」で有名なエドガー・ライス・バロウズの「火星シリーズ」の主人公)と呼んだり、各話のタイトルが名作映画を踏襲していたり、火星の売店で人面岩(NASAが撮影した火星表面の写真に写っていたとされる、人間の顔みたいな岩)のオブジェが売られていたり。。。と、随所で遊びがうかがえます。

3.ストーリーについて
 本作の主人公は、ロボットアニメには珍しい、50歳目前のおじさん。勇気はあるけど一本気で強情な頑固おやじという、21世紀の日本では絶滅危惧種です(声が玄田哲章さんというのが、また実に。。。)。しかしその性格のせいか妻と離婚、2人の子供にも愛想を尽かされます。
 そんな彼がドロレスにかかわったために、子供たちと一緒に追われる羽目に。その危機を家族が一丸となって乗り越えて、絆を新たに築く。そういうお話です。
 ヒューマンドラマとしては、意外性やヒネリのあるキャラクターなどはほとんど出てくることがなく、私のようなスレッカラシには、正直いって物足りなくて冗長でした。人間ドラマの対象年齢は低い一方で、OEVをはじめとするSF設定はかなりハードという印象を受けます。とにかく絵にかいたような(いや、絵なんだけど)性格のキャラばかりで、ストーリー展開もすべて型にハマっていました。
 とはいえ、主人公が初老にさしかかったおじさんですから、ドラマまでシリアスで重いとなったら救いようがない気がしますね。単純だけど憎めないキャラ達だから、おじさん主人公で最後まで乗り切れたのかも知れません。
 20年くらい前の作品を見ているような、古典的ドラマの基本に忠実な温かいお話で、今時こういうのはかえって貴重かも知れませんね。天然な女の子の人格?がプログラミングされているドロレスが、ジェイムズを「おじさま」と慕いつつ色々ボケかましていたのも、ほのぼのした雰囲気に拍車をかけていて脱力モノです。しかしこれを2クール見るのは疲れた。。。

 ともあれ、OEVに関しては、設定や描写は一見の価値ありです。これを見ると、OEVが登場する他作品の描写の過不足が見えてくるような、ある意味今後のSF作品にとって良き物差しとなりうる作品ではないかと思います。クライマックスだけでも、ぜひご覧下さい。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

軌道エレベーターから日食は見えるか

2009-07-23 00:04:08 | その他の雑記
 このところ雑記が続いて恐縮ですが、これは今しか書けないので。。。
 皆さん、日食ご覧になりましたか? 私はぐんま天文台に行ってまいりました。曇り空の隙間から時折見えた程度でしたが、かじられたどら焼きのような太陽が確かに見えました。ぐんま天文台にはポケットブック置いてありますのでよろしく。

 さてこの日食、軌道エレベーター(OEV)から見えるのでしょうか?
 答えは条件次第、としか言いようがないのですが、はっきり言えるのは、地上と同時に観測することはまず不可能という点でしょう。
 OEVは地球の直径よりもはるかに長いので、月が地球に影を落としている地域に地上基部があったとしても、月に向かってまっすぐ伸びていない限り、構造体の大部分が影から出てしまいます。
 実際は、黄道(天球における太陽の通り道。つまり地上から見た、太陽が空を横切る通り道のこと)、白道(同じく月の通り道)、赤道(OEVの立地の基本位置)の間にズレがある以上、「太陽-月-OEV」という三つの位置関係が一直線上に並ぶ、つまりOEV全体がすっぽり月の影に入るなどということはまずありえないんじゃないでしょうか。結果として、OEVの地上基部で日食が起きたとしても、足元しか影にならないということです。まあ全体が影に入ったところで、高度を上げても月が大きく見えすぎて、必要以上に太陽が隠れてしまうだけかも知れませんが。

 一方、OEVを昇って、もっと高い位置から見た場合、月とOEVの位置関係次第では、地上では起きないタイミングに日食を見られるかも知れません。さらに、エレベーターの上下移動で観測位置を能動的に調節することで、けっこう長時間観察できるかも知れません(ま、そんなことしたらほかのエレベーターが詰まってしまいますので、何かすり合わせが必要ですが)。

 しかし、私がもっと強調したいのは、OEVであれば「地球による日食を見られるのではないか」ということです。OEVは地球の自転と同期して周回しているわけで、地球の影に入る部分は毎日夜が訪れます。これは、OEVの側から見て、地球が太陽を隠すように見えることを意味します。
 ただし地軸が23.5度傾いている、つまりOEVは黄道面に沿って公転しないため、皆既日食は見られないかも知れません。反面、太陽の引力による摂動で、OEVの構造体全体は、黄道面に向かって曲がるというか、たわむ現象が常に起きるはずです。上手にたわみさえすれば夢ではないでしょう。
 以上は大雑把な予想ですが、最近の研究では、OEVの地上基部を高緯度地域に持ってくるアイデアも出ていますので、こうした条件と組み合わせれば、日食観察がOEVのひとつの売りになるのではないでしょうか。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パイオニア・アノマリー

2009-07-21 00:03:03 | その他の雑記
 軌道エレベーター学会で紹介した「軌道エレベーターによる核廃棄物の処分」で、軌道エレベーターを使って核廃棄物を太陽に投棄させるプランを説明しておりますが、「別に無理して太陽に突入させなくてもいいんじゃないの?」という指摘もありました。
 実際その通りで、月とかほかの惑星とか、太陽系外へ放り出してしまってもいいわけです。軌道エレベーターならそれができます。
 たとえば、宇宙エレベーター協会(JSAEA)で実施した「宇宙エレベーターアイデアコンテスト」の担当が私だったのですが(というより、企画を出したので責任者にならざるをえなかっただけ)、応募作品の中に、「太陽系外に投射する廃棄物に観測装置を付け、探査に役立てる」というのがありました。とてもいい発想で、きっと本当に行われるに違いありません。すごく気に入ったので、この作品には賞を差し上げました。

 そんなわけで、とにかく人類に危害が及ばなければ、軌道エレベーターで投射した廃棄物の行き先はどこでもいいわけです。ですので、「軌道エレベーターによる核廃棄物の処分」をまとめる際にも、太陽系外に飛ばすことを少しだけ考慮しました。
 本文中でも述べましたが、実際問題、地球から質量を太陽へ突入させるより、太陽系外へ飛ばしちゃう方が力学的には簡単に済むらしいです。速度を十分に減殺しないと、きちんと太陽に向かわず、異なる楕円軌道に遷移してしまう可能性があるからです。
 それでも太陽を選んだのは、太陽系外だと行き先が不明のままで消化不良というか、不安を誘うような感じがしたし、しかも太陽は天然の核爆弾だからスッキリすると思ったのが主な理由です。だから太陽系外はちょっと考えてすぐ却下しましたが、その時にちょっとだけ頭をよぎりました。「パイオニア・アノマリーの件もあるし。。。」。

 NASAの「パイオニア計画」で1970年代に相次いで打ち上げられた「パイオニア10号」と「11号」。外惑星の貴重な観測データを送ってくれた後に、太陽系を脱して行きました。太陽系の脱出速度を得た最初(と2番目)の探査機でもあります。
 ところが、その後数十年の観測で、探査機のスピードが予測値よりほんのわずかに小さくなっているという観測結果がもたらされました。太陽の重力に引かれるから徐々に減速はするんですが、太陽から遠くなるほどこの影響は小さくなるので減速率も下がり、最終的には重力を振り切って飛んでいくはずでした。ところが予測よりも減速している。これがパイオニア・アノマリー問題で、「パイオニア減速問題」とか「異常問題」とも呼ばれます。
 これが偶発的なトラブルでないことは、それぞれバラバラの方向へ飛んで行った10号と11号の双方が減速していることからも明らかです。いずれにせよ、大袈裟かも知れませんが、この減速が続けば遠い未来には停止してしまうしまうかも知れないんですね(もっとも交信が途絶えて久しいので、今どうなってるかわからないらしいですが)。これを思い出して、「廃棄物投げても戻ってきたらどうする?」なんて思ったのです。

 私の知る限り、アノマリーの原因ははっきりしておらず、予測か観測のミスや誤差かも知れないし、まだ知られていない現象や自然法則によるものかも知れません。最近ではこんな説も出ているらしいです。もっと新しい情報をお持ちの方、ぜひ教えてください。
 私の生きているうちに原因を知りたいと願うばかりですが、こういう出来事があると、「まだまだ宇宙は謎だらけだ」と、かえってわくわくしますな。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする