軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

宇宙世紀のテーゼが破綻しかかってんじゃね?

2020-08-30 13:38:00 | その他の雑記
 当サイトでいろいろ書いても、軌道エレベーターや宇宙・科学の話題より、その他のネタの方が結局受けがいいんですよね。
 ご覧くださるだけでありがたいですが、とりわけ閲覧数が多いのが「機動戦士ガンダム」(1978年)をはじめとするサブカルチャーネタであります。やはりガンダムは不動の人気コンテンツなのでしょうか。

 だからというわけではないのですが、今回もガンダム関連で思うところを一筆。ただしかなり理屈っぽいです。
 だいぶ前から感じていたのですが、近年の科学の発達で、宇宙世紀のテーゼが崩れてきているのではないか? ということについて。
 ガンダムは次から次へと後付けの設定が誕生し続けているため、今回は初期の設定に基づき話を進めます。

1. 宇宙世紀におけるミノフスキー粒子
 宇宙世紀のガンダムの世界では「ミノフスキー粒子」が電波を阻害するチャフの役割を果たしていますね。
 このため有視界戦闘を強いられる局面が多くなり、ひいてはこれが宇宙服の重機動化・巨大化をうながしてモビルスーツの発達にもつながったわけです。
 一方、脳波はミノフスキー粒子の干渉を受けないという設定のため、物語後半ではニュータイプの脳波を増幅して無人砲台「ビット」を無線誘導する「サイコミュ」が登場しました。

2. ガンダムSEEDの話
 ここで、宇宙世紀の世界ではない「機動戦士ガンダムSEED」(2002年)の話に少々脱線します。「SEED」の世界「コズミック・イラ」には、当然ミノフスキー粒子は存在しません。代わりに「ニュートロンジャマー」という兵器が出てきます。
 ニュートロンジャマーは、あらゆる核分裂を抑制する機能を持つのですが、その主目的は置いといて、電波障害を起こす副次的な機能もあり、コズミック・イラにおけるミノフスキー粒子のような役割を果たしています。

 しかしニュータイプはいないので、サイコミュのような無線誘導兵器は出てこない。。。と思っていたら、終盤に登場する敵のラスボスガンダム「プロヴィデンス」が、ビットやファンネルに良く似た「ドラグーン」をビュンビュン飛ばしてるじゃありませんか。
 「どういうこっちゃ?」と設定(放映当時、3期に分けて設定を網羅したムックが発売されて、その3巻目を参考にしてます)を見たら、量子通信を使っているとのこと。なるほど! 21世紀の作品だけあって、量子力学が取り入れられているとは。

3. 量子通信
 量子通信は、実用化には程遠いですが、理論的にはすでに確立しています。二つの粒子(普通は光子)のスピンが一致する現象(エンタングルメント)を基にしています。
 光子は固有のスピンの傾きを持っていますが、観測するまでその傾きは不明というか、あらゆる傾きを有しているというか、とにかく観測して初めて確定します。
 光は波としての性質もあるので、二つに分割して、粒子として二つの光子をつくる。この二つ=双子の粒子が持つ固有のスピンはかならず一致する。片方を観測して傾きが確定すると、もう片方もかならず同じ傾きを見せます。どんなに距離が離れていても、必ずそうなる。これが量子力学の基本原理です。

 で、これを応用した量子通信ですが、観測前の双子の粒子を通信当事者に別々に与え、一方が観測して確定したら、もう一方も確定するので、それを情報伝達に利用するもの。

 大雑把なたとえですが、文字の札が中に入った2組のガシャポン(カプセルは不透明で中が見えない)をAさんとBさんに持たせて別の場所に行ってもらい、到着したらAさんがガシャポンをテキトーに開封。出てきた文字を並べ替えてメッセージを作り、「こういう順番で開封してね」という指令をBさんに伝える。Bさんがその順番でガシャポンを開けると、Aさんからのメッセージが再構成される、みたいな感じでしょうか。

 量子通信は、粒子間で情報のやりとりをしていないらしいので、タイムラグがなく、一切の物理的干渉も受けず、このため傍受も不可能とされています。
 「量子テレポーテーション」という言葉を聞いたことがある方もおられると思いますが、それはこの現象の一致及び同時性のことで、物質の瞬間移動を意味するわけではありません。これは同じ現象が同時に決定するだけで超光速の通信をしてるわけでもないなので、相対性理論の破綻を意味するものでもありません。

 現状では、量子通信を成立させるには、エンタングルメントを解く順番というか、鍵となるパターン(上記の「この順番で開封」という指令)を、電波なり光学なり振動なり、何らかの手段で送受信する必要があるのですが、この鍵の送信は極めて短い信号で済み、その信号単体では第三者にとって意味を成さないので、電波によるリアルタイム通信よりはるかに役立つという理屈になります。

4. 量子通信はミノフスキー粒子に影響されない
──以上、非常にざっくりとした説明で申し訳ありませんが、私の理解が間違っていたらごめんなさい。その時はお詫びし訂正します。
 で、何が言いたいかというと、ようするに量子通信はミノフスキー粒子の干渉を受けない。ニュートロンジャマーもな。

 「SEED」放送当時はSFとしての設定に感心してただけでしたが、近年、現実に量子テレポーテーション実験や量子コンピュータ開発などが報じられるようになりました。SF作品でも量子論の扱いが増えてきていることから、近未来を扱う作品で量子通信は一般化していくのではないかと思います。

 たとえば今話題の「三体」(軌道エレベーターもかかわってくるので、いずれ扱う機会を設けたいと思っています)には「双子の粒子の片方に変化を与えると、もう一方にも同じ変化が生じる」という発想で、量子通信を成立させている設定も見受けられます。それが本当に可能なのかはわかりませんが。
 また「SEED」以外のガンダムをみても、「機動戦士ガンダム00」で「脳量子波」という設定が出てきて、脳量子波を使えるグリア細胞が発達した人間は、量子通信を基にしていると思われる生体通信ができ、量子演算処理システム「ヴェーダ」や脳量子波のユーザー同士で、まるでテレパシーのような情報のやりとりを行っています。ハロもヴェーダやハロ同士で量子通信してるらしいです。

 理屈が長くなりすみません。こんなわけで、宇宙世紀におけるミノフスキー粒子の大きな役割は、量子力学の台頭によって無効になりつつあるのではないか、そんな風に感じているのです。
 
5. 宇宙世紀の行末
 ただしこれはレーダーの無効化=索敵の障害を解消するものではないし、ミノフスキー粒子は、ミノフスキークラフトや核融合の炉心部封じ込め、Iフィールドやビーム兵器の縮退などなど、後付けの設定も含めて宇宙世紀のあらゆる分野で使われていて、最近は「ミノフスキー通信」なんてのも出てきたそうです(確かに原理的には納得できる)。ニュータイプの脳波(感応波)も何とかいう体内酵素が関係してるとかなんとか。
 今や通信障害は設定のほんの一部でしかなく、このテーゼが崩れたからと言って、コンテンツに即影響するようなものでもないでしょう。

 ですが通信や兵器の遠隔操作ができないというのは宇宙世紀の大前提なわけで、このまま量子力学の実用化が進み「電波が通じないなら量子通信使えばいいじゃん」という感じで知識が一般化する時が来るとすれば、宇宙世紀の世界観の一つの区切りになるのではないかと。今後も作品世界を楽しみつつ、注視していきたいと思います。

 余談ですが、サイコミュによるオールレンジ攻撃というのは、脳波で制御しなくても、ビットやファンネルに
 (1)標的からの攻撃を回避しながら接近せよ
 (2)標的を包囲して攻撃せよ
──という、極めてシンプルなコマンドを与えれば、あとは自動で済むんじゃね? と思ったこともあります。現実にそんな軍事用ドローンが登場するのも時間の問題ではないでしょうか。

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宇宙機の民主主義

2020-08-16 11:06:56 | その他の雑記
 今回は人工衛星などの宇宙機について小話を。言うまでもなく、人工衛星や探査機などはすべからくコンピュータを搭載しています。地上とのデータのやり取りや軌道、姿勢の制御など、当然演算が必要になるからですね。こうした宇宙機のコンピュータが、民主主義=多数決を採用しているケースがあるのをご存知でしょうか。

 宇宙からの放射線がかなり遮られている地上と違い、宇宙空間では放射線にモロにさらされます。こうした宇宙放射線のうち、透過力の強い粒子は宇宙機の演算機器の回路に干渉し、計算を狂わせることがあります。これを「ビット反転」などと呼びます。
 具体的には、演算は伝統的なノイマン式の二進法、つまり0か1であるため、ビット反転で0が1になったり、1が0になったりして計算が狂うんだそうです。

 半導体のコンピュータをそろばんに例えると、ビット反転とは宇宙を飛び交う放射線の粒子が機体内部を貫通し、計算中のそろばんの玉にぶつかって動かしてしまい、計算結果が狂うみたいな感じでしょうか。

 放射線はひどい時は回路を破壊してしまうこともあり、宇宙好きの人には、ビット反転はけっこう常識なんですが、一般の方はあまり聞き覚えがないのではないでしょうか。
 で、宇宙機はいったん打ち上げてしまうと、ほとんどの場合、修理は不可能です。このため、宇宙機は演算装置を3基搭載することがあるのです。月面探査衛星「かぐや」などがこの方式を採用しています。

 3基は同じ計算を行い、計算結果のすり合わせをします。3基とも同じ答えなら問題ないですが、もし計算中にビット反転が生じたとしても、複数の機器で同じ時間・同じ個所にトラブルが起き、同じ間違いが導き出されることは考えにくい。そこで異なる計算結果が出た時は、合致する2基の計算結果を「正」として運用しているわけです。
 答えが異なる1基はエラーが起きたとみなされるため、ビット反転は「シングルイベント」と呼ばれることもあります。

 宇宙機のコンピュータは過酷な環境にさらされるために、比較的シンプルな構造をしているケースが多いです。小型化するほどビット反転の危険は高くなり、ビット反転は大敵ともいえます。多数決はこれを回避するための工夫です。
 ただし長期的・確率的には3基でそれぞれビット反転は起きてしまうし、回路基板が極細の針でブスブス突き刺されるようなものですから、長期運用すれば結局は機能劣化につながり、3基の運用結果も信頼性が落ちていくそうです。

 とはいえ、宇宙機のトラブル回避策として、人類の知恵である民主主義の基本原則を用いるというのは、これまた偉大な知恵ではなかろうかと思います。


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